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家族信託は障害者を守る制度?メリット・デメリットや注意点について

家族信託は障害者を守る制度?メリット・デメリットや注意点について
セゾンのくらし大研究 編集部

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豊かなくらしに必要な「お金」「健康」「家族」に関する困りごとや悩みごとを解決するために役立つ情報を、編集部メンバーが選りすぐってお届けします。

障害を持つ子どもがいる家庭では、親亡き後問題を避けて通ることはできません。「私たちに何かあったら、この子はどうなるのかしら」と心配なさっている方もいらっしゃるでしょう。

いざというときのために、早めに対策を講じるに越したことはありません。対策のひとつとして検討していただきたいのが、家族信託です。今回は、障害を持つ家族がいる方のために、家族信託について詳しく解説します。

この記事を読んでわかること

  • 障害を持つ子どもがいる家庭では、親亡き後問題を避けて通ることはできない
  • 両親に万が一のことがあった場合、どのように子どもの生活を支えていくかが問題になり、対策のひとつとして考えられるのが家族信託
  • 家族信託により、信頼できる家族の誰かに障害を持つ子どもの財産を信託し、管理・運用・処分してもらうことが可能
  • あくまで家族・親族間の契約であるため第三者が関与せず、比較的短時間で契約を締結できるのがメリット
  • 成年後見人制度とは違い身上監護権がないなどのデメリットもあるため、どのように進めるのが良いかは専門家にアドバイスを仰ぐことがおすすめ
家族信託サポート
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不安を抱えている方が多い親亡き後問題とは?

不安を抱えている方が多い親亡き後問題とは?

障害を持つ子どものいる家庭は、さまざまな問題に直面します。そのひとつが「親亡き後問題」です。

ここでは、親亡き後問題と解決策のひとつになりうる福祉型信託について、詳しく解説します。

親亡き後問題について 

親亡き後問題とは、親=ご両親が亡くなった後に、障害を持つ子どもが生活を送る上で直面する問題を指します。

両親が元気なうちは子どもの生活をサポートできても、高齢になって認知能力が低下したり、万が一のことが起こったりした場合、どうやって子どもの生活を支えていくかが問題になるはずです。

将来的に子どもが困らないよう、元気なうちから「元気ではなくなった後」のことを考え、着実に準備を進めていく必要があるでしょう。

福祉型信託とは?

福祉型信託とは、高齢者や障害者の生活支援を行うための信託です。

これから説明する家族信託も、福祉型信託の一種で、高齢者や障害者など財産管理が難しい家族を抱える方が、信頼できる家族を受託者にして、財産を管理・運用し受益者(高齢者・障害者)に生活費や施設利用費等を給付するという仕組みを指します。

判断能力が十分でない障害者をサポートするための制度として、成年後見人制度がこれまで広く用いられてきました。これは、裁判所により成年後見人・保佐人・補助人を選任し、身上監護や財産管理を行う仕組みです。

しかし、成年後見人・保佐人・補助人は自由に財産を処分できない上に、裁判所での手続きが必要なため、時間がかかるという問題点もありました。また、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人・保佐人・補助人に専任された場合、家族との方針の違いゆえにトラブルになることも考えられます。

一方、家族信託であれば柔軟な財産管理が可能なうえに、専門家など第三者の関与もありません。メリットとデメリットを勘案した上で、親亡き後問題の解決策として検討する価値はあるでしょう。

家族信託を利用するメリット

家族信託を利用するメリット

家族信託を利用することにはさまざまなメリットがあります。ここでは代表的なメリットとして、以下の4点について解説します。

両親に万が一のことがあった際に安心

両親のどちらか、もしくは両方が事故に遭ったり、認知症を発症したりした場合、銀行口座が凍結される恐れが出てきます。

つまり、子どもの生活費が途絶えてしまう恐れがあるため、元気なうちから対策を講じておかなくてはいけません。

事前に両親以外の家族・親族(例:兄弟姉妹、叔父・叔母など)を受託者とする家族信託を行っておきましょう。

万が一、両親に何かあったとしても、受託者となった方が財産の管理・運用・処分を行えます。銀行口座からの生活費の引き出しももちろん可能であるため、生活に支障はきたしません。

財産承継をスムーズに行える

財産承継をスムーズに行えるのも、家族信託を使うメリットのひとつです。現在の受託者が亡くなった場合でも、その後は誰に受託者になってもらうかも信託契約に盛り込めます。

例えば「父親が亡くなった場合は、次男(委託者・受益者の弟)が受託者となる」としておけば、父に万が一のことがあっても、兄弟にスムーズに受託者になってもらうことができるでしょう。

