勤務先に退職金がある場合、定年退職をした、転職したといったタイミングで退職金を受け取ることができます。普段と異なる収入があった場合、確定申告が必要なのかどうか気になる方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、退職金を受け取った際の確定申告について解説します。退職金は確定申告が必要なの?確定申告した方がいいのはどんなケース?とお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.退職金の確定申告は原則不要!
退職金の確定申告は、原則必要ありません。確定申告はどんなときにするものなのか、また退職金の確定申告が不要な理由について、確認していきましょう。
1-1.そもそも確定申告とは?
確定申告とは、1月1日から1年間の所得をとりまとめて計算して税務署に申告し、所得税を納めるための手続きのことです。申告期間は、原則翌年の2月16日から3月15日までと定められています。
収入があれば全員確定申告をしなければならないかというと、そうではありません。公的年金受給者や給与所得者は、基本的には確定申告が不要です。給与所得者の場合は、確定申告の代わりに、勤務先が年末調整のうえ所得税額を調整してくれます。
ただし、副業収入がある、不動産収入や株式投資やFX等の収入があるなど、各種の所得金額(給与所得・退職所得を除く)の合計額が20万円を超えるといった場合には、給与所得者でも確定申告が必要です。
公的年金受給者においても、年金収入が400万円を超える、または、年金収入が400万円以下ではあるが、年金以外の所得額が20万円を超えるといった場合には、確定申告しなければなりません。
1-2.退職金の確定申告が原則不要な理由
長年の勤労への報償的給与という位置づけの退職金は、退職所得控除を設ける、他の所得と分けて課税するなど、できるだけ税金がかからないように配慮されているのが特徴です。
退職する際に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出すれば、別途手続きは必要ありません。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない方、医療費控除や寄附金控除の適用を受ける方は確定申告が必要になります。
参照元:退職金と税|国税庁
2.「退職所得の受給に関する申告書」とは
退職する際に勤務先に提出する「退職所得の受給に関する申告書」とは、どのようなものなのでしょうか。
2-1.「退職所得の受給に関する申告書」はどんな書類?
退職金を受け取る方が支払い側に対して提出するのが「退職所得の受給に関する申告書」です。退職所得とは、退職金だけではなく、共済団体などに勤めていた方に支払われる「特定退職金共済」や中小企業を対象とした「中小企業退職金共済」からの退職金などといった手当も該当します。
「退職所得の受給に関する申告書」には、退職者の基本情報や退職する勤務先の情報以外に、A~Eの5つの欄が設けられています。はじめて退職手当を受け取る場合はA欄だけの記入で問題ありませんが、それよりも前に退職手当を得ている場合には、他の欄への記入が必要です。
<退職所得の受給に関する申告書の記載箇所>
記載欄 | 記載対象者 |
A欄 | 一律で記入 |
B欄 | 他からも退職金を受け取っている方 |
C欄 | 前年以前から4年以内に受け取っている方 |
D欄 | A欄とB欄の勤続期間に、以前の退職手当と通算している方 |
E欄 | B欄もしくはC欄で退職手当がある方 |
2-2.提出先は?いつ出すべき?
「退職所得の受給に関する申告書」を提出する先は、勤務先や共済組合といった退職金の支払者になります。提出するのは退職前のタイミングが一般的で、申告書を受け取ってから源泉徴収額を計算し、支払処理されます。
2-3.「退職所得の受給に関する申告書」の他に必要な添付書類はある?
申告者によって、添付書類の有無は異なります。同じ年に他の勤務先から退職手当を受け取っている場合、「退職所得の源泉徴収票」が必要です。また、A欄には障害や生活扶助の有無を問う項目があります。障害有に該当するなら障害者手帳のコピーを、生活扶助有に該当するなら生活保護決定通知書のコピーを添付する必要があるでしょう。
3.退職金の確定申告で還付が受けられるケースがある!
