「事実婚で配偶者控除は受けられるのだろうか」「扶養に入るための条件がわからない」といった悩みはありませんでしょうか。事実婚は、民法上で配偶者と認められていないため、配偶者控除は受けられません。しかし、事実婚を証明することで利用できる社会保障制度があります。
このコラムでは、事実婚の控除や扶養に関する悩みを解決するために、次の3点について解説します。
- 社会保険で扶養に入れるか
- 扶養に入る条件
- 事実婚を証明するための必要書類
実は、事実婚の配偶者でも社会保険の扶養には入れることができます。このコラムをお読みいただき、扶養に入るための条件や必要書類をしっかりと確認しておきましょう。
事実婚とは婚姻届を出さず結婚の意思をもって共同生活をすること
事実婚とは、婚姻届を出さず結婚の意思をもって共同生活をすることです。一般的に法律婚では、婚姻届を提出して同じ戸籍に入ることで配偶者と認められます。一方で事実婚は同じ戸籍には入れないため、以下の条件を満たすことで配偶者と証明できます。
- お互いに結婚の意思を持っていること
- 共同生活をしていること
- 生計同一関係であること
お互いに結婚の意思をもっていなければ、たとえ共同生活をしていたとしても事実婚とは認められません。結婚の意思を持っているかの確認は「結婚式を挙げているか」「第三者に配偶者として紹介しているか」などが挙げられます。例えば、配偶者として結婚式や葬儀に参加しているなどの事実があれば、結婚の意思が認められやすくなります。
さらに、事実婚は共同生活をしていることが条件です。例えば、共同生活していることを証明する書類として「住所が同一である住民票」「連名の郵便物」などがあります。住民票は、同居していることがわかる公的書類となるので、証明に役に立つケースが多いです。
事実婚は配偶者控除の対象外
事実婚の配偶者は、配偶者控除や医療費控除など税制上の控除対象となりません。税制上の控除を受けるためには、民法の規定による配偶者であることが条件付けられています。そのため、法律上で婚姻関係が認められていない事実婚は、税制上の控除の対象とはなりません。対象とならない控除は、以下のとおりです。
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 贈与税控除
- 相続税の軽減
- 医療費控除
医療費控除は、生計を同一とする家族の医療費が年間合計10万円を超えた場合、所得税控除が受けられる制度です。例えば、法律婚の妻が専業主婦の場合、年間100万円の治療費を支払った場合、90万円が医療費控除の対象となります。一方で事実婚の妻が、専業主婦の場合は100万円の治療費を支払ったとしても、妻が支払った医療費については医療費控除の対象とはなりません。
参照元:国税庁:配偶者控除
事実婚の配偶者でも社会保険の扶養者に入れる
事実婚の配偶者でも社会保険の扶養に入れます。扶養に入ると、社会保険料の支払いが免除されます。ここでは、年金とその他の保険に分けて「社会保険の扶養に入るメリット」を紹介しますので、参考にしてみてください。
年金の被保険者とは
会社員や公務員(国民年金の第2号被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の事実婚の配偶者は、「国民年金の第3号被保険者」の対象となります。国民年金の第3号被保険者が得られるメリットは、以下のとおりです。
- 国民年金保険料の支払いが免除
- 保険料納付期間となる
- 年金分割が可能
国民年金の第3号被保険者の期間は、保険料納付期間となります。ご自身で国民年金の保険料を支払っていなくても配偶者が加入している厚生年金等が一括して負担する為、将来の年金受給額に反映される点がメリットです。また事実婚を解消した場合、婚姻期間中の年金を分割して、それぞれの年金にできる「年金分割」が行えます。
参照元:日本年金機構
【年金以外】社会保険の被扶養者とは
世帯主が会社員や公務員の場合、事実婚の配偶者は「社会保険の被扶養者」の対象者です。社会保険は扶養に入ることで、社会保険料の支払いが免除されます。年金以外の社会保険は、以下のとおりです。
- 健康保険
- 介護保険
- 雇用保険・労災保険
参照元:厚生労働省:日本の社会保障の仕組み
介護保険で扶養が受けられるのは、40才以上65歳未満の方となります。65歳以上の方は、被扶養者や被保険者という区別がなくなります。夫婦それぞれ保険料を支払う義務が発生するので、注意しましょう。
扶養に入れる条件【生計同一関係であること】
事実婚の配偶者が、社会保険の扶養に入るためには「事実婚関係及び生計同一関係であること」が条件です。生計同一関係とは、日常生活の費用を共にすることです。例えば「食費や光熱費などを共同で負担している」「世帯主の給与で共同に生活している」といった場合、生計同一関係となります。また会社員や公務員などの勤務地の都合で別居している場合、生活費を常に送金しているケースで、生計同一関係が認められます。
参照元:国税庁:生計を一にする
また事実婚や法律婚に関わらず、扶養に入るためには条件があります。扶養に入るための条件は、以下のとおりです。
- 年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)
- 被保険者の年間収入の2分の1未満
事実婚の場合、上記の2点に加えて生計同一関係であることの認定が必要となります。
参照元:全国健康保険協会:被扶養者とは?
