マスク生活が長引くなかで、日頃のご自身の表情について意識する機会が減っているのではないでしょうか。顔の表情を作る表情筋は使わないとすぐに衰えてしまい、顔の印象を悪くするだけではなく、口の動かしにくさといった身体機能にも影響を与えます。そのため、表情筋の衰えを予防するには、日々意識してトレーニングすることが大切です。
このコラムでは表情筋の重要性や衰えやすい表情筋のトレーニング方法をご紹介します。
- 普段の生活の中で使われている表情筋は全体の3割ほど
- 使っていない表情筋は衰えやすく、無表情な印象を与えてしまったり、顔がたるんだりといった外見的なトラブルの原因となる
- 表情筋トレーニングは顔全体の筋肉がバランス良く使えていることがポイント
表情筋の役割と衰える原因
人間の顔は30種類以上もの小さな筋肉で構成されています。表情筋は顔の筋肉の中でも表情を作る筋肉の総称です。身体の筋肉の多くは、関節を動かすことが主な役割ですが、表情筋は違います。表情筋は骨や顔面の皮膚とつながり、筋肉同士や皮膚への動きが複雑に絡み合うことで、人間の繊細な表情を作り出しているのです。
一方で、普段の生活の中で表情筋は全体の3割ほどしか使われていません。腕や足などの筋肉と同じように、使っていない筋肉は衰えが顕著に現れるため、衰えてしまった表情筋とつながっている皮膚にもシワやたるみをもたらす原因となります。
ここからは表情筋がどのような働きをしているのかご紹介します。表情筋が衰える原因と、それによって起こってしまうトラブルについてもご紹介しますので、併せて確認してみてください。
参照元:2019年度研究者レポートボタン引き抜き訓練時の表情筋の活動評価
表情筋の主な働き
表情筋のなかでも代表的なものが口輪筋です。口輪筋は唇の周りを取り囲んでいる筋肉で、口を閉じる働きがあり、唇をすぼめたり突き出したりすることを可能にしています。口輪筋は表情を大きく変化させるだけではなく、食事や言葉を発するときにも無意識で動いている重要な筋肉です。口輪筋があることによって、意識しなくても食べものをこぼさずに食べることができたり、話すことができます。
目元の印象に大きく影響するのが、眼の周りの眼輪筋やおでこの前頭筋といった表情筋です。眼輪筋はまぶたを囲むように伸びている筋肉で、まばたきやウィンクのように目を開いたり閉じたりするときに働きます。
前頭筋は眉上から頭頂部にかけて伸びている表情筋です。眉間にしわを寄せたり、眼を大きく開いたりするときに働きます。
表情筋が衰える原因として考えられるのは?
表情筋が衰えてしまう原因は主に2つあり、そのうちのひとつは加齢や老化です。40歳頃から筋肉を作っている筋繊維の萎縮が始まります。全身の筋肉と同じように、顔の筋肉も年齢を重ねるにつれてやせ細り、筋力が低下してしまうのです。
もうひとつの原因は、表情筋を使わないことです。日本人が普段生活をする中で、約7割の表情筋は使っていないといわれています。
最近は、電話やメールなど非対面のやりとりが増えています。また、コロナ禍のマスクの影響によって、さらに表情を使ったコミュニケーションが減り、表情筋は衰える一方です。そのため、表情筋を意識して動かさなければ、筋力はどんどん弱ってしまいます。
表情筋が衰えると起こりうるトラブル
ここまでお伝えしたように、表情筋は口や目などを動かすための重要な筋肉です。そのため、表情筋が衰えてしまうと、顔の印象に悪影響が起こるだけでなく、目や口の機能低下にもつながる恐れがあります。
話しにくくなる
口を閉じるための表情筋である口輪筋が衰えることによって、食事をしたり会話したりするための口腔機能に影響が及ぶ可能性があります。噛む・飲み込む・話すといった口腔機能の衰えは口腔内の虚弱を意味する「オーラルフレイル」と呼ばれます。
オーラルフレイルは、噛みにくさや話しにくさがあるために柔らかいものを好むようになったり、会話が減ってしまったりして、さらに表情筋を使わなくなるという悪循環に陥りやすい状況です。
