歯ぎしりとは睡眠時や日中に強い力で歯を噛み合わせることです。無意識にやっているケースが多く、放置しておくと歯肉炎や歯周炎に悪化してしまう可能性があります。
このコラムでは、歯ぎしりの症状や原因、治療方法について解説します。歯ぎしり・食いしばりのチェックリストも参考にしてください。
そもそも歯ぎしりとは?
歯ぎしりとは、無意識に強い力で歯と歯をすり合わせることです。これまでは主に睡眠中に起こることが通説でしたが、現在では覚醒時にも起こる症状として認識されています。
以下では代表的な症状と、チェックリストについて解説します。
最も多い「グラインディング」
グラインディング(歯ぎしり)は、上下の歯をすり合わせることでギシギシと音を鳴らす症状です。噛み合わせたままで左右に歯を動かすため、歯自体を損傷させる恐れがあります。グラインディングを続けると、歯が平らになって、ギシギシという音さえしなくなってしまいます。
自覚症状がないことも「クレンチング」
クレンチング(食いしばり)は、上下の歯を強く噛みしめる症状です。スポーツや力仕事などで力が必要なときに意識的にクレンチングをするケースがあります。グラインディングと違って音は鳴らないため、周囲に気付かれず、また本人も無自覚にやっているかもしれません。
実はこれも歯ぎしり「タッピング」
タッピングは、上下の歯を震わせて高速で何度も噛み合わせる症状です。寒さに震えながら、カチカチと歯を鳴らすこともタッピングに該当します。
歯ぎしりする方の特徴は?歯ぎしり・食いしばりチェック
グラインディングやクレンチング、タッピングをしてしまう方にはどのような特徴があるのでしょうか。以下にチェックリストをまとめました。睡眠時に症状が出て自覚できないケースもありますが、家族に症状を確認してもらうことも手段のひとつです。
- 日中、歯を食いしばっていることがある
- 起床時に顎が疲れ、睡眠不足を感じる
- 首こりや肩こりが辛い
- 知覚過敏の症状がある
- 歯の表面がすり減っている
- 詰めものが剥がれやすい
- 歯で口の中を傷つけたことがある
該当する項目がいくつもあるようなら、一度、医療機関を受診したほうが良いかもしれません。
歯ぎしりの原因は?
歯ぎしりの主な原因は、以下の4点です。それぞれ具体的に解説します。
原因No.1!ストレス
歯ぎしりはストレスが最大の原因です。ストレスを感じた脳は、睡眠中などに歯ぎしりをさせることで、ストレスを解消していると考えられています。ストレスを完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、できる限り、ストレスの原因を取り除く必要があります。スポーツなどの趣味に没頭する時間を確保することが大切です。
嚙み合わせや歯並びの悪さ
生まれつきや成長の過程で、噛み合わせや歯並びが悪いことも歯ぎしりをする原因となりかねません。歯の高さが1本だけ抜き出て、他の歯と接触する場合は歯ぎしりを起こしやすくなります。また、治療のために入れた詰め物がきっかけで、歯ぎしりをするようになる方もいるようです。
スポーツや飲酒・喫煙などの生活習慣
普段の生活習慣が歯ぎしりや食いしばりの原因となります。例えば、スポーツで力を入れる際には歯をグッと食いしばりますが、それが癖づいて睡眠時にも食いしばってしまうケースです。また、飲酒でアルコール、喫煙でニコチンを摂取することで、歯ぎしりが悪化するとも考えられています。
子どもならではの歯ぎしり
子どもの歯は成長や生え変わりが繰り返されるため、一時的に歯ぎしりすることがあります。生え替わりによる不快感が原因となるケースが多く、新しい歯に慣れてくると症状が落ち着くため、さほど問題視する必要はありません。
歯ぎしりは周りにも自分にも大敵!
歯ぎしりを放置してしまった場合、どのような事態を招くのでしょうか。実は本人の健康面だけでなく、知らず知らずのうちに周りを不快にさせてしまうといったリスクもあります。
具体的な問題を以下で解説します。
歯が無くなってしまうかも!
歯ぎしりや食いしばりを続けていると、歯がすり減ったり、欠けたりするリスクが伴います。「硬い歯が変形するはずがない」と思うかもしれませんが、睡眠時の食いしばる力は強く、それを何週間も続けていると、いくら丈夫な歯でも削れて欠けてしまいます。さらに歯が数ミリ短くなると、普段守られている神経が歯の表面に近付いて「しみる」かもしれません。
歯周炎や歯肉炎になりやすくなる
歯ぎしりで歯に加わった強い力で、歯肉などに炎症が起こって「歯肉炎」や「歯周炎」になる恐れもあります。歯肉炎とは歯ぐきで起こる炎症のことで、歯周炎は歯ぐきに加えて、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)まで炎症が達した症状です。歯周炎では顎の骨が溶けてしまい、歯を支えることができません。歯肉炎の悪化した状態が、歯周炎として位置付けられています。
顎関節症を引き起こすリスク大
歯ぎしり・食いしばりで顎関節に負担を掛けることで、「顎関節症(がくかんせつしょう)」を引き起こすかもしれません。顎関節症とは、偏頭痛や顎の関節・筋肉の痛みなどをもたらす病気です。また、口を大きく開けられず、口の開け閉めで音が鳴ることもあります。
睡眠時無呼吸症候群との因果関係
「睡眠時無呼吸症候群」とは、睡眠中に呼吸が止まってしまう症状です。息ができなくなるため、目が覚めて呼吸をしようとしますが、落ち着いて眠ると、再び呼吸がストップすることを繰り返します。
睡眠時無呼吸症候群と歯ぎしりは、セットとなって発症する可能性が高いです。睡眠時無呼吸症候群では睡眠が浅くなりますが、浅い睡眠では歯ぎしりが起こりやすくなります。つまり、歯ぎしりは睡眠中の無呼吸時に起こりやすいのです。
インプラントにも悪影響
「インプラント」とは、簡単にいえば、チタンやチタン合金などでできた人工歯を埋め込むことです。虫歯などの進行で失った歯の機能を取り戻すために用いられる治療のひとつとされています。しかし、歯の噛み合わせでクッションとなる「歯根膜」がインプラントにはなく、歯ぎしりで噛み合わせた際の力がダイレクトに顎に伝わり、インプラントの上部構造が取れる事やインプラント自体が壊れるといった悪影響を及ぼしかねません。
頭痛や肩こりの原因に
歯ぎしりで顎周りの筋肉に負担をかけ続けていると、頭痛や肩こりの原因にもなります。顎周りの筋肉は、首や肩、こめかみなどの筋肉にもつながっているため、負担による頭痛や肩こりを引き起こします。
フェイスラインが変わってしまう
歯ぎしりは、特に女子のコンプレックスを招くかもしれません。歯ぎしりで顎の「咬筋(こうきん)」が発達すると、フェイスラインが変わってしまいます。だんだんとエラが張って、顔が大きくなってしまうのです。歯ぎしりや食いしばりで加わる圧力はたとえ女子であっても強く、問題を放置していると顔の印象を変えかねません。
歯ぎしりを治したい!治療方法は?
