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海外スタートアップと日本の資金調達の差――資金量だけではない、文化・戦略・EXIT志向の違いを読み解く

海外スタートアップと日本の資金調達の差――資金量だけではない、文化・戦略・EXIT志向の違いを読み解く
辻 哲弥(税理士・公認会計士)

執筆者

税理士・公認会計士

辻 哲弥

有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事。23歳時、「日本一若い会計事務所」として”ACLEAN(アクリーン)会計事務所”を開業。スタートアップ、マイクロ法人を中心とした税務業務や補助金・融資等の資金調達支援、経理を対象とした業務改善コンサルティングを展開。 2023年に同事務所を”税理士法人グランサーズ”と統合。同法人の代表に就任。中小企業の税務顧問対応、内部統制構築支援、組織再編支援、事業承継・企業のクラウドサービス活用と経理効率化サービスも提供。また、自身のボディメイクの経験を活かした健康経営に関するコンサルティングも得意としている。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」絶賛配信中。

日本のスタートアップは、資金調達のスピードや規模において海外に遅れを取っているといわれることが少なくありません。

しかし、その背景には単なる調達規模の差だけでなく、投資家構造や文化的価値観、さらには制度設計に至るまで、“資本形成の仕組み全体”に深い違いが存在しています。

そこで本記事では、公認会計士・税理士としてスタートアップ支援を行う立場から、「なぜ海外と日本で資金調達環境がここまで異なるのか」、そして「日本のスタートアップが学ぶべきポイントは何か」について解説します。

海外と日本でここまで違う…スタートアップの「資金調達」5つの違い

海外と日本でここまで違う…スタートアップの「資金調達」5つの違い

資金調達における「スピード」や「規模」の面で、日本のスタートアップは海外に比べて遅れをとっているとよくいわれます。しかし、その差は単なる資金量の問題にとどまりません。日本と海外には、主に下記のような違いがあります。

資金調達額とスピード

もっとも目に見える違いは、「調達額」と「スピード」です。

米国では成長領域のスタートアップでシリーズA※1が数十億円規模に達するケースも多く、特にAI・バイオといった分野では100億円規模の調達も見られます。

欧州や東南アジアでも大型調達が一般化しつつあり、シード段階※2でも、アイデアレベルで10億円規模が動くケースすらあります。

一方、日本のシリーズAでは数千万円~数億円の調達が一般的で、資金が確定するまでに数ヵ月を要することが多いです。

※1 シリーズA……投資ラウンド(スタートアップが投資家などから資金調達を行う際に参考にされる、会社の成長段階)において、一定の顧客基盤を前提にビジネスを開始するため、本格的な資金調達を行う段階のこと。投資ラウンドは、エンジェル→シード→シリーズA→シリーズB→シリーズCと段階的にフェーズが進む。
※2 シード……投資ラウンドにおいて、創業間もない時期に行う最初の資金調達段階。

この差を生んでいる背景には、日本の投資判断プロセスの慎重さや、リスク回避を重視する金融文化があります。

日本では、金融機関主導の投資文化や「資金供給=信用供与」という発想が根強く、デューデリジェンスも融資型に近い慎重なプロセスになりやすい。

その結果、「慎重な検討」が美徳とされる一方で、その間に海外の競合はすでに資金を確保し、市場を先取りしてしまうのが実情です。

つまり、調達額の大小以上に、意思決定のスピードが企業の成長を左右する分岐点となっているのです。

投資家の「層」と投資目的

また、海外では、投資家層が非常に多様です。エンジェル投資家や大型VC(ベンチャーキャピタル)、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、大学系ファンドなど、リスクを引き受ける投資家の層が分厚く存在します。

こうした投資家は「リターン最大化」を目的とし、低い成功率を前提に、ポートフォリオ全体でリスクを分散する戦略をとります。

一方、日本でスタートアップに資金を供給するのは金融機関出身者や行政系ファンドが中心であり、投資方針もより“融資的”です。

つまり、長年の銀行中心経済の影響から「信用」「計画の妥当性」「安全性」といった観点が重視され、資金供給の体質そのものが慎重になりやすい構造があります。

これに対して海外では、ハイリスク・ハイリターンを前提にポートフォリオ全体で最適化する文化が根付いており、大胆な資金投入が行われやすい点が大きな違いです。

結果として、経営判断の自由度が制約されやすく、資本政策も守りの発想になりがちです。

このように、「誰がリスクを負っているか」という投資家構造の違いが、スタートアップの成長戦略そのものに大きな影響を与えています。

経営者と投資家が「同じゴール」を見据える海外、すれ違う日本

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調達した資金の「使い方」と成長戦略

海外のスタートアップは、たとえプロダクトが完成していなくても、マーケティングや採用に大胆に投資する傾向があります。

「シェア拡大こそ最大の防御」という考え方が浸透しており、この「先行投資型」の発想が、短期間でのスケール拡大を可能にしています。

一方で日本のスタートアップは、「まずは黒字化を目指す」という慎重な姿勢を取るケースが多く見られます。堅実なキャッシュフロー管理のもと、段階的に売上と利益を積み上げるスタイルは安定感がありますが、市場を一気に取りに行く勢いに欠ける面も否めません。

「EXIT志向」

海外のスタートアップでは、資金調達の段階からIPOやM&Aといった「EXIT(=出口戦略)」を見据えて行われます。

創業初期から「どこで上場するか」「誰に買収される可能性があるか」が議論され、投資家と経営陣が同じゴールを共有します。つまり、リターン設計が明確な資本政策が組まれているのです。

※ IPO(Initial Public Offering:新規公開株式)……株式の所有が限られていた未上場企業が新たに証券取引所に株式を上場し、一般の投資家に向けて売り出すこと。

