老後に向けた資産形成の手段として、近年人気を集めている「iDeCo(イデコ)」。うまく利用すれば税制優遇を受けながらお得に資産を増やせる反面、場合によっては、損失が出て元本割れしてしまう可能性もあります。
この記事では、iDeCoの元本割れリスクやその対処法について解説します。
「iDeCoを始めてみたいけど損するのが怖い」「iDeCoの運用がうまくいっていなくて不安」という人はぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- iDeCoには「元本割れ」のリスクがある
- iDeCoでは元本確保型の商品も選べる
- 元本割れしたときは投資先の見直しや静観も1つの方法
iDeCo(イデコ)の基本をおさらい
まずは、iDeCoとはどのようなものか、おさらいしておきましょう。
iDeCoとは任意で加入できる年金制度のことで、「個人型確定拠出年金」とも呼ばれています。自分でお金を積み立てて、自分で投資先を選んで運用し、その運用成果に応じた金額を老後に受け取れるという仕組みです。「自分で自分のために用意する年金」と考えましょう。
iDeCoは、原則、20歳以上から65歳未満のほとんどの方が加入できます。
詳しくは後述しますが、iDeCoなら通常の資産運用にはない税制上の優遇措置を受けられます。税金という大きなコストを抑えながら投資できるため、NISA制度と並んで近年注目を集めています。
iDeCoの特徴
iDeCoには、次のような特徴があります。
- 自分で運用先を決める
- 60歳以降に資産の引き出しが可能
- 税制が優遇される
- 手数料が必要
iDeCoの特徴を把握しておけば、メリットやデメリット、リスクを理解しやすくなります。
以下では、それぞれについて解説します。
自分で運用先を決める
iDeCoの特徴の1つとして「自分で運用先を決める」という点が挙げられます。
iDeCoに加入したら、毎回積み立てるお金(掛金:かけきん)を自分で選んだ運用商品で運用していくことになります。運用商品には安全性が高いが大きな利益を期待できない元本確保型とリスクがあるが、大きな利益を得られる可能性がある元本変動型があり、代表的商品として「定期預金」「保険」「投資信託」といった種類があります。どの運用商品を選んだかによって、お金の増え方が変わります。
最終的に受け取れる金額は、運用成果次第です。そのため、うまく運用できれば大きな利益を得られる可能性がありますが、失敗した場合は損失が出て元本割れ(投資した金額よりも受け取れる金額の方が少ない状態)になる可能性もあります。
60歳以降に資産の引き出しが可能
iDeCoでは、原則として60歳になるまで資産の引き出しができません。
iDeCoはあくまで老後資金確保のための制度です。そのときが来るまでは、たとえ自分のお金であっても自由に使えないので注意が必要です。老後まで引き出せないという制限がある分、ほかにはない大きな税制優遇が認められています。
お金を引き出せる時期は従来「60歳から70歳まで」でしたが、2022年4月以降は「60歳から75歳まで」に延長されました。
税制が優遇される
iDeCo最大の特徴とも言えるのが、特別に認められた大きな税制優遇です。以下の3つの優遇措置をすべて利用できるため「節税効果が高い」と言われています。
- 掛金の全額が所得控除となる
- 運用で発生した利益が非課税になる
- 受け取り時に控除がある
掛金の全額が所得控除となる
iDeCoの掛金は、全額が所得控除の対象となります。つまり、所得税と住民税の負担が軽減するということです。「iDeCo公式サイト」によると、仮に所得税率10%、住民税率10%の方が毎月1万円ずつ(年間12万円)掛金として拠出すると、年間2.4万円税金が軽減されます。
運用で発生した利益が非課税になる
通常は、金融商品を運用して得た利益には20.315%の税金がかかります。しかし、iDeCoの場合は非課税となり全額再投資にあてられます。
受け取り時に控除がある
