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介護保険を利用した身の回りでできること・できないことは?専門家が解説します!

網谷 敏数

執筆者

株式会社高齢者住宅新聞社 代表取締役社長

網谷 敏数

「週刊高齢者住宅新聞」を2006年4月より発行。シニアの住まい、介護、医療をテーマに介護事業者や医療機関、有識者に取材。介護保険、医療保険、高齢者住宅の制度、業界動向、事業者の取組みを紹介。リアル展示会やオンラインセミナーなども多数開催。業界向けの講演実績も多数。

今回は日本の介護保険を取り巻く現状から課題、そして介護保険が適用されない部分を補うサービスの紹介まで、高齢者の介護・医療に精通した専門家が介護保険制度について詳しく解説します。

介護保険制度とは

介護保険制度とは

介護保険制度とは、介護が必要な方に費用を給付し、適切な介護サービスを受けることができるようにサポートする保険制度で2000年に施行されました。2024年は3年に1回の報酬改定が4月に行われ、第9期がスタートしています。制度開始初年度は給付額3兆2,000億円、要介護認定者数256万人でしたが、2021年度には給付額は3.2倍の10兆4,300億円、要介護者数は2.7倍の700万人となっており、超高齢社会となった日本にはなくてはならない制度になりました。

一方で高齢化の進展とともに、少子化、生産年齢人口の減少も顕著で、介護財源と人材不足の問題は深刻な状況です。介護現場の生産性向上やテクノロジー導入、外国人の雇用などがテーマになっています。

また公的制度の持続性を高めるために、保険外サービスへの期待が高まっています。同時に多死社会の到来や高齢単独世帯の増加で、エンディングサービスにも注目が集まっています。

参照元:厚生労働省「令和3年度介護保険事業状況報告(年報)

日本の人口構造

まずは日本の人口構造から見ていきましょう。人口は2005年にピークとなり、人口減少社会に突入しました。高齢化率は2024年度には30%に達する見込みで、高齢者人口は約3,600万人に達します。問題は少子化で生産年齢人口の減少が顕著なことです。生産年齢人口は1995年の8,700万人をピークに、2025年に7,170万人、2040年には6,000万人を割る見通しです。

出生率は今年(2024年)発表された統計で1.2人。出生数は70万人台(2023年)まで落ち込んでいます。団塊世代が3年間の出生数で約800万人だったことからすると隔世の感があります。

厚生労働省では2040年には要介護者認定者数が約1,000万人に達し、介護給付額は20兆円近くになると予測しています。要介護者数(サービス利用者数)が増えれば、当然給付額が増えるため、国ではなるべく介護にならない、なっても重度化しないように「自立支援・重度化防止」を掲げています。

また認知症者の増大も大きな課題です。すでに認知症の人は高齢者の1割以上である400万人を超えており、予備軍の軽度認知障害(MCI)を含めると約900万人にものぼります。

さらに高齢者だけの世帯や高齢の一人暮らし世帯が急増しています。高齢者世帯、高齢者一人暮らし世帯もそれぞれ700万人に達しています。一人暮らし高齢者は増加の一途で2040年には900万人になると予測されています。

こうした問題を介護保険や医療保険が支えてきましたが、これまで見てきたように、制度を維持するための取り組みが必要になってきています。

参照元:厚生労働省「令和4年人口動態統計月報年契(概数)の概況」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)

総人口の推移
今後の介護保険をとりまく状況

介護保険制度の仕組み

日本の超高齢社会を支えてきた介護保険制度の仕組みを説明します。保険者は自治体、被保険者は40歳以上の住民です。65歳以上の要介護・要支援状態になった人が、介護サービスを利用できます。介護保険サービスを利用する際、料金の1割(所得に応じて2割もしくは3割)が被保険者である利用者の負担となり、残りの9割(所得に応じて8割もしくは7割)が保険料と公費(税金)負担となります。

介護サービス利用者が増えれば、給付が増え、その結果国民の負担も増していきます。給付と負担は相関関係にあり、その見直しの議論が、制度創設時から行われています。利用者が増大することを見越せば、負担を上げざるを得ないのですが、負担を上げすぎれば国民の反発を招くというということにもなり、そのバランスをいかにとっていくかということが大きな課題です。

介護保険サービスの要であるケアマネジャーの役割は、要介護者である利用者の生活環境、身体状況、本人や家族の意向を考慮してケアプランを作ることです。そのケアプランに基づいて、サービス提供事業者との連絡・調整を行います。本人・家族・複数の事業者・看護師や薬剤師・管理栄養士などの専門資格者との調整には高度なスキルが求められます。近年は医療介護連携、多職種連携などの潮流でケアマネジャーにも医療知識が不可欠となっています。

介護保険の財源構成と規模
(出典:厚生労働省)

