「債務不履行」という言葉をご存じでしょうか。債務不履行は法律用語であり、難しい印象を持たれるかもしれません。
しかし、知っておいて損はありません。本記事では、債務不履行について、その種類や対処法、損害賠償に至るまでを詳しく解説します。
債務不履行とは
債務不履行とは、契約によって生じた義務を果たさないことをいいます。簡単にいえば、約束を守らないことです。「債務」とは、契約上の義務のこと、「不履行」とは、それを行わないことを意味します。
例えば、あなたが金融機関から融資を受けたとします。融資を受けるときは、金銭消費貸借契約を結びます。この契約により、金融機関は「お金を貸す」という義務(債務)を負い、あなたは「お金を返す」という義務を負います。これらの義務を果たさなかった(金融機関がお金を貸さない、あなたがお金を返さない)場合、債務不履行となります。
義務を負う方のことを債務者といいます。債務者の相手方、つまり、義務を果たすよう請求する権利を持っている方のことを債権者といいます。先の融資の例でいえば、「お金を貸す」ということに対しては、企業は債務者であり、あなたは債権者です。「お金を返す」ということに対しては、あなたが債務者であり、企業は債権者となります。
債務不履行の種類は3つ
債務不履行は、その状態により「履行遅滞」「不完全履行」「履行不能」に分類することができます。
履行遅滞
履行遅滞とは、「約束の期日を過ぎた状態」を意味します。例えば、9月30日までにお金を返す約束だったのに期限を過ぎてしまった場合が、これに該当します。簡単にいえば、「何もしていない状態」です。
不完全履行
不完全履行とは、「約束の一部を果たしているが、一部は果たしていない状態」を意味します。例えば、商品を10個注文したのに9個しか届いていない場合が、これに該当します。簡単にいえば、「足りない状態」です。
履行不能
履行不能とは、「約束を果たすことができない状態」を意味します。例えば、不動産売買において、土地・建物を引き渡すまでに、建物が火事で焼失してしまった場合が、これに該当します。簡単にいえば、「どうすることもできない状態」です。
債務不履行発生時の対処方法は4つ
債務者が債務を履行しない場合、債権者が取れる対処方法は、以下の4つです。
・完全履行請求
・強制執行
・契約解除
・損害賠償請求
債務不履行の状態が、履行遅延であるか不完全履行であるか、履行不能であるかによって、対処の方法が異なります。
完全履行請求
完全履行請求は、債務不履行のうち、不完全履行に対して取れる対処方法です。履行が足りない部分について、完全なものとするよう請求することです。「追完請求」ともいいます。
例えば、商品を10個購入したにもかかわらず、9個しか納品されなかった場合、残り1個を納品するよう請求することです。ただし、残り1個を納品しないことによって購入者が不当な負担を強いられるわけではない場合、販売者側は、別の方法(返金など)で対応することもできます。
強制執行
強制執行は、債務不履行のうち、履行遅滞や不完全履行に対して取れる対処方法です。強制執行は裁判を通じて相手方に履行を強制するものです。強制執行には、直接強制、代替執行、間接強制などがあります。
例えば、お金を貸した相手が期日を過ぎてもお金を返さないとします。いくら催促しても一向に返す気配が無いため、あなたは法的措置をとることにします。法的措置とは、裁判を通じて相手方に「お金を返しなさい」と請求することです。
あなたの請求を裁判所が妥当と判断すれば、「お金を返しなさい」という判決(命令)が出ます。これを債務名義といいます。本来であれば、相手はこれに従い、お金を返します。しかし、それでも相手方がお金を返さないような場合もあります。そのような場合、あなたは相手の財産を差し押さえるなどをして、お金を回収することになります。
契約解除
契約解除は、履行遅滞、不完全履行、履行不能のいずれの場合にも、取れる対処方法です。契約解除には、「催告による解除」と「催告によらない解除」があります。催告とは、相手方に約束を守るよう要求することです。
契約解除の原則は、催告による解除です。債務者がその債務を履行しない場合、債権者は債務者に対し、履行するよう要求しなければなりません。要求してもなお、債務者が履行しない場合に、初めて契約を解除することができます。
