おたふく風邪は、ムンプスウイルスに感染することで引き起こされる病気であり、別名で「流行性耳下腺炎」とも呼ばれることがあります。
流行性耳下腺炎にかかると、耳の前(耳前部)から下(耳下部)にかかる「耳下腺」に炎症が起こるために、腫れることがあります。
おたふく風邪という病気は、早期的に発見して治療につなげる事が重要であり、あらかじめかからないようにワクチンなどの予防策を講じることが重要です。
今回は、おたふく風邪になる原因や代表的な症状、治療法や受診のタイミングなどについてお話しします。
おたふく風邪の特徴
おたふく風邪(別名:流行性耳下腺炎)を引き起こすウイルスは、「ムンプスウイルス」です。
流行性耳下腺炎は毎年のように各地域で流行しており、1989 年までは3~4年周期でその罹患率の増減がありましたが、1989年にムンプスウイルスに対するMMRワクチンが導入されたことで1991年には疫学調査が始まって以来低い流行状況となりました1)。
主に4歳以下の占める割合が約半数であり、年齢とともにその罹患率は増加する傾向があり、4歳時点が最も多いといわれています。
おたふく風邪と定期予防接種の効果とは?
現代においてもムンプスウイルスに対する有効的な薬剤は存在しないことから、おたふく風邪を予防する為にワクチンによる予防接種がとても重要な対策となります。
日本では、これまで1989年から麻疹・風疹・ムンプス(MMR)混合ワクチンが定期接種として導入された背景があり、今回幼少期の定期接種による予防効果と副反応について説明します。
ムンプスウイルスにおけるMMR混合ワクチン接種の予防効果は高く、合併症の発生率も低下させることから、多くの先進国ではムンプスワクチンの定期接種が今でも積極的に実施されています。
ところが、ワクチン関連の副反応として無菌性髄膜炎という有害イベントが多く発生したことから、1993年にムンプスを含む3種混合(MMR)ワクチンの定期接種は中止され、日本における現在の定期接種では麻疹・風疹のみの2種混合(MR)ワクチンが用いられています。
今では、ムンプスワクチンは任意接種となっていますが、近年では安全性の高いムンプス単独ワクチンも登場しており、おたふく風邪に難聴や不妊など合併症が引き起こされる危険性を考慮して、前向きにワクチン接種しておたふく風邪を予防することが期待されます。
ワクチンの有効性については、接種後罹患調査において接種者での罹患率は1~3%程度であり、接種後の抗体価を測定した研究結果では、概ね90%前後が有効なレベルの抗体を獲得できると考えられています。
有効な抗ウイルス剤がいまだに開発されていない状況なので、学校や保育園などの集団生活を過ごす前にワクチン接種によって予防策を講じておくことが有効的な感染予防法です。
自分が幼少期など過去におたふく風邪に罹患したかどうかを検査したい場合には、血液検査で抗体を持っているかどうか確認して、おたふく風邪にかかったことがない方や抗体が無い場合には積極的にワクチンを接種することを検討してください。
通常、ムンプスワクチンは2回接種するのが望ましいですが、ワクチンを接種するうえで不安を感じる、あるいは判断に難渋する場合には最寄りの小児科や内科の医療機関、あるいは普段から診察してもらっている担当医などに相談するように心がけましょう。
おたふく風邪に関連する知識
Q おたふく風邪の原因はなにですか?
おたふく風邪の原因ウイルスであるムンプスウイルスはパラミクソウイルス科のウイルスであり、表面にエンベロープを認める1本鎖RNAウイルスであることが知られています。
ウイルスの大きさは100~600nmであり、主に6つの構造タンパクを有しており、エンベロープにはふたつの糖タンパク成分が存在しているといわれています。
おたふく風邪を引き起こすムンプスウイルスの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。
基本的には、感染者の唾液中にウイルスが大量に発症することで、咳や唾液などが感染源となることが知られています。
飛沫感染においては、感染者の咳やくしゃみ、会話などを通じてウイルスを含有した飛沫成分が周囲に飛散して、感染者の周りにいる人々が鼻や口から吸い込んで感染が成立します。
飛散したウイルスが眼球粘膜から体内に侵入して感染が成立することも経験されます。
接触感染は、感染者とキスをする、あるいはムンプスウイルスが付着している手やドアノブなどに接触した手で、口や鼻を触れることでも感染すると指摘されています。
ムンプスウイルスは耳下腺以外の唾液腺、もしくは膵臓や性腺(精巣や卵巣)などを始めとして消化液や精液など液体成分を生成する腺組織によく発症します。
それ以外にも、ムンプスウイルスは脳やせき髄など中枢神経系に感染しやすいことも知られています。
Q おたふく風邪とはどんな症状ですか?
