みりんは、中国清明の時代の書物に「密淋(ミイリン)」=「密がしたたるような甘い酒」があったと記載されています。日本では、戦国時代に貴重な甘みのあるお酒として貴族たちに好まれ、江戸時代中期には、女性でも楽しんで飲むことができる甘いお酒として流行しました。後期になると、鰻のたれやそばつゆに「みりん」が使われて人気となり、現在に至るまで、調味料として欠かせない存在になりました。料理にまろやかなやさしい甘み、素材に照りやツヤを与えてくれまる「みりん」をうまく使いこなして、味つけ上手になりましょう。
1.「みりん」の種類と特徴とは?
みりんには、「本みりん」「発酵調味料」「みりん風調味料」の3種類があります。見た目はよく似ていますが、その原料や製法、成分には大きく違いがあります。本みりんは「酒」類の扱いですが、発酵調味料とみりん風調味料は「酒税」の規定からはずれるため、本みりんに比べて価格は安く抑えられています。また、どのタイプのみりんにも、照りやつやを出すという共通の特性があります。
1-1.本みりん
伝統的な製法で造られるみりんを「本みりん」と呼びます。もち米、米麹、アルコール(焼酎・醸造用)を熟成して造られる調味料です。砂糖とは違う上品なまろやかな甘さを持つ本みりんは、和食に欠かせない調味料です。本みりんには糖分とアミノ酸が豊富に含まれ、料理に甘みと旨味をプラスして味わい深く、美味しく仕上げてくれます。風味付け、消臭など、さまざまな調理効果に優れています。アルコール分は12.5~14.5%です。アルコール分が気になる時は、アルコールを飛ばしましょう。塩分は0%です。冷暗所で常温保存が可能です。冷蔵庫に入れると糖分が結晶して固まってしまうので、気を付けましょう。
1-2.発酵調味料(みりんタイプ)
もち米、米、米麹、糖類、アルコールを発酵させたものを配合し、食塩(塩分2%程度)を加えて、飲用できなくしたものです。調理の際は、塩分濃度を考慮して味付けをしましょう。本みりんとほとんど変わらない作り方なので、調理効果は本みりんと同じ効果が得られます。アルコール分は8~15%です。アルコール分が気になる時は、アルコールを飛ばしましょう。冷暗所で常温保存が可能です。
1-3.みりん風調味料
ブドウ糖や水飴の糖類、グルタミン酸、香料にうま味調味料を加えて、味を調えたものです。本みりんとは、原材料や製法が大きく異なる甘味調味料で値段も安価です。本みりんの代用品として使われることが多いですが、本みりんの持つ臭み消しの調理効果は期待できません。アルコール分は1%未満で、ほとんど含まないため、アルコールを飛ばす必要はありません。合わせ調味料(和え物、ドレッシング、マリネなど)の甘みとして加える時には、そのまま使えます、塩分は1%未満、糖分は55%以上です。開栓後は冷蔵庫で保存しましょう。
2.「本みりん」と「砂糖」の違いとは?
本みりんは糖分とアミノ酸を豊富に含み、砂糖は主にショ糖が甘み成分なので、同じ甘い調味料でも違いがあります。本みりんは、料理全体にまろやかさを与え、さっぱりとした上品な甘さがあり、芳醇な香りが特徴です。
- 甘みの強さは、本みりんは砂糖の1/3程度です。
- 甘みをきかせた煮物を作る時に、本みりんだけで仕上げようとすると使用量が多くなってしまいます。本みりんの風味や旨味、香りが鼻につくようになるので、砂糖を併用しましょう。
- 本みりんの代わりに砂糖を使っても、濃厚な深みのある甘みや旨味は出ず、淡白な味わいになります。
3.「本みりん」「発酵調味料」の調理効果と使い方のコツとは?
