ようやく厳しい残暑が落ち着いてくるとともに増えてくるのが風邪です。夏の疲れで体力が落ちていたり、寝冷えしたり、というときにちょっとした油断で風邪を引いてしまうこともあります。そんな時にはドラッグストアなどで手に入る風邪薬を利用される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
風邪の漢方薬の代表といえば葛根湯
普段漢方薬を飲まない方でも葛根湯だけは常備している、ということもあると思います。
ここでは葛根湯の上手な使い方と気をつけなくてはいけない使い方をご紹介いたします。
葛根湯とは
葛根湯は、風邪に用いる漢方薬として有名ですが、実は風邪にはいくつかの種類があります。東洋医学的には寒さの風邪、熱の風邪、胃腸の風邪に大きく分けられるでしょう。
風邪の特徴は、「発熱、寒気、喉の痛み、鼻水、咳、頭痛、身体のだるさ、関節の痛み」など共通した症状があります。これらに加えて、風邪の種類によってその中でも特徴的な症状があります。
寒さの風邪の特徴的な症状
- 寒気がする
- ゾクゾクする
- 鼻水が透明
- 鼻水が多い
- 鼻が詰まる
- 頭痛
- 汗が出ない
熱の風邪の特徴的な症状
- 高熱
- 喉の痛みが激しい
- 鼻水や痰が黄色
- 身体が熱い
- 汗が出る
胃腸の風邪の特徴的な症状(いわゆる胃腸炎)
- 食欲不振
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢
葛根湯はこの中だと「寒さの風邪」に効果的な漢方薬です。
- 肩から首、後頭部にかけての強張りがある
- ゾクゾクっと寒気を感じる
- 汗が出ない
という状態の「寒さの風邪」の初期に、葛根湯は非常に効果的です。
東洋医学では、風邪を身体から外に出す、追いやる、という考えがあり、その方法のひとつが発汗させることです。しかし、寒さの風邪の場合、汗をかけずに身体の中から追いやることができません。葛根湯はこの状況を打ち破り、寒さの風邪を身体から発散させるために、汗をかかせる漢方薬なのです。
葛根湯の上手な使い方
漢方薬は長く飲まないと効かない、と思っている方もいらっしゃいますが、実は風邪の漢方である葛根湯などは非常に短時間で効果を感じることができます。そのためにもぜひ知っておくと良い効果的な使い方があります。
葛根湯の上手な使い方
- 風邪を引いたかなと思ってから数日以内である
- 寒気がしたり、ゾクゾクしたり、寒さの風邪の特徴がある
- 肩から首、後頭部にかけての強張りがある
- 汗はほぼかいていない
- 顆粒であればお湯に溶かして熱いうちに飲む、錠剤はぬるま湯で飲む
- 飲んだ後にできれば熱いお粥など温かいものをとる
- 飲んだら身体が冷えないうちに布団で寝たり、厚着をしたりして身体を温める
- 汗が出て寒気やゾクゾク感が取れたら飲むのをやめる
なお、市販薬には必ず「添付文書」というお薬の取扱説明書が付いています。外箱にもお薬の説明が書いてあるので、必ず確認してから購入したり、使用したりしましょう。また、「このお薬で良いのかな?」「今の症状に合っているのかな?」と思った時は、薬剤師か登録販売者に聞いてみましょう。お薬を販売する場合には、必ず医薬品に詳しい人が常駐しており、薬剤師や登録販売者は医薬品に関する知識を持った人ですので、遠慮なく尋ねてみてください。もちろん、自己判断せず病院に行くことも場合によっては必要です。
ちょっと待って!葛根湯ではないかも
ここまで葛根湯の効果的な使い方を紹介してまいりましたが、中には「風邪の症状があれば葛根湯を使う」という人もいるのではないでしょうか。よくある葛根湯の誤った使い方をしていないか、確認してみてください。
風邪っぽい症状ならなんでも葛根湯を使う
風邪には3種類ある、と初めにお伝えしましたが、熱の風邪や胃腸の風邪でも葛根湯を使っている、という方はいるのではないでしょうか。もちろん軽い症状であれば葛根湯でも対応できることがありますが、場合によっては悪化させてしまうこともあります。
例えば、喉の痛みが強い場合は銀翹散(ぎんぎょうさん)という漢方を使うことが多いです。咳が強い場合は麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、胃腸風邪に藿香正気散(はっこうしょうきさん)を使ったりします。
風邪の予防や長引く風邪にも葛根湯
葛根湯を使う場合は、風邪の引き始め、というのがポイント。まだ引いていない状態で葛根湯を使うのは、全く予防にならないばかりか、逆に体調を悪くすることもあるので気をつけましょう。
もし免疫力を高めて風邪をひきたくない、という場合は、玉屏風散(ぎょくへいふうさん)というものがおすすめです。季節の変わり目やちょっとしたことですぐ風邪をひく、という人は身体のバリア機能が弱っていることがあります。玉屏風散はそのバリア機能を高めてくれる漢方薬です。
また、風邪症状が治ったらダラダラと葛根湯を飲まないことも大切ですし、こじらせてしまった風邪には別の漢方薬の方がおすすめです。風邪症状は治ったものの体力が回復していない場合は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など体力を補う漢方薬を飲んだり、しっかり休息と栄養補給を心が得ることが大切です、また、こじらせてしまった風邪には柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)を使うことが多いです。
虚弱体質で飲むと胃が痛くなるが葛根湯を使っている
葛根湯を使う症状に当てはまっていても、もともと胃腸が弱い人や体力があまりない人は、他の漢方薬の方が良い場合があります。
例えば、葛根湯を飲むと身体がだるくなる、胃腸が痛くなる、という場合は体力的に合っていないことが考えられます。葛根湯は発汗させるために麻黄(まおう)という生薬を含んでいるのですが、体力があまりない体質の方だと少し強く感じることがあります。
その場合は、葛根湯から麻黄などいくつかの生薬が抜けている桂枝湯(けいしとう)という漢方がおすすめ。桂枝湯も寒さの風邪に使い、比較的体力のない方でも使いやすい漢方薬です。
頭痛・肩こりにずっと飲んでいる
ここまでは風邪に関係する症状でしたが、意外に多い使い方に葛根湯を頭痛や肩こりに用いる、という方法です。もちろん、風邪の初期にある症状ですから急に起きた後頭部の頭痛や肩こりには効果的なことが多いです。しかし、慢性の頭痛・肩こりの場合に使うと、毎日飲んでいることになる人もいるので注意が必要です。
葛根湯は長期に飲むように作られた漢方薬ではありません。風邪を散らすために作られた漢方薬ですから、そのために体力を奪ってしまいます。長期で服用すると体力の低下や疲れやすさが見られることがありますから、頭痛・肩こりに使う場合は頓服(症状がある時にその時だけ飲む)に留めるようにしましょう。
頭痛や肩こりにはいろいろな原因があります。血流が悪くなっている状態(瘀血)、貧血、身体の潤い不足、ストレスなどがあり、漢方薬もそれによって変わります。もし毎日葛根湯を飲んでいる場合は、漢方薬局などで相談してみた方が身体の負担なく改善しやすいかもしれません。
身近な漢方薬で風邪を早めに解消することができれば、体力の消耗も少なく、早く回復できます。しかし、最も大切なのは風邪にかからないように日頃から免疫力を高めることです。そのためには、しっかりと睡眠時間を確保し、栄養バランスの良い食事を摂り、規則正しい生活を心がけることが最も有効です。風邪を引かず、日々元気に過ごせるようにしていきましょう。
書籍紹介
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