おたふく風邪における初期症状は、耳下腺周囲に炎症を呈することから発熱症状を認め、そして耳の下の部分が急激に腫脹して同部に疼痛症状を伴うこともあります。
流行性耳下腺炎を発症した場合には、耳下腺の左右どちらかの片側から腫れることが多く、1~2日ほどの期間を経て反対側の耳下腺も腫れて左右両側が腫脹することが一般的ですが、時に左右どちらかの片側のみしか腫脹所見を認めないケースもあります。
また、唾液を作成する腺組織に炎症が引き起こされるため、食事を摂取する際に唾液分泌が過剰に分泌されることにより、耳の下や顎の下が特に痛くなるという特徴的な症状があります。
通常は、感染後数週間の潜伏期を経て、唾液腺の腫脹や圧痛、嚥下痛、発熱症状などを主として発症し、約1~2週間で症状が軽快していくと考えられています。
また、おたふく風邪はさまざまな合併症を伴うことがあります。
ムンプスウイルスによるおたふく風邪は、通常であれば重大な合併症を起こすこともなく自然に治癒することが一般的ですが、稀に頭痛や嘔気を伴う髄膜炎という合併症を引き起こす頻度が高いと指摘されています。
髄膜炎などを合併する場合は、耳の腫れが治まるなど(おたふく風邪が治癒したと考えられる時期)にも認められることがあるため、おたふく風邪に感染して数週間程度は、合併症の発症有無にも一定の注意を払うことが重要なポイントです。
また、おたふく風邪は後遺症として時に難聴を引き起こすことが懸念されており、難聴症状は片側性が多いといわれていますが、左右両側に発症した場合にはなかなか完治せず、長期間聴力障害を抱えることになります。
万が一、両側の耳の聴力が障害されて聞こえなくなると、言語を習得していない段階の子どもでは、周囲の人々の声を聞くことができないために言語発達に悪影響が及びますし、部分的な聴力の障害であっても日常生活に少なからず支障をきたすことが想定されます。
このように、おたふく風邪に合併する難聴症状はムンプス難聴と呼ばれており、いまだに毎年のように多くの子どもや成人の感染者が聴力を失っている現状があり、決して見過ごすことができない合併症のひとつであると認識されています。
ムンプス難聴を合併した際には、通常聴力は完全に回復する可能性は乏しく、程度によって症状がひどい場合には補聴器や人工内耳などの専門医療装置が必要になります。
おたふく風邪になる機会が多い子どもに、ムンプス難聴を合併する頻度が多いとされていますが、その子育て世代の大人がおたふく風邪に罹患したことがないケースでは、子どもから大人に感染して難聴になることがあるため、子どもも大人も感染予防策を講じることが重要です。
おたふく風邪は、保育園など集団生活を開始したばかりの子どもなどに多く認められる病気であり、おおむね6歳までの子どもが発症例の約半数程度を占めるといわれています。
一生涯に一度、ムンプスウイルスに感染することで生涯免疫が獲得されますが、時に成人になって初めておたふく風邪に罹患する場合もあります。
特に、成人期に感染したおたふく風邪の場合には、精巣や卵巣など性腺組織に炎症を生じることが知られており、発熱症状のみならず、腹痛や陰嚢部の腫れ、同部の痛み症状を伴います。
炎症が及ぶ範囲は片方の性腺だけのことが多いとされていますが、稀に両側性に炎症が惹起されることもあり、その場合には性腺組織が萎縮して不妊の直接的な原因になることが考えられます。
Q おたふく風邪の受診目安とは?
