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認知症に備える: 40~60代に向けて【総論】

藤生 大我 理学療法士

執筆者

理学療法士

藤生 大我

祖父母が認知症となり中学生の頃から認知症ケアに関わり始める。2014年に高崎健康福祉大学を卒業後、理学療法士として医療・介護現場で働きながら、認知症の人と家族の会などの地域活動へ参加。2017年から認知症介護研究・研修東京センターで認知症ケア研究に従事し(現在は客員研究員)、2021年4月より医療・介護現場に復帰した。著書に「認知症ケアの達人をめざす」(山口晴保・伊東美緒・藤生大我;協同医書出版社)。 藤生大我研究室

よく耳にするようになった「認知症」という言葉ですが、推計値によると、65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%であり、6人に1人程度が認知症有病者といえます。伴って、家族の介護や仕事としての介護の経験のある方も増えているのではないでしょうか。以前は、ご自身もしくは家族がなったらどうしたら良いか…暗中模索だったと思います。今では先人の活動の積み重ねにより、役に立つ情報が増え、インターネットでも多くの情報を手に入れられるようになりました。知らないというのは不安につながります。正しく知ることで、安心につながり、備えることができます。

さて、既に世の中に情報がたくさんあるのに、何を書くのか…?このコラムでは、40〜60歳代の方に焦点を当てて、「なるほど」と思えるように論理的に、かつ「わかりやすさを重視」して親近感を持てるように書いていきたいと思います。そしてなぜ、40〜60歳代の方に焦点を当てるのか、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

認知症は40歳前半で100,000人当たり8.3人

認知症は高齢者に多い病気ですが、65歳未満で発症した場合は「若年性認知症」とされます。2018年時点では、全国の若年性認知症有病率は人口 100,000人当たり 50.9人、有病者数は35,700人と推計されています。40歳前半では、100,000人当たり8.3人です。

じゃあまだまだご自身には関係ないか…というとそうではないですよね。ご自身の問題だけでなく親の介護に関わるかもしれません。また、認知症になるリスクは40歳前半から5歳増えるごとにほぼ倍になります。90歳前半では2人に1人は認知症です(下図)。よって、これから歳を重ねていくにつれて、ご自身の問題としてだけでなく、老々介護も増えていますので、配偶者の介護もあるかもしれません。また、認知症の種類のなかで最も多いアルツハイマー型認知症は、進行性の病気であり、発症の10~20年前からその原因となる物質が脳内に蓄積してくるとされています(25年前からという報告も)。加齢は認知症のリスクであり、健康に長生きしていれば、いずれはなる可能性が高いということです。私自身、小学生の時点で既に祖母の認知症介護に関わりました。

ここで伝えたいことは、不安を煽りたいわけではなく、認知症は我々の身近な話であり、特別なものではなく、あたりまえのものだということです。ただ、誰でも知らないものには不安や恐怖を感じますし、さらに不安を煽るような記事も多々あるでしょう。そのような時に、このコラムをお読みいただいた方が、ご自身のペースで考え、乗り越えるきっかけになれば幸いです。

図 年齢階級別の推定認知症有病率

※調査が異なるので、65歳~の有病率の図となっています。

認知症とは?

では、そもそも認知症とは何でしょうか?認知症の定義のうち介護保険法第五条の二をみると、「アルツハイマー病その他の神経変性疾患,脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう」と規定されています(下図)。

図 認知症は暮らしの障害

認知症とは何らかの原因により、認知機能が低下し、日常生活に支障が生じた「状態」のことであり、総称に過ぎないということです。医師により、「何らかの原因」を診察してもらうことではじめて、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などと診断がつき、治療、ケア、リハビリテーションの方針が立てられます。また、若年性認知症は病気としては高齢者と大きな違いはありませんが、働き盛りであることが多く、ご家族などへの社会的な影響が大きいです。原因もそうですが、年齢や個人のおかれている環境でも、方針は異なります。なお、今回は詳しく触れませんが、原因によっては「状態」が改善できる可能性もあります。

