立ち上がった時に、ふらっとした感覚や目の前が暗くなった経験がある方もいるのではないでしょうか。それは立ちくらみかもしれません。このコラムでは、立ちくらみとはどのような状態のことかをはじめ、原因や予防法までご紹介します。立ちくらみにより転倒して怪我をするケースや、そもそも病気が原因となって立ちくらみが発症するケースもあるでしょう。立ちくらみが頻繁に起きて困っていた方や、受診しようか悩んでいた方はぜひ参考にしてください。
立ちくらみとは?
立ちくらみとは、座っている状態や寝ている状態から急に立ち上がった時に、気を失いそうになる症状のことです。血液は、高いところから低いところに流れようとします。血液が下に流れた時、心拍数を増やすなどの血圧を安定させる機能が働くのが正常な場合です。
しかし、自律神経の乱れや病気などが原因でこの機能が妨げられた時に、血液が低下し立ちくらみが起こるのです。
立ちくらみとめまいの違い
立ちくらみとめまいの症状は似ていますが、めまいは平衡感覚の障害によって起こります。耳の奥には内耳の一部「前庭」や「三半規管」と呼ばれる箇所があり、この部分は平衡感覚を司っています。内耳の障害が原因で平衡感覚に影響が出るとめまいが起こるのです。
一方、立ちくらみは医学的には「前失神」と呼ばれ、気を失いそうになる、あるいは一瞬気を失ってしまっている状態のことを指します。
日常生活における立ちくらみの主な原因とは?
立ちくらみが起こる原因はいくつか考えられます。まずは、日常生活のなかで考えられる原因について見ていきましょう。
高気温
高気温の時に屋外で長時間運動や作業を行うと、体温を調節する機能が乱れたり、体内の塩分や水分のバランスが崩れたりします。そのことが原因で、熱中症を引き起こし立ちくらみにつながる可能性があります。炎天下で作業をする際は、水分をしっかりとり、保冷剤などで身体を冷やしながら行いましょう。
入浴
熱いお風呂に入ったり、汗をかいて脱水したりすると血圧は低下します。その状態でいきなり立ち上がると血圧がまた低下するため、立ちくらみを起こしたり、ひどい場合は意識を失ったりする恐れがあるのです。
立ちくらみを避けるためにも、湯船に浸かる時間は長くても10分以内に止め、ゆっくりと上がるようにしましょう。
急な起床
身体を横にしている状態では、心臓から頭までスムーズに血液が流れています。逆に立っている状態では、頭に血液を送るために重力に逆らって血液を流す必要があります。そのため、急に起きてしまうと血液循環の対応がうまくできず立ちくらみが起こるケースがあるのです。
ダイエット
ダイエット中に食事制限をする方もいますが、食事制限をしてしまうと栄養が不足し貧血や自律神経の異常を起こすことがあります。ダイエット中でも極端な食事制限は避け、適切な運動や食事療法を行うようにしましょう。
睡眠不足
睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、立ちくらみや頭痛などの症状を引き起こす可能性があります。自律神経は血管の拡張や収縮にも関係しており、交感神経が優位の場合は血管を収縮させ、副交感神経が優位の場合は拡張させる役割があるのです。
睡眠不足になると交感神経が優位の状態が続くため、血管も収縮した状態が続いてしまいます。その結果立ちくらみや頭痛につながります。
生活リズムの乱れ
夜更かしや過度な飲酒、朝食を抜くなどの行為は生活リズムを乱す原因になります。生活リズムが乱れると自律神経のバランスが狂うため、立ちくらみが起きやすくなるのです。食事はできるだけ3食決まった時間にとり、早寝早起きの習慣を付けるように意識しましょう。
薬の副作用
薬の中には、副作用として立ちくらみが生じるものがあります。血圧を下げる降圧剤や精神安定剤、抗がん剤などが代表例です。食生活は変えていないけど最近立ちくらみが増えたと感じる方は、飲んでいる薬を一度確認し、場合によっては薬を処方した医師に相談をしてみてください。
立ちくらみの原因として考えられる病気は?
