経営環境が厳しさを増すなか、資金調達に頭を悩ませる中小企業経営者が増えています。
物価高騰、人材不足、デジタル化への対応など、課題が山積する今、資金調達は「乗り越えるための壁」であると同時に、「成長のチャンス」となる可能性も秘めています。
本記事では、銀行融資から補助金、出資、クラウドファンディングまで、中小企業が実際に活用できる資金調達手段とその特徴を詳しく解説。あわせて、成功・失敗の事例や、調達の際に押さえておくべきポイントについても紹介します。
資金調達に悩む中小企業が増加中

現在、日本の中小企業は大きな転換点に立たされています。原材料費の高騰、人材不足、テクノロジーへの対応など、経営環境には多くの課題が存在します。
そのようななか、資金調達に悩む経営者が増加しています。しかし、正しい知識と戦略を持てば、資金調達は経営の武器になります。大切なのは、自社に合った調達手段を理解し、成功のためのポイントを押さえることです。
資金調達の基本〜何を基準に選ぶ?
資金調達は大きく「デット(負債)」と「エクイティ(資本)」に分類されます。銀行融資や補助金はデットにあたり、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資はエクイティに該当します。
調達手段を選ぶ際には、次の3つの視点が重要です。
①資金の用途:運転資金か、設備投資か、それとも成長投資かを明確にします。
②返済可能性:いつ、どのように返済するのか。将来的にキャッシュフローが見込めるかを判断します。
③経営の自由度:出資を受けた場合、株主との関係性が生まれる点を考慮する必要があります。
中小企業が活用できる資金調達手段

では、実際にどのような手段があるのでしょうか。以下は代表的な方法です。
金融機関からの融資
もっとも一般的な資金調達手段です。信用保証協会付き融資や、日本政策金融公庫の制度融資は、創業間もない企業にとって有効な選択肢となります。
審査では、これまでの実績と、今後の事業計画の連続性・整合性、収支の見通しが求められます。決算書に役員への貸付があるとマイナス評価となる場合があるため注意が必要です。
財務状況が芳しくない場合でも、その理由と今後の対応策を丁寧に説明すれば、その時点で融資が実行されなくても、半年後や1年後に進捗を確認し、融資が承認されるケースもあります。
補助金・助成金
返済不要の資金として注目されていますが、申請手続きの煩雑さや採択率の低さが課題です。
また、採択後も原則「先払い・実績報告→後日入金」であり、補助金交付まで一定の期間や事務負担がかかるため、資金繰りの目算を誤ると事業運営に影響を及ぼすことがあります。
代表的なものとしては「ものづくり補助金」や「小規模事業者持続化補助金」などがあります。
採択後に実績報告を経てから資金が入金される仕組みのため、資金繰りの助けにならないケースもあります。
また、申請のために外部機関を利用する場合、不採択でも「着手金」や「一部報酬」の支払いが必要な契約もあるため、慎重に検討する必要があります。
エクイティファイナンス(出資)
エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)、事業会社(CVC)などからの出資が該当します。
創業初期にはエンジェル投資家が適しており、売上が見え始めたタイミングではVCやCVCが効果的です。
資金だけでなく、経営支援や業務提携先の紹介など、幅広いサポートを得られる可能性があります。ただし、出資を受けることで株主構成や議決権、経営権に影響が及ぶため、資本政策・今後の成長戦略を踏まえた慎重な検討が必要です。
クラウドファンディング
プロダクト型や株式投資型など多様な形式があり、事業への共感を資金に変える手段として注目されています。
一方で、VCの中にはクラウドファンディングに対して否定的な見解を持つ場合もあるため、資本政策との整合性について十分な配慮が必要です。
売掛債権ファイナンス(ファクタリング)
資金繰りが逼迫している場合に有効な手段です。
ただし、手数料が高く、違法業者(偽装ファクタリング・ヤミ金業者など)による被害も報告されているため、必ず信頼できる事業者を選ぶことが必要です。
あくまでも一時的な対策として活用すべきで、将来的に、ファクタリングから脱却する計画も立てておくことが重要です。
クレジットカードを利用した資金繰り
最近では、銀行振込の請求書をクレジットカードで決済できるサービスが登場しています。
ポイントが貯まるなどのメリットもありますが、手数料が発生する場合もあるため、注意が必要です。
また、事業経費としての支払い管理や税務処理についても、利用明細の整理や私的流用との区別などに注意が必要です。
成功する資金調達のポイント