つまり、認知症とひとくくりにはできず、それぞれが抱える困難や状態は異なります。例えば、骨折は骨が折れた状態のことです。どこが折れたかによって、治療なども変わることは容易に想像できるでしょう。また、もっと大切な視点でいうと、その人個人によって抱えている困難も、得意なことも違うということです。では「どこに相談すれば良いの?」と思うかもしれませんが、今では「認知症ケアパス」という「認知症発症予防から人生の最終段階まで、認知症の容態に応じ、相談先や、いつ、どこで、どのような医療・介護 サービスを受ければ良いのか、これらの流れをあらかじめ標準的に示したもの。」が各自治体で作成されています。SOMPO笑顔俱楽部では、認知症ケアパス等の検索ができますので興味のある方は確認してみてください(SOMPO笑顔俱楽部/ケアパス等の紹介)。

国の施策は?~認知症施策推進大綱

認知症施策推進関係閣僚会議において、認知症施策推進大綱が2019年6月に策定されました。その基本的考えは、「認知症はだれもがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの方にとって身近なものとなっている。認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していく。」と記載されています。厚生労働省のホームページには、認知症に関する相談先や有益な情報もまとめて載っています(厚生労働省/認知症施策)。このように、施策としても様々な取組みが推進されています。

予防については、別のコラムで書きたいと思いますが、これをすれば絶対に発症しないという方法はありません。また、冒頭で書きました通り、加齢がリスクを高めますので長生きしていればいずれなる可能性が高いです。そのため、先の基本的考えにあるように、ご自身のこととして考えていく必要があります。

認知症とともに生きる

認知症とは誰もがなる可能性があり、それは生活に支障をきたすため、人の手を借りる必要があるでしょう。ご自身、もしくは周囲の誰かがそうなったときに、安心できるように、正しく理解し、向き合うことが大切です。

ただこのような考え方は、認知症に限った話ではないと考えています。歳を重ねて、ケガをしたり、もしくは何か困ったことがあれば、家族や周囲の方の手を借ります。当然、ご自身の力で乗り越える力も大切ですが、人には得意なこと、苦手なことがあります。そのような時に、自身の弱い部分を気兼ねなく見せることができ、また、それを手伝ってくれる…そんな関係性を作ることが大切だと思っています。そのため、何か起こってからではなく、今から、人に頼り、人を手伝うことに慣れることが、一番の認知症の備えだと考えています。

「認知症とともに生きる」と書きましたが「人とともに生きる」ではないかとも思っています。お金、仕事、健康などリアルな課題はたくさんあり、先に述べたものは綺麗ごとかもしれませんが、手を取り合うことはいつまでたっても変わらない、人として大切なものではないでしょうか。私は、一番お世話になる、もしくはお世話するであろう妻への感謝を肝に銘じて、毎日を過ごしています。

おわりに

今回は、40〜60歳代の方に向けて、認知症は身近なものであることやいずれ誰もがなる、もしくは関わる可能性が高いものであることを書いてきました。いわば大まかな概要です。認知症について少し理解したが、実際に認知症予防についてはどのようなものがあるの?もしご自身や周りの方がなったら?などは気になりますよね。次回は認知症予防を見ていきたいと思いますので、ご期待ください。

文献

a)研究代表・二宮利字.厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(2022年1月24日アクセス)

b)研究開発代表者・粟田主一.AMED研究「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(2022年1月23日アクセス)

c)研究代表・朝田隆. 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活 機能障害への対応」(筑波大学附属病院精神神経科/認知症有病率等調査について 2022年1月23日アクセス)

d)Bateman RJ, et al. Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer’s disease. N Engl J Med 367(9):795-804, 2012.

e)厚生労働省.認知症施策推進大綱について.(2022年1月24日アクセス)

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