サポート期間に空白ができないため、障害を持つ子どもの生活に支障をきたすことはありません。

相続手続きをスムーズに行える

相続手続きをスムーズに行うためにも、家族信託は有効です。障害がある子どもに判断能力がないと判断されたら、相続が発生したとしても、遺産分割協議には参加できません。

この場合は、成年後見人を選任しなくてはいけませんが、非常に時間と手間がかかります。加えて、弁護士や司法書士など家族以外の第三者を選任したら、報酬を支払わなくてはいけません。

一方、家族信託であれば、受託者を家族や親族になってもらう限り、報酬はかかりません。加えて家族信託は、関係者になりうる家族・親族で話し合いをした内容を、相続財産の承継方法にも盛り込めるので、相続が発生したときにもめるリスクを低減できます。

財産承継先を決められる

家族信託を用いることで、二次的な財産の承継先を指定できるのも大きなメリットです。遺言では、配偶者や子などの次の承継先しか指定できません。

例えば、父が亡くなった場合、遺言で決めることで障害を持つ子どもに財産を相続させるように決めることはできます。

しかし、障害を持つ子どもが亡くなった後のことまでは決められません。家族信託であれば「子X(障害を持つ)が死亡した場合、その財産はいとこのY(健常者)が継承するものとする」など、先を見据えて財産の承継先を指定できます。

家族信託を行うデメリット

家族信託を行うデメリット

家族信託はメリットの多い制度ではあるものの、デメリットもあるのが実情です。ここでは、いざ家族信託契約を結ぼうとする際に障壁になりうるデメリットとして、以下の4点を解説します。

身上監護権は利用できない

家族信託では身上監護権の設定ができません。身上監護権とは、本人に代わって医療機関などへの入院の手続きや契約を行う権利を指します。

家族信託契約はあくまで財産の管理・運用・処分を誰かに委託する契約に過ぎず、身上監護権は盛り込めないと考えましょう。

両親が存命の間は代わりに手続きができるためあまり問題になることはありませんが、万が一のことが起きた場合に問題になります。この場合は、子どもの意思能力の程度にもよりますが、子どもに適した人物を任意後見人として契約し備えておくと安心です。

費用がかかる

家族信託を行う場合、費用がかかるケースもあります。主な費用として考えられるのが、司法書士など専門家への依頼に関する費用です。

家族信託が原因でトラブルにならないようにするためには、個々のご家庭の状況を勘案し、最適な方法を探らなくてはいけません。

民法や信託法など関連する法律への知識が不可欠であるため、専門家へのアドバイスを仰ぐのが一般的でしょう。何をどこまでしてもらうかによっても異なりますが、相応の費用がかかる点に注意が必要です。

受託者の選定に困る

受託者の選定に困り、家族信託に及び腰になるケースも考えられます。障害を持つ子どもの場合、両親が亡くなった後は兄弟姉妹に受託者になってもらうケースは決して少なくありません。

しかし、受託者となる兄弟姉妹の負担も大きいため、拒否される可能性もあります。

また、兄弟姉妹が受託者になってくれたとしても、その兄弟姉妹に万が一のことがあった場合、代わりの受託者選びに難航するかもしれません。さまざまなケースを想定してシミュレーションするのが不可欠です。

兄弟姉妹がいないケースでは利用しにくい

障害を持つ子どもがひとりっ子の場合、家族信託は利用しにくいのも実情です。

子どもから見た叔父・叔母(両親の兄弟姉妹)を受託者にすることで家族信託は利用できますが、子どもより早く亡くなるリスクを有しています。

十分なサポートができない可能性もあるため、銀行や信託会社など家族・親族以外を受託者にすることも考えて動きましょう。

実際に想定できる家族信託の具体例

実際に想定できる家族信託の具体例

家族信託に決まった形はありません。家族・親族の構成や意向に合わせて決めることができますが、具体例があったほうがイメージしやすいでしょう。

ここでは、障害を持つ子どもに兄弟姉妹がいる場合と、ひとりっ子だった場合に分けて具体例を紹介します。

障害を持つ子に兄弟姉妹がいる場合

「父・母・長男・長女・次女」という5人家族で、長女に障害があるという家庭を例にしましょう。この場合は、委託者を父、受託者を長男、受益者を父とするのが一般的です。父が認知症などにより判断能力を失ったり、亡くなったりした場合は、第二受益者を母、第三受益者を長男もしくは次女とします。長女が死亡した場合は信託契約が終了する流れです。

