「年金だけで、本当に食べていけるのか……」「仕事はもうないし、歳を重ねれば病気だって心配だ……」「会社を辞めたあとの人生、どうしよう……」そんなことを考えていると漠然とした不安がやってきて、ついつい悲観的なことを考えてしまう方も多いでしょう。
また、追い打ちをかけるように、各メディアが「年金減額」「老後破産」「超高齢社会」「医療費問題」「消費税増税」など、日本の将来に対する不安を煽っているように感じます。定年が近くなってきた会社員にとって「辞めた後」の生活は、重要な問題ですから、不安を抱えている方も多いでしょう。
しかし、この人生の節目の危機も、考え方ひとつで現実の捉え方がガラリと変わり、不安が希望に変わります。
まずは、「人生に定年はない」と考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。「定年」という定義は、あくまで社会が決めたひとつの制度にすぎません。先人の誰かが決めた、まだ歴史の浅いルールで、しかもそのルールが決められた当時に比べると、平均寿命も延び、人生100年時代といわれるようになりました。会社を離れれば、現役寿命はその人の意思で延ばしても構わないのです。
ところが、長く会社員を続けていると、組織の枠組みの中で生きることにすっかり慣れ、「定年=リタイア」と刷り込まれ、「年金に依存した生活」というひとつの道しか考えられなくなってしまいます。
今回はそのような考え方から脱却する方法をお伝えしていこうと思います。
1.自分の人生から「定年」という枠を取り外す
世間一般の「定年後の未来のイメージ」は、ある意味「洗脳」のようなもので、いざ定年を迎えると、人生の終了のゴングが鳴ったように感じてショックを受けたり、先の人生に希望が見いだせず、体調を崩してしまったりする方も多いです。
長い間刷り込まれたこの洗脳はそう簡単には解けることはないのですが、ちょっとした出来事や誰かにいわれたひと言をきっかけに、「はっ」と気付くこともあります。
定年といっても、人生が定年になったわけではありません。実は、定年後からがあなたの体験や経験から培われたスキルを活かす本番なのです。会社を辞めてからの人生は、あなたの思いひとつでがらりと変わります。
まずは、自分の人生から「定年」という枠を取り外してみましょう。
2022年の厚生労働省の調査によると、平均寿命は男性で81.47年、女性で87.57年と2000年と比較しても男性で3.75年、女子で2.97年延びています。寿命が延びたぶん、定年退職しても身体はまだピンピンしているので、年金だけで過ごす長い将来が不安になるわけです。ひと昔前の常識のままでいると、中高年が「何かがおかしい」と生きづらさを感じる局面がますます増えていくでしょう。
長寿時代を生きる私たちは、健康であれば定年を過ぎてもなお10年でも20年でもそれ以上でも働けます。従来の「即リタイア」から「まだ働く」に発想を切り替えることで、人生の第2ステージに活気が出てきます。
参照URL:令和2年簡易生命表 厚生労働省
2.自分で人生の操縦桿を握って生きる
これまで会社勤めをしていた方の中には、定年や早期退職を機に「これからの人生、がらり変えてみたい。もう雇われる人生は終わりにしたい」と思っている方もいるでしょう。ところが、いざ「自分で人生を仕切る」となると、なかなか前に踏み出せない。会社に仕切られてきた人生が長ければ長いほど、スイッチの切り替えには勇気がいるし、時間を要するようです。
そもそも、会社員の人生は、入り口から出口までが、ある意味レールが敷かれているようなもので、入社したら配属された部署で一生懸命に仕事を覚えて、上司や取引先に叱られながらも無我夢中で仕事をこなし、やがて役付きになると、今度は同時に責任も持たされ、定年を迎えれば一定の年金が支給されて、気が付けば人生のゴールは見えていて、会社に人生の大半を段取りされることになります。
与えられた仕事でベストを尽くせば対価をもらえるので、自然とリスクをとらない生き方が身に付いています。すると、その人が本来持っている潜在能力や創造力は使われずに眠らせたままになり、いざ自由を手に入れて「自分の人生を仕切ろう」とすると、今度は何をどこから始めて、どうすればいいかとまどってしまうのです。
今は、法改正で65歳定年制を検討する企業も増えています。つまりそれは、60歳を過ぎても働き方や生き方までを仕切られることと同じです。その仕切りは企業側に都合良くできていて、60歳を過ぎた社員は委託や契約社員として再雇用のとなるケースが多く、たいてい給料がガクンと減少します。定年延長で再雇用となれば、元部下との社内的立場も逆転するなど、新たなストレスも生じやすくなります。
自分の人生ですから、会社に残るという選択をすることも決して悪いわけではありません。しかし、中には「果たして自分の人生を生きたといえるのか……」と疑問に思う方も少なくはないでしょう。
