2024年4月1日から始まる相続登記の義務化に伴って、私たちは相続登記の手続き方法や注意点について知っておく必要があります。不動産の相続では、トラブルに発展するケースも少なくありません。この記事では、共有名義の不動産相続の具体例、不動産を共有名義にするメリット・デメリットをふまえながら、相続時に共有名義を解消する方法についても説明します。
(本記事は2023年12月25日時点の情報です)
- 亡くなった共有名義人の持分は、法定相続人に公平に受け継がれる
- 相続登記におけるルールや必要書類、費用
- 共有名義で相続するのはメリットもあるが、デメリットも多く、おすすめはできない
- 共有名義を解消する方法
不動産の共有名義人が亡くなった場合の相続は?
ここでは、不動産の共有名義人が亡くなった場合の相続には、どのような決まりがあるのかについて、例を踏まえながら説明していきます。
共有名義人が死亡した場合は共有持分が相続の対象
共有名義人が死亡した場合、その不動産の持分が残る共有名義人に優先されることはありません。
原則として、亡くなった共有名義人の持分は、法定相続人(亡くなった共有名義人の配偶者と子ども、両親、兄弟姉妹)に受け継がれます。
したがって、亡くなった共有名義人の共有持分は、法定相続人の優先順位に従って相続されます。優先順位は以下の通りです。
第1順位 | 子ども(孫など直系卑属) |
第2順位 | 親(祖父母など直系尊属) |
第3順位 | 兄弟姉妹(甥、姪) |
【親子の共有名義不動産】親が亡くなった例
父と長男が、親子共有名義で4,000万円の家を購入する際、各々2,000万円ずつ支払って購入しました。この場合の共有持分は、父が2分の1、長男が2分の1になります。
父が死亡した場合、元々長男が有している2分の1の共有持分はそのまま長男のものですが、残りの2分の1は父の相続財産として、父の法定相続人に受け継がれます。
なお、今回のケースでは長男も法定相続人ですから、父の共有持分を相続することになります。兄弟姉妹、母親がいる場合には、兄弟姉妹や母親も相続人となります。相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。
【夫婦の共有不動産】夫が亡くなった例
夫婦で3,000万円の一戸建てを購入する際、夫が2,000万円、妻が1,000万円を支払って購入しました。この場合の共有持分は、夫が3分の2、妻が3分の1になります。
夫が死亡した場合、共有不動産の3分の1はそのまま妻の持分です。夫が有していた3分の2の持分は法定相続人に受け継がれます。
なお、このケースも上記の親子の例と同様、妻も夫の法定相続人ですから、共有持分を相続することになりますが、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
共有名義の相続登記の手続き方法
2024年4月1日から、相続不動産の登記が義務化になります。
相続登記にはさまざまなルールがありますので、以下にて説明していきます。
いつまでに相続不動産の登記をすれば良い?
相続不動産の登記が義務化されると、土地所有者が亡くなり、相続により不動産を取得した相続人は、、取得を知ってから3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
相続不動産の登記は誰がすべきか?
相続不動産の登記は、相続人が行います。まず、遺言書が存在すれば、その中で相続人や財産の分割が規定されています。遺言書がない場合は、法定相続人全員でどのように遺産を分けるかを遺産分割協議書にて定めます。もし、不動産を法定相続分で分割して相続する場合には、法定相続人全員が共同で相続登記申請をします。相続人の内の1名が不動産を相続する場合には、相続した方が相続登記申請をします。
相続不動産の登記に必要な書類
相続不動産の登記に必要な一般的な書類は以下になります。遺言書の有無など場合によって必要な書類が異なります。必要な書類については、事前に法務局で確認することをお勧めします。
戸籍謄本(除籍謄本)
本籍地の市区町村役場にて取得できます。
被相続人分:出生から思慕までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍を含む)
相続人:被相続人の死亡日以降に発行されたもの。遺産分割協議や法定相続分による登記の
場合には、不動産を相続しない相続人分も必要
住民票(除票)
住所地の市区町村役場にて取得できます。
被相続人分:死亡によって除かれた住民票(除票)
相続人:不動産を相続する方の住民票。法定相続分による登記の場合には、不動産を相続し
ない相続人分も必要
固定資産評価証明書
不動産所在地の(都)市税事務所または市区町村役場にて取得できます。
最新のものが必要です。死亡した年度では無く、登記申請時の年度のものになります。
