事業の継続や拡大に向けて、資金調達に悩む経営者は少なくありません。
特に、銀行からの新規融資が難しい局面や、急な資金ニーズに迫られたとき、資金繰りに行き詰まるケースは多いはずです。この点、不動産は「最後の切り札」として頼りになる存在です。
資産としての価値が明確な不動産は、金融機関や投資家にとっても信頼性の高い担保となります。
本記事では、不動産を活用した3つの資金調達方法についてそれぞれの特徴とリスクを整理し、目的や状況に応じた賢い使い分け方を解説します。
「担保ローン」だけじゃない…不動産を活用した「3つ」の資金調達方法

不動産を資金に変える方法は、大きく分けて以下の3つです。
- 不動産担保ローン:不動産を担保に融資を受ける
- リースバック:不動産を売却し、賃貸契約で住み続ける
- 不動産クラウドファンディング(不動産クラファン):投資家から資金を集める
これまでは担保ローンが主流でしたが、近年では「リースバック」や「不動産クラウドファンディング」といった新たな資金調達の選択肢も定着しつつあります。
いずれも「不動産を現金化する」という点では共通しているものの、調達のスピードや資金規模、返済義務の有無、居住継続の可否など、その中身は大きく異なります。
ここからは、それぞれの手法を詳しくみていきましょう。
“住み続けられる”リースバック、PRもできるクラファン…3つの手法の特徴

①担保ローン…王道だが返済リスクも
不動産担保ローンは、住宅やビル、土地といった不動産を担保に金融機関から融資を受ける方法です。個人・法人を問わず利用できます。
担保ローンのメリットは、まとまった資金が調達できる点です。担保となる不動産の価値によっては、数千万円〜数億円規模の融資を受けることも可能です。
また、無担保ローンに比べて金利が低く、低金利で借りられる可能性が高いため、信用力のある法人にとっては有利な手段といえるでしょう。
さらに、事業資金としてだけでなく、相続税の納税資金などにも活用できるなど、使途の自由度が高い点も魅力です。
一方でデメリットとして、「返済義務が必ず発生する」ことが挙げられます。返済不能になれば、担保物件が競売にかけられるリスクがあります。
また、金融機関による審査は厳しく、返済能力が重視されることから、赤字企業や信用に不安のある個人は審査を通過しにくい傾向にあります。
加えて、融資実行までには不動産の評価や登記手続きに時間を要するため、1〜2週間程度かかるのが一般的です。
このように、担保ローンは「王道」の資金調達手段である一方、返済計画が甘いと不動産を失うリスクも高まります。したがって、事業の将来性や返済シミュレーションをしっかり立てたうえで利用することが重要です。
②リースバック…自宅に住み続けられる資金調達方法
リースバックとは、自宅や保有している不動産を一度売却し、買主と賃貸契約を結ぶことで、そのまま住み続けることができる資金調達方法です。売却によって得た利益をすぐに現金化できるため、急な資金ニーズに対応できる点が魅力です。
リースバックのメリットは、「引っ越しの必要がない」点にあります。生活環境を変えずに資金を手にできるため、高齢者の生活資金確保としても有効です。
また、売却後おおむね数週間以内に資金を受け取れるため、相続税や医療費など突発的な出費にも対応しやすいという利点があります。住み慣れた家にそのまま住み続けられるため、心理的な抵抗感が少ない点もメリットのひとつです。
一方で、リースバックは将来的に買い戻す際の条件が不透明である点がデメリットといえます。買戻しを希望する場合、価格や条件が売却時より不利になることも少なくありません。
また、売却後は賃料の支払いが必要になるため、長期的には支出が増える可能性もあります。
加えて、投資家側がリスクを織り込むため、売却価格が市場価格より低くなる傾向がある点にも注意が必要です。
このように、リースバックは「住み続けたいが資金も必要」というニーズには合致するものの、将来的な負担を十分に見積もったうえで慎重に選択すべき方法といえます。
③不動産クラウドファンディング…資金提供者を募る新潮流
不動産クラウドファンディング(不動産特定共同事業法に基づく仕組み)は、インターネットを通じて多数の投資家から少額ずつ資金を募る資金調達方法です。
不動産プロジェクトの場合、資金調達側は集めた資金をもとに開発や運用を行い、投資家は賃料収益や売却益の一部を分配として受け取ります。
資金調達側のメリットとしては、まず「銀行融資に頼らずに資金を集められる」点が挙げられます。信用力が十分でなくても、プロジェクト内容に魅力があれば資金が集まる可能性があるためです。
また、個人投資家も少額から参加できるため、資金調達の間口が広がり、より多様な投資家層との接点を持てる点も魅力です。さらに、プロジェクトそのものが広報手段となることから、PR効果も期待できます。
その一方で、不動産クラファンはクラウドファンディング事業者による審査があるため、掲載までのハードルが高く、簡単にはプロジェクト化できない点はデメリットといえます。
また、プロジェクト単位での資金調達となるため、資金用途の自由度が低い点にも注意が必要です。
加えて、募集期間中に目標額に達しなければ不成立となるため、資金調達までに時間がかかる場合もあります。
このように、不動産クラファンは「銀行からの融資は難しいが、魅力ある事業を進めたい」という場合には有効な手段です。ただし、資金使途の自由度は低いため、プロジェクト型の資金ニーズに適しているといえます。
3つの資金調達方法のメリット・デメリットを比較した表を、以下にまとめました。

