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運転資金「6,700万円」を調達したい…赤字寸前の会社を救う「事業用不動産担保ローン」の活用法【弁護士が解説】

柿沼 彰(柿沼彰法律事務所 弁護士/公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士)

執筆者

柿沼彰法律事務所 弁護士/公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

柿沼 彰

2010年弁護士登録。法律事務所、上場企業経営企画室での勤務を経て、2015年柿沼彰法律事務所設立(東京弁護士会所属)。主な取扱分野は中小企業法務、不動産、相続。経済学修士(東京大学)。 【主な著書】 『裁判例の要点からつかむ解雇事件の訴訟実務』(第一法規・共編著) 『裁判例からつかむ従業員不祥事事件の相談実務』(第一法規・共編著) 『依頼者の争続を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい・共編著)

事務所の賃料や光熱費、材料費、仕入れに関する費用など、業種に関わらず会社を運営するにあたって必要になる「運転資金」。どのような会社でも、この運転資金の調達は悩みのタネです。 

すでに銀行などから借り入れを行っている場合、調達方法に苦戦し企業が窮地に追い込まれてしまうことも……。今回は、企業法務に詳しい柿沼彰弁護士がB社の事例とともに、運転資金調達にも活用できる「事業用不動産担保ローン」について解説します。 

運転資金が足りない…ノンバンクで融資を依頼したAさん

【B社の基本情報】 

  • 資本金……1億円 
  • 従業員数……130名 
  • 売上高……140億円 

45歳のAさんは、不動産販売業を営むB社で財務担当を務めています。B社は、中古の不動産を仕入れてリフォームし、付加価値をつけて販売するという、いわゆる「買取再販業」を営んでいます。 

しかし、不動産がなかなか売れず、多数の販売用不動産を抱えてしまい、運転資金に不安が生じるようになりました。そこでAさんは、B社の社長から「必要な運転資金を調達するように」と指示を受けました。 

B社には、すでに銀行からの借り入れがあるため、Aさんは、クレジットカード会社や信販会社といったノンバンクから運転資金の借り入れをしようと考えました。Aさんの計算では、運転資金として6,700万円を用意できれば当面B社は事業を継続でき、その間に不動産が売れれば、借入金の返済も可能です。 

“1,000万円までしか貸せません”…予想外の回答でAさんは窮地に 

Aさんは、さっそく複数のノンバンクに融資を依頼しました。しかし、いずれも「1,000万円程度までしか融資できない」という回答でした。なかには、「社長の自宅を担保にすれば、多額の融資が可能」というノンバンクもありましたが、Aさんの立場でその条件を飲むことはできません。 

Aさんがなかなか運転資金を調達できずにいる間も、B社ではさまざまな費用が発生し続けます。なかなか売れずにいる販売用不動産を大幅に値下げして現金化する方法も考えたのですが、社長が許してくれません。Aさんにとって、頭の痛い日々が続きました。 

「販売用不動産を担保に」でまとまった融資が叶った

運転資金の借り入れが難しいのは、貸し手にとって「回収が期待しづらい」からです。運転資金が不足するのは会社になんらかの問題がある場合がほとんどで、B社の場合も、仕入れと販売のバランスが崩れてしまい、多数の販売用不動産を抱えてしまったことが原因にあります。 

しかし、財務担当であるAさんから見て、B社の状況は決して悪くありません。抱えている販売用不動産はいずれも、B社が売れると信じている魅力的な物件であり、これらが売れさえすれば、運転資金の解消は直ちに解消します。多数の販売用不動産があるということは、会社には豊富な資産があるということでもあります。 

Aさんは、なんとかB社の魅力をノンバンクに伝えることで、運転資金の融資を受けることができないか考えました。そしてふと、一度は断った、あるノンバンクの「社長の自宅を担保にすれば、多額の融資が可能」という言葉を思い出したのです。 

「販売用不動産を担保にすれば運転資金の融資を受けられる」と考えたAさんは、「事業用不動産担保ローン」を取り扱っているノンバンクに融資を依頼しました。担保とするのは、B社が1億円以上で売れるだろうと自信を持って仕入れた都内マンションの1室です。 

すると、手続きに時間はかかったものの、拍子抜けするほど簡単に、必要となる6,700万円の融資を受けることができました。貸し手にとっても、売却の可能性がある不動産を担保に取ることができれば、貸付金の回収が期待できます。そして、ノンバンクから見ても、B社が担保としたマンションは魅力的で、B社が期待する価格帯での売却が可能なものだったのです。 