3-1.調理効果
みりんには他の調味料にはない、いくつかの調理効果があります。それらを知って、上手に使いこなしましょう。
①まろやかさと甘み
ブドウ糖やオリゴ糖など様々な糖類が含まれているので、さっぱりしているだけでなく、コクとまろやかさがあり、複雑な上品な優しい甘みをつけることができます。
②照りとツヤ
含まれているさまざまな糖分を加熱することで、素材の表面に皮膜をつくり、水分や旨味を保ったり、良い香りも出てきます。糖分が料理に甘みを加え、照りやツヤを出してくれたり、きれいな焼き色に仕上がります。
③生臭さを消す
肉や魚のにおい消しには、アルコールが加熱されて蒸発するときに、食材の臭みを取り除いてくれます。また、みりんの持つ香りは、糖分などが加熱された時に甘い良い香りが強まり、マスキングしてくれます。
④甘い香り
みりんの持つ香り成分は、加熱することによって、素材の持ち味を引き立たせてくれたり、良い香りを素材に付けてくれます。
⑤煮崩れを防ぐ
アルコールには、野菜などの食材に含まれるペクチンが長時間の加熱によって溶け出すのを防いでくれるので、野菜の煮物に使うと煮崩れしにくくなります。
⑥コクや旨味をアップ
みりんには糖分やアミノ酸が豊富に含まれているので、奥深い旨味やコクを料理につけることができます。
➆味を中までしみこませる
アルコールは食材に、味が浸透する助けをし、素材の中までうま味成分をしみこませる効果があります。
3-2.使い方のコツ
①煮物(野菜や肉)
味付けには、先に砂糖やみりんなどの甘みで味をつけてから、塩味を加えましょう。うま味成分の働きで、中まで味が良く染み込みます。発酵調味料である醤油や味噌は、仕上げの段階で加えると風味良くできあがります。煮崩れしやすい食材は、早めにみりんを入れたあと、醤油などで味付けをしましょう。食材をやわらかい食感に仕上げたいときは、仕上がりに加えると良いでしょう。
②煮魚
みりんを少し多めに加えた合わせ調味料を入れた煮汁作り、沸騰させてから、魚を加えて、短時間で仕上げます。照りやツヤを出したい時は、最後の仕上がりに加えて、強火でアルコールを飛ばしましょう。
③焼き物
焼き物に照りやツヤを出したい時は、余熱で素材に火が通るくらいの時の仕上げに塗り、サッと焼きましょう。みりんと醤油を煮詰めたタレを使うのもおすすめです。
④酢との相性
みりんには酢かどをとり、まろやかな味わいにしてくれます。酢の物やドレッシングの隠し味として、酢飯の寿司酢にも。アルコールを飛ばしてから使いましょう。
⑤ご飯との相性
ごはんを炊くときにみりんを加えると、ふっくらとつやつやに炊き上がります。特に夏場におすすめです。2合のお米にみりん小さじ1が目安です。
4.調味料ソムリエプロがおすすめ「本みりん」
(1)「酒蔵仕込 ふくいの本みりん」(田嶋酒造株式会社・福井県)
調味料選手権2018入賞。創業は江戸時代後期、1849年に酒造りから始まりました。自然の摂理を生かした山廃仕込という伝統技術で、日本酒「福千歳」を手造りし、多くのラインナップがあります。七代目が東京農大の学生時代に本みりんの美味しさに出合い、福井県にみりん蔵がひとつもないことを知り、“うちが造るしかない”、と決意しました。その後、2012年に試行錯誤の末に誕生したのが「ふくいの本みりん」、愛称は「みりんちゃん」です。
原材料は、福井市産のもち米を100%使用し、福井県産コシヒカリで造った米麹、醸造アルコールで仕込み、すべて手作業で造られています。その後、日本酒と同じ蔵でゆっくり寝かせることで、米麹がもち米を糖化し、アミノ酸の旨み成分も増え、色は琥珀色、まろやかな甘みのある味わいへと熟成されます。
日本酒の仕込みは秋から春先までですが、夏場に若き杜氏が造る本みりんです。日本酒と本みりんは同じ発酵食品なので似ているところはありますが、毎年毎年、さらに美味しくなるようにチャレンジに余念がありません。ラベルデザインは、伝統調味料は“美味しい顔にしたい!”という願いから、思わずほころんでしまう可愛さ、キッチン映えして、つい手がのびます。