歯ぎしりは人のストレス発散行動のひとつともいわれているので、完治させることは難しいですが、コントロールするという意味で歯ぎしりを改善させることは可能です。以下では、医療機関だけでなく自宅でもできる治療法について解説します。
ナイトガードが主流
歯ぎしりを治す「ナイトガード」とは、睡眠中に使うマウスピースです。装着すれば、上下の歯のすり減らしや噛み合わせを防いでくれます。また、ナイトガードの硬さ・形状を調整すれば、歯ぎしりの回数を軽減できるかもしれません。ギシギシという不快な音も防ぐため、周囲も安心して眠れます。
ナイトガードは保険治療を適用できます。費用は数千円〜10,000円ほどと経済的な負担が少ないため、最も一般的な治療法です。なお市販品を購入した場合は、1,000円以下〜数千円で購入することができます。
ボトックス治療も効果的
「ボトックス」とは、筋肉の動きを抑制し、緩める働きのある成分です。ボトックス治療では、ボトックスを注射することで、歯ぎしりや食いしばりを緩和させます。また、歯ぎしりに伴った顎関節症や頭痛、肩こり、歯周病の改善にも用いることが可能です。
効果の持続期間は個人差があります。一般的には3ヵ月〜半年ほどとされていますが、もし効果が薄まってきたと感じたら再度注射を打つことになります。
天突や内関などのツボを刺激する
自宅でできる歯ぎしり対策のひとつが、ツボを刺激することです。ストレスを軽減できる「天突(テントツ)」や、気持ちをリラックスさせる「内関(ナイカン)」を押して、歯ぎしりの原因を減らします。
天突は、鎖骨の間にあるくぼみです。中指で、胸に向かってななめに10回ほど押してみてください。内関は、手首から指3本分ほど内側にある部分です。両腕の内関を5秒ずつ軽く押しましょう。費用もかからず気軽にできるため、自宅で試してみても良いでしょう。
歯列矯正などで歯並びを整える
噛み合わせの調整では、一部の歯だけ詰め物や被せ物で高くなっている場合は高さを調整したり、詰め直したりします。これが「補綴治療」です。また歯列全体が乱れている場合は、矯正装置をつけて歯並びを整える「矯正治療」を行います。歯並び、噛み合わせを整えることで、歯ぎしり、くいしばりに耐えられる口内環境を整えることが可能です。
矯正治療には自身で取り外しできない「固定式装置」や、自由に取り外せる「可撤式装置」など、いくつもの種類があります。「可撤式装置」の中には近年流行りのマウスピース矯正も含まれます。歯を守りながら歯並び改善も望めるかもしれません。治療内容に関しては予算や希望に応じて、医療機関で相談することが大切です。
質の良い睡眠を心掛ける
生活習慣では、睡眠の質にこだわりましょう。就寝前の飲酒やスマホ、ゲームの使用は睡眠の質を低下させる原因となりかねません。睡眠の質を高めるためには、湯船に浸かって身体を休め、骨格に合った枕を選ぶことがポイントです。歯ぎしり対策として枕をタオルで覆って柔らかくしても良いでしょう。
ストレス発散が大切
運動や趣味に精を出して、普段からストレス発散を心掛けてください。暴飲暴食でのストレス発散は逆効果です。適度な運動は睡眠の質を良くするだけでなく、血行を良くして肩こりを楽にしてくれるため、好きなスポーツを趣味にすると良いかもしれません。
また、日中に食いしばりをしていないかをセルフチェックし、無意識に食いしばりをしていた場合はその癖を意識的に減らすアプローチも効果的です。
自宅でできるマッサージ
歯ぎしりを自宅で簡単に治す方法としては、マッサージがおすすめです。マッサージをすることで筋肉のこりを解消させます。例えば「口を大きく開けて、5秒間維持する運動を3セット」「頬やこめかみを手でぐりぐりするマッサージ」といったことを実践してはいかがでしょうか。
おわりに
歯ぎしりは、歯並びやストレス、喫煙・飲酒などの生活習慣が原因となります。治療としてはナイトガード(マウスピース)の使用や、ボトックス治療、矯正治療が有効です。また、健康的な生活習慣を心掛けることで、改善できるでしょう。