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【確定申告シリーズ】個人事業主だから可能…“節税”しながら“資産形成”できる「小規模企業共済」とは

【確定申告シリーズ】個人事業主だから可能…“節税”しながら“資産形成”できる「小規模企業共済」とは
辻 哲弥(税理士・公認会計士)

執筆者

税理士・公認会計士

辻 哲弥

有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事。23歳時、「日本一若い会計事務所」として”ACLEAN(アクリーン)会計事務所”を開業。スタートアップ、マイクロ法人を中心とした税務業務や補助金・融資等の資金調達支援、経理を対象とした業務改善コンサルティングを展開。 2023年に同事務所を”税理士法人グランサーズ”と統合。同法人の代表に就任。中小企業の税務顧問対応、内部統制構築支援、組織再編支援、事業承継・企業のクラウドサービス活用と経理効率化サービスも提供。また、自身のボディメイクの経験を活かした健康経営に関するコンサルティングも得意としている。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」絶賛配信中。

会社勤めのサラリーマンには勤務先によっては退職金制度が備わっていますが、個人事業主や中小企業の経営者は、勇退しても退職金がありません。したがって、現役のときからあらかじめ自分で老後資金を積み立てていく必要があります。そのために役立つ制度のひとつが、「小規模企業共済」です。税理士・辻哲弥氏(税理士法人グランサーズ共同代表)が解説します。

小規模企業共済とは

小規模企業共済とは

小規模企業共済は個人事業主や小規模企業の経営者のための積み立てによる退職金制度です。国の機関である中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。

毎月「掛金」を積み立てていくことで、事業を廃止したときや、65歳以上で一定の条件を満たしたとき等に「共済金」を受け取ることができます。共済金は3種類あり、個人事業主の場合、共済金の支払事由は以下の通りです。

  • 共済金A:廃業した場合や亡くなった場合
  • 共済金B :65歳以上で掛金を180ヵ月以上払い込んだ場合
  • 準共済金:法人成りして個人事業主でなくなった場合

掛金は月1,000円~7万円の範囲内で、500円単位で自由に設定することができます。

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済のメリットは以下の通りです。

  1. 掛金が全額所得控除になる
  2. 共済金の受取時に税制優遇を受けられる
  3. 低利で契約者貸付を受けられる

それぞれについて説明します。

メリット1. 掛金が全額所得控除になる

前述のように、小規模企業共済の掛金は月額1,000円~7万円までの範囲内において500円単位で自由に設定できます。そして、この掛金の全額を所得税及び住民税の計算上、所得金額から控除することができます。

たとえば、掛金月額最大の7万円を1年間払い込む場合、所得控除額は7万円×12か月の84万円となり、退職金を積み立てながら所得も控除することができるため、高い節税効果を得られます。

メリット2. 共済金の受取時に税制優遇を受けられる

退職・廃業時に受け取れる「共済金」は、一括で受け取った場合も、分割して受け取った場合(年金受け取り)も、税制上の優遇措置を受けることができます。

すなわち、一括で受け取った場合は「退職所得」扱いになり、「退職所得控除」を受けられます。また、年金受け取り(分割受け取り)の場合は公的年金等の「雑所得」扱いになり、「公的年金等控除」を受けられます。

メリット3. 低利で契約者貸付を受けられる

小規模企業共済に1年以上加入している場合、加入者は契約者貸付を受けることができます。借入限度額はそれまでに払い込んだ掛金総額の7割~9割となります。

利率は、「一般貸付け」の場合は年1.5%と低く、また、面倒な審査もないためすぐにお金を受け取ることができます。

銀行からお金を借りる場合は2%前後の利率となるため、低金利で融資を受けられることになります。

資金の使い道に制限はなく、一般貸付けは事業資金全般に利用できるため、いざという時にまとまった資金が必要になるケースのある経営者にはぴったりの制度といえます。

契約者貸付の借入期間は貸付額によりますが、100万円以下の場合は1年以内に一括で返済する形となります。ただし、「一般貸付け」だと借入限度額の範囲内であれば何度でも借り入れができます。したがって、新しく借り入れることによってそれまでに借りていた借入金を返す「借り換え」も可能です。

もし返済期限までに一括で完済できなくても、この借り換えを利用することにより、借入期間を延長することができるのです。なお、この場合、新しい借入金の利子(100万円を借り入れる場合は年1.5万円)を一括で前払いする必要があります。

もし、借入期間を過ぎても返済せず、借り換えもしない場合は、延滞利子が年間14.6%となってしまうため注意が必要です。

小規模企業共済のデメリット

小規模企業共済のデメリット

小規模企業共済のデメリットは以下の通りです。

  1. 加入後20年未満で「中途解約」をすると「元本割れ」する
  2. 途中で減額すると減額分の掛金は運用されず放置される

デメリット1:加入後20年未満で「中途解約」をすると「元本割れ」する

廃業や勇退などの「共済金」の受取事由がないのに小規模企業共済を中途解約(任意解約)した場合、「解約手当金」を受け取ることができます。しかし、加入期間が20年未満の場合はその額が掛金総額を下回り「元本割れ」してしまいます。

また、掛金を支払う最初の1年目に任意解約をした場合、解約手当金は1円も受け取れないため、注意が必要です。

中途での任意解約でも、20年以上加入している場合であれば掛金を支払った月数に応じて掛金合計額の100~120%の額を受け取ることができます。しかし、廃業や勇退によって受け取れる「共済金」より損することは否めません。できれば中途解約は避けたいものです。

なお、途中で掛金の支払いが厳しくなることがあるかもしれません。その場合の対処法は後ほど改めてお伝えします。

デメリット2. 途中で減額すると減額分の掛金は運用されず放置される

中途解約しなくても、途中で掛金を減額した場合、減額分については、それ以後運用されず、放置されることになります。

たとえば、掛金月7万円で加入した後、途中で月4万円に減額した場合、それまで支払ってきた掛金のうち差額の3万円に相当する分については、運用がストップします。

これは大変もったいないことなので、中途解約(任意解約)はもちろん、掛金の減額も、できれば避けたいものです。

掛金の支払が厳しくなった場合も安心の制度設計

掛金の支払が厳しくなった場合も安心の制度設計

以上のように、小規模企業共済は、廃業や勇退といった事情がないのに途中で任意解約や掛金の減額を行うと、損をするというデメリットがあります。

しかし、安心してください。掛金の支払いが厳しくなった場合のための制度が用意されています。

第一に、「掛止め」の制度です。所得がない場合や災害に遭遇した状況など、掛金の納付が著しく困難な場合は、半年または1年の間、掛金の払い込みを止めることができます。掛止めした期間は加入期間から除外されますが、少なくとも加入期間中は掛金がきちんと運用されます。なお、「掛止め」の事由が1年を超えて長期化する場合には、廃業や引退といった「共済金」の支払事由に該当する可能性が高いと考えられます。

第二に、前述した「契約者貸付」の制度です。低利で借り入れをして、それを掛金の支払いに充てることもできます。

このように、「小規模企業共済」は、掛金を払い込むときと共済金を受け取るときのいずれも高い節税効果が得られ、かつ、急な資金需要にも対応できる契約者貸付の制度も利用できます。さらに、途中で掛金の支払いが困難になった場合にも、ある程度対応できる制度設計がなされています。

引退後の資金を積み立てるため利用できる税制優遇の制度としては他にiDeCo等がありますが、小規模企業共済は個人事業者等に特化した制度といえます。他の制度と併用するか、比較してご自身に合った方法を選択することをおすすめします。

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