受け取るときも大きな控除の対象になるため、税負担を抑えられます。年金として少しずつ受け取った場合は公的年金等控除、一時金としてまとめて受け取った場合は退職所得控除の対象です。
手数料が必要
iDeCoの注意点として知っておきたいのが、手数料がかかるという点です。
【iDeCoの手数料】
加入時(初回1回のみかかる) | 2,829円 |
拠出時(毎月継続してかかる) | 積立を行う場合:171円~500円程度(金融機関による) |
給付時(受け取るたびにかかる) | 440円 |
このほか、国民年金の未納などの理由で掛金が返還されるときは還付手数料(1,488円~)、iDeCoの金融機関を変更するときには移管時手数料(4,400円程度)などがかかる場合があります。
また、運用商品として投資信託を選択した場合は、上記とは別に信託報酬(運営管理費用:毎月かかる)などのコストが発生します。詳しくは後述しますが、手数料が原因で元本割れになるケースもあるので注意が必要です。
iDeCo(イデコ)の主な商品
iDeCoでは、大きくわけて次の2つのタイプから運用商品を選択できます。
- 元本確保型
- 元本変動型(投資信託)
それぞれの特徴について見ていきましょう。
元本確保型
元本確保型とは、原則として元本(投資した金額)が減らない運用商品を指します。保有していれば確実に利息を得られるので「運用に失敗して損失が出る」というリスクが低いのが特徴です。しかし、その分リターンも少なめです。
具体的には、定期預金や保険商品などが該当します。iDeCoの枠内で取り組むことで、一般的な定期預金や保険と違い、前述のような税制優遇を受けられるのがメリットです。
元本変動型(投資信託)
元本変動型には、元本の保証がありません。運用のやり方やそのときの経済情勢などによって資産額が変動します。前述の元本確保型よりもリスクがある分、高いリターンを目指すことも可能です。
iDeCoでは、元本変動型の運用商品は「投資信託」に限定されています。投資信託とは、投資家から集めたお金をまとめて、運用のプロ(ファンドマネージャー)が株式や債券などの資産に配分して運用するしくみです。運用をプロにおまかせできるため、投資初心者でも比較的挑戦しやすい運用商品と言われています。
ただ、ひとくちに投資信託といってもさまざまな種類があり、それぞれリスクもリターンも手数料も異なります。一般的には、リスクとリターンは以下のように比例関係にあります。
「ローリスク=ローリターン」「ハイリスク=ハイリターン」が原則です。選び方を間違えると「思った以上にリスクを取っていてお金が減ってしまった」「もっと積極的にお金を増やしたかったのに全然増えない」といった失敗につながるので、自分に合った投資信託を慎重に選択したいところです。
iDeCo(イデコ)で元本割れする可能性
iDeCoには、元本割れ(投資した金額より受け取れる金額の方が少ない状態)になる可能性があります。
投資である以上は避けられないことですが、運用先の選び方を間違えたり、経済状況が悪化したりすると運用実績が伸びず、損失が出てしまうというリスクを抱えています。「リスクを取って挑戦しているからこそ、うまくいったときには大きなリターンを得られる」という面もあるので、一概に悪いとは言えませんが、失敗が気になる人もいるでしょう。
「元本割れが怖いから元本確保型の商品で運用しよう」という方もいますが、実は元本が保証されているはずの元本確保型であっても、元本割れが起こる可能性はゼロではありません。ではどんなケースで元本割れが起きるのでしょうか。
リスクを正しく理解するため、iDeCoで元本割れが起こる理由を知っておきましょう。以下では、主な2つのケースについて解説します。
手数料が運用益を上回ってしまう
前述のとおり、iDeCoでは特有の手数料が発生します。元本確保型であれば決められた利息が上乗せされるため安全と思いがちですが、運用益より手数料の方が高い状態だと、じわじわとお金が減っていって元本割れに近い状態になってしまうことがあります。いわゆる「手数料負け」という状態です。
