相続した不動産を、何も手続きせずに放置していないでしょうか。土地などの不動産を相続した場合は、名義変更の手続きが必要です。不動産を名義変更せずに放置することはさまざまなリスクを伴います。その上、2024年4月の法改正で不動産の名義変更は義務となり、罰則も設けられました。
このコラムでは亡くなった人の土地を名義変更する方法や費用について詳しく解説します。土地を相続したけれどいつまでに何をしたらいいのか分からないとお困りの方はぜひ参考にしてください。
(本記事は2024年4月19日時点の情報です)
- 2024年4月から相続した土地や建物の名義変更が義務となり、手続き期限は相続で取得したことを知った日から3年以内
- 名義変更をしないと、土地の売却やローンの借り入れなどができないだけでなく、10万円以下の過料が科される
- 相続登記は自分で手続きできるが時間や労力がかかる。不安があればプロに任せることもおすすめ
- 名義変更の手続きは早めに取り組むことがポイント
相続したことを知った日から3年以内の名義変更が義務に
基本的に、亡くなった方が所有していた土地などの不動産は、法律に定められた相続人が承継することになります。ただし、不動産の名義は自動で変更されません。
亡くなった親の土地や建物など不動産の相続は、登記名義を相続人など権利取得者へ変更する手続きが必要です。これを相続登記と呼びます。これまで相続登記申請は任意でしたが、2024年4月から義務化されました。
義務化により、相続人は不動産を相続したことを知った日から3年以内に、法務局へ相続登記申請が必要となりました。2024年4月以前に相続した不動産も対象ですが、2027年3月まで猶予があります。
期限内に相続登記をしなければ罰則を科せられることがあります。そのため、相続した不動産物を放置したままにしないよう注意が必要です。不動産を相続した時は、早めに名義変更しておくとよいでしょう。
参照元:法務省 |不動産を相続した方へ~相続登記・遺産分割を進めましょう~
亡くなった人の土地を名義変更しないとどうなる?
土地の名義を変更しないとどうなるのでしょうか。ここでは亡くなった人の名義のまま土地を放置するリスクをご紹介します。
名義変更なしに土地の売却はできない
土地の売買ができるのは、原則として登記上の名義人です。これは贈与・賃貸も同様です。つまり、名義変更をしておかないと、土地を売却したり、贈与・賃貸したりすることはできません。
また先述した通り、土地などの不動産は法律に定められた相続人が承継することになります。もし兄弟がいる場合、土地は自動的に相続人である兄弟全員の共有となり、売却するには全員の同意が必要となります。そのため、土地の処分や活用が難しくなってしまいます。
さらには他の相続人の借金によって、勝手に不動産を差し押さえられる可能性もあります。共同相続人の一人に借金があり返済が滞った場合、債権者は借金をしている人の法定相続分を差し押さえることが可能だからです。
住宅ローンが組めない
亡くなった親の土地に家を建てる場合、金融機関から住宅ローンを借り入れることが一般的ではないでしょうか。そのためには不動産担保(抵当権)が必要となりますが、土地の名義を変更していなければ抵当権を設定することができません。抵当権を設定できなければ住宅ローンを組むこともできないのです。
次の相続時の負担が大きくなる
土地の名義変更をしないまま放置することは、次世代の負担を増やすことにもなります。権利関係が複雑になったり、次の相続人が2回分の名義変更をしなくてはならなかったりと、手続きが複雑化するからです。
権利関係が複雑になるというのは、相続が繰り返されることで土地共有者が増えていくことです。例えば、兄弟2人で親の土地を相続した場合、長男が亡くなるとその持分は配偶者と子が相続します。
同様に次男が亡くなるとその配偶者および子へと持分が承継されます。長男夫婦に子がなく相続後に配偶者が亡くなった場合は、配偶者の兄弟など法定相続人へ持分が継承されます。こうして次々と共有者が増えていきます。中には連絡先さえ分からない共有者も出てきてしまいます。
2回分の名義変更をするというのは、例えば父が土地の名義変更を放置したまま亡くなり、子が祖父の土地を相続した場合に発生します。この場合、まず祖父から父へ名義を変更し、続いて父から子へと名義を変更する必要があります。
このように土地の名義変更は放置する期間が長くなるほど、権利関係が複雑になっていきます。後の世代に負担をかけないよう、名義変更は早めに行っておくことが重要です。
過料が科されるケースもある
過料が科されるケースもあります。繰り返しになりますが、2024年4月からは相続した不動産の名義変更が義務となりました。
義務となった背景には、所有者不明土地が増えてきたことがあります。これまでは、不動産を相続しても登記の名義変更は任意でした。相続税の申告には期限や罰則がありますが、土地の名義変更には罰則がないため、放置されるケースが多かったのです。
義務化により、正当な理由なく相続登記申請をしない場合の罰則が設けられました。そのため、登記申請をせず放置しておくと、10万円以下の過料が科される恐れがあります。
ただし、相続登記を3年以内に行えない「正当な理由」がある場合には過料の対象にはなりません。例えば、相続人の数が多く書類を揃えるために時間を要する場合などです。
