昔から「梅はその日の難逃れ」「梅は三毒(食の毒、水の毒、血の毒)を断つ」といわれてきました。千年以上にもなるという梅とのお付き合い。あの酸っぱい味の中には、先人の知恵と現代科学が詰まった健康づくりのエキスがいっぱいです。
梅には、殺菌作用やいろいろな効能があると珍重されてきました。現在もヘルシー食品として注目をあびています。また、「塩梅」という言葉は、料理の味加減に使われますが、梅は大切な調味料のひとつでした。料理に梅を加えることで、味も引き立ち、体にも良い、一石二鳥の効果です。梅は古くて新しい健康食品、梅の力を再認識してみませんか。
1.梅の旬
日本に伝えられたのは奈良時代といわれています。梅干しという言葉が書物に出てくるのは平安時代の中ごろです。
寒い冬から春を告げる早春2月に白や紅色の梅の花が咲き、5月~6月にかけて小梅が出回ると大粒の青梅が出回り始め、6月~7月頃には黄色く熟した完熟梅が出回ります。梅雨時に果実が熟して橙黄色になり、果肉には強い酸味があります。梅の時期はあっという間に過ぎてしまうので、逃さぬように注意したいものです。
梅といえば雨、「入梅」「梅雨」という四季を表現する言葉が使われますが、この時期の代表的な食材が梅です。また、「梅仕事」とは、梅が旬を迎える6月頃に、収穫された梅を使って自家製の梅干しや梅酒、梅シロップ、梅ジャムなどの保存食を作ることで、手仕事に精を出す家庭が多くあります。
2.梅の産地
梅の一大産地は和歌山県で、群馬県、奈良県、長野県、青森県、山梨県なども主要産地です。梅の品種は350種類あるといわれ、大きく分けて観賞用の花梅と実を食用にする実梅とがあり、実梅はその産地によって特徴があります。
その中で南高梅が最も有名で、果皮は緑色で完熟すると黄色から赤味を帯びます。肉厚で柔らかく、主に梅干しや梅酒として使われます。他に、白加賀、豊後、養老、甲州小梅など、日本全国に多くの品種が出回っています。お好きな品種や自家栽培の梅などを上手に活用しましょう。
梅は生で食べるのではなく(*)、保存食に加工してから食べます。収穫する時期により、大きさや色合いが違います。加工するものにより、梅の選び方が違ってきます。また、すぐに加工できないときには、常温の冷暗所で保存します。冷蔵庫に入れると低温障害を起こし、表面が変形したり、茶色く変色したり、風味が落ちたりすることがあります。
(*)未熟な青梅にはアミクダリンと呼ばれる物質が含まれているので、種を含め、そのまま食べることはできません。生の青梅を食べると腹痛を起こしたり、下痢をしたりすることがあるので、生食は控えましょう。
3.梅の選び方
梅は熟すに従い、果肉が柔らかくなり、酸味が抜けて糖分が増します。堅さや酸味が必要なのはカリカリ梅です。梅酒や梅ジュースなどには青梅が良く、梅干しの場合は黄色く熟した(黄熟)梅を使うのが一番です。
梅の大きさは重量により、M、L、2L、3Lなどに分けられます。
3-1.小梅
出回り始めの小粒の青い梅です。鮮度とカリカリとした硬さがあり、しなびていないものや黄色く熟していないものを選びます。カリカリ梅や梅酒が作れます。カリカリ梅とは、塩漬けにした梅干しを天日干しせずに硬く仕上げたもので梅漬けともいいます。
3-2.青梅
出始めの鮮度の良いもの、粒の揃った色鮮やかな青い色で硬いものを選びます。青い梅は梅酒、梅ジュース、梅サワー、梅ジャム、梅エキスなどに利用しましょう。未熟な青い梅は追熟させても黄色になりません。また、青い梅で梅を漬けると、固い梅干しになり、カビの原因にもなる場合があります。
3-3.半熟梅・黄熟梅
丸みがあって香りが良く、黄色くなり始めた梅で傷や斑点のないものを選びます。稀に赤い斑点の出ている梅がありますが問題ありません。梅は熟すに従って果肉が柔らかく、酸味が抜けて、糖分が増します。
