いわゆるルフィ一味による事件や、池袋の押し込み強盗のニュースなどを聞き、不安を感じている人が増えているのではないでしょうか。
近年における犯罪情勢の急激な悪化は、住民の方々の犯罪に対する不安や恐怖を感じさせるとともに、犯罪抑止対策の在り方について再検討の必要性を高めています。犯罪情勢には、数多くの複雑な社会的要因が絡み合って影響を与えており、不正な方法によって利益を得ようとする一部の者たちも、より手軽なリスクの少ない方法を次々と編み出し、学習しているため、さらに悪質・巧妙・複雑化しています。そのような時代背景に応じて各個人も犯罪に対する態度、意識及び対応を変化させていく必要があります。
大前提として感じていた治安に対する「安心・安全」という感覚が、「不安」へと大きく変化しているという流れを注視していく必要があります。 命と財産を守るため、犯罪に対する適切な諸対策を、行政や人任せではなく、各住民自身がそれぞれ今以上に真剣に考えることが必要です。
1.現状認識
まず第一に自身や家族の安全と財産を守るためには、防犯対策が必要不可欠です。
刑法犯認知件数(警察庁統計)は平成 14 年には 369 万 3,928 件※1、その後、平成 15 年から減少に転じ、令和 3 年は 56 万 8,104 件※2と戦後最少を更新してきたが、令和 4 年は 60 万 1,389 件※3と増加に転じました。
このうち、住宅を対象とした侵入窃盗の認知件数は減少傾向にあるものの、令和4年も 1 万 5,692 件※4発生しました。特筆すべきこととしては、最近では宅配業者を装う、窓ガラスを破壊して住宅に押し入る等の悪質かつ雑な手口による侵入強盗事件が連続して発生していることです。
侵入強盗の発生場所認知件数は「一戸建て住宅」が 17.6%、共同住宅(3 階以下)が 17.6%、共同住宅(4 階以上)が 9.3%と、住宅を対象とした侵入強盗が全体の 44.5%※4 を占めています。
ちなみに侵入窃盗の発生場所認知件数は「一戸建て住宅」が 33.0%と、最も高い数値を占めており、次いで一般事務所が 11.1%※4と発表されています。
2.犯罪発生要件
犯罪は、どのようにして発生するのか。最初に罪を犯そうとする動機を持つ人の存在があり、狙うべき標的が決まって、その後犯行を敢行するに至りますが、そこに犯行が行われやすい環境があることで、犯罪者は実行の決意をします。(ただし、確信犯の場合は、環境の良否に関係なく実行します)
そこで着目すべきは「環境」です。さまざまな犯行場所の特徴から「入りやすい」「見えにくい(人目につきにくい)」そして「逃げやすい」つまり、犯罪が成功しそうな場所を狙います。
では、犯罪が成功しそうな場所とはどういう場所なのか。具体的には、落書きやごみが散乱し、掲示板の汚損、切れた街灯、放置自転車・野ざらしの車など、乱れやほころびが感じられる場所(いわゆる汚い街)は、犯罪企図者の視点では、管理不行き届きで、秩序感も希薄なため、警戒心を必要としない場所であるように映ります。
そのため、犯行現場として選ばれる可能性を低くする観点で考えられる対策については、犯行を敢行しにくい環境をつくることが大切です。敢行しにくい環境にすることで、結果として、多くの動機ある者に犯行を断念させることにつながります。
前述の内容は、侵入窃盗・侵入強盗について、という前提で記載していますが、合わせて社会的弱者(子ども・女性・高齢者)を犯罪から守る事にもつながっています。
簡単にいいますと「美しい街づくり」が犯罪を抑止するということです。美しい街をつくり、維持していくためには、地域の方々が良好な関係を築き、連携して屋外や街頭に出て活動(ゴミ拾い・除草・空地の管理・公共施設機器の管理点検など)をしなければなりません。多くの住民が屋外等で活動することで、多くの目が地域に拡散し、これが「監視の目」となるのです。
3.犯行を敢行しにくい環境づくり
筆者の経験から、犯罪者の心理としては、①人の視線を嫌がる②声かけされるのを嫌がる③犯行前に下見をする(場所の選定・ターゲットの選定)傾向があります。そのため、以下の対策を強化・徹底することで犯罪の抑止につながると考えています。
3-1.地域が高い防犯意識を持つ
小さな秩序違反も見逃さないという地域の強い意思を外部に提示する事で「第 1 の壁」をつくることです。
この地域内領域は高い防犯意識を持つ住民で構成されていることを表明する事です。具体的には「防犯パトロール実施中」「警戒強化地域」「防犯カメラ作動中」などと記載された看板・のぼり・警戒ポスターを地域への進入道路に掲出したり、駐車可能な空地に立ち入り禁止札の掲出(法的措置を執りやすくする)、屋外活動(散歩・自宅周辺清掃など)時の防犯腕章・ジャンパー等の着装の励行など地域の緊密な連携活動を行う事が地域の治安対策上、非常に重要となります。