地域によっては、毎年4月に送付される固定資産課税明細書でも可能な場合もあります。
登記申請書
書類は法務局にて取得できます。法務局ホームページからもダウンロードが可能です。
書類の作成は申請人が行います。
遺産分割協議書
遺産分割協議による不動産の相続登記を行う場合に必要です。
遺産分割協議書とは、相続財産を分割する際の相続人の合意書で、財産配分や条件を明示し、法的な手続きを簡略化したものです。
印鑑証明書
遺産分割協議による不動産の相続登記を行う場合に相続人全員分が必要です。
発行期限の制限はありません。
相続関係説明図
法定相続分、遺産分割協議による不動産の相続登記を行う場合に必要です。
相続人と法定相続の関係を表した家系図のようなもので、申請人が作成します。
遺言書
遺言による不動産の相続登記の場合に必要です。自筆証書遺言の場合には家庭裁判所での検認が
必要です。
申請にかかる費用
登録免許税
登録免許税の額は、不動産の評価額の0.4%です。
評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税=2,000万円×0.4%=80,000円 となります。
なお、相続財産の規模や、実際に相続した不動産の評価額によっては、相続税がかかる場合もあります。さらに、司法書士に依頼をした場合は、依頼先や依頼内容にもよりますが、約60,000~100,000円程度の報酬費用がかかります。
不動産相続の共有名義はメリットが少ないので注意
ここでは、相続不動産を共有名義で相続するメリットとデメリットについて解説していきます。
共有名義で相続するメリット
共有名義で相続するメリットとして、次の2つがあります。
- 遺産分割協議での公平感が得られやすい
- 相続にかかる費用負担や収益を分けやすい
メリット1|分割協議で公平感が得られやすい
共有名義の相続では、相続財産が相続人全体で共有されるため、資産の状況や価値を共有し、誰もが同じ情報を持ちます。
この透明性により、遺産分割協議がより公平に進みます。また、相続人が共同で相続財産を管理して意思決定を行うことで、合意形成が生まれやすくなり、相続人たちの協力関係が高まります。その結果、分割に関する協議も円滑になり、法的な紛争や訴訟のリスクが低減すると言えます。
メリット2|相続にかかる費用負担や収益を分けやすい
共有名義で相続する場合、相続人は相続財産を共有することになります。この共有状態において、相続にかかる諸費用(手続き費用、税金、メンテナンス費用など)は、特定の相続人だけが負担するのではなく、相続人全体で公平な形で分配されます。
共有名義で相続された資産から生じる収益(家賃、事業収益など)も、相続人全体で分けることができます。これにより、資産の利益が発生した場合でも、収益を公平に分配することが可能です。
共有名義で相続するデメリット
共有名義で相続するデメリットは、以下の4つになります。
- 1人で共有不動産の売却や利用を決定できない
- 相続人が亡くなるとさらに権利関係が複雑に
- 各共有者に管理費や税金の負担が発生する
- 相続人同士でトラブルに発展しやすい
デメリット1|1人で共有不動産の売却や利用を決定できない
共有名義で相続する場合、何をするにも相続人全員からの同意を得る必要があり、合意形成が難しくなります。これにより、不動産を売買する場合に、迅速な取引や利用計画が妨げられ、不動産の価値の最大化や急務の事案に対応することが難しくなる可能性があります。その結果、共有名義の相続では効率性や柔軟性の面で制約が生じるともいえます。
デメリット2|相続人が亡くなるとさらに権利関係が複雑に
共有名義では相続人が共同で資産を所有しているため、相続した方が亡くなると、さらにその相続人の共有持分の相続が発生します。
相続人が複数いる場合、その人数や関係性によってはより合意形成が難しくなります。資産の処分や管理に関する問題が発生した場合、権利関係が複雑化してしまう恐れがあります。
デメリット3|各共有者に管理費や税金の負担が発生する
不動産や資産を所有する場合、維持や管理には費用がかかります。また、相続した資産には固定資産税や所得税などの税金もかかります。これらの支出に対する支払いは、各共有持分の割合に応じて負担されます。
デメリット4|相続人同士でトラブルに発展しやすい
共有名義では複数の相続人が資産を共有しているため、合意形成が不可欠です。しかし、価値観や利益追求が異なる場合、資産の管理や利用に関して異論が生じやすくなります。特に大切な意思決定(例: 売却、利用目的の変更)では意見が対立しやすく、それが感情的な対立や法的な争いに発展することもあります。
複数の共有人が居住を希望しているなど、相続人が多いほどトラブルに発展しやすく、相続人同士のコミュニケーション不足から誤解や不信感が生まれやすくなります。相続人同士でのトラブルによって、円滑な相続プロセスが阻害されるという懸念もあります。
