ウチは相続税がかかるのか、いくらかかりそうか、知っておくことが大事
自分の相続、あるいは親の相続をどのようにしていくのか、ある程度の年齢になれば考えておくことは大事なことですね。相続税の負担で残された家族の生活が揺らがないよう、また、無益な相続争いにならないよう、問題になりそうなことがあれば、あらかじめ手を打っておくことです。
そのひとつとして、財産の棚卸しをしたうえで、相続税の試算をしておくことをおすすめします。正確に相続税を計算するのであれば、専門家である税理士に頼んだ方が良いのでしょうが、とりあえず概算でも知っておきたい、ということであれば、自分でやってみることです。その簡単なやり方について、今回、ご紹介したいと思います。
相続税試算の簡単な手順
相続税の試算は、次のように行っていきます。
(1)法定相続人の確認
(2)財産の棚卸しおよび評価
(3)不動産の評価減の計算
(4)相続税の総額の計算
(5)配偶者の税額軽減の確認
では、以下、ひとつずつ解説していきます。
法定相続人の確認
まずは、法定相続人が何人いるのかを確認します。一般の家庭の場合は、配偶者と子ということが多いでしょう。ただし、これは第1順位の法定相続人であり、子がいない場合は、次のとおり第2順位、第3順位となっていきます。
- 第1順位 配偶者と、子(直系卑属)
- 第2順位 配偶者と、親(直系尊属)
- 第3順位 配偶者と、兄弟姉妹
上記のとおり、配偶者は常に法定相続人となります。第1順位の場合、子が先に亡くなっている場合は、その子(孫)が代襲相続人となります。孫が亡くなっている場合は、さらに下の代に代襲していきます。養子がいる場合は、養子も子として法定相続人となります。
子がいない場合は、第2順位となり配偶者と親が相続人となります。親が亡くなっている場合は、さらに上(祖父母)にいきますが、滅多にないケースですね。
親や祖父母は既に亡くなっているケースは多いですので、その場合には第3順位となり、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子(甥や姪)が代襲相続人となります。兄弟姉妹の場合は、代襲は次の代(甥や姪)までとなります。
以上のようにして、まずは法定相続人を確認し、その数が相続税の計算に影響してきます。なお、養子の場合の相続税計算における数は、実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合は1人までしかカウントされません。これは養子を増やすことによる安易な相続税対策を防止するために設けられた規定です。
財産の棚卸しおよび評価
次に財産の棚卸しおよび評価を行います。相続税試算においては、主な財産のみピックアップして計算すれば良いでしょう。主な財産には、次のようなものがあります。
①不動産
②現預金
③有価証券
④生命保険
⑤その他の財産
⑥債務
では、財産ごとに簡単な評価の方法をご説明いたします。
①不動産
土地の評価方法には、路線価評価と倍率評価があります。市街地にある土地は路線価評価により、路線価がついていない郊外などは倍率評価によります。自分の保有する土地の評価方法や、路線価がいくらかは、国税庁のWEBサイトで簡単に検索することができます。同WEBサイトにて、その土地の所在する都道府県、市区町村等を選択していくことにより、その土地が所在する地域の路線価図が出てきますので、簡単に確認することができます。
毎年7月初めにその年分の路線価等が発表されますので、是非、確認してみてください。なお、路線価は㎡当たりの価格が千円単位で表示されています。また、ABC等によりその地域の借地権割合なども表示されています。
自分の土地の前の道路の路線価に土地の地積を乗じることにより、土地の概算評価額を計算することができます。土地が借地権である場合は、それに借地権割合を乗じて借地権の価額を計算します。
倍率評価の場合は、所有する土地の固定資産税評価額に同WEBサイトに掲載されている地域ごとの倍率を乗じることにより、土地の評価額を計算することができます。
次に建物の評価ですが、これは固定資産税評価額をそのまま使います。固定資産税評価額は、毎年4月~6月に市区町村等から送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されています。最後のページあたりに、土地と建物に分かれて価額が記載されていますので、確認してみてください。
②現預金
現預金は評価するまでもありませんね。その額がそのまま相続税の対象となります。なお、タンス預金などで多額のお金が家にあるケースなども、たまに見かけます。これも当然、相続財産になりますので、計算には入れておく必要があります。