その後、B社では、これまでの不振が嘘のように次々と不動産が売れ始めました。そのおかげで無事、その売却代金から、借り入れた運転資金の返済をすることができました。 

一度は運転資金捻出のために不動産を大幅に値下げして販売することも考えていましたが、最終的にWin-Winの結果となり、B社の社長もAさんを高く評価してくれました。 

「事業用不動産担保ローン」の特徴

特徴1.借入限度額が無担保ローンより「高くなりやすい」 

「事業用不動産担保ローン」には、借入限度額が無担保ローンと比べて高くなりやすいという特徴があります。この理由はなんなのでしょうか。 

貸し手にとって「いくら貸すか」というのは、裏を返せば「いくらまでなら回収できるか」という判断になります。そのため、無担保ローンであっても、魅力的なビジネスの提案と具体的な計画書があれば、多額の設備資金の融資を受けられる場合があります。 

しかし、「運転資金」を調達したい場合には、「そのときの運転資金不足が一時的なものであり、その原因は早々に解消が見込め、すぐに会社は持ち直せる」と期待できるような例外的な場合でない限り、多額の融資を受けることは困難です。 

一方、不動産担保ローンにおいて、借入限度額は、担保とする不動産の価値に応じて設定されます。担保となる不動産は高額である場合が多いため、自然と、事業用不動産担保ローンの借入限度額は無担保ローンに比べて高くなるのです。 

今回の事例でも、B社は、無担保ローンの場合1,000万円程度の融資しか受けられませんでしたが、販売用不動産を担保とすることで、6,700万円の融資を受けることができました。 

特徴2.返済期間が長く、金利が低い 

また、事業用不動産担保ローンには、無担保ローンと比べて、返済期間が長く、金利も低くなる傾向にあるという特徴もあります。 

いずれも借主に有利な特徴ですが、これは不動産を担保とすることで、信用リスクが大きく低減されるからです。 

今回の事例では、B社の運転資金不足は一時的なものであり、結果的にはすぐに返済できましたが、事業用不動産担保ローンを活用して運転資金を調達すれば毎月の返済負担を抑えられるため、無担保ローンを活用した場合と比較して、より長い時間、販売用不動産が売れることを待つことができます。 

「事業用不動産担保ローン」活用時の4つの注意点

審査には「2週間~1ヵ月」程度の時間がかかる 

事業用不動産担保ローンでは、担保とした不動産の価値に応じて、融資の可否や金額が判断されます。そして、不動産の価値を評価するためには、通常2週間~1ヵ月程度の時間がかかります。したがって、早急に運転資金が必要となる場合には、審査に時間がかからないほかのローンと併用することも検討するべきでしょう。 

返済できなければ不動産を失う可能性がある 

事業用不動産担保ローンを利用した場合、金融機関は担保とした不動産に対して、抵当権等の担保権を設定して登記します。そのため、返済が滞ってしまった場合は「担保権」を実行し、競売等の手段によって不動産を売却することで、金融機関は貸付金を回収することになります。 

借り手は、不動産を担保にする以上、「借入金を返済できなければ不動産を失う可能性がある」ことへの覚悟が必要です。 

手数料がかかる 

不動産を評価するためにも、抵当権等の設定の登記をするためにも費用がかかります。そのため多くの事業用不動産担保ローンでは、契約時に手数料が発生します。さらに返済が終わったあとも、抵当権等の抹消の登記をするために費用がかかります。これも注意点といえるでしょう。 

不動産の価値が下落した場合「追加担保」を要求されるケースも 

また、不動産の価値が大きく変動する場合があることも認識しておくべきです。担保とした不動産の価値が高まる場合には問題ありませんが、価値が大きく下落してしまった場合には、金融機関から「追加担保の差し入れ」を要求される場合があります。 

もっとも、金融機関はあらかじめ、担保とした不動産の評価が下落するリスクを考慮し、評価額の60%~80%程度までしか貸し付けを行わないことが通常です。今回の事例でも、もしB社の運転資金として1億円の借り入れが必要であった場合には、担保は1億円のマンション1室だけでは足りなかったと思われます。 

おわりに 

「事業者用不動産担保ローン」は、担保にできる不動産を所有していることが利用の前提となりますが、毎月の返済負担を抑えながら、無担保ローンと比較してより多くの運転資金を借りることができます。 

返済が滞った場合には不動産を失ってしまうなどの注意点はあるものの、B社のように一時的に運転資金に困った場合には、事業者用不動産担保ローンの活用が有力な選択肢のひとつとなるでしょう。 

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