立ちくらみは病気が原因となっている場合もあります。ここでは、どのような病気が考えられるのか解説していきましょう。
脱水・熱中症
脱水症や熱中症も立ちくらみが起こる原因のひとつです。暑さで体温が上がると、身体にこもった熱を外に逃がして体温を下げようと皮膚の血管が広がります。そのことで、全身に流れる血液量が減り血圧が下がるため、脳への血流も減少してしまうのです。
こうした血流の変化が立ちくらみやめまい、失神を引き起こす原因になります。
更年期障害
更年期障害になると立ちくらみやほてり、不眠、情緒不安定など、さまざまな症状が現れます。これらは主にエストロゲンの減少が原因です。
エストロゲンとは卵巣から分泌される女性ホルモンのことです。更年期になると卵巣機能が低下し、それに伴いエストロゲンの分泌も減ります。このエストロゲンの減少を脳が感知すると、自律神経のバランスが崩れ、立ちくらみやほてりなどの症状を引き起こすのです。
貧血
急に立ち上がった時に起こる立ちくらみは、脳虚血(いわゆる脳貧血)によるものです。立ち上がる時は、重力の関係で血液が脳から足の方に下がってしまいます。この時、脳の血流を保つための自律神経の働きがうまく働かずに、脳が瞬間的に酸欠状態になることが原因で起こるのです。
起立性低血圧
起立性低血圧とは、長時間立ち続けている時や急に立ち上がった時に立ちくらみやめまいを起こす症状のことです。原因が不明で立ちくらみを起こすケースもあれば、パーキンソン病や糖尿病、多系統萎縮症などの基礎疾患が原因となる場合もあります。
また、起立性低血圧は胃や腸の血管からの出血や大きな血管の破裂など、血液の量が正常よりも少ない状態であっても発症しやすいといわれています。この場合、病院を受診し身体のどこから出血しているのか特定することが重要です。
胃潰瘍
胃潰瘍は胃の組織や粘膜が深くえぐれてしまう病気です。血管の近くがえぐれると出血することもあり、重症の場合は吐血や下血が起こることもあります。
出血をすると血圧が下がるため、立ちくらみや動悸を起こす可能性があるのです。吐血や下血がある場合は、内視鏡検査ができる医療機関を受診すると良いでしょう。
糖尿病
糖尿病は、インスリンの働きや分泌に問題が起き、血糖値が高い状態が続いている病気です。立ちくらみは糖尿病による神経や血管の障害によっても起こるといわれています。
通常、立ち上がった時は脳への血流を減らさないよう血管を閉じますが、糖尿病の方はこの調節が鈍くなるため、立ち上がった時にふらつきや立ちくらみを起こしてしまうのです。
パーキンソン病
バーキンソン病による立ちくらみは、神経伝達物質のドーパミンが関係しています。パーキンソン病はドーパミンが減ることにより、筋肉がこわばり転倒したり、動きにくくなったりしてしまう病気です。
通常、身体を起こす時は、脳への血流を保とうと血圧を上げるように脳が司令を出します。しかし、パーキンソン病の方はドーパミンが足りていないため司令が充分に伝わらない可能性があるのです。その結果、脳への血流が保てず立ちくらみやめまいを引き起こす原因となります。
自律神経失調症
自律神経失調症も立ちくらみが起こる原因となります。自律神経の役割のひとつに、脳の血流を守ることが挙げられますが、自律神経失調症の方はこれがうまく働きません。
そのため立ち上がったり起き上がったりした時に、血圧が不安定になり脳まで血液がうまく回らないことで立ちくらみを引き起こすといわれているのです。
受診の目安・ポイントは?
立ちくらみが日常的にあり、あまり気にしていない方であっても、長期的に続いているようでしたら一度医療機関を受診することをおすすめします。また、普段立ちくらみを起こしたことがない方が、突然なったり、ほかの症状を伴ったりした場合は病気からくる立ちくらみの恐れがあるため、早めに受診するようにしましょう。
受診の際はどの程度の症状がいつから起きているのか、立ちくらみの他にどのような症状があるのか医師に説明することが大切です。原因によって専門科医は異なりますが、どこに行けば良いかわからない方は、かかりつけの医療機関、または近くの内科に相談すると良いでしょう。
立ちくらみが起こったときの対処法は?