催告をしても履行されないことが明らかな場合は、催告によらない解除をすることができます。履行されないことが明らかな場合とは、以下のような場合をいいます。
・債務の全部の履行が不能である
・債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示している
・債務の一部の履行が不能である、または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示しており、残る部分のみでは契約の目的を果たすことができない
一般に、契約の解除については、契約書に記載されています。催告による解除、催告によらない解除は、基本的には契約の内容に従うことになります。
損害賠償請求
損害賠償請求は、履行遅滞、不完全履行、履行不能のいずれの場合にも、取れる対処方法です。
債務不履行によって損害が生じた場合、債権者は債務者に対し、その損害の賠償を請求することができます。ただし、この債務不履行が、債務者の責任ではない原因によって生じたものである場合には、損害賠償を請求することはできません。
履行不能の場合や履行を拒絶する意思を明確に表示した場合、契約が解除された(契約の解除権が発生した)場合は、履行に代わる損害賠償を請求することができます。
損害賠償の範囲は、以下のとおりです。
・債務不履行によって、通常生じると考えられる損害
・特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見できた損害
債務不履行が無ければ得られたであろう利益(逸失利益)についても、損害賠償の範囲となる可能性はあります。
損害賠償請求の対象となる債務不履行とは
損害賠償請求の対象となる債務不履行の代表的な事例として、次のようなものが挙げられます。
支払いが遅れた
支払期限があるにもかかわらず、支払いが遅れた場合は、債務不履行(履行遅延)となり、損害賠償請求の対象となります。金銭債務における損害賠償は、「遅延損害金」です。遅延損害金については、不可抗力によって抗弁することができないとされています。つまり、履行不能という考え方はないということです。
引っ越し業者が作業中に物を壊した
引っ越し業者は、家具などを引っ越し先に運ぶのが仕事です。依頼主に対して、無傷で運ぶ責任を負っており、これが引っ越し業者の債務となります。作業中に物を壊した場合、債務不履行(不完全履行)となります。このとき、引っ越し業者は壊れたものに対し、損害賠償請求をされる可能性があります。
二重譲渡で期日までに引き渡されない
二重譲渡とは、例えば1つの物を2人の買主に対して売ることをいいます。一方の買主にその物を引き渡してしまえば、当然、もう一方の買主にそれを引き渡すことはできません。これは債務不履行(履行不能)となり、損害賠償請求の対象となります。
不動産の売買契約後に物件を引き渡してもらえない
不動産の売買契約後に物件を引き渡してもらえない場合、債務不履行となります。この場合の債務不履行は、履行遅滞と履行不能の2種類が考えられます。
履行遅滞となるのは、物件の引き渡しができる状態にもかかわらず、引き渡しを行わない場合です。債務者が物件の引き渡しをしない旨の意思表示をしているような場合が、これに該当します。
履行不能となるのは、物件の引き渡しができない状態となった場合です。売主の不注意により火災で物件が焼失してしまった場合、二重譲渡をしていた場合などが、これに該当します。
おわりに
ここまで、債務不履行の種類や対処法、損害賠償の対象となるものについて、解説しました。
債務不履行の種類は、以下のとおりです。
・履行遅滞
・不完全履行
・履行不能
債務不履行の対処法は、以下のとおりです。
・完全履行請求(履行遅滞)
・強制執行(履行遅滞、不完全履行)
・契約解除(履行遅滞、不完全履行、履行不能)
・損害賠償請求(履行遅滞、不完全履行、履行不能)
損害賠償の対象となる債務不履行の代表的な事例として、以下のものを取り上げました。
・支払いが遅れた(履行遅滞)
・引越し業者が作業中に物を壊した(不完全履行)
・二重譲渡(履行不能)
・不動産の売買契約後に物件を引き渡してもらえない(履行遅滞、履行不能)
債務不履行は、原則として、契約条項に対処方法や損害賠償について記載されています。解釈が難しい場合には、法律や判例(裁判事例)を参考に判断します。問題が発生した時に慌てないためにも、本記事の内容を参考にしていただきたく思います。