こんにちは。イラストレーターのカワグチマサミです。
好きなものはゲーム、苦手なものは家事。9歳の息子と、夫と三人で暮らしています。
【カワグチ家親子三代物語】では、長い間仲が悪かった親と向き合う話や、義理親との関係、私の息子と親とのエピソードなどを連載しています。
私と父は、長い間、仲が良くありませんでした。
父と二人で出掛けた記憶はひとつもありません。
抱っこされたことも、頭を撫でられたことも、一度もありません。
父との思い出で一番覚えてるのは、小学生のころ風邪をひいて、咳をしたときに怒鳴られたことです。
私が中学生になると反抗期も重なり、父への憎しみも大きくなり、私たちは家の中で、少年ジャンプ並みのバトルを繰り広げるようになりました。
その後、私は、イラストレーターになることを決め、実家を離れ、一人暮らしを始めました。
もうこのまま、父とは一生、普通の会話をすることなく、他人のようになるのだろうと思っていました。
「それで良い」「いやそれが良い」と、納得していました。
しかしながら、人生とは面白いものです。
何が起こるのか分かりません。
なぜか私は今、父と会うと「普通に」会話ができます。
頭をぶつけて記憶をなくさない限り、父と和解なんて無理だと思っていたのに…。
それくらい長年すれ違った人間関係は、ひとつやふたつのキッカケでは修復できません。
そもそも、元から、私と父は、親子らしい関係性すらないのです。
そんな犬猿の仲の父と、「普通に」会話できるようになった理由を、思いつく限り書き出してみました。
実家を出て一人暮らしを始めてほど良い感じの距離感ができたから
お互い歳をとって落ち着いたから
父が仕事を辞めてストレスが減ったから
私がやりたいことをやり続けて満たされたから
父との関係性がゆるやかになったことは、もういろいろ、いろいろあると思います。
きっと、自分でも気付いてない理由も。
いろいろが重なって、ああなって、こうなった感じです。
でもその中でも、私と父の関係が変わった大きなきっかけとなったのは…
この子のおかげで、私と父は「普通に」会話をする…
いや、「普通に」会話せざるを得なくなりました。
息子のソウは、今、小学四年生。
とても優しい男の子です。
泣いてる子がいたらかけ寄って話を聞いてあげたり、
自分自身が傷付くことがあっても、我慢してしまう。
このように、息子の性格は私と似ていません。
夫にも似ていません。
私の父になんて、月とスッポン!クジラとイワシ!いやもう、地球とアンドロメダ星雲以上〜に!果てしなく遠く離れた別次元の存在です。
なのに…
それなのに…
なんで……
………………………………………。
……………………………………。
………………………………。
そんな…ばかな…いやだ…認めたくない…
認めてしまったら……
認めたくない…
認めたくない…!
絶対、認めたくない…!!
けど!!
息子のソウと父は、似ているみたいです。
好きなものから容姿の見た目まで。
息子はかわいいです。
めちゃくちゃかわいいです。
正直、天使が地球に留学しに来たんかなって思ってます。
「親クソ馬鹿野郎」と呼んでください。
それくらい息子はかわいい。
父はかわいくない。
息子はかわいい…
父はかわい…
似てない似てない。
ほら二人をしっかりよく見たら…
認めましょう。
父と息子は、ほんの少し、ちょびっとだけ、似ているかもしれないかもしれない。
こんなリアクションをしていたからでしょうか。
ある日、息子は私に尋ねました。
バレました。
私は息子にウソをつきたくありません。
何でも素直に話せるような「なかよし家族」に、誰よりも憧れているから。
だから、正直に息子に伝えました。
それは、自分では気付いていないことでした。
気付きたくなかったのかもしれません。
たしかに、昔ほど父を憎んではいないと思います
いろいろ、いろいろいろが重なって。
その「いろいろいろいろいろ」の中の、大きな一つが…
君の存在だよ。
今もこうやって、気付かせてくれる。
認めたくないけど、認めなくちゃいけない。
父への憎しみが、小さくなってること。
ソウが、父に似てるから。
当たり前のように、父に笑顔で話しかけるから。
私も気付かないうちに、マネしてしまってたんだよ。
でも、小さい頃の私の父への気持ちを全てなかったことにはしたくない。
すべて許したわけじゃない。
だから、心の中まで、いろいろいろいろ。
それに、穏やかに息子に話しかける父を見て、思ってしまったことがあるんです。
父と息子は見た目や好きなものが似ている。
でも性格は違う。
全然違う………はず。
そう思っていたけど、もしかしたら…そうじゃないかもしれない。
父の本来の性格は、ソウに、少しだけ似ていたのかもしれない。
父の母である、祖母。
わたしの育ての親でもあります。
祖母は、生前、こんなことを話していました。
傷ついた弱いものは、さらに弱いものを傷つける。
これは、もしもの世界の話だけど…
もし父が、仲良い平和な家庭で生まれ、生活も苦労しないで、生きていくことができてたら…
私にとって、もう少し、優しい父親になっていたかもしれない。
怒鳴らず、暴れず、「普通に」親子で会話ができるような。
息子のソウと、見た目や好きなことだけじゃなく、性格まで、似ている人だったかもしれない。
いや、でも、世の中には苦労しても、優しい人はたくさんいるし!
すべて環境のせいにするのもどうかと思うし!
そのせいで八つ当たりされた私からしたら、たまったもんじゃないけど!
ただ、息子と並ぶ父を見ていたら、ふと思ってしまいました。
【これまで】の人生の選択が違っていたら、優しい父が、【存在していた】のかもしれない。
それはつまり、
【これから】の人生の選択によっては、優しい父が【存在する】のかもしれない。
だとしたら、そんな父を少し許せる私も、存在するかもしれない。
私の中には今も、小さい頃の私が感じた、父への憎しみ、悲しみ、怒りでかたまったものが突っかかっています。
その気持ちを、無かったことにはできません。
この凝り固まった塊は、すぐに無くなることはない。
でも、確かに。
いろいろ、いろいろが積み重なって、少しずつ、ゆるく、溶かされていってる感じはあるのです。
もしかしたら私も、息子に似てきてしまったのかもしれません。
ー後日談ー
最近は、父と会っても、ぶつかることがほぼなくなりました。
そう、「ほぼ」。
やっぱり今でも、ぶつかることはあります。
例えば、この前も…
ブッチーン!!
ブッチチーン!!
ぎゃーぎゃー!
わーわー!
ということがあったんですが…
息子のスマイル一つで、おさまりました。
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ただ、父と今でも言いたいことは言い合える仲なのは、悪くないかなぁ?と思います。