思わぬ転倒、あるいは事故などで歯を損傷してしまった。そのような場面に出くわすことがあるかもしれません。今回は歯をケガしてしまったときの対応や治療法について、詳しく解説していきます。
歯をケガしてしまったら、まずは確認すること
身体と口の中の状態を確認
歯に損傷を受けた場合の対応は、子どもも大人もほぼ変わりありません。ご家族や周囲の人は落ち着いて対応にあたりましょう。
頭をぶつけたり、頭痛やめまいがあるようなら、まずはかかりつけ医や近くの病院を受診してください。全身状態に問題なければお口の中の状態を確認します。出血があればどこから出血しているかを確認し、ガーゼなどで押さえて止血します。また、お口の中に折れた歯や抜けた歯、その他異物がないかも確認します。
歯の外傷の種類と治療法
打ったりぶつけたりしたらどんな治療をするの?
歯が大きく変動していれば、元の位置に戻す治療を行います。また外傷により歯が抜けてしまった場合も、まずは元の位置に戻して歯茎に直接安定するよう固定します。
歯が折れたらどんな治療をするの?
①見えている歯が折れている場合(歯冠破折)
折れた歯を元の形に戻す治療をしますので、折れた歯のかけらが残っていれば乾かさないようにして、すぐに歯科医院を受診してください。また、折れた歯が神経にまで達している場合、折れた歯を元に戻す治療のほかに、神経の治療が必要になることがあります。
②歯の根の部分が折れている場合(歯根破折)
折れ方によって異なりますが、歯を残すことが難しい場合は抜くことになります。歯を抜かない場合でも経過観察が必要ですので、定期的な受診が必要になります。
歯の位置がずれた場合はどうなるの?
歯の位置がずれた状態を区分けすると、以下の3つに分けられます。
①陥入(歯が歯肉の中にめり込んでいる場合)
②側方脱臼(歯が舌側や唇側にずれている場合)
③挺出(歯は抜け落ちてはいないが歯肉から飛び出している場合)
①陥入(歯が歯肉の中にめり込んでいる場合)
歯根が完成した永久歯の場合、歯を元の位置に戻し、1ヵ月から1ヵ月半ほど、両隣の歯と固定します。固定して歯の位置が安定してきたら、神経の治療を行います。乳歯や、歯根が完成していない永久歯が陥入した場合は自然に元の位置に戻る可能性が高いので、そのまま様子をみます。歯の神経が死んでいる場合には後日神経の治療をします。
乳歯の場合、外傷が重度で、その下にある形成中の永久歯に障害が及んでいれば抜歯になります。自然に元の位置に戻らない場合、乳歯は抜歯、永久歯はワイヤーなど矯正装置で元の位置に戻す必要があります。
②側方脱臼(歯が舌側や唇側にずれている場合)
ずれている歯を元の位置に戻して、歯が動かないように固定します。乳歯の場合、生えかわり時期に近い乳歯や、外傷が重度で、外傷を受けた乳歯の下にある形成中の永久歯に障害が及んでいる可能性があれば抜歯になります。注意深く経過観察し、歯の神経が死んだ場合は歯の神経の治療を行います。
③挺出(歯は抜け落ちてはいないが歯肉から飛び出している場合)
飛び出している歯を元の位置に戻して、歯が動かないように固定します。乳歯の場合、交換期に近い乳歯や外傷が重度であれば抜歯します。歯の神経が死んでしまった場合は、神経の治療を行います。
歯が抜けた場合はどうなるの?
歯が抜けた場合、抜けた歯をもう一度再植することができる場合があります(抜けてから 30分以内であれば成功率が高いといわれています)。歯根が完成した永久歯の場合、歯を元の位置に戻した後に歯の神経の治療が必要になります。
乳歯の場合、形成中の永久歯に障害が及ぶ可能性があれば元の位置には戻せません。また、全身状態が良くなかったり、歯が抜け落ちた顎の骨に感染がある場合などは、抜け落ちた歯を元の位置に戻すことはできません。
歯が抜けてしまった場合のみんなのお悩みに答えるQ&A
Q 歯医者さんに行く前にどんなことに気をつけたらいいですか?