一方、日本では「上場を目指す」「長く事業を続けたい」といった抽象的な目標のまま資金調達が進むケースも少なくありません。

特に「事業の永続性」を最優先する経営者が多い一方で、投資契約にEXITの想定が明確に織り込まれていない場面も散見されます。

その結果、経営陣と投資家との利害調整が後手に回り、EXITの最適なタイミングを逃して資本効率が下がりやすい、という構造的な課題が生じています。

今後の日本企業には、事業の継続性と資本回収の両立を図る、戦略的EXITが求められるでしょう。

「失敗」は“勲章”か、“減点対象”か…リスク許容度が企業の成長を左右する

「失敗」は“勲章”か、“減点対象”か…リスク許容度が企業の成長を左右する

文化・制度・社会意識

「失敗」に対する文化の違いも、スタートアップの資金調達を語るうえで見落とせないポイントです。

海外では、「挑戦」と「失敗」は切り離せないものとして受け入れられています。起業経験そのものが信頼の証とされ、たとえ倒産や撤退を経験していても、その起業家に再び投資が集まることも珍しくありません。

実際、特に米国では、倒産経験や事業撤退がむしろ「実績」として評価される場合もあり、起業家の“トラックレコード”は成功と失敗の双方で積み上がるという考え方が一般化しています。

「Fail fast, learn faster(早く失敗し、早く学べ)」という言葉に象徴されるように、挑戦と成長を繰り返すプロセスそのものが評価される文化があるのです。このように、失敗が“挑戦の証”として扱われる社会では、リスクマネーも自然と循環します。

一方で、日本では依然として「失敗=信用低下」とみなされる傾向が強く、銀行与信や個人保証といった制度面も相まって、過去に債務整理や倒産歴がある場合には再挑戦のハードルは高くなりがちです。

こうした文化と制度の複合要因が、「失敗できないなら挑戦しない」という心理を生み、結果として資金の流れを細らせています。

さらに、教育や制度面にも違いがあります。海外ではストックオプション※1や株式報酬※2が普及し、社員も企業の成長を“自分ごと”として共有できる仕組みが整っています。

また、上場市場や税制優遇も充実しており、スタートアップが挑戦を続けやすい環境が整備されています。

日本でも「スタートアップ育成5か年計画」などの取り組みが始まっているものの、社会全体で“挑戦を称賛する文化”を根づかせるには、まだ時間がかかるでしょう。

※1 ストックオプション……新株予約権の一種で、自社の役員や従業員に対し、あらかじめ決められた価格で自社の株式を購入できる権利を与える制度。
※2 株式報酬……現金の代わりに、役員や従業員に自社株式や株式を取得する権利を与える制度。

日本のスタートアップが海外から学ぶべき「3つ」のポイント

日本のスタートアップが海外から学ぶべき「3つ」のポイント

このように、投資家の方針から文化の違いにいたるまで、日本と海外では資金調達の構造に大きな隔たりがあるのが現状です。では、日本のスタートアップが海外の成功事例から学ぶべき点とはなんでしょうか。筆者は、次の3点が特に重要だと考えています。

1.EXITを前提とした資本政策を描く
誰に買収される可能性があるか、どの市場で上場するかによって、株主構成や投資契約の設計は大きく変わる。早期に出口戦略を想定し、戦略的に資本設計を行う。

2.経営層がファイナンスリテラシーを高める
調達額の多寡ではなく、「希薄化・IRR※1・ROIC※2」といった資本効率の指標で意思決定することが重要。バリュエーション偏重から脱却し、企業価値の持続的な成長につなげる。

3.“黒字の安心”より“スピードの価値”を意識する
市場参入や顧客獲得のスピードは競争優位に直結する。「リスクを取らないことこそが最大のリスク」という前提のもと、適切なリスクテイクを組み込んだ成長戦略が求められる。

※1 IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)……投資に対して、どれくらいの年平均リターンが期待できるかを示す指標。
※2 ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)……企業が調達した資金(株主資本+借入金)を、どれだけ効率よく利益に変えているかを示す指標。

これらを実践できる企業こそ、海外と対等に戦える力を備えたスタートアップへと進化していくはずです。

資金調達は単なる「お金集め」ではなく、企業文化や社会構造を映し出す鏡でもあります。挑戦を支えるエコシステムをどう築くか――その視点を持てるかどうかが、日本のスタートアップの未来を左右します。

まとめ…「挑戦を支える文化」を取り戻すために

海外と日本の資金調達の違いは、単なる金額の大小だけではなく、「挑戦を支える文化」そのものにあります。

資金だけを増やしても、文化や意識が変わらなければ構造は変わりません。本当に必要なのは、リスクを恐れず挑戦する人を称賛し、失敗を学びと成長の一部として受け止める社会的な土壌を育てることです。

海外では、挑戦する人に資金が集まり、失敗した人にも次のチャンスが与えられ、この循環が、イノベーションと産業の新陳代謝を生み出しています。一方、日本では依然として「安定」や「安全」を重視する文化が根強く、結果として成長機会を逃してきました。

しかし近年、若い世代を中心に価値観の変化が起こりつつあります。挑戦を恐れず、失敗を公に語り合う起業家が増え、少しずつですが空気が変わり始めています。

日本のスタートアップが「スピード」「EXIT」「挑戦」を重視するようになれば、資金の流れは必ず変わります。そして、挑戦者を支える文化が根づいたとき、日本発のユニコーン企業が次々と生まれる未来は決して夢ではありません。

これから求められるのは、資金調達の「手法」ではなく、挑戦を後押しし失敗を許容する“エコシステム全体”をどうつくるかです。文化と制度の両輪が動き出したとき、日本のスタートアップは初めて本当の競争力を獲得します。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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