日頃からご自身がどんな呼吸をしているか意識していますか。私たちは自然と腹式呼吸と胸式呼吸を使い分けて生活していますが、意識的に腹式呼吸を行うことでさまざまな効果やメリットが期待できるのです。
今回は腹式呼吸に着目し、詳しい効果や実践する上でのポイントなどをご紹介します。腹式呼吸の効果が気になる方だけでなく、「ストレスが溜まっている」「ダイエットにもう一工夫加えたい」といった方も、必見です。
腹式呼吸とはどんな呼吸法?
まずは、腹式呼吸はどんな呼吸法なのか、押さえておきましょう。腹式呼吸とは、大きく横隔膜を動かして空気を取り込む呼吸法です。ゆっくり深く呼吸するため、一度に取り込める空気の量が多くなります。腹式呼吸をする時は、お腹の動きが目立つでしょう。就寝時は、無意識に腹式呼吸をしています。
一方、私たちが日中しているのは胸式呼吸です。胸式呼吸は胸の辺りの動きが活発になりますが、横隔膜の動きが小さいため浅く速い呼吸になります。腹式呼吸より、一度に取り込める空気の量が少ないです。
腹式呼吸と胸式呼吸を自然と使い分けて生活していますが、現代人は胸式呼吸をしがちであるといわれています。さらにストレスが重なって呼吸が速くなると、酸素が充分に取り込めません。そのため、空気をたくさん取り込める腹式呼吸の重要性が叫ばれ、健康法としても注目されているのです。
腹式呼吸に期待できる効果とは?
腹式呼吸は、ゆっくり深く呼吸し、空気をたくさん取り込む呼吸法ということをご理解いただけたと思います。では、腹式呼吸をするとどんな効果やメリットが得られるのでしょうか。ポイントとなるのが、交感神経と副交感神経です。交感神経と副交感神経は総称して「自律神経」と呼ばれ、私たちの体調やメンタルに大きく関わっています。
続いて、腹式呼吸に期待できる効果をご紹介しますので、交感神経と副交感神経の働きにも注目して確認してください。
リラックスできる
腹式呼吸をすると副交感神経が優位になり、リラックス効果をもたらしてくれます。身体を活発に動かす時は交感神経が働いています。心拍数が増え、筋肉へ血液を供給し、身体を活動しやすい状態にしてくれるのです。しかし、ストレスがかかると交感神経が優位になり続け、心身に不調をきたす恐れもあります。
そこで腹式呼吸を行い、副交感神経を優位にすることで、リラックスにつながります。副交感神経は心拍数を下げて消化器への血液供給量を増やし、身体を休息モードへと導いてくれるのです。緊張して落ち着かない時、なかなか寝付けない時は、腹式呼吸を意識してみるとリラックスできるでしょう。
免疫力アップ
腹式呼吸で副交感神経を優位にすることで、免疫力にも影響がでてきます。副交感神経には身体を休ませる働きだけでなく、リンパ球を増やす働きがあります。リンパ球とは血液中の白血球の一部であり、細菌やウイルスなど病原体が侵入してきた際に攻撃する役目を担っている細胞です。つまり、腹式呼吸で副交感神経が優位になるとともにリンパ球が増加し、免疫力向上につながるのです。
血行促進
血行促進にも、副交感神経が関係しています。副交感神経が優位のときは血管が拡張し、交感神経が優位の時は血管が収縮します。血管が収縮し続けてしまうと血行不良になり、肩こりや冷えの原因になりかねません。そこで腹式呼吸で副交感神経を優位にさせ、血管が拡張することで血液の流れを促してくれるのです。
便通の向上
腹式呼吸には、便通の向上効果があるとされています。ここでのキーポイントは横隔膜や腹筋の動きです。腹式呼吸で横隔膜を大きく動かすことで、お腹の中の圧力が高まります。その圧力は便を送り出す力となるのです。また、腹式呼吸によって腸が刺激され便意を起こすことにもつながります。便通の調子を整えるのにも、腹式呼吸は有効といえるでしょう。
インナーマッスルの強化
腹式呼吸で動かす横隔膜は、インナーマッスルのひとつに数えられています。他にも、腹横筋や多裂筋といった筋肉も鍛えられるため、インナーマッスルの強化が目指せるでしょう。
腹式呼吸を取り入れた「ドローイング」というトレーニングがあります。ドローイングはインナーマッスルの強化を目的とし、下腹をへこませる効果が期待できます。
【ドローイングの方法】
- 仰向けに寝る
- お腹に空気をためるようなイメージで大きく息を吸う
- 限界まで吸ったところで息を止めてキープ
- お腹をへこませるイメージで一気に息を吐き出す