犯罪企図者が力を及ぼしにくいと感じさせるような範囲を明確に作り、物理的、心理的なバリケードで接近を防ぐのです。
3-2.監視体制の強化・継続
犯罪を敢行しようとする人物は、他人から見られる(目撃される)こと、声をかけられることを極端に嫌う傾向にあります。
- 防犯カメラの設置及び増強(私的・公的場所ともに)
- 地域挨拶運動の実施(昼夜間を問わず)
- 夜間門柱灯の点灯
- 地域美化清掃の実施
- 防犯パトロールの実施
なお、防犯パトロールの実施に当たっては、気楽に、気軽に、気長に、そして危険なく住民参加ができるようにする事がポイントで、健康に支障がある方でも玄関先で防犯用ジャンパーを着用し一定時間、椅子に座った状態で警戒を実施してもらう等など、従事される方へ配慮し、盲目的にパトロールを義務化しなければいけないと固執しないことで、活動が継続しやすくなります。
また、「美しい街づくり」を提唱し、より多くの人が屋外活動を実施することで、多くの目が市中に注がれ、防犯カメラの監視と同等の効果を期待できます。犯罪企図者の行為を見張り、犯行対象を見守り、例え地域の勢力圏内に入り込まれても、目撃される可能性が高く、簡単に犯行が実行できない。これが、犯罪企図者を監視する「第 2 の壁」となります。
3-3.自宅における抵抗対策
前述の犯罪抑止対策をかいくぐり、標的(自宅)に接近し、侵入してくる者に対する砦が抵抗です。
具体的には
- 常時施錠(隙を見せない)と施錠確認
- 玄関ドア・窓等の二重ロック
- アクリル強化ガラス装着あるいは防犯フィルム貼付 〇 防犯網戸の設置
- 侵入口として利用されるおそれのある窓への外格子の設置
- センサーライトの設置
- 近隣に緊急事態を知らせる警音吹鳴装置の設置
- 来訪者対応時のインターホン使用徹底
これらの対策には一定の費用や近隣の住民からの理解が必要になる部分もありますが、犯罪企図者の理不尽な行為を押し返し、犯行に及んでも抵抗が高く、強固である事で犯罪目的を達成しにくいようにします。これが、犯罪企図者に抵抗する「第 3 の壁」です。
3-4.命を守る最後の抵抗
領域の壁・監視の壁・抵抗の壁を全て破られてしまった場合は、「命を守る最後の抵抗」が「第 4 の壁」です。
自宅の中で堅牢な部屋(セーフティールーム、パニックルーム)を設け、緊急事態が発生した時には、そこへ逃げ込み、内側から施錠した後、速やかに 110 番通報を行う。セーフティールームを設定するには、特別な部屋に改装するのでなく、現存するトイレや浴室等で内施錠が可能であり、かつ外開錠が容易にできないような場所を活用することもできます。
ただし、昨今の闇バイト等による押し入り強盗の傾向としては、背後組織(反社会的勢力・半グレ)を頂点とする犯罪実行集団が闇バイトへの応募者の中から実行役を人選し、身分証等から弱みを握り、身動きできない状態にして犯行をさせるため、一般的な侵入窃盗・強盗とは異なる部分があります。どのような周辺状況であれ実行しなければ、犯行実施者自体が背後にいる反社会的勢力等からの圧力に耐えられない(絶対に逃げられず、抜け出せない)との心理が働き、第 1・第 2・第 3 の壁を超えてしまうからです。
最後に防犯対策は、自助・公助・共助といわれるが、今そこに迫る犯罪(危機)に対して最も重要なのは「自助の徹底」と「近所の連携」であり、不測の緊急事態は必ず起こるものであると認識していただき、命と財産を守る防犯対策の徹底・再徹底をするようにしましょう。
これら一連の防犯対策が、社会的弱者(子ども・女性・高齢者)を守る事にもなります。そのためにも読者の皆さまも含めた各個人相互のご協力が不可欠であることを重ねて申しあげます。
出典元
※1 https://www.moj.go.jp/housouken/houso_2003_hk1_1.html
※2 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r3_hanzaijyousei.pdf
※3 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/r4_report.pdf
※4 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/theme_a/a_b_1.html