認知症になると、介護だけでなくお金の問題も起こります。できれば認知症になる前に対策を立てておきたいものですが、具体的に何をしたら良いのかわからない方も多いことでしょう。ここではお金の管理について、認知症になる前にできる対策や利用できる制度を紹介します。認知症の方が抱えやすい金銭トラブルや認知症の方の介護方法などについても説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
認知症による資産凍結リスクに備える
「親が認知症になったら、親の口座からお金を引き出せないと困る」「親が認知症になったあと、親の介護費用や生活費を立て替えないといけないと思うと不安」そんな方におすすめなのがクレディセゾングループの「セゾンの相続 家族信託サポート」です。元気なうちに財産管理を信頼できる家族に託す「家族信託」の仕組みがいま注目されています。認知症による財産凍結リスクに備えたい方は、ぜひご相談ください。
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そもそも認知症とは?
認知症は種類により症状が少しずつ異なります。それぞれ見ていきましょう。
認知症の症状
認知症は、脳の病気や障害が原因で認知機能が低下し、通常の日常生活が送れない状態を指します。認知症には以下のような種類があり、さまざまな症状が表れます。
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多く見られるのが、もの忘れをはじめとしたさまざまな症状が見られるアルツハイマー型認知症です。有病率は年齢とともに高くなり、男性より女性に多く見られる傾向にあります。最大の原因は加齢ですが、糖尿病や高血圧などの基礎疾患があると、発症のリスクが2倍以上にもなることが報告されています。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳出血や脳梗塞などにより脳の一部の神経細胞に栄養や酸素が行き届かなくなることで起こります。神経細胞の破壊や脳神経のネットワーク障害により、記憶や言語分野の障害が表れます。一部の認知機能が保たれる「まだら認知症」が特徴とされており、症状が突然表れたり急に悪化したりするなど、状態が変動することが多い認知症です。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症の次に多いレビー小体型認知症は、高齢者の認知症の約20%に見られます。男性の方が女性より約2倍発症しやすく、ほかの認知症と比べ進行が早いのが特徴です。加齢による脳の変化が原因と考えられており、場所や時間が分からなくなる認知機能症状や幻視症状のほか、身体が固くなったり手が震えたりするパーキンソン症状が出現します。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症では、人格や社会性を司る前頭葉や記憶や言語を司る側頭葉前方の萎縮が見られます。万引きなどの軽犯罪といった社会性欠如症状の他、感情の抑制ができなくなったり、言葉が出にくくなったりするなどの症状が緩やかに進行し、発症後約6~8年で寝たきりの状態になることが多くあります。
認知症は誰でも発症する可能性がある
認知症は遺伝や危険因子の有無に関わらず誰でも発症する可能性があり、2025年には日本の人口の約20%が認知症になると推計されています。また、若年性認知症は、65歳未満の働き盛りの方でも発症します。誰しもが認知症になった場合のことを考えておく必要があるでしょう。
親が認知症になったらどうする? 今からできる事前準備
万が一、親が認知症になったときに慌てないためには、以下のことを準備しておくと安心です。
正しい知識を身に付けておく