資金調達の可否は、企業の将来性だけでなく「準備」にかかっています。以下に成功のポイントを示します。
● 事業計画の説得力
調達金額・資金の用途・売上見込・回収計画を明確に示すことが重要です。特に既存事業で数値が立っている場合にはこれまでの実績との連続性・整合性が必要です。既存事業の実績と整合性のある無理のない計画を立てましょう。
● キャッシュフロー管理
資金調達後の資金繰りも見据えた計画を立てることが大切です。資金の使い方が曖昧だと、信頼を損なう要因になります。
● 資金調達は「早めに・小さく・複数回」
一度に多額を調達しようとせず、段階的に複数回に分けて調達することでリスクを分散できます。
資金調達のリアル〜成功と失敗の事例紹介〜

実際の現場から見た成功・失敗のリアルを紹介します。
【成功例】上場企業A社の挑戦
コロナで大打撃を被った上場企業A社。コロナの影響で月間のキャッシュフローは大幅な赤字のため、資金繰りに窮し金融機関へリスケジュールの交渉をしました。
条件として役員報酬の減額や抜本的なコスト改革に取り組むことなど、本気での変革を求められ、月次で逐一金融機関に報告することでリスケジュールの交渉を成立させました。
コロナ禍での事業計画はこれまでの計画とは大幅に下方修正した計画であったがむしろ適切に実態を反映したことを評価してもらえました。
その後も定期的に銀行とのミーティングで事業の状況やコスト改革の進捗を説明しました。今後の見通しなど、透明性のある情報を適時に開示する事に努め、市況の回復と金融機関の協力もあり無事にキャッシュフロー黒字回復し、リスケジュールを解消しました。
その後は右肩上がりの成長戦略を描くことでエクイティファイナンスも実行し、さらなる飛躍を遂げました。
並行して、コロナに強い事業を新たに立ち上げ、事業再構築補助金にも挑戦。資金調達成功の裏には、鉛筆を転がして作ったような計画ではなく、事実に基づく精度の高い情報を金融機関に適時に開示したことが挙げられます。
【失敗例】スタートアップ企業の資本政策
スタートアップで初期の段階でエクイティファイナンスの一形態である「有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティ」いわゆるJ-Kissを活用して資金調達したB社。
資金調達を完了させ、その資金で人員を獲得し、順調に売上を伸ばしていたB社は、次の展開として更に大きな調達を目指しました。
しかしJ-Kissの上限額の制限で大きな議決権をもっていかれることがネックとなり、その後の資金調達の際に他のVCとの調整が出来なかったケースがありました。
J-KISSはシード期には有効で、企業価値の評価を先送りできる一方で、資本政策は一度実行してしまうと後戻りできないため、慎重な判断と交渉が必要です。また、後の資金調達やIPO(株式上場)に影響することがあるため、専門家(弁護士・会計士・VC担当者等)への相談も強く推奨されます。
おわりに

資金調達は、企業の成長にとって避けて通れない重要なテーマです。しかし、調達方法を誤れば、次の資金調達の妨げとなったり、新たな資金繰りリスクを生んだりする可能性があります。
だからこそ、経営者自身が「なぜ」「何に」「どのように使うのか」を明確にし、複数の選択肢を比較・検討したうえで判断することが求められます。
資金調達の本質は、「信頼」と「未来を描く力」にあります。その力を磨くことが、すべての経営者に必要とされているのです。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。