青みが残る梅(半熟梅)なら硬めの梅干しになり、黄色く完熟した梅(黄熟梅)なら、柔らかい梅干しに仕上がります。梅酒も作れます。
4.梅の効用
梅にはタンパク質や脂質の他、カルシウム、リン、鉄などのミネラルやビタミンA、Cなども含まれています。梅干しにすると、塩分は増え、カロテンが多少減るくらいでほとんど変わりがありません。
4-1.アルカリ性を保つ
私たちの体が健康であるためには、酸性とアルカリ性のバランスが取れていることが大事だといわれています。
梅はアルカリ性ミネラルを含む食品なので、梅干しを1日1個食べることは取り入れてほしい食習慣といえます。特に加工食品などの酸性食品を中心に食べている方には、血液を弱アルカリ性に保つ手助けをしてくれます。
4-2.酸味の主成分であるクエン酸の働き
梅の酸味はクエン酸が主成分で、野菜や果物の中でもトップクラスのクエン酸が含まれています。クエン酸は爽やかな酸味によって食欲を増進させてくれたり、消化吸収を助けてくれたり、さらに胃腸の働きを活発にして便通を良くしてくれたり、整腸効果も期待できます。
胃腸の働きが悪いと肌のトラブルも起こしやすくなるので、梅干しを食べることで美容にも役立ち、また、脂肪を分解する働きもあるので、ダイエットにも有効です。
クエン酸には、吸収されにくいカルシウムと結合して骨を丈夫にする働きや、鉄分の吸収をよくして血行を促進する働き、またビタミン類も豊富に含まれているので、風邪や二日酔いに良いようです。
クエン酸が不足するとどうなる?
クエン酸が不足すると、体内に疲労物質である乳酸がたまり、疲労感、倦怠感、肩こり、腰痛などの症状が現れます。疲れると酸っぱいものが欲しくなるのは、酸っぱいもの(梅干しなどに)クエン酸が含まれているからです。
4-3.抗酸化機能
梅の果肉に含まれるポリフェノールなどに高い抗酸化機能が確認されています。がんや生活習慣病などの予防、アンチエイジングや美容に効果があると期待されています。
4-4.唾液分泌を促進
「梅干し」と聞くだけで、口の中が酸っぱくなって唾液がでてきますね。唾液には若返りホルモンのパロチンがたっぷり含まれて美容効果、消化酵素が含まれて消化吸収を良くし、さらに老化の原因といわれる活性酸素を抑制する働きなどがあるといわれています。
4-5.雑菌から体をガードする
梅には抗菌作用があります。おにぎりやお弁当に梅干しを入れますが、腐敗防止や食欲増進の効果があるといわれています。ただし、梅干しを食あたり予防として活用したい場合は、塩だけで漬け込んだ、酸っぱくて塩辛い、昔ながらの梅干しを利用してください。
甘みのあるものや調味料に漬け込んだもの、チューブ系のものなどでは、効果は期待できないばかりでなく、カビが生えたりする可能性もあります。また、殺菌効果を期待するのであれば、炊飯時に梅干しを一緒に入れて炊き込み、炊きあがったら種を取り除いてごはんに混ぜ込むのがおすすめです。
4-6.血糖値を抑えるなど
梅干しが血圧の上昇を抑える働きが確認されていたり、血糖値を抑える効果があることが推測されたり、胃がんの原因に大きく関与しているといわれるピロリ菌の活動を抑制することが明らかになったり、梅干しで健康になることがわかってきました。
5.梅干し
梅干しは塩を大量に使うことで腐らず、保存食としても使われていますが、保存状態が良ければ、100年以上も持つといわれています。手作りから市販のものまでさまざまなものがあります。
5-1.梅の追熟
梅干しは、青いものや黄色くなりかけの梅は追熟させてから、漬けましょう。