「自分は何のために生まれ、何のために頑張ってきたのだろうか……」「自分が本当にやりたいことにコストを割いて、自分の人生を生きてもいいのではないだろうか……」そう思えた瞬間、他にもたくさんの選択肢が現れて、不安を感じながらも別ルートも歩いてみたくなり、「自分で人生の操縦桿を握ってみよう」と思う人も多いでしょう。
別ルートの状況は、歩いてみないと分かりません。一度きりの人生、気になる道があるなら、「無理」を「できる」の発想に切り替えて、一歩踏み出してみることです。
3.土俵を変えてみる
あなたはこれまでどんなお仕事をされてきたでしょうか。
それぞれのお仕事にはそれぞれの「らしさ」というものがあります。銀行員なら銀行員らしさ、商社マンなら商社マンらしさ、学校の先生なら先生らしさなど、一般にいわれる職業や役割ごとのイメージがあります。
そして、その周りが感じるイメージは私たちに大きく影響を与えます。心理学では「役割的性格」と言われるものがあります。私たち人間は、人生の中で、いろいろな「役割」をこなし、同じ人でも、母親の前では子どもとして振る舞い、後輩の前では先輩らしく振る舞い、子どもの前では親として振る舞います。このような役割に応じた振る舞いや考え方を「役割的性格」といい、その役割を果たしていくうちに、どんどん「らしく」なっていくというものです。
その与えられた「役割」を無意識に生きていくということは、自分の枠がどんどん狭くなり、自分にとっても、周りの人にとっても「想定内」の安定した人生になります。その枠の中で、あなたの人生を大きく変えるようなきっかけとなるものが転がっている可能性は低いでしょう。つまり、あなたの中にまだ眠っている潜在的な力を発揮するようなチャンスは、その枠を超えた、土俵を変えたところにあるかもしれません。
たとえば、これは私の知り合いの話なのですが、ずっと商社で営業をやってきた方で、餃子店を開業して大成功している人がいます。彼は自分の土俵を「営業しか取り柄がない」と限定せずに、まったくジャンルの異なる飲食業の世界に飛び込みました。そうしたところ、多くの方の支持を集め、今ではテレビで何度も紹介されるような人気店となりました。
従来の枠の外に飛び出せば、自分の新しい一面に気付いたり、かえって異色の存在として周囲から注目され、チャンスが広がる可能性もあります。「自分の土俵はここだけだ」という思想は、今すぐにひっくり返しましょう。
4.過去の自分を手放す
私は以前、なかなか仕事がうまくいかず、メンターに相談した時に、「昔の自分を捨てなさい」とアドバイスを受けたことがあります。仕事や人生が思うようにいかない時、プライドが邪魔をして、無様な格好は見せたくないという無意識の力が働いて、昔の肩書きにすがってしまうことがあります。
私もまだ若かった頃に、先輩から「俺も昔は◯◯で……」という自慢話をされたことがありましたが、聞いていた側としては、過去の栄光を語る先輩の姿にちょっとカッコ悪さを感じたことを覚えています。あなたももしかすると同じことを感じたことがあるかもしれませんね。
定年にしろ、転職にしろ、会社を辞めれば、その日から前の会社の肩書も名刺も過去のものになります。ところが、辞めてもなお、昔の名刺を手放さない人もいます。たとえば、飲み会などで初対面の人に挨拶をするとき、「はじめまして、○○です。これ、ちょっと前の名刺なのですけど」と言い訳しつつ、昔の名刺を渡す。特に、名のある会社で立派な肩書があった人ほど、昔の名刺への愛着も強いのでしょう。聞かれる前から「以前は○○社の××長をしていまして……」と華麗なる経歴を語って煙たがられたりしています。
気持ちは分かりますが、過去にばかり意識が向いていると、次のステップの妨げにもなりかねません。
ただ、こうした事例から分かるのは、名刺は会社を辞めても持ち歩きたくなるほど利用価値があるということです。たった1枚の紙切れで社会的な立場が証明され、持つことで精神的なハリも生まれます。ならば、昔の名刺よりは新しい名刺、さらに、人に渡したくなる名刺を持つことが考えてみてはいかがでしょうか。
年齢は関係ありません。あなたがイメージする理想の人物像を描いてみて、その自分になりきって、新しい肩書きを自らつけて名刺を作ってみても良いかもしれません。企業に再雇用されるケースだと、よく見られる肩書は「○○社、××部、顧問」などです。「顧問」は若い社員たちに助言する立場ですし、これまでのスキルも活かせるので、ベテラン社員のプライドをいい感じでくすぐるようです。
一方、退職後はボランティアで社会貢献したり、「老後は趣味を持て」と家族にいわれて習い事を始めたりする方もいます。この場合、同じボランティアやお稽古事をするにしても、年金だけで暮らしている方と「年金+α」の稼ぐ手段がある方とでは、後者の方が長続きするという話も聞きます。それほど、働いてお金を生み出すことの心のハリ、新しい肩書を得ることの効用は大きいのです。
ぜひ新しい道を切り開いてください。