キャリアアップや再就職を目的として、専門教育を受けて資格取得や必要な教育の修了を目指す場合、雇用保険制度のひとつとして利用したいのが専門実践教育訓練給付金です。本記事では、専門実践教育訓練給付金の概要や対象となる訓練、給付額や申請手続きについて解説しています。
- 専門実践教育訓練給付金は費用の50%まで給付される
- 雇用保険に加入していた、または加入している人が利用できる
- 看護師や建築士など所定の資格取得や訓練修了において給付対象となる
専門実践教育訓練給付金とは?
専門実践教育訓練給付金とは、教育訓練給付制度のひとつです。具体的には、厚生労働大臣が指定した教育訓練講座を受講した場合、その一部の費用が給付される制度です。そもそも教育訓練給付制度とは何なのかについて、詳しく解説します。
「教育訓練給付制度」はどんな制度?
教育訓練給付制度は雇用保険上の制度であるため、雇用保険に加入する働き方をしている人が対象となります。教育訓練給付制度には、次の給付金があります。それぞれ対象となる資格や講座が違い、関連して支給率にも差があります。
- 一般教育訓練給付金(費用の20%まで支給)
- 特定一般教育訓練給付金(費用の40%まで支給)
- 専門実践教育訓練給付金(費用の50%まで支給)
専門実践教育訓練給付金の対象者は?
専門実践教育訓練給付金は、以下の場合に対象となります。併せて、支給要件期間などについて被保険者ごとに紹介します。
- 雇用保険の被保険者(在職者)
- 雇用保険の被保険者であった方(離職者)
【雇用保険の被保険者(在職者)】
専門実践教育訓練の受講開始日に、支給要件期間(同一の事業主に一般被保険者等または短期雇用特例被保険者として雇用された期間)が3年以上ある方
【雇用保険の被保険者であった方(離職者)】
一般被保険者等の資格を喪失した日(離職日の翌日)以降、受講開始日までが1年以内であり、かつ支給要件期間が3年以上ある方
専門実践教育訓練給付金の対象となる講座は?
専門実践教育訓練給付金の対象となる教育訓練講座は多くあります。ここからは、以下7つに分けて解説していきます。
- 業務独占資格・名称独占資格の取得を目標とする教育訓練
- 専門学校の課程およびキャリア形成促進プログラム
- 専門職大学院
- 職業実践力育成プログラム
- 情報通信技術に関する資格の取得を目標とする課程
- 第四次産業革命スキル習得講座
- 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科の課程
業務独占資格・名称独占資格の取得を目標とする教育訓練
看護師、建築士、介護福祉士、美容師、保育士などの業務独占資格や名称独占資格の取得を目指す課程が対象となります。さらにそのうち、国又は地方公共団体の指定等を受けて実施され、修了によって資格取得、資格試験の受験資格の取得又は資格試験の一部免除が可能となる課程が対象です。
訓練期間は、原則1~3年で、かつ取得費必要な最短期間(法令上の最短期間が4年の管理栄養士の課程、及び法令上の最短期間が3年の養成課程であって定時制により訓練期間が4年となるものを含む)となります。
専門学校の課程およびキャリア形成促進プログラム
医療、工業、商業実務など専修学校の専門課程を対象とし、企業等との密接な連携により最新の実務知識などを身につけられるよう教育課程を編成したもので、文部科学大臣が認定した課程、大学等における社会人や企業などのニーズに応じた実践的・専門的なプログラムとして文部科学大臣が認定した課程を対象としています。
訓練期間は2年で、キャリア形成促進プログラムは120時間以上2年未満となります。
専門職大学院
高度専門職業人の養成を目的としている課程で、訓練期間は2年です。ただし資格取得につながるものは、3年以内で取得に必要な最短期間とします。
職業実践力育成プログラム
大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の正規課程及び履修証明プログラムのうち、社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的なプログラムとして、文部科学大臣が認定した課程が対象です。
訓練期間は正規課程で1年以上2年以内、特別の課程は訓練時間が120時間以上かつ訓練期間が2年以内とされています。
情報通信技術に関する資格の取得を目標とする課程
ITスキル標準(ITSS)において「要求された作業を全て独力で遂行する」ことができることとされているレベル3相当以上の資格取得を目標とする課程が対象です。訓練期間は、訓練時間が120時間以上(ITSSレベル4相当以上のものに限り30時間以上)かつ期間が2年以内とされています。
第四次産業革命スキル習得講座
高度IT分野等・将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野に関する社会人向けの専門的・実践的な教育訓練講座(ITスキル標準レベル4相当以上)として経済産業大臣が認定した課程が対象です。訓練期間は、訓練時間が30時間以上かつ期間が2年以内とされています。
専門職大学・専門職短期大学や専門職学科の課程
学校教育法に基づく専門職大学もしくは専門職短期大学の正規課程、大学設置基準に基づき設置された専門職学科の課程、短期大学設置基準に基づき短期大学に設置された専門職学科の課程が対象です。訓練期間は大学で4年以内、短大で3年以内です。
専門実践教育訓練給付金の給付額は?