出所:筆者作成
どれが自分に合っている?…資金調達方法の向き・不向き

ここまで、不動産を活用した資金調達方法の特徴を見てきました。これらは、どのような資金ニーズを持っているかによって、向き・不向きが変わります。
短期でまとまった資金が必要な人…「担保ローン」
事業拡大のために仕入資金を確保したい場合や、相続税の納税期限が迫っている場合など、「短期間で数千万円単位の資金を一気に調達したい」という方にとっては、担保ローンが最も現実的な選択肢です。
ただし、融資はあくまで「借金」です。返済義務がある以上、将来の収益やキャッシュフローに見込みがなければ、不動産を失うリスクがつきまといます。
つまり、担保ローンに向いているのは、返済計画を現実的に立てられる人や、リスクを理解したうえで前進できる人です。逆に、安定した返済原資が見込めない場合は危険度が高いといえます。
生活を維持しながら資金を得たい人…「リースバック」
「いまの生活環境は変えたくないが、どうしても資金が必要」という場合には、リースバックが有力な選択肢になります。
たとえば、年金だけでは生活が苦しい高齢者が老後資金を確保する場合や、教育費や医療費といった突発的な支出に対応する場合、リースバックが有効です。
ただし、自宅を売却しても住み続けられるという安心感は大きなメリットですが、注意すべきポイントは主に2つあります。
ひとつは、売却価格が市場価格より低くなる傾向があること。もうひとつは、毎月の賃料負担が新たに発生することです。長期的に見れば支出が重くなりかねないため、慎重に判断する必要があります。
新規事業や不動産開発の資金を調達したい人…「不動産クラファン」
銀行融資に頼らずにまとまった資金を集めたい方や、自社プロジェクトのPRも兼ねて資金調達したい方にとって、不動産クラウドファンディングは新しい可能性を切り開く手法といえます。
ただし、クラウドファンディングは誰でも簡単に利用できるわけではありません。プロジェクト内容が投資家にとって魅力的でなければ資金は集まりませんし、事業者による厳格な審査を通過する必要があります。
したがって、この手法が向いているのは、明確な事業ビジョンと発信力を持つ経営者、または資金調達とブランディングを両立させたい企業です。
「資産」であると同時に「資金調達の手段」…不動産の秘めた可能性
不動産は、保有しているだけで資産価値を持ちますが、活用の仕方によっては大きな可能性を秘めた「資金調達の手段」となります。重要なのは、自分の目的と状況に合った方法を選ぶことです。
たとえば、
・資産を売却してでも生活の安定を優先したいのか
・投資家を巻き込んで新たなプロジェクトを実現したいのか――。
今回見てきたように、それぞれの手法には一長一短があり、どの方法が最適かは人や企業の目的・状況によって異なります。不動産をどう活かすかによって、資金調達の選択肢だけでなく、その後の事業や人生の方向性も大きく変わる可能性があります。
短期的な資金需要だけにとらわれず、中長期のライフプランや経営戦略を踏まえて、自分にとって最も適した手段を見極めることが大切です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。