日本の国民病といわれることが多い首の痛みや腰痛に、長年悩まされているという方も多いのではないでしょうか。首の違和感や腰痛の原因ははっきりしないことが多いものの、頚椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアが原因の場合もあります。
人は、加齢に伴って変化が起こり、そのひとつの代表的な例として「椎間板(ついかんばん)」の組織も劣化していきます。椎間板ヘルニアという病気は、背骨を構成している骨と骨の間にある「椎間板」そのものがなんらかの要因で変形して突出し、近いところにある脊髄の神経に触れたり炎症を起こしたりすることで発症するといわれています。
基本的に椎間板ヘルニアは、身体の重みを支えている椎間板が、負荷を受けて劣化することで起こります。また、主に生活習慣などの環境的要因で引き起こされることも多いですし、椎間板ヘルニアを引き起こす背景として骨粗鬆症(こつそしょうしょう)など骨自体の脆さや劣化自体もその発症に関連していると考えられています。今回は、椎間板ヘルニアの症状や治療法、受診のタイミングなどについてお話しします。
椎間板ヘルニアの特徴
脊椎は椎骨がたくさん連なって構成されており、椎骨と椎骨の間にあるのが椎間板であり、椎間板の内部には髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の物質があって、外部からかかる衝撃や圧力を分散させるクッションのような役割を果たしています。
椎間板ヘルニアは、椎間板の内部にある髄核が飛び出して、近くを走行している神経を刺激することで痛みやしびれなどが出現する病気であり、腰椎だけではなく頸椎や胸椎で起こることもあります。
椎間板に何らかの理由で亀裂ができ、髄核の一部が飛び出して脊髄神経を圧迫することで腰痛や下半身のしびれなどが生じるのが椎間板ヘルニアですが、その中でも頻度高く起こりやすいのが、5つの椎骨(ついこつ)で構成されている腰椎で引き起こされる腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアです。
椎間板ヘルニアを発症しやすい年齢としては、20代から40代の若い男性に多いのが特徴です。
椎間板ヘルニアに関連する知識
原因と3種類のヘルニア
椎間板の多くは、加齢や外傷、物理的なストレス、喫煙歴、遺伝的要素などいろいろな要因が関与して変性するといわれています1)。
椎間板ヘルニアは生じる場所によって「頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア」、「胸椎椎間板(きょうついついかんばん)ヘルニア」、「腰椎椎間板ヘルニア」に分類されています。
頚椎椎間板ヘルニアの場合は、頚椎にある特に動きの大きい第3頚椎と第4頚椎の間などに発症することが一般的です。
胸椎椎間板ヘルニアは胸椎に起こりますが、腰椎椎間板ヘルニアと比べて発症頻度は低いです。腰椎椎間板ヘルニアは、5つある腰椎のうち、第4腰椎と第5腰椎、またはその下にある仙骨領域に起こりやすいです。
椎間板ヘルニアは、何らかの動作によって椎間板に物理的な外力がかかること、あるいは加齢などが原因で起こりやすいといわれています。
スポーツや運動で身体を激しく動かしたり、あるいは日常生活で重い荷物を急に持ったりすることで椎間板に強い圧力がかかって髄核と呼ばれる椎間板中央部にあるゼリー状の軟骨自体が突出して椎間板ヘルニアを発症しやすいと考えられています。
猫背や反り腰などといった良くない姿勢、あるいは長時間の前屈姿勢や中腰などの姿勢そのものも椎間板ヘルニアを発症させる原因となります。
比較的若い方でも発症する可能性がある一方で、年齢を重ねると加齢によって水分が失われて椎間板が弾力性を失って変形することで椎間板ヘルニアが生じます。
脊椎に負担がかかる腰をそる、まげる、ひねる動作が多いスポーツ(野球やバスケットボール、水泳、体操)や生活習慣、無理な姿勢での作業が長時間続くなどが原因で起こることもありますし、喫煙歴や遺伝なども原因となると考えられています。
症状
椎間板ヘルニアの主な症状は、首の痛み、腰痛やしびれ、手足に力が入りにくい、排尿や排便が困難になるなどが挙げられます。
特に、頸椎で起こる頸椎椎間板ヘルニアでは、首や肩・背中などの痛み、手のしびれなどがあり、腰椎で起こる腰椎椎間板ヘルニアでは、腰痛や下肢のしびれ、臀部の痛みなどが見られることが多いです。
前屈姿勢になる、あるいは背中を丸めたりすることによって痛みなどの症状が悪化しやすくなると指摘されています。
胸椎で起こる胸椎椎間板ヘルニアは頻度としては稀ですが、下肢のしびれや排尿困難などが引き起こされることがあります。
受診目安
日常生活に支障が出るほどに腰痛が続く場合は、まずは整形外科を受診しましょう。
ただし腰痛の原因はさまざまあり特定できないこともあるため、 内臓の病気が原因である可能性もあります。
患部を冷やすなどして数日様子を見ても良くならない場合や痛みやしびれなどが徐々に広がっている場合、手や足などに力が入りにくい場合などは整形外科の受診を考えると共に、痛みがひどくて日常生活や仕事に支障が出ているような場合は、早期に受診して下さい。
検査
医療機関では、椎間板ヘルニアの診断に際して、MRI検査やX線検査、あるいはCT検査などの画像診断が行われます。X線検査では背骨の骨折があるかどうかなどを確認することが可能です。