出血があればガーゼなどで押さえて止血し、折れた歯や抜けた歯は最善を尽くし、できるかぎり清潔な状態にしてください。これらの作業が終わり次第、かかりつけ歯科医院または近くの歯科医院に連絡し、すぐ受診します。
Q 抜けた歯はどうすればいいの?
抜けた歯や欠けた歯があれば、歯牙保存液(しがほぞんえき)または牛乳にすぐ浸します。歯牙保存液は一部ドラッグストアで販売されていますが、学校などの教育機関であれば、保健室に置いてあることがあります。また牛乳はご家庭の冷蔵庫で常備していることが多いので、代用しても良いでしょう。早い処置・治療を行うには容易に手に入る牛乳が第一選択といえるでしょう。水道水と比較すると牛乳は比較的体液に浸透圧が近く、歯根膜を破壊することなく乾燥を防ぐことができます。なにもない場合は患者さん本人の唾液でも構いませんので、乾燥させないようにしてください。また、抜けた歯を持つときは、歯の根っこ(歯根部)に触らないようにして歯冠部を持つようにしてください。
Q 折れた歯は元に戻るの?
歯冠(歯の上のほう)で欠けたり折れたりした場合は接着することが可能なこともあります。抜けた歯や折れた歯もその場で廃棄せず、保存を心掛けてください。
Q 前歯が折れて恥ずかしいのですが、どのぐらいで歯が治りますか?
①破折部が神経にまで達していない場合
この場合は歯と同じような色をしたレジンというプラスチックで治すことが可能です。治療は一回で終わります。神経にまで達していないが折れた(欠けた)範囲が大きい場合は、歯の形を整え、金属や白い材料で詰めたり被せたりする必要があります。その場合は、歯の神経が残せそうなら、歯の型取りをして修復します。治療回数は2〜3回になります。
②破折部が神経まで達している場合
欠けた範囲が大きく、神経にまで達してしまった場合、神経の治療が必要になります。神経の治療回数はその場合ごとにかなり異なります。歯の根管内の感染の程度によって、根管の拡大や清掃にかかる時間が異なるためです。歯の神経の治療後は、通常は土台を作ってそれから被せ物をすることになります。そのため神経の治療回数プラス3〜5回の治療が必要となります。
Q どんな時に救急車を呼んでもいいですか?
重症を負い、全身状態が危険だと判断された場合は救急車を呼んでください。意識はあっても、頭をぶつけたり、頭痛やめまいがあるようならまずは病院を受診されてください。
歯のケガの治療後について
時間が経ってから悪化する場合があるので、定期的に継続して歯科を受診する必要があります。経過観察のチェック項目としては、歯の変色や歯肉の腫脹、歯の違和感などがあります。
例えば、歯の変色であれば、それは一時的な充血である場合と、神経が死んでしまった場合の2択が考えられます。外傷後の一時的な充血であれば変色は治りますが、神経が死んでしまった場合であれば、歯の神経の治療が必要です。もし神経の治療をしなければ、せっかく温存できた歯も失う危険性が高まります。
また、経過観察の際にエックス線検査を行うこともあります。歯の根がだんだん細くなったり、短くなったりしてくる場合もあるので、その時々で対処法を考えます。
乳歯に外傷を負った場合も経過観察が必須です。乳歯の下には永久歯の芽(歯胚)があります。ケガの影響で色や形に問題が生じてないか、きちんと育っているかなど、長期にわたって経過をみることが重要です。乳歯の外傷の経過観察の目安は、永久歯が問題なく生えてくるのを確認するまでです。
歯科医からのメッセージ
歯にケガをしてしまった際、一番に困難を強いられるのが食事です。また、ケガをするのは前歯が多いので、見た目の美しさの面からも気になる方が多いでしょう。歯のケガの治療にあたっては、歯科医がこの両面をカバーすべく、しっかりと治療にあたります。時間がかかるケースもあると思いますが、必ずゴールまでたどり着けるので、歯科医と手を取り合って治療を受けていただけたらと思います。