亡くなった人の土地を名義変更する流れ
ここからは亡くなった人の土地の名義を変更する手順を紹介します。土地の名義変更は、司法書士など専門家に依頼できますが、自分で手続きすると費用を抑えることができます。名義変更手続きの流れを見ていきましょう。
【1】遺産分割協議によって名義人を決める
まず相続人が複数人の場合、相続人の間で財産をどのように分けるか遺産分割協議を行います。現金と違って、土地などの不動産は簡単に分けることができません。遺産分割協議でその土地を誰が所有するのか決める必要があるのです。
なお、亡くなった人の土地について、あらかじめ法務局で不動産登記簿を取得し、土地所有者を確認しておくことも必要です。
話し合いによって財産の分割方法や土地の名義人を決定したら、その内容を遺産分割協議書として書面を作成します。
【2】必要書類を用意する
次に法務局へ相続登記を行うために必要な書類を収集します。主な必要書類は以下の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票等
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 法定相続人全員の住民票または戸籍の附票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 法定相続人全員の印鑑証明書
被相続人の戸籍謄本は、相続開始を証明するとともに法定相続人を特定するために必要となります。そのため、被相続人の出生から死亡まで全てを集めます。法定相続人全員の戸籍謄本は、相続人の地位を有していることを証明するために必要となります。
なお、法定相続情報証明制度を利用した場合は、法定相続情報一覧図の写しを提出するか、法定相続情報番号を申請書に記載することで、被相続人および相続人の戸籍謄本の束に代えることができます。
固定資産評価証明書は、対象となる土地を管轄する市区町村で取得できます。毎年4月頃に管轄の役所から送られてくる固定資産課税明細書があれば、その写しを提出することで代えることもできます。
遺産分割協議書は法定相続人全員の合意で作成し、全員が署名し実印を押します。印鑑証明書はその実印を証明するために添付します。
この他、ケースに応じて必要な書類もあるため、事前に法務局へ確認しておくことをおすすめします。
【3】対象の法務局へ登記申請する
必要書類を集め、登記申請書を作成したら、対象となる土地を管轄する法務局へ登記申請を行います。申請方法は、関係書類を法務局に持参あるいは郵送します。その他、「登記・供託オンライン申請システム」でのオンライン申請も可能です。
法務局に持参する方法は、法務局へ行くための時間はかかりますが、窓口で不明点を直接相談できるメリットがあります。
郵送は出向く必要がないのがメリットですが、郵送のための費用と時間が必要となり、書類に不備があればそのやり取りでさらに費用と時間がかかることがデメリットです。
オンライン申請は電子証明書の取得やソフトのインストールなどが必要となりますが、パソコンに慣れている人には自宅で申請できる便利さがあります。
【4】登記識別情報通知を受け取って完了
申請から名義変更完了までは1〜2週間程度かかります。完了しても連絡は来ませんので、あらかじめ完了予定日を確認しておきます。完了予定日は法務局ごとに情報が出ています。
完了すると「登記識別情報通知」が発行されますので、受け取っておきましょう。登記識別情報とは不動産ごと、名義人ごとに発行されるもので、一般的には「権利証」といわれるものです。登記識別情報通知は再発行できませんので、大切に保管してください。
土地の名義変更にかかる費用
続いて、相続による土地の名義変更にかかる費用を説明します。相続登記にかかる費用は、登録免許税や登記申請に必要な書類の取得費用、司法書士に依頼した場合の報酬があります。以下にそれぞれの概要を説明します。気になる相続税の計算方法についても確認していきましょう。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記申請をする際に課せられる税金です。税額は不動産の固定資産評価額に税率をかけて算出します。この税率は売買や相続といった所有権移転理由によって異なり、相続登記における登録免許税の税率は1000分の4となります。計算式は以下となります。
登録免許税=不動産の固定資産評価額×0.4%
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の場合、登録免許税は4万円です。
なお、相続による土地の所有権移転登記には免税措置が設けられており、相続により土地の所有権を取得した個人が相続登記をせずに亡くなった場合、亡くなった人の相続登記について登録免許税は課されません。他にも、不動産の価額が100万円以下であるときも、登録免許税は課されません。いずれも2025年3月31日までの期限付措置となります。
相続税
ここで相続税の計算方法について、具体的な例とともに解説します。
相続税は基礎控除内であればかかりません。課税遺産総額は土地も含めた遺産の総額から基礎控除を引いた額となります。
課税遺産総額=遺産総額―基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)