さらに、食べられる食品が偏って必要な栄養が摂取できなくなったり、家族や友人との外出や食事が億劫になって、鬱のように引きこもりがちになってしまったりすることも起こり得ます。表情筋が衰えることによって心身の健康状態にまで影響が出てしまう恐れがあるのです。
目が開きにくくなる
目の周りの表情筋が衰えると、目がすっきりしない等の不快感が現れます。また、加齢により、まぶたが下がる眼瞼下垂という症状は、表情筋の衰えが原因のひとつといわれています。表情筋の中でも上眼瞼挙筋はまぶたを上げる筋肉の代表で、自分で鍛えることも可能です。
老けた印象の顔に見える
表情筋は30種類以上の筋肉が、隣り合う筋肉や皮膚と複雑につながって作用しています。表情筋が衰えて緩むことによって、筋肉の上に位置している脂肪や皮膚を支えきれなくなり、顔のたるみやしわにつながるのです。
顔全体がたるんでいると、老け顔に見られやすいほうれい線やゴルゴラインが目立つようになってしまいます。
表情が乏しく見える
顔の表情を作るうえで、とても重要な役割を果たすのが口角です。口角が上がっていると笑っているような表情に見えるので、顔全体も明るく朗らかなイメージになります。
一方で、口角が下がっていると無表情に見えたり怒っているような表情に見えたりするので、表情が乏しく不機嫌そうな印象を与えかねません。口角は口の周りの表情筋によって支えられているため、表情筋が衰えることによって、口角が下がって見えてしまいます。
怒っていないのに怒っているように見えてしまうなど、気づかないうちに相手に悪い印象を与えてしまうこともあるので、口角を上げる筋肉は意識して鍛えたいところです。口角を上げる筋肉の代表は口角挙筋です。口角挙筋は、上あごの犬歯付近から小鼻の横周辺までに位置しています。
表情筋のトレーニングを行うメリット
表情筋が衰えることによって、さまざまなトラブルにつながってしまうことをご理解いただけたと思います。表情筋の衰えを防ぐためには、顔の筋肉を鍛えるトレーニングが効果的です。ここからは表情筋を鍛えることによって得られるメリットについてご紹介します。
豊かな表情になる
表情筋は文字どおり表情を司る筋肉なので、表情筋を効果的に動かせるようになると表情がより豊かになるでしょう。意識的に表情筋のトレーニングを行うことによって、豊かな表情が自然に作れるようになり、笑顔も増えます。自然な笑顔は人に好印象を与える大切なポイントです。
若々しい顔をサポートする
表情筋を鍛えることで、老けて見えてしまう原因となる顔のしわやたるみの予防や改善につながります。表情自体も口角が上がり、明るくはつらつとした印象になるため、若々しいイメージを与えてくれるのです。
ポジティブになれる
心理学の研究では、表情によって感情が引き起こされる「顔面フィードバック仮説」と呼ばれる考え方があります。
1989年にアメリカで行われた検証研究では、にっこりと笑った口の形をキープして漫画を読むと、より面白く感じるという結果も得られました。このように、表情筋を鍛えて自然な笑顔でいることが増えると、気持ちまで明るくポジティブになれる可能性を秘めているのです。
目元を鍛える表情筋トレーニング方法
日本人は欧米人に比べるとまぶたを動かす機会が少なく、まぶたの脂肪が多い傾向があるといわれています。また、そのまぶたを支える筋肉を充分に鍛えられるほど、表情を大きく動かしていません。加齢などにより、目の周りの筋肉が衰えることで、目元の皮膚がよりたるみやすくなります。
そのため、目元のたるみには目の周りを囲んでいる眼輪筋と呼ばれる表情筋のトレーニングが効果的です。眼輪筋を鍛えることによって、目元の皮膚や脂肪をしっかりと支えられるようになります。ここからは眼輪筋全体を鍛えるためのトレーニング方法をご紹介しましょう。
具体的な方法
以下の手順でトレーニングを行います。
- 目をゆっくりと閉じながらぎゅーっと力を入れていく
- 目をぎゅーっと閉じたまま5秒間キープ
- 少しずつ力を抜く
- 勢いよく眉を上げて目を開き5秒間キープ