和食に限らず、洋食系にも使用すると料理の格がアップします。煮物や煮魚、手作りのめんつゆやドレッシング、スィーツ、ドリンクにも。砂糖などの甘みの変わりに使えば、くどくない爽やかな上品な甘さの本みりんを使いこなして、料理上手に! 13%くらいのアルコール分が含まれているので、アルコールを飛ばして「煮切りみりん」にして使うのもおすすめです。
「みりん醤油ドレッシング」で食べる「チキンとアボカドのそばサラダ」
チキンとアボカドのそばサラダ
<材料>(1人分)
そば(乾) 1ワ(80g)、アボカド 1/4個、サラダチキン(市販) 30g、野菜サラダ(市販) 適量
<みりん醤油ドレッシング(1人分)>
酒蔵仕込 ふくいの本みりん 20ml
A:醤油 大さじ1、レモン汁、オリーブ油 各小さじ1
<作り方>
1.アボカドは皮と種を取り、食べやすい大きさに切る。サラダチキンは手で粗くほぐす。
2.そばは袋の表示どおりに茹で、流水で洗って水気を切っておきます。
3.次は、みりん醤油ドレッシングです。少し大きめの耐熱容器に本みりんを入れて、電子レンジ(600w)で1分程加熱して冷まします。Aをすべて加えて、よく混ぜ合わせます。
4.器に②を盛り、①と野菜サラダの具を彩りよく盛り付け、③をかけます。みりん醬油ドレッシングのオリーブ油をごま油に変えると中華風の味わいに。
みりんレモンスカッシュ
<材料>(1杯分)
酒蔵仕込 ふくいの本みりん、レモン汁 各大さじ1(1:1の割合)で合わせて、炭酸水 150mlで割ります。カクテル感覚でお飲みいただけます。(アルコールが苦手な方は、本みりんを煮切りましょう。炭酸水のかわりに、豆乳や牛乳で割っても美味しいです。)
(2)「本みりん 九重櫻」(九重味淋株式会社・愛知県)
創業250年、「三河みりん、発祥の醸造元」です。蒸したもち米と米麹を合わせて米焼酎を加えて仕込み、搾ったみりんは築300年を超える「大蔵」で半年~1年ほど熟成させます。味に深みを増したツヤのある伝統の調味料は、料理に欠かせません。
(3)「三年熟成 純米本味醂 福みりん」(株式会社福光屋・石川県)
調味料選手権2018 みりん部門 最優秀賞。地元・石川県産のもち米と酒造好適米フクノハナを使った米麹に、自家製米焼酎を合わせて仕込み、3年以上熟成させた本みりんです。料理に、煮詰めてソースに、カクテルにもお勧めです。
5.「煮切りみりん」について
5-1.なぜ、みりんを煮切るの?
本みりんや発酵調味料には、10%前後のアルコール分が含まれているので、中に含まれている余分なアルコールを飛ばします。煮切ると、アルコールの風味が除かれ、甘みと旨味が増し、香りも豊かになり、シロップとして使えます。おすすめは、短時間で煮上げる料理や、和え物、たれ、ドレッシングの材料に。ヨーグルトやトースト、パンケーキやアイスクリームのスイーツやドリンクに使いましょう。
料理にアルコールが残っていると、風味や味わいに酒臭さが残ることがあるので、注意しましょう。ただし、煮物などの加熱料理、アルコール度数の低いみりん風調味料は煮切る必要はありません。
5-2.煮切りみりんの作り方
①電子レンジを使います。みりん20mlを少し大きめの耐熱容器に入れて、電子レンジ(600w)で1分ほど加熱します。(加熱後、庫内はアルコール臭が充満しているので、気を付けて取り出しましょう。レンジの加熱時間は、各みりんによって違いがありますので、加熱時間は調整してください。)
②煮詰める。鍋にみりんを入れて火にかけ、弱火でアルコール臭が消えるまで、煮切ります。
③みりんを煮沸させて着火させると、アルコール分が炎となって燃えあがります。炎が消えれば、煮切りみりんの出来上がりです。くれぐれも炎には注意しましょう。
本みりんには、ビタミンB6やカリウムなどのミネラルが含まれており、食欲増進効果等の健康効果が期待できますが、あくまでも少量使いの調味料です。みりんを上手に取り入れて、美味しく健康に役立てましょう。