③有価証券
これには、上場株式や債券、投資信託などがあります。実際の相続税評価では、相続時の時価の他、相続前3ヵ月間の平均株価などのうち、最も低い価額で評価することができます。
ただし、試算では試算時の時価で評価すれば良いでしょう。
また、有価証券には上場しているものだけでなく、非上場株式などもあります。この評価方法は複雑になりますが、試算においては貸借対照表の純資産の部の合計を発行済み株式数で除して1株あたりの金額を計算し、持株数を乗じる方法でも構わないでしょう。他人が経営する会社であれば、出資した額を評価額としておく程度でも良いと思います。
④生命保険
死亡保険金は、相続財産になります。終身保険は必ず支払われる保険ですが、特約で付いている定期保険などは何歳までとなっていると思いますので、確認しておいてください。なお、死亡保険金は、500万円×法定相続人の数まで、相続税が非課税となります。それを超える金額が相続税の対象となりますので、課税対象になる金額を計算しておきます。
現在の死亡保険金が非課税の範囲に満たないのであれば、その分新たに生命保険に入っておくことにより相続税対策にもなります。
⑤その他の財産
その他、次のような財産も相続財産になります。該当するような財産があれば、試算に組み入れてください。
- 貴金属や書画骨董で高価なもの
- 自動車や船舶など
- ゴルフ会員権やリゾートクラブの会員権など
- 金地金
- 貸付金や未収金
- 事業をしている方の事業用資産や死亡退職金
- 海外資産
なお、死亡退職金は500万円×法定相続人の数まで非課税となります。また、墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしているものも非課税となります。
⑥債務
債務はマイナスの財産として、相続財産から控除することができます。アパートローンや事業ローン、車のローン、親族や他人からの借入金、賃貸業をしている場合は、賃借人より預かっている敷金などです。ただし、住宅ローンなどで団体信用保険に入っているものは、死亡時に債務がなくなりますので、控除することはできません。
不動産の評価減の計算
次に不動産の評価減を検討します。不動産の評価をしながら評価減を検討しても良いですね。評価減は下記に該当するような場合に行うことができます。
①アパートなど賃貸経営をしている場合(土地の評価減)
アパートやマンション、戸建ての賃貸、店舗や倉庫などを賃貸している場合、その敷地は貸家建付地といいます。貸家建付地の評価は、次のように行います。
●貸家建付地の評価額 = 土地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合)
借地権割合は前述したとおり、路線価図に記載されています。住宅地では60%あるいは70%であることが多いです。借家権割合は一律30%です。
したがって、上記算式のカッコ内の掛け算は、借地権割合60%または70%×借家権割合30%で、18%または21%となります。これが評価減される割合です。すなわち、貸家建付地は約20%評価減される、と覚えていただければと思います。
なお、正確には上記計算式に賃貸割合を加味することになります。アパート賃貸を行っていても空室になっていると、評価減がされない場合があります。相続税対策のためにも常に満室にするようにしておくことが大事ですね。
②アパートなど賃貸経営をしている場合(建物の評価減)
①で賃貸している建物を貸家といいます。貸家の評価は、次のように行います。
●貸家の評価額 = 建物の評価額×(1-借家権割合)
①と同様、借家権割合は一律30%ですので、貸家になると30%評価減されることになります。なお、賃貸割合については、①と同様になります。
③自宅敷地の小規模宅地特例
自宅の敷地は、相続後の親族の生活を守るために、小規模宅地特例による評価減があります。この評価減は大きく、330㎡まで80%評価減をすることができます。ただし、この評価減ができるのは、自宅敷地を配偶者や同居親族等が相続した場合などに限られます。是非、この特例は相続時には受けたいところです。
④貸付事業用宅地の小規模宅地特例
①のアパートやマンションなどの敷地は、貸家建付地の評価減をしたあと、さらに小規模宅地特例による評価減ができる場合があります。
この評価減は、200㎡まで50%評価減をすることができます。ただし、③の自宅敷地の評価減を330㎡フルに使っている場合には、こちらの評価減をすることはできません。③の自宅敷地の評価減を330㎡のうち何%使っているかにより、その残りの%分の評価減をすることができます。