まずは認知症を正しく理解しておきましょう。認知症の種類により、症状や進行具合、対応方法が異なります。それぞれの認知症の特徴を正しく知り、適切な生活作りや介護計画を立てられると、患者自身や家族の生活を快適にしてくれることにつながります。
サポート体制を検討しておく
認知症を発症すると、進行に応じて適切なサポートが必要になります。いざサポートが必要になってからではなく、あらかじめ調べておくと安心です。
国では、認知症対策の一環として、専門の医療相談を行える認知症疾患医療センターの設置を全国で進めています。かかりつけ医や地方自治体とも連携しているほか、地域の医療機関の紹介や介護生活支援体制の調整を行う施設です。このほか介護保険サービスなど認知症サポートのサービスについて情報が得られる包括支援センターや、民間でも認知症をサポートする団体があります。
かかりつけ医を見つけておく
気軽に相談できる窓口として、かかりつけ医を見つけておくと安心です。可能であれば、認知症について知見がある医師であることが望ましいでしょう。多くの自治体では、WEBサイトで認知症専門医や認知症サポート医などの情報を掲載しています。
かかりつけ医を見つけるのが難しい場合は、各自治体の包括支援センターに相談してみましょう。
経験者から情報収集
身近に経験者がいる場合は、何をしておくべきか聞いておくことも良いでしょう。「認知症カフェ」では、認知症の方や家族、地域の方々が集まって情報交換ができます。スタッフや参加者には、包括支援センターの職員や介護福祉士、看護師や医師などの専門職の方がいることもあり、気軽に相談できます。
認知症になる前にしておきたい、お金の管理に関する対策・手続き
認知症と診断されてからでは、親の口座からお金を引き出すための手続きが多く面倒なことも。ここでは、認知症になる前にできることを説明していきます。
キャッシュカードの保管場所や暗証番号の把握
まずは、キャッシュカードの保管場所と暗証番号を確認しておきましょう。ただし、家族がキャッシュカードを使ってできることは出金のみのことが多く、カードの紛失時の対応や定期預金の解約など契約内容の変更は行えません。家族が持てる代理人用のキャッシュカードも、出金のみの利用に限られることが多いので注意が必要です。
任意後見制度の利用
任意後見制度は、将来認知症などで判断力が低下したときに備えて、信頼できる家族との間に、財産管理や身上監護をしてもらえるようあらかじめ契約を結んでおく制度です。本人の判断能力が不十分になった時点で、家庭裁判所に任意後見監督人(弁護士や社会福祉士など第三者であることが多い)の申し立てをして、選任されてから任意後見人の権限が発生します。
家族信託の利用
家族信託制度もご自身での財産管理が困難になったときに備え、信頼できる家族に財産管理の権限を与えておくものです。任意後見制度との大きな違いは、認知症になる前から受託された家族が財産管理できる点と、裁判所の関与がない点です。
家族信託制度では、委託者の口座から受託者名義の信託口座へ現金を移し、受託者は信託契約で定めた目的に従いそのお金を使用できます。受託者には、「金銭を信託管理用口座で管理する」「帳簿を作成する」義務があるため、使途不明金を防ぐこともできます。また、あらかじめ財産の管理処分について信託契約で定めておけるため、資産運用にも柔軟に対応できます。
資産承継信託の利用
資産承継信託は、認知症などに備えて資金を銀行などに預け入れ、設定した条件に応じ本人や家族がお金を引き出せるようにするサービスです。万が一本人が預金を引き出せなくなった時でも、あらかじめ指定された家族が医療費などを引き出すことができます。
また受取人を指定しておくと、本人が亡くなったときに相続手続きをしなくても、受取人が資金を受け取ることが可能です。
認知症の親の貯金を下ろす方法やすべき手続きは?
