投資信託の運用には、数種類の手数料がかかります。これらの手数料は意外に運用のパフォーマンスに影響するため、できるかぎりこれらのコストを少なくすることが大切です。また、手数料以外に運用益にかかる税金対策も考える必要があります。今回は、初めて投資信託を買う人向けに手数料や税金について解説し、コストや税金を抑えて手元にお金を多く残す方法も紹介します。
この記事を読んでわかること
- 投資信託の主な手数料は購入時手数料・信託報酬・信託財産留保額の3種類
- 信託報酬は投資信託の運用中に必ずかかるため、できるだけ安い商品を選ぶべき
- 投資信託の運用益には税金がかかるため、つみたてNISAなどの非課税制度を利用するとよい
※本記事は、2023年以前のNISA制度について記載しています。新NISA制度については以下の記事をご確認ください。
投資信託の手数料とは?
投資信託の購入から売却までの間には、直接的または間接的に負担する以下のような手数料があります。
支払いのタイミング | 支払い方法(直接・間接) | |
購入時手数料 | 購入時 | 直接 |
信託報酬 | 保有中 | 間接 |
信託財産留保額 | 解約時 | 直接 |
監査報酬 | 保有中 | 間接 |
売買委託手数料 | 保有中 | 間接 |
購入時手数料
購入時手数料は販売手数料ともいい、投資信託の購入時に販売会社である銀行や証券会社に直接支払います。同じ銘柄でも販売会社によって手数料が異なる場合もあり、注意が必要です。
購入時手数料は購入価額に対し決められた手数料率を乗じて求め、消費税もかかります。例えば、購入金額が10万円、手数料率が1%であれば、購入時手数料は1,100円(10万円×1.1%)です。
また、購入時手数料が0%の投資信託もあり、ノーロードファンドと呼びます。
信託報酬
信託報酬は運用管理費用ともいい、投資信託の運用にかかる費用です。信託報酬は投資信託の販売会社や、信託財産を預かる信託銀行、運用指図をする運用会社の3者で分配されます。
信託報酬は資産総額に対して、ファンドごとに決められた乗率を掛けて求めます。信託報酬は毎日の基準価額を計算する際に、信託財産から差し引かれます。日々公表される投資信託の基準価額は、信託報酬が引かれた後の金額というわけです。
信託報酬の年率は、投資信託の目論見書に記載されています。一般的にアクティブファンドは信託報酬が高く、インデックスファンドは信託報酬が低めの傾向があります。信託報酬は投資信託の保有中は必ず発生するので、購入時に年に何%かを必ず確認しましょう。
信託財産留保額
信託財産留保額は、投資信託を解約する際に換金代金から差し引かれるお金です。差し引かれた信託財産留保額は販売会社や運用会社が受け取るのでなく、信託財産に加算されます。
信託財産留保額は、基準価額に対してファンドごとに決められた乗率を掛けて計算される仕組みです。最近では多くの投資信託で、信託財産留保額がかからなくなっています。
監査報酬
投資信託の監査報酬とは、運用が公正に行われているか監査するための費用です。監査は投資信託ごとに受けることが義務づけられており、利害関係のない監査法人に監査報酬が支払われます。監査報酬は信託財産から間接的に負担する仕組みです。
売買委託手数料
売買委託手数料は投資信託の保有中に発生する手数料で、株式や債券の売買で証券会社に支払います。売買の都度、ファンドの資産から支払われるため、投資家が間接的に負担しています。運用の結果として発生する費用なので、事前にいくらかかるかはわかりません。
頻繁に組み入れ資産を入れ替えるファンドの手数料は高くなり、ほとんど入れ替えないファンドでは手数料は安くなる傾向があります。
投資信託の手数料を抑える方法
投資信託の運用で収益を効率的に得るには、手数料の負担を下げる必要があります。ここでは、投資信託の手数料を抑える方法を紹介します。
インデックスファンドを選ぶ
投資信託を購入する場合、信託報酬が低めのインデックスファンドを選ぶようにしましょう。
投資信託にはインデックスファンドとアクティブファンドの2種類があります。インデックスファンドとは日経平均株価やS&P500のような特定の指数(インデックス)に連動する成果を目指す投資信託です。一方、アクティブファンドは特定の指数を上回る成果を目指す投資信託です。
一般的にはシンプルな投資手法であるインデックスファンドのほうが、アクティブファンドより信託報酬が低い傾向にあります。
以下は、インデックスファンドとアクティブファンドの信託報酬の一例です。
投資信託の種類 | ファンド名 | 信託報酬 |
インデックスファンド | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 0.09372%以内 |
アクティブファンド | キャピタル世界株式ファンド | 1.701%程度 |
たとえば、上記の例で保有資産額が100万円だとすると、インデックスファンドの信託報酬は937円、アクティブファンドは1万7,010円と大きな差がつきます。アクティブファンドがよほどの好成績でないと、目標の指数を上回るのは難しいのが現状です。
そのため、長期投資で資産形成を目指すなら、インデックスファンドを選ぶほうが効率的な運用を期待できます。
ノーロードファンドを選ぶ
投資信託はなるべく購入時に手数料がかからない、ノーロードファンドを選びましょう。投資信託の購入時手数料は、同じファンドでも販売会社ごとに異なります。ある販売会社では1%でも、別の販売会社ではノーロードのケースもあるのです。その投資信託を取り扱う金融機関を調べ、手数料の低い販売会社で購入しましょう。
ただし、ノーロードファンドを選んでも信託報酬のようなその他のコストが高めの場合、かえって負担が大きくなるおそれもあります。投資信託を選ぶ際には、購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額を必ずチェックしましょう。
信託財産留保額のないファンドを選ぶ