例えば、遺産総額が1億円で、法定相続人が配偶者1人、子2人の場合の基礎控除額は4,800万円となることから、課税遺産総額は5,200万円となります。
次に相続税の総額を計算します。相続税の総額を出すには、まず相続人それぞれの法定相続分の割合にしたがって各法定相続人の取得金額を出します。
相続人の順位は、第一順位が子、第二順位が直系尊属、第三順位が兄弟姉妹となり、配偶者は常に相続人となります。法定相続分の割合は以下の通りです。
- 配偶者と子 …配偶者1/2、子1/2(人数で分ける)
- 配偶者と直系尊属…配偶者2/3、直系尊属1/3(人数で分ける)
- 配偶者と兄弟姉妹…配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(人数で分ける)
その各人の取得金額に相続税率を乗じ、計算した税額から総額を出します。相続税率は取得金額によって変わり、以下表の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
先ほどの例の課税遺産総額5,200万円から、各相続人の取得金額および税額を計算すると下記の通りです。
- 配偶者:取得金額5,200万円×1/2=2,600万円 税額2,600万円×15%-50万円=340万円
- 子A:取得金5,200万円×1/2×1/2=1,300万円 税額1,300万円×15%-50万円=145万円
- 子B:取得金5,200万円×1/2×1/2=1,300万円 税額1,300万円×15%-50万円=145万円
相続税の総額=340万円+145万円+145万円=630万円
最後に、相続税の総額を実際に取得した遺産額の割合に応じて按分することで、それぞれの納税額が出てきます。
引き続き先ほどの例で計算すると、割合が法定相続通りである場合、それぞれの納税額は以下となります。
- 配偶者:630万円×1/2=315万円
- 子A:630万円×1/2×1/2=157万5千円
- 子B:630万円×1/2×1/2=157万5千円
ただし、配偶者は税額軽減特例が適用されますので、納税額は0円となります。
また、不動産の場合には、小規模宅地等の特例の利用により評価額が減額されることもありますので条件に合致するかを確認することも重要です。
必要書類の取得費用
相続登記の必要書類にかかる取得費用は数千円程度です。これは戸籍など取得する書類の数で費用が変わり、被相続人の戸籍を作り変えた回数や相続人の人数が多ければ、その分集める書類が増えて費用もかかります。
相続登記で必要となる書類の一般的な取得費用は、1通当たり以下の通りです。ただし、自治体により発行手数料が異なりますので、取得の際に確認しましょう。
- 戸籍謄本 450円
- 除籍謄本、改製原戸籍謄本 750円
- 住民票 300円
- 固定資産評価証明書 300円
- 登記事項証明書 600円
- 印鑑登録証明書 300円
なお、2024年3月1日から戸籍法の一部を改正する法律が施行され、戸籍謄本等の広域交付制度が始まりました。広域交付制度により、これまで本籍地の市区町村でしか取得できなかった戸籍謄本が、最寄りの市区町村で取得できるようになりました。
コンピューター化されていない一部の戸籍・除籍および一部事項証明書、個人事項証明書は対象外ですが、広域交付制度により戸籍収集の負担はかなり軽減されています。
司法書士費用
相続登記を司法書士に依頼した場合は、司法書士への報酬費用も必要になります。日本司法書士会連合会の2018年報酬アンケート結果によると、地域により差はありますが、7〜10万円が平均の目安となります。ただし、相続人の人数が多い場合や書類の収集から依頼する場合など報酬が高くなる可能性があります。
司法書士の報酬は自由化されていますので、依頼の際は司法書士に相談し、報酬額について確認が必要です。なお、登録免許税や証明書類取得にかかった費用などは別になります。
参照元:日本司法書士連合会|報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施
手続きに不安がある方はプロへの相談もおすすめ
ここまで解説してきたように、相続登記を自分で行うことはできます。しかし、遺産分割協議から必要書類の収集、法務局への登記申請等、相続登記には多くの時間と労力を要します。手続きをはじめ登録免許税や相続税の計算など、すべて自分で行うことに不安がある方は、プロに任せるのもひとつの方法です。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」は、相続手続きに強い司法書士とともに、相続手続きをトータルで支援してくれるので安心です。仕事などで忙しい方も、お電話で無料相談ができますので、まずは一度相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
亡くなった人の土地を相続したら、早めに名義変更を行うことが大切です。2024年4月1日から相続登記が義務化されたことにより、名義変更せずに放置すると、土地の売却や住宅ローンが組めないだけでなく、罰則が科されることもあります。相続登記の期限は、不動産を相続したことを知ったときから3年以内です。相続登記の手続きは必要書類の収集など時間を要しますので、早めに取り組むようにしましょう。