銀行は口座名義人が認知症であると判断された場合、相続トラブルや第三者による悪用などの恐れから口座を凍結します。口座が凍結されると、家族でもお金を引き出すことができなくなってしまいます。そんな時はどうしたら良いのでしょうか。
法定後見制度の利用
凍結された口座を利用できるようにするには、法定後見制度を利用するのが原則です。法定後見制度は成年後見制度のひとつで、判断能力が低下した後に利用でき、家庭裁判所で選任された後見人などが財産を管理するものです。本人の判断能力の程度によって以下の3種類に分類されます。
- 後見:日常生活がひとりではできず、判断能力が完全にない方を対象
- 保佐:日常生活のことはできるが、大きな契約などの判断が難しい方を対象
- 補助:日常生活のことはご自身ででき、大きな契約などの判断も可能だが、サポートが必要な方を対象
手続きの流れ
法定後見制度の利用のおおまかな流れは以下のとおりです。ここでは、「後見人」の申し立てを行う場合の流れを説明します。
- 親族(四親等以内)から「申立人」を決める
- 必要書類を揃える:医師の診断書・申立書類一式・役場などで取得する住民票などの書類
- 家庭裁判所に後見開始の申し立てをする:申立書類一式・必要書類の提出
- 家庭裁判所で審理開始
- 家庭裁判所で申立人・後見人候補者の面接を実施
- 家庭裁判所による審判:後見開始の審判・成年後見人の選任
- 後見登記:審判確定後、裁判所から法務局へ後見登記依頼がされる(後見登記とは、後見人の氏名や権限などが記載されたもの。)
- 成年後見人の仕事開始:本人の財産目録作成・金融機関の手続きなど
制度利用時の注意点
トラブル防止に役立つ法定後見制度ですが、利用する際には以下のような注意点があります。
- 後見人等は職務の内容を随時家庭裁判所に報告しなければならない
- 司法書士や弁護士など親族以外が後見人等に選任されても、異議申立てができない
- 一度後見人等がつくと、家族の意向で後見人等を交代、除外することが難しい
- 財産管理は後見人等の権限となり、本人や家族の意向が反映されにくい
- 申立てには鑑定費用や登記手数料など、10万円以上の費用がかかり、申立人が支払わなければならない
- 後見人等には報酬を払う必要があることが多く、管理財産が多いほど報酬が多くなる傾向にある
日常生活自立支援事業の利用
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者や精神障害者などのうち判断能力が著しく低下している方が、自立した生活を送れるよう福祉サービスの利用援助を行うものです。都道府県や指定都市社会福祉協議会が主体となり、凍結された預金の払い戻しや解約など、日常生活費の管理援助を行っています。利用には1回の訪問当たり、平均1,200円の費用がかかります。
参考文献:日常生活自立支援事業 |厚生労働省
金融機関の指針に沿って対応
2021年2月、全国銀行協会は認知症家族が本人の預金を引き出しやすくするための金融機関の指針を取りまとめました。
一定の要件を満たしていれば、成年後見人制度を利用しなくても預金の引き出しができることや、家族間で公正証書を用いて財産管理契約を作成した場合、家族による引き出しが認められるなどの内容です。
今後各金融機関で運用される可能性がありますが、全ての金融機関がこの指針に沿うものになるとは限らないため、注意が必要です。
勝手にお金を引きだしたら銀行にばれる?ばれない?
親のキャッシュカードを利用してお金を引き出しても、銀行側が気付くきっかけがない限り引き出し続けることは可能です。しかしそのお金を私的な理由で使用していた場合、亡くなったときに相続トラブルになる可能性があります。相続トラブルを避けるためには、引き出したお金を何に使ったかきちんと記録しておきましょう。
認知症で起こり得る金銭トラブルや注意点
ここからは、認知症になった方が起こしやすい金銭トラブルの内容や、認知症の方と接するときの注意点について説明していきます。
認知症で起こりがちなトラブル
まず、認知症の方によく見られるお金に関するトラブルについて具体的な内容を知っておきましょう。
金銭管理ができない
認知症の方は、判断能力や判断能力の低下により、必要なお金も使い込んでしまう傾向にあります。欲求のコントロールが難しくなるため、高額の商品の購入や、年金が支給されたと同時に使い込んでしまうなどの行動も見られます。
お金を盗まれたと思い込む