なお、iDeCoではたとえ運用を止めたとしても、口座がある限り手数料がかかり続けます。1ヶ月あたり数十円~数百円のコストでも、長期間に渡ってずっと続くことを考えると大きな負担になるので要注意です。
経済情勢に左右される
そもそも元本が保証されていない元本変動型の場合、大きな経済不況が起きると大幅に値崩れが起こることがあります。実際、過去には「リーマンショック」や「新型コロナウイルスショック」などと呼ばれる経済危機が起きています。
一般的には、大暴落が起きたあとでもしばらくすると上昇に転じ、回復する傾向があります。しかし「そろそろお金を受け取り始めようかな」と思っていたタイミングで大きく下落してしまい、資金計画が崩れる方もいます。
投資する商品や年金によって元本割れのリスクは異なるので、選び方や組み合わせ方を工夫してコントロールするのが理想的です。
iDeCo(イデコ)で元本割れしたときの対処法
もしiDeCoで元本割れしてしまったらどうすればいいのか、対処法を紹介します。
経済情勢の回復を待つ
意外かもしれませんが、特に何もせず様子を見守るのも1つの方法です。
たとえ大きな経済危機に見舞われても、時間が経つにつれて回復する傾向があります。不況の時期が訪れても、じきに好況な時期が訪れると考え、今までどおり投資を継続していくというのも立派な投資戦略です。
iDeCoの場合、毎月一定の金額ずつ積み立てて運用商品を購入するのが基本です。相場が下がっている時期は、たしかに資産が少なく見えて不安になってしまうかもしれませんが、同じ金額でも購入できる量が増えるためお得に投資できる時期と捉えることもできます。
常に一定額を定期的に購入する手法は「ドルコスト平均法」と呼ばれ、投資の王道的なやり方として知られています。ドルコスト平均法なら、安いときはたくさん買って、高いときは少しだけにして、平均購入単価を下げて利益を得やすくするということがほぼ自動的にできます。知識も経験もいりません。
保有資産の配分を再検討する
資産配分を見直すことも検討してみましょう。
たとえば投資信託に投資している場合、価格変動が大きい分、ハイリターンが望める外国株式中心の投信信託から、リターンは少ないが低リスクの国内債券中心の投資信託にチェンジするなどです。掛金全額を投資信託に充てていた方が「投資信託:8割、定期預金:2割」のように変更するのもリスクを抑えることにつながります。
投資方針を転換して、資産配分を見直すことを「アセット・アロケーション」と呼びます。「今の状態で投資を継続するのが怖い」「リスクを取り過ぎているかもしれない」という方は特に、このままで問題ないか、変更すべきかよく考えてみましょう。
ただ、市場の動向を気にしすぎて「下がったときに慌てて商品を変更して、上がったときに焦って買って」という行動を取ってしまうと、運用で利益を出すのが難しくなるので注意が必要です。
投資先を分散する
投資先を1つに絞らずいくつかに分散させると、リスクを抑える効果が高くなります。投資先が複数あれば、もし1つが下落してしまっても、残りが上がっていれば損失をカバーできます。
これは「分散投資」と言い、金融庁も公式サイトで推奨しています。複数に投資する場合でも、同じような運用商品を選んでしまうと分散の効果が薄くなるため、投資する資産(株式、債券など)や投資する地域(国内、海外など)がバラバラになるように組み合わせるのがおすすめです。
また、投資信託と元本保証型の商品(定期預金や保険)を組み合わせるのも、分散投資として有効です。
おわりに
iDeCoは比較的安定して資産を増やせる手段として利用されていますが、それでも元本割れになる可能性はゼロではありません。
投資信託の運用成果はその時の経済動向などに左右されますし、元本確保型の商品を選んだ場合でも、手数料が負担になって元本割れのような状態になることがあります。
一時的に元本割れになったからといって焦らず、長期的な視点で運用するのがおすすめです。不安な場合は運用先の変更も可能ですし、分散投資を心がけていればリスクを抑えやすくなります。