日陰に新聞紙等にくるんで置くか、段ボールの場合は蓋を開けてそのまま置いておきます。全体が青い場合は2~3日で黄色くなります。青みと黄色みが半々の場合は1日ほどおきます。水には浸けないでください。全体が黄色くなった黄熟梅なら、あく抜きの必要もなく、すぐに漬けられます。大きさは、2L以上のもので熟したものを使うと失敗が少なくなります。
5-2.赤ジソ
食欲をそそる梅干しに、赤ジソは風味と色づけをするために欠かせないものです。
赤色は赤ジソの葉に含まれている色素であるアントシアニンと、梅のクエン酸が反応することで生まれる色で、抗酸化作用があり、免疫力を高める効果があり、香り成分には強い殺菌力と防腐効果があり、食中毒の予防になります。
また、胃酸の分泌が促されて胃腸の調子を整え、食欲も増進するといわれています。他に鉄の吸収を高めるビタミンCも含んでいることから、貧血予防が期待されています。
5-3.市販の梅干し選びのポイント
スーパーなどではさまざまな梅干しが並んでいますが、どれを選んだらいいか迷ってしまいますね。産地や梅の実の種類は別にして、大きく2つに分けることができます。
塩だけで漬けた昔ながらの梅干し
パッケージに「梅干し」と記載。
黄色く熟した梅を塩漬けにして天日干しした、昔ながらの製法により作られたものです。クエン酸が多く含まれ、酸味が強く、塩分も多いのが特徴です。特に手作りの梅干しの塩分は18~20%程度が多く、かなり塩辛いです。塩抜きしてから使うのもおすすめです。減塩タイプのものも出回っています。
- 白干し梅とは、塩のみで味付けしたシンプルで伝統的に作られたもの。
- 赤しそ漬けとは、梅干しを赤しそに漬け込み赤く染めたもの。
- 塩抜きするのなら、水800mlに塩小さじ1/4を溶かし、梅5個を入れ、6~8時間置きます。
塩以外の調味料を加えた梅干し
パッケージに「調味梅干し」と記載。
クエン酸含有量は少ないですが、酸味を抑えて食べやすくしてあり、塩分も半分以下のものが多いです。特に塩抜きした梅干しを調味液に漬け込んでいるため、塩分が低いです。はちみつ等の甘みや、昆布やかつお節等のだしの風味を効かせたものが出回っています。
味を調え、保存性を補うために添加物が含まれるものもあり、見た目にきれいなものは色素や中和剤が入っている場合があります。賞味期限を掲載していることが多く、保存性は高くありません。
5-4.1日、どのくらい食べたら良いの
健康保持のために、朝夕1個ずつ梅干しを食べると良いといわれています。1日2~3個くらいでしたら、塩分量を気にする方や胃弱の方にも無理なく食べることができるといわれています。
5-5.梅干しを使った調理のコツ
梅干しを丸ごと使ったり、梅干しの種子を取り除き、果肉を包丁でよく叩いたり、あるいは果肉を手でちぎったり、裏ごししたりして使います。
野菜などの梅肉和えや、おにぎりやチャーハン、魚の煮物に醤油などの調味料と一緒に加えたりすれば、生臭さも消してくれます。また、いつものドレッシングやたれに加えたり、味噌や醤油、マヨネーズやクリームチーズなどと合わせてディップにしたり、パスタの味付けや味噌汁に加えても、美味しく食べることができます。塩分や酸味が強すぎる場合は、みりんやはちみつ等を加えると良いです。
みりんは、和え物などにそのまま使うときは、加熱してアルコールを飛ばし、粗熱をとるとお子様も安心して召し上がれます。
6.その他の加工品
6-1.梅酢
梅干しを作るときに出る赤梅酢や白梅酢は、料理に使いましょう(市販もあり)。赤梅酢を使って大根や長芋を漬けると素材が赤く染まって美しい漬物ができます。即席漬けやすし酢、ドレッシング作りにと、酢の代わりに重宝します。
6-2.梅酒
梅酒を1日30ml~50mlを数回に分けて飲むと、体が温まり、冷え性や疲労回復、胃弱、不眠症の改善に良いといわれています。くれぐれも飲み過ぎにご注意!