認知症の症状のひとつに、実際には被害に遭っていないのに被害を受けたと思ってしまう被害妄想があります。被害妄想の症状があると、お金を使ったことを忘れ、誰かにお金を盗まれたと勘違いしてしまいます。
高齢者を狙った詐欺などに巻き込まれる
認知症の方は、判断能力の低下により、他人が話していることが正しいかどうかの判断が難しくなります。そのため、架空請求や訪問販売などによるトラブルに巻き込まれやすくなります。
親族間で金銭管理についてもめる
その他、親族間でのトラブルもあります。家族の中に認知症になった方がいる場合、認知症になった方のお金を管理する立場になった方のお金の使い方によっては、親族間でもめる可能性も出てきます。
自己資金で立て替えなければいけなくなる
認知症の方の口座が凍結されると預金は引き出せなくなり、家族は医療費や介護費を自己資金で立て替えなければならなくなります。介護費用は介護用ベッドの購入やリフォームなど一時的にかかる費用が平均約740,000円。介護サービス費やおむつ代など月々にかかる費用が平均約83,000円あり、平均介護期間61.1ヵ月で計算すると、総額580万円以上にもなるデータがあります。この金額は、介護者にとって大きな負担です。
認知症の家族と接するときの注意点
親が認知症になった場合には、お金の問題とともに認知症と上手に関わっていくことも大切です。
信頼関係を築く
認知症の方と接する中で大切なことは信頼関係を築くことです。発症初期はご自身の症状を理解している場合もあり、思うようにできないことを恥ずかしく感じたり、家族の負担になっているのではないかと思い悩んだりしてしまいます。言いたいことを我慢して言えない中で、家族に失敗を怒られてしまうことが続くと、精神的に不安定になり認知症症状の悪化につながります。
言いたいことが言える相手がいることは、認知症の方のストレス軽減につながります。多少わがままになり家族はつらい思いをする場合があるかもしれませんが、信頼関係を築けていると前向きにとらえましょう。
プラスの感情を残すようにする
認知症の方は記憶能力が衰える一方で、感情の機能は今までと同様に働いています。認知症の方が失敗した際に高圧的な口調や態度で接してしまうと、事実関係は忘れるものの、「怒られた」や「怒鳴られた」などの感情だけが残ってしまいます。
認知症の方の気持ちを尊重し受け入れたり、優しく接したりするようにしていくことで、相手は安心できます。言葉によるコミュニケーションが困難になっても笑顔で接することが大切です。
急かしたりいらついたりしない
認知症の方は思考力や動作が遅くなるため、何をするにも時間がかかりがちです。しかし、イライラしたり急かしたりせずに、本人のペースに合わせることが大切です。本人の気持ちに反して、無理に訓練を行ったり環境の変化を与えたりせず、本人ができることや好きなことを行いリラックスして過ごしてもらいましょう。
家族で話し合う時間を作る
認知症の方を介護する際には、誰が中心に介護をするのか、誰がどんな役割を担えるのかなどの話し合いをして、誰かひとりに負担が集中しないようにしましょう。定期的に情報交換をしたり介護者の悩みを聞く場を作ったりするだけでも、介護者の負担は軽減されます。
ご自身の時間も大切にする
在宅で介護をしていると、介護者はつきっきりになり休みを取れないことが多くあります。ケアマネジャーに相談したり、ショートステイなどのサービスを利用したりして、ご自身の時間を作りストレスを抱え込まないようにしましょう。
介護サービスや介護施設の利用も選択肢に入れておく
在宅介護をしているときには、介護サービスや介護施設に頼ることも検討しておきましょう。新しいサービスの導入時にはケアプランの見直しが必要になるため、ケアマネジャーと定期的に連携をとり、家族や本人の状況を把握しておいてもらうことが大切です。
また介護施設は、介護に限界を感じてからではなく、まだ在宅介護で大丈夫なうちに見学をしておくこともできます。良さそうな施設を見つけたら、体験入居やショートステイを利用してみることもおすすめです。
おわりに
親が認知症になった場合、法定後見制度や日常生活自立支援事業などを利用すればお金の管理をすることは可能ですが、手間や費用がかかります。できることなら親が認知症になる前に、任意後見制度や家族信託の制度を活用し、スムーズにお金の管理ができると良いでしょう。それぞれの制度には特徴があるので、ご家庭に合う制度を検討してみてください。