専門実践教育訓練給付金の支給額は、教育訓練経費の50%(年間上限40万円)です。ただし4,000円を超えない場合は支給されません。給付期間は最大3年とし、6ヵ月ごとに支給申請に基づいて支給されます。
条件を満たせば追加給付が受けられる
受講終了から1年以内に再就職するなど、所定の要件を満たすことで追加給付の対象となる場合があります。
具体的には、受講修了後に受講した専門実践教育訓練が目標としている資格取得などをし、修了日の翌日から1年以内に雇用保険に加入する正社員等で就職した場合、さらに教育訓練経費の20%にあたる追加給付の対象となります。
これにより、支給額合計は最大で教育訓練経費の70%(年間上限56万円)となります。
専門実践教育訓練給付金の申請方法と手続き
専門実践教育訓練給付金の申請に必要な書類や手続きについて解説します。
- 受講開始日までに行う手続き
- 受講を開始してから行う手続き
受講開始日までに行う手続き
受講開始日までに必要な手続きとして、1ヵ月前までに必要な手続きも含めて解説します。
【受講開始日1ヵ月前まで】
訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブカードを交付してもらう
ハローワークに必要書類を提出
【受講開始日まで】
受給資格者証を受け取る
必要書類
- 教育訓練給付金および教育訓練支援給付金受給資格確認票(ハローワーク等で配布)
- ジョブカード(訓練前キャリアコンサルティングでの発行から1年以内のもの)
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票(用紙を持っていない場合は、ハローワークに備え付けのものに、その場で記入する)
- 写真2枚(最近の写真で正面上半身)
- 払渡希望金融機関の通帳またはキャッシュカード
受講を開始してから行う手続き
実際に受講を開始してから必要な手続きについて解説します。
- 給付金の申請手続き
- 追加分の申請手続き
受講開始日から6ヵ月ごとの「支給単位期間」の末日の翌日から1ヵ月以内または受講修了日の翌日から1ヵ月以内が給付申請期間となっています。なお、追加給付の申請期間は雇用された日の翌日から1ヵ月以内となっています。
必要書類
専門実践教育訓練給付金の申請に必要な書類は次の通りです。
- 教育訓練給付金の受給資格者証
- 専門実践教育訓練に関する教育訓練給付金支給申請書
- 専門実践教育訓練の受講証明書または修了証明書
- 領収書
- その他還付金を受けた、またはクレジット払いなどの場合にはその事実を証明する書類
- 専門実践教育訓練給付最終受給時報告(最後の支給単位期間について給付金を受ける場合)
- 専門実践教育訓練給付追加給付申請時報告(訓練修了後、資格取得等したことにより支給申請した場合)
- 資格取得等したことにより支給申請する場合は資格取得等を証明する書類
各種申請書や終了証明書、費用に関する領収書は、訓練実施団体から発行されるため保管しておきましょう。教育訓練給付金の受給資格者証は、ハローワークから発行されます。
一定の条件を満たす方は「教育訓練支援給付金」の対象
専門実践教育訓練給付金の受給資格がある方の中で、一定の条件を満たす場合はさらに支援を受けられることがあります。ただし、2025年3月31日までの暫定措置となっているため事前に確認しておきましょう。
教育訓練支援給付金とは?