このようなメリット、デメリットを踏まえると、亡くなった方の持分を相続人同士で分割することは可能ですが、共有名義での相続登記はおすすめできません。
相続時に共有名義を解消する方法
共有名義で相続するメリットとデメリットを受けて、相続時に共有名義を解消する方法について紹介していきます。
分割協議で不動産分割をする
まず、相続人全員が協力して不動産の詳細な分割計画を策定します。分割協議では、各相続人が希望する分割の形や条件を話し合い、合意形成を図ります。分割の手法としては、現物分割、代償分割、換価分割の3つがあります。
現物分割
不動産を物理的に分ける手法で、土地や建物を実際に分割して各相続人が所有する方法です。物理的な境界や利用方法を明確に定める必要があります。
代償分割
不動産の全体を一方の相続人に譲渡し、他方に代償として金銭や他の資産を与える方法です。これにより、不動産の共有を解消しつつ、公平な価値の調整が可能です。
換価分割
不動産を査定し、その価値に基づいて現金や他の資産も含めた相続資産を算定します。その上で、各相続人に資産を分配する方法です。例えば、共有名義人が不動産を相続、現金や他の資産はそれ以外の相続人が相続し、全体としては公平に分割します。
分割協議を通じてこれらの手法を選択し、法的手続きを経て不動産の分割が完了します。
共有者全員で不動産を売却して分配する
共有者全員の同意のもとで不動産を売却し、売却代金を持分に応じて分配することが可能です。まず、相続人たちは協力して不動産の売却に同意し、売却先や条件に合意します。
売却が完了したら、得られた売却代金を各相続人の持分に応じて公正に分配します。この手法は迅速で効果的な解決策となりますが、全員の同意が必要なため、合意形成が得られない場合には問題が発生する可能性があります。
自分の持分を共有名義人に渡す
自分の持分を他の共有名義人に売却したり、持分を放棄することもできます。具体的には相続人が共有名義の資産に対して自身の権利を他の相続人に譲渡することがあります。この際、譲渡には合意が必要であり、売却代金や放棄による条件も明確に定められます。
売却代金は通常、譲渡される相続人の持分に応じて分配されます。持分放棄の場合、特に代償はなく、その分他の相続人の所有割合が増加します。この手法は、共有者同士の合意が取れる場合には比較的迅速に解決が可能です。
広さがある土地のみであれば土地分筆も検討する
土地の場合、それぞれの土地を分けて登記簿を作成することができます。各相続人が希望する土地を明確にし、それに基づいて土地を分割して新しい登記簿を作成します。
この手法は「実測登記」や「分筆登記」と呼ばれ、土地の物理的な境界を設けることで、各相続人が独自に所有権を行使できるようにします。分筆登記には測量や法的な手続きが伴いますが、土地の明確な所有権を確立し、共有を解消する上で効果的です。
共有物分割請求する
上記の方法でも共有名義の解消が難しい場合は、裁判所に共有物の分割を請求する方法があります。この手続きは、相続人たちが合意に達せず、かつ他の解決策が見つからない場合に利用されます。裁判所による分割請求では、相続人は自らの権利を主張し、物件の公正な分割を求めます。
裁判所は公正かつ法的な手続きを経て、不動産の分割を決定します。これにより、異なる立場からの公正な判断が下され、紛争の解決が期待されます。ただし、裁判手続きには時間と費用がかかり、相続人同士の関係が悪化する可能性もあるため、あくまで最終手段として検討することが望ましいです。
相続登記や共有名義の解消に不安がある方はプロへの相談がおすすめ
相続手続きは、亡くなった方の財産を引き継ぐために必要な手続きです。しかし、相続手続きは複雑で煩雑であり、遺産分割や相続税の申告などには多くの書類や期限が関係しています。相続手続きを間違えると、相続人の不利益やトラブルにつながる恐れがあります。
そこで、相続手続きのサポートを行っているのが、「セゾンの相続 相続手続きサポート」です。「セゾンの相続 相続手続きサポート」は、経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、相続手続きに必要な書類の作成や提出、相続税の計算や申告、遺産分割協議の代行などを依頼できます。
「これってどうなるのだろう?」という疑問がおありでしたら、お気軽にご連絡ください。
おわりに
この記事では、共有名義による相続の方法や、メリット・デメリットを交えながら、相続時に共有名義を解消する方法について解説しました。相続登記が義務化される今の時代、相続問題は誰もが経験する大きな壁であると言えます。不慣れな相続に不安や悩みを抱えている方は、ぜひ専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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