事実婚関係を証明するための必要書類
事実婚関係を証明するには、用意するべき書類があります。同一住所が記載されている住民票は、共同生活をしていることがわかる公的な書類です。住民票があると、証明の申請がスムーズに進められるケースが多いです。例えば、国民年金の場合、住民票の住所が同一である場合に限り、第三者証明が不要となります。夫婦だけで事実婚関係を証明できる点は、住民票を同一住所にする大きなメリットです。
日本年金機構では「事実婚関係及び⽣計同⼀関係の認定」を以下の書類で行っています。以下6点のいずれかの書類を提出することで、事実婚関係及び⽣計を同⼀にしていることが証明されます。
ケース | 事実婚関係・⽣計同⼀関係証明書類 |
1 健康保険等の被扶養者になっている | 健康保険被保険者証等の写し |
2給与計算上、扶養⼿当等の対象になっている | 給与簿または賃⾦台帳等の写し |
3同⼀⼈の死亡について、他制度から遺族給付が⾏われている | 他制度の遺族年⾦証書等の写し |
4当事者間の挙式、披露 宴等が1年以内に⾏われている | 結婚式場等の証明書または挙式・披露宴 等の実施を証する書類 |
5葬儀の喪主になっている | 葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写し等) |
6いずれも該当しない場合 | 内縁関係の事実を証する書類 ・連名の郵便物 ・公共料⾦の領収書 ・⽣命保険の保険証 ・未納分の税の領収証 ・賃貸借契約書の写し など |
住民票の住所が別の場合、いずれかの書類の提出に加え「事実婚関係及び⽣計同⼀関係に関する申⽴書」の第三者証明が必要です。
「事実婚を証明できる書類がない」と悩む方がいるかもしれません。事実婚関係は「公共料⾦の領収書 」や「賃貸借契約書の写し」などで証明できます。事実婚証明の書類が多くありすぎて困ることはないので「2人の氏名が記載されている」「夫婦として参加した結婚式招待状」などの証明書になりそうな書類は、大切に保管しておくことをおすすめします。
参照元:日本年金機構:⽣計同⼀関係の認定が必要な⽅が事実婚関係にある⽅である場合
事実婚夫婦の子どもは扶養に入れるか
「事実婚夫婦の子どもは扶養に入れるのだろうか」と疑問を持つ方がいるかもしれません。ここでは、事実婚夫婦の子どもが控除や扶養の対象者になるのかを紹介しますので、参考にしてみてください。
社会保険
事実婚夫婦の子どもは、社会保険の扶養に入れます。事実婚夫婦の子どもとして生まれた場合、戸籍の上では「未婚の母の子」として母親の戸籍に入ります。そのため、本来母親の扶養にしか入れません。
しかし夫の子どもとして「認知届」を役所に提出した場合、夫の扶養に入れます。認知届を出す役所は、以下のとおりです。
- 出産後:父親の本籍地または住所地・子どもの本籍地
- 出産前:胎児の母親の本籍地
事実婚をした妻に連れ子がいた場合、夫の健康保険の扶養に入れます。ただし⽣計を同⼀にしていることが条件なので「同居している」「生活費や学資金を常に送金している」などの証明が必要です。
税法
事実婚は法律上の配偶者と認められていないため、税制上の配偶者控除は受けられない状況が一般的です。しかし、共同生活を証明することによって、社会保険の扶養に入ることが可能です。また、不妊治療の助成金対象として事実婚関係にある夫婦を認める自治体も増えてきています。扶養や助成金制度の活用には、共同生活の実態を証明する必要があります。結婚式の明細書や賃貸契約書の写し等で事実婚を証明できるので、これらの書類は大切に保管しておくことをおすすめします。
なお、事実婚の夫婦間に子どもがいる場合、父親が子どもを法的に認知すれば、税法上の親子関係が成立します。認知により、子どもは法的に父親の扶養控除の対象となることができるため、年末調整や確定申告時には扶養控除を適用することが可能です。養子縁組とは異なり、認知だけで親子関係が成立し、扶養控除の対象になることを覚えておきましょう。
おわりに
事実婚は法律上の配偶者と認められていないため、税制上の配偶者控除は受けられません。しかし事実婚を証明することで、社会保険の扶養に入れます。また近年、不妊治療の助成金対象に「事実婚関係にある夫婦」を追加した自治体が増えています。
扶養や助成金制度を活用するためには、事実婚関係を証明する必要があります。「1年以内にあげた結婚式の明細書」や「賃貸借契約書の写し」などで事実婚が証明できるケースがありますので、大切に保管しておきましょう。