専門実践教育訓練給付金の受給資格がある方のうち、以下の条件を満たす方が対象となります。
【受給条件】
- 専門実践教育訓練を初めて受講する方
- 一般被保険者でなくなってから1年以内に専門実践教育訓練を開始する方
- 専門実践教育訓練を修了する見込みがあること
- 専門実践教育訓練の受講開始時に45歳未満であること
- 受講する専門実践教育訓練が通信制または夜間制ではないこと
- 受給資格確認時において離職していること。また、その後短期雇用特例被保険者または日雇労働被保険者になっていないこと
- 会社役員、自治体の長に就任していないこと
- 教育訓練給付金を受けたことがないこと(平成26年10月1日以前に受けたことがある場合は例外があります)
- 専門実践教育訓練の受講開始日が令和7年3月31日以前であること
支給額と支給期間
支給額の割合と、支給期間については以下の通りとなっています。
【支給額】
教育訓練支援給付金は、原則として離職する直前の6ヵ月間に支払われた賃金額から算出された雇用保険の基本手当の日額相当分の80%です。なお、基本手当の日額は、原則として離職する直前の6ヵ月間に支払われた賃金の合計金額を180で割った金額の80%~45%とされ、上限が設けられています。
【支給期間】
専門実践教育訓練を修了する予定である受講期間中は、その教育訓練が終了するまで給付対象となります。ただし雇用保険における基本手当(いわゆる失業保険)をもらっている間は併給できないため注意しましょう。
専門実践教育訓練給付金について注意すること
専門実践教育訓練給付金を申請するにあたり、気をつけておくべきこととして以下の4点を紹介します。
- 給付金の対象ではない講座もある
- 教育訓練施設に支払った全ての費用が給付金の対象とはならない
- 給付金の対象は本人が負担した費用に限られる
- 不正受給にならないように注意
給付金の対象ではない講座もある
給付金の対象ではない講座があるため、厚生労働省の「教育訓練給付制度検索システム」で確認しておきましょう。
教育訓練施設に支払った全ての費用が給付金の対象とはならない
教育訓練施設に支払った費用の全てが対象となるわけではありません。対象外となる経費は差し引いて申請する必要があります。
給付金の対象は本人が負担した費用に限られる
個人がハローワークで手続きを行って給付金の申請をしたものの、勤務先の会社から教育訓練費用の補助を受けた場合などは、その分を差し引いて経費を申告する必要があります。あくまでも、個人が負担した費用に限られるという点は覚えておきましょう。
不正受給にならないように注意
申請に偽りや不正があるとペナルティを受けることになります。少しぐらいバレないだろう、という考えは禁物です。不正があると必ずバレるうえに、加入者が少しずつ保険料を負担して成り立っている雇用保険という仕組み自体を大きく崩すことになりかねません。不明点や相談があれば、迷わずハローワークへ相談しましょう。
離職で困らないためにも「かんたん安心ローン」で備えよう
キャリアアップや再就職に必要な教育資金に向けて、ローン商品の利用も選択肢のひとつです。クレディセゾングループであるセゾンファンデックスが提供している「かんたん安心ローン」は、80歳まで利用でき最短即日融資が可能です。インターネットでの申込に不安がある場合には、電話で無料相談もできます。
おわりに
専門実践教育訓練給付金は、キャリアアップや再就職を目的とした訓練の費用補助が受けられる制度です。対象となる訓練および実施機関は、厚生労働省のサイトから確認できます。この給付金に関する事前相談や申請は、ハローワークとなっています。受給要件を満たしているかどうかも含めて、利用を検討する場合には、一度ハローワークへ相談してみましょう。