特に詳細な検査方法として検討されるMRI検査では、椎間板の髄核の突出の様子や神経が圧迫されているかどうかなどの状態を確認することができます。
治療
薬の治療
椎間板ヘルニアの治療では、初期段階では手術をしない、薬などを用いた保存療法を行うのが一般的です。
発症してから数日の急性期で炎症を起こした状態の時には、冷湿布やアイスバッグなどで患部を冷やすと痛みを和らげることができます。
慢性的になった椎間板ヘルニアの場合は、温湿布や温熱療法などで筋肉の凝りをほぐしたり、血行を促進したりすることで症状を緩和することが期待できます。
痛みがひどいうちは患部をあまり動かさないように安静を保持するように心掛けて、非ステロイド性抗炎症薬などの鎮痛剤や筋弛緩剤などを用いて薬物療法を実践します。
痛みがひどい場合には、神経や神経の周囲に注射で局所麻酔薬を注入して神経ブロックを行うこともありますし、理学療法として器具を使った牽引やマッサージ、温熱療法なども有効的と考えられます。なお椎間板ヘルニアに対する神経ブロック治療とは、痛い部位の神経の近くに炎症を抑える鎮痛薬を注射することで、一時的に神経の興奮を抑えて、痛みで傷ついた患部を効果的に治療する方法です。
手術治療
保存療法を行っても痛みに対する効果が見られない場合、あるいは足に麻痺などがある場合、排尿や排便など日常生活に支障があるケースなどにおいては、前向きな根治的な手術を行うこともあります。
以前から一般的に行われている手術は、患部の背中部分の皮膚を切開し、痛みや麻痺などの原因となっているヘルニアを切除する方法(略称:LOVE法)です。
また、近年では患部に細い内視鏡を挿入してヘルニアを取り除く内視鏡下椎間板摘出術(略称:MED法)などがあります。
内視鏡を用いた手術は筋肉などの組織の剥離などが少なく済み、傷跡も小さいのがメリットである一方で、内視鏡を用いた手術は難易度が高く、どこの医療機関でも受けられるというわけではなく、治療技術力の高さも求められます。
さらに、傷跡が目立たず日帰り治療も可能なレーザー治療が行われるケースもありますが、レーザー治療は椎間板ヘルニアを発症した全ての方に有効というわけではなく、保険適応外で医療費が高額になるのがデメリットです。
自宅でできる改善方法
首の痛み対策
普段の生活習慣では、デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいることや、猫背や反り腰など悪い姿勢でいることも、頚部の椎間板に負担を掛けますので、デスクワークの合間に軽くストレッチするなど同じ姿勢を続けないように注意して姿勢を正すことを心掛けましょう。
デスクワーク時に背もたれに寄りかかる姿勢や前屈姿勢、背中を丸めた姿勢など良くない身体位を続けることによって、頚椎椎間板ヘルニアの症状である首の痛みが悪化する可能性が懸念されますので、普段から適切な姿勢を保つことを意識しましょう。
腰痛対策
日々の生活の中で重い荷物を持ち上げる時にも、腰部に負担をかけないように膝を曲げてから持ち上げるように心掛けましょう。
症状が軽い際にも、テニスやゴルフのスイングなど腰をひねるような運動、あるいは重い荷物を持ち上げる行為などは、腰椎の椎間板に負担をかけやすくなるため注意が必要です。
急性期の対策
痛みが強い場合には無理をしないことが何よりも重要です。身体が動けないほど椎間板ヘルニアに伴って痛みなどの症状が強い場合には、まずは優先的に安静を心掛ける必要があります。
万が一、市販の鎮痛剤などを服用しても痛みの改善が見られない場合、あるいは下半身の麻痺、排尿障害、排便困難などを認める際には専門医に相談して根治的に手術治療などを検討しましょう。
慢性期の対策
慢性期の段階では、身体を動かさないと筋肉が硬くなって痛みが改善しにくくなるという観点もあるため、あまり安静にし過ぎるのも良くありません。
椎間板ヘルニアに伴う痛みなどの症状を早く改善させるためには、症状が落ち着いてきたら無理のない範囲で徐々に体を動かしていくことが推奨されます。
例えば、症状が軽い時には家の中を歩くなど、少しずつ身体を動かすことから始めて、筋力を付けるために、ストレッチやウォーキングなど運動習慣を持つのが望ましいと考えられています。
改善しない場合は整形外科専門医へ相談しましょう
椎間板ヘルニアは、椎間板に何らかの理由で亀裂が入り、飛び出した髄核が近くにある神経を刺激して痛みが生じる症状です。一般的には腰椎に起こることが多いですが、頚椎や胸椎で発症する場合もあります。代表的な症状は頚部や腰部の痛み、下肢のしびれ、排尿困難などであり、通常は保存療法を行います。
安静にし過ぎると筋肉が硬くなることなどによって余計に痛みが生じることもあるため、適度に運動を実施することも重要なポイントとなりますので、症状が軽快している場合にはストレッチやウォーキングなど、無理のない運動を取り入れてみてください。
常日頃から腰痛や下肢のしびれ、首の痛みがあり、椎間板ヘルニアが疑われる場合には、整形外科を受診しましょう。椎間板ヘルニアは発症当初は痛みが強いものの、一般的には数ヵ月で症状が軽快していくケースも多いので、悲観的にならずに治療を継続しましょう。今回の記事の情報が参考になれば幸いです。
引用文献
1) 堀北 夏美, 酒井 大輔: 再生医療技術を用いた椎間板疾患治療.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2019 年 56 巻 9 号 p. 694-697.
DOI https://doi.org/10.2490/jjrmc.56.694