- ゆっくりと自然な状態に戻す
このトレーニングは朝晩5回ずつ行うと効果的です。このとき、おでこも一緒に動いてしまうと額の筋肉に負担がかかってしまいます。額の筋肉を使い過ぎてしまうと、たるみやシワの原因になってしまうため注意が必要です。そのため、額の筋肉を動かさないように、おでこに手を置いてトレーニングを行うと良いでしょう。
コツ
効果的に筋肉を使えているか確認するためには、鏡を見ながらのトレーニングがおすすめです。それでも筋肉の動きがわかりにくい場合は、指で軽く押さえると皮膚が筋肉に引っ張られて、動きがわかりやすくなります。
フェイスラインを鍛える表情筋トレーニング方法
表情筋の中でも口元の筋肉である口輪筋や、口角からこめかみにかけて伸びる大頬骨筋は、フェイスラインに大きく影響する筋肉です。口角が下がって見えたり、輪郭が変わってきたりといったサインが見られる場合は、頬のたるみが原因になっている可能性があります。
口元や頬を支えている表情筋を鍛えることによって、老け顔に見えてしまうほうれい線やたるみにアプローチすることが可能です。ここからはフェイスラインに効果的な、割り箸を使ったトレーニング方法をご紹介します。
具体的な方法
以下の手順でトレーニングを行いましょう。
- 割り箸を横向きで口にくわえる
- 口角と頬を上げるイメージで「いー」と声を出す
- 声を出したまま30秒間~1分間キープ
このトレーニングを1セットとして、1日3セットずつ行うと効果的です。口角だけではなく、頬全体を引き上げるイメージを持ちましょう。頬の表情筋が動いているか意識して行うことがポイントです。
コツ
口に割り箸をくわえることで、どれぐらい口角を上げれば良いのかの目安になります。鏡の前で口角がしっかり上がっているかチェックしながら行いましょう。口の周りの筋肉をしっかり意識して行うことで、より集中的に口周りや頬の筋肉が刺激されるため、たるみを改善する効果が期待できます。
あごや首を鍛える表情筋トレーニング方法
下あごや首周りにある表情筋が衰えることによって、顔と首の境界がぼやけ、二重あごに見えることがあるため、トレーニングが必要です。あごや首周りの筋肉はリンパの流れにも影響しているため、筋肉が使われないことで、顔がむくんでしまう原因にもなります。
特に、日本語は下あごや首周りの筋肉を使った発音が少ないため、加齢によって衰えやすい筋肉のひとつです。
そのため、二重あごが気になる方は、あごや首を中心とした表情筋のトレーニングがおすすめです。ここからは口の中で舌を回すだけでできるトレーニング方法をご紹介します。舌を回す表情筋の筋トレは、あごの下や首、口周りの広い範囲の筋肉を鍛えることが可能です。
具体的な方法
以下の手順でトレーニングを行いましょう。
- 口を閉じて舌先を左上の外側の歯茎に当てる
- 歯茎に沿って、上の歯から下の歯までぐるっとなぞるように舌を動かす
- ゆっくりと右回りで10回繰り返す
- 同じように左回りも10回繰り返す
- できる方は右回り・左回りをさらに10回ずつ繰り返す
歯茎に沿って、舌先を口の中で大きくゆっくりと動かすイメージで舌を回しましょう。表情筋が衰えている方や慣れていない方は10回でもかなりの負担に感じるかもしれません。無理をせず少しずつ回数を増やしていくと良いでしょう。
また、舌回しトレーニングはあごや首周りを鍛えるために負荷がかかるため、あごや噛み合わせに違和感のある顎関節症の方にはおすすめできません。症状が悪化してしまう恐れもあるので別の方法でトレーニングを行いましょう。
コツ
舌回しトレーニングの効果を高めるためにはゆっくりと行うことが大切です。歯茎をなぞりながら、頬を押し上げるように回すと口周りの筋肉を全体的に鍛えることができます。早く舌を回してしまうと筋肉に負担をかけてしまう恐れがあり、逆効果になるため注意しましょう。
口角を上げるトレーニング
表情筋を鍛えるヨガの代表的なポーズに獅子のポーズ(シムハーサナ)というものがあります。