6-3.梅ジュース
青梅と氷砂糖で作る梅ジュースは、お子様やアルコールに弱い方にも最適な飲み物です。炭酸水や牛乳、そのままかき氷のシロップとしても重宝します。
6-4.梅ジャム
甘酸っぱい酸味と甘みがあり、パンやヨーグルトにトッピングしたり、肉の付け合わせにしたり、使い勝手が良いです。青梅や梅シロップ、梅酒の残った実で作ることができます。
6-5.梅サワードリンク
青梅を酢、お好みで氷砂糖を入れるなどして漬け込んだ、爽やかな甘酸っぱい飲み物です。サワードリンクとして炭酸水やヨーグルトなどで割って飲んだり、料理に調味酢としても使えます。
7.美味レシピ
梅を使った保存食や調味料はたくさんありますが、今回は、「梅干し」「梅酢」「梅酒」を使ったレシピをご紹介いたします。料理に加えて、梅の風味を日々楽しみましょう。
東京・有楽町にある「わかやま紀州館」では、名高い紀州南高梅や地酒の他、旬の農産物や話題の商品を取り揃えています。オンラインでも販売しています。
7-1.梅干しで作る 「ジャコとトマトの梅味噌豆腐和え」
- 火は使わずに、サッと豆腐の和え物を!
- 食欲が落ちた時、梅干しの酸味で美味しくいただけます!
【材料】(2人分)
ちりめんじゃこ 大さじ2、ミニトマト(赤・黄) 各2個、みょうが 1個、大葉 2枚、木綿豆腐 1パック(200g)
(A):梅干し 2個、味噌 大さじ1、はちみつ、醤油 各少々、白いりごま 大さじ1
【作り方】
1.ミニトマトは四つ割りに切り、みょうがと万能ねぎは小口切りにする。木綿豆腐はクッキングペーパーに包んで水気を切る。
2.ボウルに①と(A)を加えて、豆腐をつぶしながら良く混ぜる。
3.器に盛る。
*島豆腐を使うと、水切りする必要がありません。
7-2.梅酢で作る 「生ハムとズッキーニの梅ヨーグルトサラダ」
- 梅酢のさわやかな味わいがヨーグルトの酸味と相性良し!
- 手作りドレッシングで、サラダを美味しく!
【材料】(2人分)
生ハム 100g、ズッキーニ 1/4本、玉ねぎ(紫)1/4個、パプリカ(黄)1/8個
<A:梅ヨーグルトドレッシング>
梅酢 大さじ2、ヨーグルト 大さじ3、オリーブ油 大さじ2、はちみつ 少々、
【作り方】
1.ズッキーニは半月切りにし、玉ねぎは薄くスライスし、パプリカは細切りにする。
2.ボウルに(A)を加えて、良く混ぜ合わせる。
3.器に生ハムと①を盛り付け、②をかける。
*玉ねぎはサッと水にさらしても良いです。ドレッシングは冷蔵庫で数日保存できます。
7-3.梅酒で作る 「鶏肉の梅酒の甘辛煮込み」
- 梅酒で肉を煮ると柔らかく、コクのある仕上がりに!
- 甘辛い味わいで、ご飯のおかずにピッタリ!
【材料】(2人分)
鶏むね肉 1枚(300g)、オリーブ油 小さじ1、ゆで卵 2個、ブロッコリー(ゆで) 1/3個、
(A):梅酒、醤油 各大さじ3、はちみつ 大さじ1
1.鶏肉は皮にフォークで穴を開ける。フライパンにオリーブ油を入れ、鶏肉の皮の方を入れ、中火で焼き色がつくまで焼く。
2.①の鶏肉を裏返し、(A)とゆで卵を加えて、沸騰したら、蓋をして弱火で汁けがなくなるまで煮る。
3.器に盛り付け、ゆでたブロッコリーなどを添える。
*時々、ゆで卵を転がすと全体に味がつきます。
おわりに
「医者いらず!」といわれるほど、梅は栄養価の高い食品です。
なんとなく、食欲が落ちてきたなぁ、疲れたなぁ、と感じたら、いつものおかずに、梅干しをプラスしましょう。さわやかな香りと風味、酢などの力で食欲も出て、体も気分もエネルギッシュに!
また、朝、一杯のお茶に入れるひと粒の梅干しが体を目覚めさせ、胃を刺激して食欲を促し、一日の活動の源となってくれます。
毎日の食卓に「梅」を登場させて、美味しく健康を守りましょう。