小児がおたふく風邪を発症した場合は、学校保健安全法で定められた期間において学校への登校、あるいは保育園への登園を控えることが推奨されています。
基本的には、子どもの場合には耳下腺、顎下腺、舌下腺の膨張が発現してから5日間経過したうえで、全身状態が改善して良好な状態になっていることが登園登校の条件となります。
おたふく風邪に罹患した場合には、耳下腺や唾液腺が腫れてから5日間が経過して、全身状態が軽快するまでは自宅で安静にして様子観察しましょう。
成人でも症状が悪化傾向を示す場合、あるいは登校登園など判断に困る場合には、最寄りに存在するクリニックや診療所の医師などに相談して、指示に従うようにしましょう。
Q おたふく風邪の検査とは?
おたふく風邪の診断は、主に症状や経過など臨床所見から判断されますが、耳下腺が腫脹する病気はおたふく風邪以外にも想定されるため、判断に迷う際、あるいは合併症を確定診断をする必要がある場合には、ムンプスウイルス感染を証明する検査が行われます。
ムンプスウイルスによる感染を確認するためには、一般的に血液検査で抗体を調べる検査方法が実施されることが多いですが、特殊な状況があるケースではウイルス分離やウイルスの遺伝子を同定する特別な検査を併用するケースも存在します。
Q おたふく風邪はどのような治療をしますか?
ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎の治療に際しては、基本的には対症療法を行うことが主流となります。
現代においてもムンプスウイルスに対する有効的な薬剤は存在しないことから、おたふく風邪を予防する為にワクチンによる予防接種がとても重要な観点となります。
ムンプスウイルスにおけるワクチン接種の予防効果は高く、合併症の発生率も有意に低下させることから、多くの先進国ではムンプスワクチンの定期接種が今でも積極的に実施されています。
近年ではより安全性の高いムンプス単独ワクチンも登場しており、おたふく風邪に難聴や不妊など合併症が引き起こされる危険性を考慮して、子どもも大人も前向きにワクチン接種しておたふく風邪を予防することが期待されます。
おたふく風邪を効果的に予防するにはワクチン接種が唯一の方法であり、おたふく風邪に罹患しないのみならず、合併症を予防するために予防接種を実践することが重要です。
Q おたふく風邪に対して自宅でできる改善方法はありますか?
家庭では安静を保持して発熱症状や耳下腺部の疼痛症状などに対しては、市販の解熱鎮痛剤などの服用を行って、脱水にならないように自宅で水分摂取を励行することが重要です。
おたふく風邪に感染しない、あるいは症状を悪化させないために自宅で気をつけることとして、日常的な手洗いやうがいを実行する、あるいは咳エチケットなどによって飛沫感染や接触感染を予防することは一定程度有効的であると考えられます。
Q おたふく風邪の症状が良くならなければどうすれば良いですか?
ムンプスウイルス感染によって引き起こされる流行性耳下腺炎(通称:おたふく風邪)は、通常2~3週間の潜伏期を経て発症し、片側あるいは両側の唾液腺腫脹を特徴とするウイルス感染症です。
主な症状としては発熱と耳下腺・顎下腺・舌下腺の唾液腺における疼痛症状であり、おたふく風邪の診断は、主に臨床的な所見から実施されます。
病院など医療機関でウイルス感染を確認するためには、血液検査でウイルス抗体を測定する方法が選択され、時にウイルス分離やウイルス遺伝子を増幅させて同定する特殊な検査が実践されることも経験されます。
おたふく風邪の治療は、自宅での対症療法が主体であり、発熱や耳下腺部の痛みに対してアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を用いることが多いです。
万が一、ひどい症状を認めて水分摂取が充分に確保できない場合などには、小児科や感染症内科など専門クリニックや総合病院で点滴を投与することも考えられます。
今回の記事の情報が参考になれば幸いです。
【引用文献】
1)国立感染症研究所HP|流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)
DOI https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html