顔の広頚筋という筋肉に働きかけて口角を上げ、首のたるみを引き締める効果が期待できます。
顔だけでも可能ですが、身体も一緒に行うとより効果的です。
具体的な方法
以下の手順でトレーニングを行いましょう。
- 床の上に膝をつき、右の足首を左の足首に乗せる
- かかとに座る
- 両手を膝につき、押すようにして背筋を伸ばす
- 舌を出し、目線を上に向けて目を開く
- 息を吸い、ハーと声を出し、息を吐き切る
- 5を3セット繰り返す
- 足首の組み方を変えて逆側も同じように行う
コツ
両手はなるべく指の間を広げるようにしましょう。また、両手で膝を押す時に肩甲骨を下におろす感覚で行うと、より背筋が伸びます。
表情筋と心肺機能をダブルで鍛えるトレーニング方法
表情筋を大きく動かしながら大笑いをするトレーニング方法は、表情筋だけではなく心肺機能を鍛えることにも効果的です。人間は笑ったときに腹式呼吸と同じような呼吸法になり、酸素の消費量が増えるため、有酸素運動と同じような効果があるとされています。
15分笑うとウォーキング10分程度のカロリー消費量と同程度になると考えられているのです。
そのため、大笑いをする表情筋のトレーニング方法は顔の筋トレだけではなく、運動不足の方にもおすすめです。ここからは具体的な鍛え方についてご紹介します。
参照元:笑いの効用|内科・外科・脳神経外科・漢方内科の保険診療なら千葉市若葉区千城台のらいむらクリニック
具体的な方法
手順を確認しましょう。それぞれの言葉で笑う際の、顔の特徴についても記載します。
- 顔の筋肉をほぐすように「あ」から「お」まで顔を動かしながら声を出す
・「あ」顔のパーツを外に持っていくイメージで口だけではなく目も大きく開ける
・「い」あごを上に向け、口を思い切り横に伸ばす
・「う」口をすぼめ、顔のパーツを中心に集めるようにイメージ
・「え」口角を上げ、舌を思い切り前に突き出す
・「お」目を大きく開きながら口を縦に大きく開く - 「あ」から「お」の口でお腹から声を出し、息が続くまで笑う
- 笑いながら「あ」から「お」までを2セットほど繰り返す
まずは、笑いやすくするために顔の筋肉をほぐすところから始めましょう。「あいうえお」だけではなく、目を大きく開いたりギュッと閉じたり、ウィンクしたりすることによって顔の血流も促進されます。顔が充分に動かしやすくなったら、声を出して息が続くまで笑い続けましょう。
コツ
このトレーニング方法は面白くなくても声を出して笑うということがポイントです。作り笑いでも自然な笑いでも、同様の効果があるためです。身体の健康に良い効果があるだけではなく、メンタルにも良い影響をもたらす効果が期待できます。
表情筋トレーニングを行う際のポイント
表情筋トレーニングを行うときに、気をつけたいポイントがあります。1つ目は適切な回数や時間を守ることです。表情筋は皮膚につながっている筋肉であるため、トレーニングを行うときにも皮膚は伸びたり縮んだりしています。過度にトレーニングを行ってしまうと、蓄積された伸び縮みによるダメージによって、かえってたるみやシワを目立たせてしまう可能性があるため注意しましょう。
2つ目は全体的にバランス良く鍛えることです。気になっている部分を重点的にトレーニングしたくなりますが、その部分だけを鍛えようとすると、特定の場所だけに負荷が集中してかかってしまいます。そのため、トレーニングするときには鏡を見ながら、顔全体の筋肉がバランス良く使えているかチェックしましょう。左右で差が出ていないか、使えていない筋肉がないかチェックして、バランス良く鍛えることが大切になります。
おわりに
表情筋は顔の印象を決めるだけではなく、会話や食事のしやすさといった心身の健康にも影響を与える大切な筋肉群です。普段の生活の中では使われていない表情筋も多いため、表情を意識して顔を動かすことが顔の筋肉の衰えを予防するポイントになります。このコラムでご紹介した表情筋のトレーニング方法やポイントを参考にして、表情豊かな毎日を過ごしてください。