退職金は基本的に確定申告する必要がありませんが、場合によっては申請することで還付金が受けられることがあります。該当するケースについて、確認していきましょう。
3-1.「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職所得控除が適用され、優遇された適切な税率で源泉徴収されます。しかし、何らかの理由で提出していない場合、退職金から一律20.42%の所得税が引かれており、予定よりも多く税金を支払っている状態です。このような場合は、確定申告することで退職時に徴収された税金が還付される可能性があるでしょう。
3-2.退職金以外の収入が少ない
退職後再就職していない、再就職したものの所得が少ないなど、退職金以外の収入が少ない場合、所得控除が使いきれていない可能性もあります。退職所得は分離課税されるため、退職金の税金計算時には所得控除などは反映されません。この場合も確定申告することで、使いきれていない所得控除を退職所得から差し引き、還付される可能性があります。
4.死亡退職金を受け取る場合は確定申告が必要?
退職金を受け取る対象者が亡くなった場合、遺族に死亡退職金として支払われることになり、このときの確定申告の要不要は、時期により異なります。
亡くなって3年以内に支給された死亡退職金は、みなし相続財産となり相続税の対象です。しかし、残された遺族の生活を守るため、死亡退職金のうち一定額は非課税になり、全額が課税対象になるわけではありません。
課税対象となるのは、すべての相続人が受け取る死亡退職金の合計が、非課税限度額を超えた額です。死亡退職金の非課税限度額は、以下の式で算出できます。
500万円×法定相続人の数=死亡退職金の非課税限度額
この計算における法定相続人の数は、相続放棄した人も含まれるため注意が必要です。非課税限度額を上回った額が課税対象となり、確定申告する必要があります。非課税限度額を下回っている場合は、全額非課税となり確定申告は不要です。
ただし、死亡退職金であっても、死後3年が経過して支給された場合、相続税の課税価額に含まれないため、所得税の課税対象です。この場合死亡退職金は支給を受けた遺族の一時所得という扱いになり、給与所得などの他の所得と合算し、確定申告をしなければなりません。
参照元:No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁、死亡による退職の場合|国税庁
5.確定申告を申請する際の流れ
確定申告する際は、どんな流れで手続きを進めていくことになるのでしょうか。確定申告の流れを押さえておきましょう。
5-1.1:確定申告の必要書類を準備する
確定申告する際は、まず必要書類の準備から始めましょう。必ず提出するのは、確定申告書と収支内訳書、もしくは青色申告決算書です。
確定申告書には、AとBの2つの様式があります。確定申告書Aは、所得が給与所得や公的年金、その他の雑所得のみに利用できます。確定申告書Bは所得の制限がなく、事業所得や不動産所得の記入欄があり、誰でも使用できる確定申告書となります。
どの書類も国税庁のHPや税務署、確定申告会場などで入手することができます。その他必要なものは、以下を参考にしてください。
<確定申告の際の必要書類>
5-2.2:申告書を作成する
確定申告書の作成には4つの方法があります。
・紙面に手書きで記入する
確定申告書の紙面に手書きする方法です。項目ごとに集計し転記していく作業となり、電卓や表計算ソフトを使って進めていくことができるでしょう。ただし、転記ミスや計算間違いの可能性もあり、場合によっては時間がかかるため、あまりおすすめはできません。
・確定申告ソフトを使う
確定申告ソフトとは、必要項目を入力するだけで簡単に申告書用のデータを作成することができるソフトウェアのことです。確定申告ソフトを活用している場合、簡単な操作のみで青色申告決算書や収支内訳書といった確定申告書類も作ることができます。
会社員であればあまり必要はないかもしれませんが、個人事業主の場合、確定申告ソフトを活用している方が多いようです。普段からきちんと帳簿を付けておくことで、申告にかかる作業を大幅に短縮することができます。
・税理士などの専門家に依頼する
確定申告に必要な事務作業を、税理士に依頼することもできます。税務が代行できるのは税理士に限られますが、税理士登録をしていれば公認会計士や弁護士にも依頼は可能です。専門家が代行してくれるなら安心して任せることができ、仕事に集中できるでしょう。ただし、当然ながら依頼料が発生します。費用はだいたい数万円〜数十万円かかるケースが多いようです。
・国税庁の確定申告書等作成コーナーを使う