解約時に費用をかけないために、信託財産留保額がかからない商品を選びましょう。
投資信託を解約する場合、信託財産留保額を徴収されますが、ファンドによっては信託財産留保額のないものもあります。その場合、解約しても手数料を差し引かれないので、コスト削減につながります。
信託財産留保額の有無は目論見書に記載されていますので、投資信託の購入時には必ず確認しましょう。
投資信託の手数料の相場
投資信託の手数料が高いか安いかを判断するには、それぞれの手数料の目安を知らなければなりません。ここでは、投資信託の購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額の相場を紹介します。
購入時手数料の相場は0~5%
投資信託の購入時にかかる購入時手数料の目安は、購入代金の0%から5%です。たとえば、基準価額が1万5,000円(1万口)の投資信託を10万口買い付け、購入時手数料率が1.0%だった場合の手数料は、1,500円(1万5,000円×10×1.0%)となります。
信託報酬の相場は0.5~2.5%
投資信託の保有中にかかる信託報酬の相場は0.5%から2.5%程度です。一般的にインデックスファンドの信託報酬は1.0%以内、アクティブファンドは1.0%以上が目安となっています。最近では信託報酬を引き下げるファンドもあり、インデックスファンドの中には0.1%を切る商品も出てきました。
例えば、保有する投資信託の資産額が100万円で信託報酬が0.5%だとすると、1年間に信託報酬が5,000円かかります。1.5%であれば、1万5,000円です。1年では5,000円と1万5,000円ですが、10年では5万円と15万円となり、大きな差がつきます。
信託報酬は間接的な負担のため、保有中もかかっていることを実感する機会はあまりないでしょう。しかし、実際には投資信託のリターンに影響するため、なるべく低めの商品を選びましょう。
信託財産留保額の相場は0%~0.3%
信託財産留保額は、投資信託の基準価額に対して0%~0.3%程度が目安です。基準価額2万円(1万口)、信託財産留保額0.3%の投資信託を10万口解約する場合、600円(2万円×10×0.3%)が解約代金から差し引かれます。
投資信託の手数料は目論見書で確認を
投資信託の購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額は目論見書に記載されています。購入前に必ず目を通しましょう。
手数料以外にかかるコストと対策
投資信託の運用には各種手数料以外に、税金について考える必要があります。ここでは、投資信託の運用にかかる税金とその対策について解説します。
手数料以外に税金がかかる
投資信託にかかるお金には購入時手数料や信託報酬などの手数料の他に、運用益に対してかかる税金があります。
投資信託を解約した際の価額が、平均取得価額を上回り利益が出る場合、差額が譲渡所得として課税される仕組みです。
また、投資信託の保有中に支払われる分配金も、配当所得として課税される場合があります。投資信託の分配金には、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2種類があります。普通分配金とは運用益から支払われる分配金で、元本払戻金は運用益ではなく、元本の払い戻しです。そのため、普通分配金は課税対象となりますが、元本払戻金には課税されません。
譲渡益・分配金のいずれについても、かかる税金は所得税・住民税・復興特別所得税で、税率は20.315%です。
税制優遇制度を利用しよう
投資信託の運用益に税金がかからなくするには、税制優遇のある制度、NISAやiDeCoの活用が効果的です。
一般NISA
NISA(少額投資非課税制度)は2014年に始まった個人向け投資の税制優遇制度で、成人向けに一般NISAとつみたてNISAがあります。一般NISAではNISA口座で買い付けた運用商品が年間120万円までであれば、5年間運用益に税金がかかりません。
なお、一般NISAの投資対象はつみたてNISAに比べて幅広く、上場株式や投資信託などがあります。買い付け方法は一括買い付け、積立のどちらも可能です。
NISAは2024年から抜本的に拡充された新しい制度になり、一般NISAは成長投資枠に変わります。非課税期間が無期限になり、1年間の非課税枠も240万円までに拡大されます。
つみたてNISA
つみたてNISAは積立投資に特化した制度で、NISA口座で積み立てた運用商品が年間40万円までであれば、20年間運用益に税金がかかりません。つみたてNISAの投資対象は、金融庁が選定した一定の条件を満たす投資信託またはETFです。
2024年からの新NISAでつみたてNISAはつみたて投資枠に変わり、1年間の非課税枠は120万円に引き上げられます。同じく非課税期間が無期限になり、非課税保有限度額も成長投資枠とあわせて1,800万円まで利用できるようになります。
iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは個人が任意で加入する、公的年金の上乗せ制度です。加入者が掛金を自分で運用します。iDeCoでは、掛金、運用益、そして給付を受け取るときに、税制上の優遇措置が受けられます。NISA同様、運用益に税金はかかりません。
iDeCoの運用商品は金融機関(運営管理機関)ごとに用意される、定期預金などの元本確保型と投資信託です。
NISAは運用資産をいつでも引き出せますが、iDeCoは60歳まで引き出せない点に注意が必要です。
おわりに
投資信託で着実に資産形成していくには、かかるコストや税金を抑えることが大切です。投資信託の手数料のうち、信託報酬は運用中に必ずかかります。初心者はインデックスファンドのような信託報酬が低いファンドを選んで、コストを抑えた運用をしましょう。また、運用益にかかる20.315%の税金は、NISAのような非課税制度を利用するとかかりません。投資信託を購入するなら非課税限度額までは、NISAを利用しましょう。