- 吐ききったらお腹をへこませたまま10秒キープする(慣れてきたら10~20秒に増やしてキープしてみましょう)
10秒休憩を挟み、3セット行います。身体に力を入れず、真っ直ぐな姿勢を保ってください。腹式呼吸するだけでも横隔膜のトレーニングとなりますが、ドローイングでしっかり筋肉を使うことで、より効果的にインナーマッスルが鍛えられるでしょう。
声が出しやすくなる
腹式呼吸を使うことで、お腹から声が出しやすくなります。「腹式発声」と呼ばれ、プロも実践している方法です。お腹から声が出せると、喉への負担を軽減しつつ、通りやすい声となります。腹式発声は、腹式呼吸で息を吐き出すのと同時に声を出す要領で行います。声を出す時に、「丹田(たんでん)」と呼ばれる部分(おへそから指4本分下の辺り)が硬くなっていればOKです。
腹式呼吸をすると効果的なシーン
さまざまな効果が期待できる腹式呼吸ですが、1日中ずっと腹式呼吸を意識しているのは大変です。そこで、ここぞというときに腹式呼吸を使ってみましょう。ここでは、どんなシーンで腹式呼吸が効果を発揮しやすいかお伝えします。
歌う時
カラオケなどで歌う時は、腹式呼吸を使った腹式発声を意識してみましょう。同じ高さの声を長く出したり、ボリュームの強弱をしたりと、上手に歌いこなすには息のコントロールが欠かせません。息の量や出し方で発声のしやすさが変わってくるのです。
息をコントロールするには、たくさん空気を取り込む腹式呼吸が向いています。使える息の量が多いので、安定した発声ができボリュームの強弱をつけやすいです。反対に、胸式呼吸だと使える息の量が少なく、コントロールが難しいでしょう。
ダイエット
腹式呼吸は、インナーマッスルの強化につながると前述しました。そのため、ダイエットシーンでも腹式呼吸が有効です。よりダイエット効果を望みたいのであれば、腹式呼吸だけでなく他の要素とも組み合わせましょう。例えば、ジョギングやストレッチ、スクワットなどが挙げられます。
腹式呼吸で血行が促進されると、代謝アップも望めます。ダイエットするにあたって、代謝を良くするのに越したことはありません。代謝が活性化すれば、脂肪燃焼も期待できるでしょう。
ストレスが溜まっている時
ストレスが溜まっていると感じたら、腹式呼吸でリラックスしましょう。ストレスにさらされていると交感神経が優位になりがちです。意識的に腹式呼吸をして、副交感神経を優位にさせることで、心身共に落ち着くことが大切です。
冷え対策
冷えの原因のひとつである血行不良を解消するには、腹式呼吸が効果的です。実際に冷え性の対策法として、腹式呼吸が取り入れられています。腹式呼吸を5分ほど行えば、身体が温まってきます。また、交感神経と副交感神経のバランスの乱れも、冷えの要因となってしまいます。腹式呼吸を取り入れてバランスを整え、冷えを予防しましょう。
腹式呼吸の基本的なやり方をおさらい
ここまでで腹式呼吸の効果についてお伝えしてきましたが、肝心の腹式呼吸が正しくできていないと効果が期待できません。腹式呼吸の基本的なやり方をおさらいしておきましょう。
【腹式呼吸の方法】
- 姿勢を正して、鼻からゆっくりと息を吸い込む
- 口からゆっくりと息を吐き出す
【腹式呼吸のコツ】
- 息を吸い込む時は、お腹を膨らませて空気をためていくイメージで行う
- 息を吐き出す時は、膨らましたお腹を元に戻す感じで、吸う時よりも時間をかけてゆっくり行う
腹式呼吸は、座って行う方法や仰向けに寝て行う方法があります。どちらも、息の吸い込み方や吐き出し方は変わりません。まずは仰向けでチャレンジしてみて、できるようになったら座って行う方法や、立って行う方法を試してみましょう。仰向けで行う場合は、膝を立てるとやりやすいです。
腹式呼吸の正しい方法についてはこちらのコラムも読まれています。
腹式呼吸は正しくできている?ご自身で確認する方法
腹式呼吸の基本的なやり方をご理解いただけたでしょうか。では実際に腹式呼吸を行ってみて、正しくできているかご自身で確かめる方法をご紹介します。
【腹式呼吸の確認方法】
- うつ伏せに寝て、手を横腹に添える
- 腹式呼吸を行う
- 背中と横腹が動いているかチェックする
この方法を実践してみた時、背中と横腹が動いていれば正しく腹式呼吸ができているでしょう。時折、正しくできているか確認してみるのがおすすめです。