国税庁が提供する「確定申告書等作成コーナー」は、案内どおりに入力していくことで確定申告書などを作成できるWEBサイトです。手書きと同じ流れで、自分で計算しながら項目ごとに集計していきます。解説付きで、分からなければすぐに確認できるため、自分で作成するよりは簡単ですが、手間が大きく減るわけではありません。
5-3.3:書類を税務署に提出する
書類が用意できたら、税務署に提出して完了です。提出方法には、次の3つのうち好きな方法を選択することができます。
・直接持参する
まずひとつは、税務署に出向き提出する方法です。時間内なら窓口に、時間外なら時間外収受箱に提出します。記入内容の正誤まではチェックしてもらえませんが、提出書類がそろっているかどうかの不備確認はしてもらえるため、確定申告が初めてといった場合でも安心です。
申告書の控えに受付印を押してもらうことができるので、金融機関のローン審査などで提出を求められている際には直接持参するのが良いかもしれません。
ただし、確定申告の時期には税務署が混雑するため、タイミングによっては時間がかかることもあります。特に3月15日が近づくと混雑がよりひどくなるので、できるだけ早いタイミングに出向くのがおすすめです。
時間外収受箱を利用する際に受付印を押印した控えが必要であれば、切手を貼った返信用封筒と控えの申告書を同封しておくことで、後日返送してもらうことができます。
・郵送する
確定申告を郵送で提出する方法もあります。税務署が遠いなど、税務署に出向くのが難しい場合でも、郵便ポストに投函するだけで確定申告が完了するため便利です。申告書の控えが必要な場合は、切手を貼った返信用封筒と控えの申告書を同封しておくことで、後日返送してもらうことができます。期限である3月15日の消印まで有効です。
・e-Taxで提出する
インターネット環境があるなら、「国税電子申告・納税システムe-Tax(イータックス)」で提出することもできます。e-Taxなら自宅から24時間いつでも確定申告の提出が可能です。また、e-Taxなら1月上旬から申告ができる、還付金の処理が早い、青色申告の控除額が10万円分増えるといったメリットもあるため、インターネット環境が整っている場合はe-Taxでの提出がおすすめです。
6.確定申告を忘れた!しないとどうなるの?
確定申告が必要なのに、手続きし忘れて期間が過ぎてしまった場合について、詳しく確認していきましょう。
6-1.納めるべき税金があるときは延滞税などがかかる
退職金の確定申告ではあまり関係がないかもしれませんが、納める税金があるのに確定申告をしていない場合には、すぐに行わなければなりません。期限を過ぎてしまったことに対するペナルティとして、延滞税などがかかります。忘れていたことを思い出したら、できるだけ早く確定申告をする必要があります。
6-2.還付の場合はペナルティなし!さかのぼって申請できる
納税ではなく還付があった場合は、5年間までであれば遡って申請することができます。還付申告の際は延滞税などといったペナルティはありません。還付申告で用意するものは、通常の確定申告と同じ書類です。税務署に提出したのち、時期や内容によっても変わりますが、大体1ヵ月ほどで還付されるでしょう。
7.退職金の確定申告で覚えておきたいポイント
退職金の確定申告については、以下の点を押さえておきましょう。
6-1.「退職所得の受給に関する申告書」を忘れずに提出する
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないと、払いすぎた所得税を還付してもらうために、確定申告するという手続きを踏まなくてはなりません。確定申告の手間をなくすためにも、退職前に忘れずに提出するようにしておくことが大切です。
6-2.退職後の確定申告について専門の税理士に相談するのも安心
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職後の確定申告は基本的に不要です。しかし、確定申告したほうが良いケースもあるため、自分で判断できない場合には専門家である税理士に相談するのも良いでしょう。それぞれのケースに沿って、最適な方法を提案してくれるため、判断に迷う心配もありません。
おわりに
退職金の確定申告は、原則必要ありません。しかし、申告書を提出していない、転職していないため退職金以外の収入が少ないなどといった場合には、確定申告により還付金が受け取れる可能性もあります。
税金を払いすぎている場合でも、自分で確定申告しないことには戻ってきません。まずは状況を照らし合わせて、確定申告の要不要を確認してみましょう。
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