確かな債権を有しているのに、相手に支払う気が無い場合、債権を代わりに回収するスペシャリストがいます。それが債権回収代行会社です。債権回収は方法論を把握しないままに素人が取り組むと、脅迫や強要、非弁行為(弁護士の独占業務を侵食する行為)に該当するリスクがあります。債権回収代行の業者選びのポイントやメリット・デメリットを解説します。
- 債権回収代行とは何か
- 債権回収を当事者(債権者)ができない理由はなにか。どのようなリスクがあるのか
- 債権回収代行が担う業務内容
- 債権回収代行を依頼するメリットとデメリット
債権回収代行を利用すべきケースとは
債権回収代行は、債権回収を専門とする企業です。専門のノウハウを有する債権回収代行会社が担います。
依頼された仕事を完了したのに報酬が支払われない、料金の利用料の未払い、貸しているお金が約束通りに支払われない場合に債権者は督促や回収に動きますが、相手方の態度が硬化することも多く回収ハードルは高いです。
そこで回収のノウハウをもった債権回収代行会社に依頼することになります。債権回収代行は誰もができるものではなく、法務省の担当当局に申請書を提出し、認可された会社のみが担うことができます。まず、債権とは何か。どのような場合に生じるものなのかを解説します。
自社で回収できなくなったとき
債権とは特定の方に一定の行為や給付を請求できる権利です。仕事を受注して完了したのに支払いがない場合に、債権という権利が生じます。契約した時点で債権・債務は発生しますが、依頼した行為に対して通常は性善説が機能しているため、トラブルになって初めて認識するものといえるでしょう。
債権の未回収が濃厚になると、相手に連絡しても「準備ができたら支払う」など話が進展しなかったり、そもそも連絡が取れなくなったりすることがあります。
この時にノウハウを持たずに相手方を訪問したり、感情に任せて交渉したりすると法的トラブルに発展する恐れがあり、債権者側にもリスクがあります。そこで、債権回収のノウハウを持つ企業(債権回収代行会社)に依頼する方法がおすすめです。
債権回収のノウハウを持っていないとき
債権回収代行会社は債権回収の知識を有しているため、合法的かつ迅速な債権回収のノウハウを持っています。また債権者自身にとって、ご自身で債権回収を行うのは労力も時間もかかります。回収の知識を持っていないときは、債権回収代行会社を活用しましょう。
特定金銭債権の回収を行うとき
ただし、債権回収代行会社が回収できるのは特定金銭債権のみとなります。サービサー法で規定される特定金銭債権とは住宅ローンや金融機関が有する貸付債権、リース・クレジット債権、事業用融資などに限定されます。
一般事業会社や個人が有する債権などで特定金融債権以外は債権回収代行が扱うことはできません。この時に頼りになるのが弁護士です。弁護士は債権回収代行会社が扱うことのできない債権も回収代行をすることができます。
債権回収代行の流れ
どのように債権回収代行は進んでいくのでしょうか。一般的な債権回収代行の順序を確認します。
債務者への書面・電話による請求
まずは書面や電話による請求です。相手方としては債権者本人からの連絡から債権回収のプロである債権回収代行会社になったことで、債権者が債権回収に本腰を入れてきたと認識できる効果があります。
とはいえ債権回収代行会社から書面や電話が届いたからといって、支払完了になるケースはそれほど多くないと考えられます。債権回収代行会社の登場に驚くも、それまで支払いに応じてこなかった債務者の行動が、この時点で大きく変わることはあまり期待できません。
内容証明送付
書面送付には通常の書類と別に、内容証明郵便という方法があります。内容証明は法的拘束力こそありませんが、郵便局により相手に届いているか否かが確認できるほか、「〇〇日まで支払いなさい」と期限を切ることができます。
設定された期限が到来しても動きが無い場合、民事訴訟を提起するのが一般的です。内容証明を送らなければ民事訴訟ができないわけではありませんが、多くの争いの場合は民事訴訟の前に入るワンステップといえます。
【内容証明に記載される主な内容】
- 債権の具体的な内容
- 債権者・債務者の確定
- 支払期日
- 支払期日まで動き(入金)が無かったときの対応予告
支払い督促申立
内容証明の次の段階が支払督促です。債権者が支払督促の申立をした場合、裁判所は債務者の言い分を聞かずに、支払督促を発することができます。
支払督促は内容証明と異なり、法的拘束力を持ちます。支払督促に異議申し立てがない場合、債券は民事裁判の提起を経ずに強制執行を申立てをし、銀行口座など差押を開始することができます。
訴訟