たとえば自宅敷地が99㎡であった場合、330㎡のうちの30%を使っていることになります。この場合は、残り70%分を貸付事業用宅地で使うことができ、200㎡×70%=140㎡について50%の評価減をすることができます。
なお、貸付事業用宅地の評価減は、貸家建付地の対象にならないアスファルト敷きの貸駐車場なども評価減の対象とすることができます。
⑤事業用宅地の小規模宅地特例
所有する不動産を使って事業をしている場合(店舗や工場、事務所など)にも、その敷地について小規模宅地特例を使うことができます。この場合には、400㎡まで80%評価減をすることができます。
この評価減は、自宅の小規模宅地特例と併用することができ、それぞれフルに限度面積まで評価減をすることが可能です。ただし、④の貸付事業用の小規模宅地特例を使う場合には、評価減できる面積に制限がかかってきます(詳細は複雑になるので割愛します)。
⑥その他の評価減
その他、不整形な土地、間口が狭小な土地、奥行きが長大な土地、地積規模の大きな土地、崖地、その他特別な事情のある土地は評価減をすることができますが、試算段階では余程の減額要因でなければ無視しても良いでしょう。
相続税の総額の計算
さて、財産の棚卸し、評価および評価減の概算ができたら、これらの財産を合計します。この財産合計を元に、次の手順で相続税の総額を計算してみましょう。
①基礎控除額を控除して課税対象額を計算する
相続税の計算においては、まずは基礎控除額を控除します。
基礎控除額は、次の算式により計算します。
●基礎控除額 = 3,000万円+600万円×法定相続人の数
その上で相続税の課税対象額を計算します。
●課税対象額 = 財産の合計額-基礎控除額
この段階でマイナスとなる場合は、相続税はかからない、ということになります。ただし、相続税申告は必要になる場合がありますので、ご注意ください。
②法定相続分により各人の取得額を計算する
例で説明します。
たとえば、財産の合計額が1億円、法定相続人が配偶者と子2人(計3人)とします。
●基礎控除額 = 3,000万円+600万円×3人 = 4,800万円
●課税対象額 = 1億円-4,800万円 = 5,200万円
●各人の法定相続分による取得額
配偶者 5,200万円×1/2 = 2,600万円
子1人あたり 5,200万円×1/4 = 1,300万円
③各人の相続税額を計算し相続税の総額を計算する
相続税の計算は次のように行います。
●各人の相続税 = 各人の法定相続分による取得額×税率-速算控除額
税率等は、次の表のとおりです。
<相続税の速算表>
法定相続分取得額 | 税率 | 速算控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
[2021年4月1日現在法令等]
上記計算例で、相続税の総額を計算してみると、次のとおりです。
- 配偶者 2,600万円×15%-50万円 = 340万円
- 子1 1,300万円×15%-50万円 = 145万円
- 子2 1,300万円×15%-50万円 = 145万円
相続税の総額 630万円
実際の相続においては、各人が相続した財産の割合により、上記相続税の総額を各人に按分して各人の相続税額を計算していくことになります。試算においては、実際に相続するわけではありませんので、上記の相続税の総額を把握しておけば十分であると思います。
配偶者の税額軽減の確認
上記により、相続税の大枠をつかむことができました。
最後に、配偶者の税額軽減を確認しておきます。
配偶者の税額軽減は、相続により配偶者が取得した財産について、配偶者の法定相続分相当額か1億6,000万円のいずれか多い金額までは、相続税をかけないという制度です。上記例によれば、配偶者の法定相続分は1/2ですので、配偶者が1/2を相続してもその税額(1/2で315万円)は、減額される(相続税がかからない)ことになります。
なお、配偶者の税額軽減は、1億6,000万円とのいずれか多い金額まで配偶者が相続しても相続税はかからないということですので、上記例では1億円全額を配偶者が相続すれば、相続税はゼロになります。ただし、配偶者の二次相続における相続税が高額になる可能性があります。
以上、相続税の試算をしておくことにより、どのように相続するのが税金上あるいはその後の家族の生活において良いのかを検討することができます。
是非、概算でも構いませんので、相続税の試算をしておくことをおすすめします。
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