立ちくらみが起きた時に、間違った対処法をしてしまうと、怪我につながる可能性があります。では立ちくらみが起きた時はどのように対応すれば良いのでしょうか。対処法を2つ紹介していきます。
まずは安静にする
立ちくらみが起きた場合、まずは安静にすることが大切です。立ちくらみが起きている時に無理をすると転倒してケガをするリスクが高くなります。慌てず落ち着いて、低い体勢を取り、安静を心掛けましょう。
自己判断せず医療機関を受診
すぐに治ったから大丈夫と自己判断せずに、気になる症状がある場合は医療機関を受診することをおすすめします。病院では立ちくらみの原因を調査することが可能です。
中には上記で紹介したような病気も隠れている可能性もあります。放置しておくと病気の発見が遅れてしまうケースもあるため、自己判断せず早めに専門医に相談しましょう。
立ちくらみの予防・改善方法
ここでは、普段からできる予防や改善方法を紹介していきます。立ちくらみが頻繁に起こる方は参考にしてください。
なるべくゆっくりと動く
立ちくらみを感じやすい方は、急に体勢を変えるようなことは控え、なるべくゆっくりと動くようにしましょう。入浴の際、湯船から上がる時や、立ち上がる時もゆっくり動くことが大切です。
また、長時間立ったままでいると立ちくらみを起こす可能性があるため、立っている時間を減らすように意識しましょう。
規則正しい生活を送る
不規則な生活は自律神経のバランスが崩れる原因となります。1日3回の食事をできるだけ決まった時間にとり、就寝、起床は毎日同じ時間になるようにしましょう。
また、ストレスを溜めないことも大切です。ストレスを感じやすい方は、ストレッチをしたり、親しい方と話してたくさん笑ったりするなど発散できる方法を探しておくと良いでしょう。
朝いきなり起きない
朝は低血圧になっている状態です。その状態から急に立ち上がると、血液が下がるため脳の血液が足りなくなることで立ちくらみを起こす可能性があります。
立ちくらみを予防するためには、30秒ほどかけてゆっくり起き上がるようにしましょう。また、歩き始める時に頭を前屈させるのもおすすめです。脳血流の低下を防ぐことができるため、立ちくらみ予防につながります。
血圧を上げる
血圧が低いと、心臓が血液を送り出す力が弱くなるため、低血圧の方は正常な方に比べて全身をめぐる血液量が少なくなってしまいます。その結果、脳に充分な酸素が行き届かず立ちくらみが起きてしまうのです。
ナトリウム(塩分)を摂取することで簡単に血圧は上げられますが、摂取し過ぎてしまうと動脈硬化や高血圧などの生活習慣病につながる恐れがあるため、注意しましょう。
また、ストレスを発散することも低血圧の予防・改善につながるので、ストレスを感じている方は、意識して発散することをおすすめします。
水分をこまめにとる
水分が不足していると脱水症状を起こすことがあります。そのため、水分をこまめにとることが大切です。
ただしカフェインが含まれている飲み物やアルコールは利尿作用があり、ジュースなどの甘い飲み物は糖分が多く含まれているため水分補給にはなりません。
脱水症状を防ぐためには、コップ一杯程度の水や白湯を喉が渇く前に飲むことがおすすめです。また、スポーツなどでたくさん汗をかいた時は、水分とともに塩分も排出してしまいます。
長時間の運動の場合は、エネルギー源の糖分も減少させてしまうため、塩分と糖分が含まれているスポーツドリンクを飲むと良いでしょう。
弾性ストッキングを履く
弾性ストッキングを履くことも立ちくらみの予防には効果的です。下半身から脳に血流を送る力が弱いと立ちくらみを起こす原因となるため、弾性ストッキング履いて下半身を圧迫することで、血流のサポートができます。
適度な運動をする
立ちくらみを予防するには、適度な運動をすることも大切です。特にふくらはぎを鍛えると、下半身の血流が増え過ぎないようにコントロールができるようになるため、脳の血流が減るのを防ぐことができます。
立ったまま踵の上げ下げをしたり、屈伸運動をしたりするなど様子を見ながら無理のない範囲で運動を行ってみましょう。
ぬるめのお湯で半身浴する
熱いお湯に浸かると血管は拡張し血圧が下がりやすい状態になるため、湯船から上がる時に立ちくらみを起こしやすくなります。お湯に浸かる際はぬるめの温度にしましょう。
また、肩までしっかり浸かった方が良いと聞くこともありますが、あまりおすすめできません。肩まで浸かると、心臓が圧迫され血圧を低下させてしまうのです。立ちくらみを防ぐためにも、みぞおちまで浸かる半身浴を行うようにしましょう。
鉄分の摂取
立ちくらみはヘモグロビン量の減少が原因でも起こるといわれています。ヘモグロビンの働きは、酸素を身体の隅々まで運ぶことです。ヘモグロビンが減ると全身の酸素が不足してしまい、その結果立ちくらみや息切れ、動悸などを起こす恐れがあります。
予防のためにも、ヘモグロビンの材料のひとつである鉄分を摂取すると良いでしょう。鉄分はレバーや魚、ほうれん草などに含まれているため、普段の食事から意識して摂取することをおすすめします。
おわりに
立ちくらみは日常生活の行動や病気が原因で引き起こされることがおわかりいただけたと思います。急に立ちくらみが起こることで心配になる方もいるでしょう。症状が長引く場合は病気が隠れている可能性もあるため、自己判断をせずに病院を受診することをおすすめします。
また、立ちくらみを防ぐために普段から運動や規則正しい生活を心掛け健康に気を遣うことも大切です。立ちくらみが頻繁に起きて困っている方は、今回紹介した予防法を試してみてはいかがでしょうか。