うつ伏せになると腹式呼吸が人によってはやりずらさを感じると場合もあります。また、ご高齢の方などご自身で寝返りができない場合は危険を伴うため、この確認方法を行うのは控えましょう。簡単に確認したい場合は、下腹部と胸に手を当ててみてください。お腹がしっかり動き、胸を動かしていないか確認できます。また、携帯電話やカメラで動画を撮影し、腹式呼吸の様子を客観的に観察してみる方法もあります。
腹式呼吸の効果をアップさせるポイント
正しい腹式呼吸と確認方法がマスターできたら、より効果を高める方法を取り入れてみてください。ちょっとしたコツなので、すぐに実践しやすいです。
ここでは5つのポイントをご紹介します。
息を吐くことに集中する
息を吸うことよりも、吐くことに集中してみてください。呼吸の基本は、息を吐くことにあります。きちんと吐けていないと、たくさん空気を吸い込めません。基本的な腹式呼吸のやり方でもお伝えしたように、息を吸うよりも時間をかけてゆっくり吐き出しましょう。目安としては息を吸っている時間の倍くらいの長さです。
鼻から息を吸いこむ
腹式呼吸のポイントは、鼻から息を吸うことにもあります。なんとなく「口呼吸はよくない。鼻呼吸のが吸える。」というのを知ってる方も多いでしょうが、実は鼻から息を吸った方が、多くの空気を吸い込むことができ、より深い呼吸へとつながるのです。
イメージを大切にする
腹式呼吸を行う際は、イメージが大切です。具体的にイメージすることで、意識するポイントが分かりやすくなるでしょう。では、イメージの一例を紹介します。
【腹式呼吸の具体的なイメージ】
- お腹の中に風船をイメージし、息を吸う時に風船を膨らませ、息を吐く時に風船をしぼませる
- 高原の澄んだ空気や好きな香りを想像して息を吸う
- ストレスや不安など身体の中に溜まった悪いものを出すイメージで息を吐き出す
このようなイメージを持つと、腹式呼吸が行ないやすくなります。
お腹の動きを意識する
腹式呼吸は、胸ではなくお腹が動く呼吸です。特に意識したいのが、おへそから指4本分ほど下にある丹田(たんでん)。丹田に意識を集中させると、お腹を動かしやすいです。加えて、腹式呼吸をする時に下腹部に手を当てれば、お腹がしっかり動かせているか確認できます。反対に、胸や肩は動かして呼吸しないように注意しましょう。
就寝前に行う
腹式呼吸は、就寝前に行うのがポイントです。前述したように、腹式呼吸をすることで副交感神経が優位になり、心身をリラックスさせ血行を促進してくれるので、就寝中の体力回復の手助けをしてくれます。寝る準備を済ませ、布団の中で腹式呼吸をして眠りにつくのがおすすめです。
腹式呼吸を行う際の注意点
「腹式呼吸にはうれしい効果が期待できるから、たくさん行おう」と思ってしまうかもしれませんが、少しお待ちください。確かにさまざまな効果が得られますが、むやみに行うのは良くありません。
最後に、腹式呼吸の注意点をまとめたので、ぜひこちらも頭に入れて実施してみてください。
日中はできるだけ避ける
腹式呼吸を日中に何度も行うのは避けましょう。というのも、副交感神経が優位になると心身が休息モードに入ってしまい、身体を動かすための筋肉に血液が行き届きにくくなってしまいます。また、中途半端に副交感神経を活動させてしまうことで、交感神経とのバランスを崩しかねません。日中に空気をたくさん吸ってリフレッシュしたい時は、胸式呼吸で深呼吸するのが良いでしょう。
やり過ぎない
腹式呼吸のやりすぎも禁物です。張り切ってやりすぎてしまうと、二酸化炭素が必要以上に吐き出され、過呼吸で息苦しさやめまいなどの症状を引き起こしてしまう恐れがあります。また、お腹を無理に膨らませすぎてしまうと、息切れが強くなることも考えられます。さらには、横隔膜の動きが一方向になってしまい、胸郭(胸骨やろっ骨などで覆われた部分)を動かしにくくなってしまう恐れもあるのです。
腹式呼吸はやり過ぎず、体調や慣れに応じて無理のない回数にとどめておきましょう。回数の目安は1日10回程度。慣れてきたら10~20回程度にしたり、セット数を2〜3セットに増やしてみましょう。
腹式呼吸に副交感神経を優位にさせる働きがあることで、リラックス効果や免疫力アップなどさまざまな効果やメリットがあることをお伝えしました。特にストレスが溜まった時や、冷え対策をしたい時におすすめです。カラオケやダイエットといったシーンでも活躍してくれるでしょう。ただし、正しく腹式呼吸ができていないといけません。時折呼吸の様子をチェックし、注意点も守りながら、生活の中に腹式呼吸を取り入れてみてください。