長男・次女と長女の年齢が近い場合は、長男・次女の配偶者や子を第二受託者としておくと、長男・次女に万が一のことがあっても受託者の地位が不在にはなりません。

障害を持つ子がひとりっ子の場合

子どもが独身だった場合、両親が亡くなったら相続人が不在になるため、子どもが亡くなった後の財産は最終的に国庫に帰属してしまうかもしれません。

しかし、家族信託を利用すれば、財産の最終的な帰属先を事前に決めておくことができます。

例えば「父・母・長女」という家庭のように、障害を持つ子どもがひとりっ子の場合の家族信託の契約例を紹介しましょう。この場合、委託者を父、受託者を信頼できる第三者、受益者を父とします。

父が亡くなった場合の第二受益者は母、第三受益者は長女とし、長女の死亡により信託契約が終了したら信託財産は受託者に帰属するものとして契約を結ぶことが可能です。これにより、長女が亡くなっても財産を受託者に残せます。

家族に障害者がいる場合の家族信託利用の注意点

家族に障害者がいる場合の家族信託利用の注意点

ご家族に障害をお持ちの方がいらっしゃる場合、家族信託契約を結ぶことで、財産の管理・運用・処分が非常にスムーズになります。

ただし、トラブルを防ぐためには、以下の点に注意して準備を進めましょう。

受託者の設定

家族信託においては「長くサポートできそうな方」を受託者に設定するのが重要です。

障害を持つ方から見て、甥・姪に当たる方が協力してくれるのであれば、その方を受託者にすると良いでしょう。子どもの世代に当たるため、障害をお持ちの方が高齢もしくはお亡くなりになるまでサポートできる可能性があるからです。

また、詳しくは後述しますが、ご親族の協力が得られないケースも想定されます。そのような場合でも、信託銀行などの第三者機関を利用して家族信託契約を結ぶことが可能です。

信託監督人を設ける

家族信託契約を結ぶ際は、信託監督人を設定することも視野に入れましょう。

信託監督人とは、受益者保護のために受託者を監視・監督する立場の者のことです。簡単にいうと「受託者が不正を働いていないか監視する役」といったところです。

家族信託はお金の絡む話である以上、例え信頼している相手でも不正を働く可能性はゼロではありません。

不正が働かれていることに気づかずそのままにしてしまうと、財産を使いこまれてしまい、子どもの生活費が不足する恐れも出てきます。そのような事態が起きないためにも、チェック役=信託監督人を設定しておくと安心です。

なお、信託監督人は信託契約の中で設定できます。未成年者、成年被後見人もしくは被保佐人、当該信託の受益者以外なら誰でも信託監督人になることが可能です。

ただし、善管注意義務を負う上に、受益者のために誠実かつ公平に権利を行使しなくてはいけないため、司法書士などの専門家に依頼するのが好ましいでしょう。

受託者を家族にこだわらない

受託者を依頼する相手は、家族にこだわる必要はありません。受託者はそれなりに責任の伴う立場である以上、子どもの兄弟姉妹が必ず引き受けてくれるとは限らないためです。

兄弟姉妹にもそれぞれの生活や家庭がある以上、無理強いをするのは好ましくありません。

断られる可能性がある場合は、銀行や信託会社の家族信託サービスを利用するのもひとつの手段です。

他の制度も検討する

家族信託にこだわらず、他の制度も視野に入れて検討しましょう。例えば、家族信託には身上監護権はありませんが、成年後見制度には含めることができます。

家族信託における受託者になりうる方(ご両親など)が高齢の場合、認知症などを発症して判断能力が低下してしまうと、ご本人に代わって入院の手続きなどの契約を結ぶことは難しくなります。

事前に成年後見制度を利用し、成年後見人・保佐人・補助人を指定しておけば、身上監護権も設定できるため、安心して任せることが可能です。ただし、司法書士などご家族以外の第三者が関与することになる上に、手続きにも時間がかかります。メリットとデメリットを勘案して決める必要があるでしょう。

判断に困ったら専門家に相談を

実際のところ、子どもなど障害のある方がご家族にいらっしゃる場合、両親に万が一のことがあったら生活が一変する可能性が出てきます。生活の急激な変化が起きないようにするには、今回紹介した家族信託も含めた対策を早いうちから講じましょう。

ただし、どういう対策が適しているかは、専門的な知識がないと判断できないでしょう。一度専門家に相談してみるのをおすすめします。「セゾンの相続 家族信託サポート」では、司法書士など経験豊富な専門家に依頼が可能。相談だけなら無料なので、ぜひ一度相談してみてください。

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おわりに 

家族に障害を持つ方がいる場合は、常に「親に万が一のことがあったら」を想定して動くことが重要です。万が一のことがあったら、銀行口座が凍結されたりするなど、生活にも大きな影響が及びます。

影響を少しでも抑えるためにも、家族信託や成年後見人制度を上手に活用しましょう。家族や親族での話し合いはもちろん、早い段階で司法書士などの専門家に相談するとスムーズに進められます。

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