地域包括ケアシステムの構築

限られた財源、人材で効率的なサービスを提供しようという考え方のひとつが、地域包括ケアシステムです。地域包括ケアシステムは地域単位で、住まい・介護・医療・生活支援・予防といったサービスを届ける考え方です。

日本には約1,700市区町村がありますから、それぞれの地域に合った地域包括ケアがあるといってよいと思います。

先ほどあげた住まいから予防までのサービスの中で、公的保険制度のもとで提供されるのが、介護と医療です。その他の住まい、生活支援、予防は公的制度に則らない保険外サービスといえます。日本では公的制度が中心となってこれまでの超高齢社会を支えてきましたが、今後のさらなる社会の変容に関しては、新たな仕組みを取り入れないと公的制度が破綻してしまいます。

介護人材不足についても深刻な状況です。すでに介護職員数は200万人を超えていますが、2040年には約280万人が必要とされるため、2019年度比で69万人が不足すると試算されています。国では介護職員の処遇改善、離職防止・定着促進、テクノロジーなどによる生産性向上、外国人やシニアなど多様な人材の登用を掲げ、対策に取り組んでいます。

参照元:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

地域包括ケアシステムの構築について
(出典:厚生労働省)
第8期介護保険事業に基づく介護職員の必要数について
(出典:厚生労働省)

介護保険外のサービスとは

それでは保険外サービスについてみていきましょう。保険外サービスとは介護保険が適用されない部分を補う自費サービスです。

地域包括ケアシステムを補完・充実させていくためには、社会保険制度や公的サービスに加え、ボランティアや住民主体の活動、個人のニーズを満たす多様なサービス形態が求められます。高齢者や家族のニーズを踏まえて、自費で購入する保険外サービスがより拡充され、豊富なサービスの選択肢が提供されることへの期待が高まっています。

従来の世代に比べて消費文化を謳歌した団塊世代が今後後期高齢化することにより、ニーズに合致した付加価値の高いサービスに対価を払うケースが、増えていくと予想されます。さらに、産業振興の側面から考えても、世界に先駆けて高齢化が進む日本において、健康寿命の延伸に寄与するヘルスケアビジネスのひとつとして、高齢者の生活の質を高める保険外サービスを発展させていくことの意義は大きいといえます。

それでは具体的にどんな保険外サービスがあるのでしょう。最も一般的といえるのが、家事代行による食事や日常生活全般のサポート、フィットネス企業のシニア向けサービス、警備会社による見守りサービスや士業事務所等によるエンディング(終活)サービスなどでしょう。その他、認知症カフェ、趣味・健康・美容サービス、リハビリなどもあります。高価格帯の看護・リハビリサービスから低価格帯の食事・健康サポートまで、あるいは人生における不安やマイナス面を解消してくれるサービスから楽しみや喜びをもたらしてくれるサービスまで多種多様です。

販売チャネルですが、自治体や地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護事業者に対して、保険外サービスについての情報が十分行き届いていないともいえます。例えば、介護保険サービスについては地域にどのような事業者、サービスがあるかを周知していても、保険外サービスとなると、そもそも地域でどのようなサービスが利用可能なのかが一覧で整理されていないことや、民間企業が提供する多様なサービスが網羅的に把握されておらず、その内容や効果まで十分に把握されていないといった状況も多いでしょう。

現在自治体でも地域支援事業・総合事業のもとで、住民などの多様な主体が参画し多様なサービスを充実することで地域の支えあいにつなげていくことが取り組まれています。ただし要支援者向けの訪問介護や通所介護などのサービスを介護保険制度から切り離して行うため、サービスの担い手不足、利用者負担の問題で普及しているとは言い難い状況です。

楽しみ・喜び
(高齢者住宅新聞社作成)

エンディングサービスにも注目

エンディングサービスにも注目

最後に保険外サービスのひとつともいえるエンディングサービスについてです。エンディングサービスを生前と死後で分けると、生前は身元保証、老人ホーム探し、成年後見人の選定、財産管理、遺言・エンディングノートの作成など、死後は葬儀、死後事務、遺品整理、相続など多岐にわたります。これまで、その様な手続きは、家族・親戚・知人のいずれかが行ってきましたが、核家族化の進展や独居老人が多くなったため、エンディングにかかわることを頼める人が身近にいなくなってしまったという事情もあります。

エンディングサービスを考えるうえで避けては通れないのが、終末期ケアのあり方です。国では「終末期医療のあり方」をさまざまな場面で議論してきました。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)といって、将来の医療とケアについて、患者を主体に、その家族や医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、患者の意思決定を支援します。今ではACPを「人生会議」といって、その普及・啓発に注力しています。

まず住民側がフォーマル(保険制度)とインフォーマル(保険外サービス)をしっかり認知し、そのうえで行政側が上手に使いこなせる環境を整備することがこれからの超高齢社会を乗り切る決め手です。超高齢社会下の保険制度の限界を理解したうえで、保険外サービスをいかに育て、周知させていくかが今後の日本にとっての課題になります。

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