内容証明にも支払督促にも対応がなく、回収の見込みが全くない場合は、強制執行を見据えた民事訴訟を提起します。
民事訴訟で勝訴すると、裁判所の発行する判決書にもとづいて強制執行を行うことが可能となります。民事訴訟は債権債務の存在から裁判所が判断するため、数ヵ月、場合によっては1年前後の時間がかかります。
また両者で交渉し、一部の債権支払のみ合意するなど、和解で合意することもあります。
強制執行
裁判所書記官発付の支払督促に対し、債務者が支払いせず異議申立てがされなかったり、民事裁判で判決が出た場合は、強制執行が可能となります。
強制執行は判決書を用いて債務者の金融機関の銀行口座に差し押さえを行います。差押時点で口座内に残金のある場合は残金を、残金がなくとも入金があった時点で入金を差し押さえます。銀行口座の他、賃貸不動産会社に契約している敷金なども差し押さえの対象とすることが可能です。
敷金の場合は即時差し押さえが実行されるものではなく、賃貸契約が終了されたときに還付される金銭が差し押さえ対象となります。
なお差し押さえた銀行口座にお金がないとき、裁判所はそれ以上関わることをしません。あくまで当事者間の交渉に委ねられます。
なかには強制執行の可能性に備え、差し押さえの可能性がある銀行口座から残金を移動する債務者もいます。この点は民事裁判で勝訴しても泣き寝入りする債権者がおり、今後の制度改善が望まれています。
警察組織に訴えても民事不介入原則のもと、基本的に受け入れて貰えません(債権者が多数存在し、刑法上の詐欺行為が疑われる場合は別です)。
債権回収代行会社に依頼するメリット
債権回収代行会社に依頼するメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
安全性が高い
債権回収代行会社に依頼すると債権者が直接交渉しないため、感情的なトラブルを予防することができます。
また相手方に対しても主観での連絡ではなく、客観的に認められた法的手段というスタンスを伝えることができるでしょう。また債権回収代行会社はプロフェッショナルのため、いわゆる「債権回収の方法」を認知しています。逃げようとする先方の抑止力ともなるでしょう。
無駄な手間や労力を省ける
債権回収代行会社への依頼は、回収業務の手間や労力の削減になります。債権者は本業のあるなかで、債権回収を行うのは労力もかかるほか、精神的な負担にも繋がります。債権回収を本職とする業者に依頼することで、負担軽減をすることができるでしょう。
債権回収を譲渡できる
債権回収代行会社に依頼するときは、代行として債権回収業務を委託するのか、債権者としての権利を譲渡し、代行業者が債権者として債権回収するのかを選択することができます。
債権回収代行会社を利用する際の注意点
債権回収代行を利用する場合の注意点です。まず債権回収代行会社が実行できる以外の債権を依頼することはできません。
回収代行会社が弁護士ではない場合、いわゆる弁護士業務として回収行為を行うことはできません。債権者は自身が有している債権が債権回収代行会社に依頼できるものなのかを認識したうえで、依頼するようにしましょう。
詐欺の被害に遭う可能性がある
債権回収代行会社のなかには、必要な行政当局への許可を得ずに回収業務を行なっている会社があります。依頼した債権者が違法性を問われることは基本的にありませんが、許可を得ていない業者に依頼していると周囲に知られると反社を疑われたり、レピテーションを毀損したりする恐れがあります。
コストがかかる
手数料がかかる、債権譲渡の場合は費用がさらに上乗せされます。
債権回収代行を依頼できる業者は?
債権回収を依頼できる業者には、どのようなものがあるのでしょうか。
債権回収会社(サービサー)
まずは債権回収会社です。サービサーとも称されます。住宅ローンやクレジットなど、特定の金融関連の債権支払いが滞った場合、金融機関などに代わり債務者に連絡します。
弁護士
取扱いのできる債権に限定がある債権回収会社に対し、弁護士は基本的に債権の全てを取り扱うことが可能です。
ファクタリング会社
本記事でお伝えしたように、債権回収代行会社には取り扱うことのできない債権があります。入金が遅れると、債権者の資金繰りにも大きな影響が生まれるものです。そこで活用できるのがファクタリング会社です。債権回収代行の利用を検討しつつ、選択肢のひとつとしてファクタリング会社について知っておきましょう。
おわりに
債権回収代行について解説しました。債権回収代行の業者は、実は取扱いのできる債権が限られています。債権回収を依頼するにあたっては、債権回収代行会社への依頼が適当なのか、弁護士への依頼が適切なのかを確認し、意思決定していきましょう。