睡眠は、日中活動における脳の記憶定着や身体の疲労回復を行うために必要なものです。充分な睡眠を取ることで英気を養い、人の日中活動を活発にします。しかし、現代人はストレスや残業時間によって睡眠不足を感じている方が多くいます。
睡眠をしっかり取らなければ成長ホルモンの分泌が少なくなり、免疫細胞を減少させてしまいます。その結果、身体に様々な不調をきたす恐れがあります。では睡眠不足によって身体にどのような影響が及ぶのでしょうか。
このコラムでは、睡眠不足が及ぼす身体への影響や睡眠不足の解消法・症状について詳しく解説します。
睡眠の重要性について知りたい方や睡眠不足を感じている方は参考にしてください。
日本人の多くは睡眠不足を感じている
厚生労働省の調査データによると1日の平均睡眠時間は「6~7時間」の割合が最も高いことがわかっています。また平均睡眠時間が「6時間以下」の割合は、男性37.5%・女性40.6%となっており、年齢別で見ると男性は30~50代・女性は40~50代で40%を超えています。
睡眠の質については「特に不満はない」と回答した割合が、男性31.9%・女性29.9%となっています。つまり、男女共に約70%の方が睡眠に対する満足度が高くないことがわかりました。
睡眠の満足度を得られていない方の回答で一番多かったのが「日中眠気を感じる」、次点では「夜に目が覚める」や「睡眠の質が悪いと感じる」でした。加えて、睡眠の妨げになっている点については、20代は「就寝前のスマートフォンやゲーム」、30~40代は「仕事」という理由が多く回答を得ています。
厚生労働省のデータをまとめると、若い世代ほど睡眠に対する満足度が低く、年代が上がるほど睡眠に対して不満を持つ方が少ない傾向にあることがわかります。
年齢によって睡眠が変化する
睡眠は加齢と共に様々な変化が起こっていきます。まず、睡眠に深い関わりを持つ体内時計は、体温やホルモン分泌など生体機能のリズムが早くなることに影響し、特に高齢者は早寝早起きの傾向になります。
また、高齢者の方は深い眠りに入る「ノンレム睡眠」の時間が少なくなり、浅い眠りに入る「レム睡眠」が多くなるようです。そのため、睡眠中に覚醒も多く発生し、全体的に浅めの睡眠になってしまいます。
以下は高齢者の睡眠の主な特徴です。
- 早寝早起きになる
- 就床の時間が長い
- 途中覚醒が多い
- 睡眠が浅い
次に睡眠障害の可能性です。高齢者は若い世代よりも日中活動が少ない傾向にあり、退職や死別など、周囲の環境変化やストレスなども重なることで生じやすくなります。
以下は高齢者に見られる主な睡眠障害です。
- 睡眠時無呼吸症候群
- レストレスレッグス症候群
- 周期性四肢運動障害
- レム睡眠行動障害
これらの睡眠障害は専門施設で検査して、適切な治療を受けなければなりません。
季節でも睡眠時間が変化する
睡眠時間は季節によって変化します。秋から冬の時期は睡眠時間は長く、春から夏の時期は睡眠時間は短い傾向です。平均睡眠時間でいえば夏より冬の方が約30分長くなるといわれています。
その背景は所説ありますが、冬眠を行う哺乳類と同等の身体機能が人にも備わっているからだと考えられています。つまり、正しくは季節ではなく日中の日照時間に大きく影響しているわけです。
人の持つ体内時計は日照時間の変化を感じることで、睡眠時間をうまく調整する役割を持っていることがわかります。
睡眠の役割と重要性
睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠が交互に繰り返すことで形成されています。ノンレム睡眠は大脳を休ませ、レム睡眠は夢を見る浅い眠りです。睡眠の役割は主に、脳や身体の疲労回復や日中活動における記憶の整理や定着、細胞の修復・成長です。
仮に睡眠不足が続いてしまうと上述の役割が機能せず、病気やストレスの原因となってしまう恐れがあります。睡眠の3つの役割と重要性について詳しく解説します。
疲労回復
睡眠の持つ代表的な役割は疲労回復効果です。脳や身体は活動によってその働きが鈍くなります。そこで、睡眠を行うことで再び活動する力を戻します。
睡眠は深い眠りに入るノンレム睡眠が長いほど、疲労回復しやすいです。「寝る子は育つ」という言葉も、ノンレム睡眠に入ることで成長ホルモンが多く分泌する効果からきているといいます。
記憶の整理・定着
睡眠は日中活動における体験を整理して、脳に記憶させる役割があります。深い眠りに入るノンレム睡眠時に記憶の整理、浅い眠りに入るレム睡眠時に記憶の定着を行うリズムを作ります。
しかし、睡眠時間が充分でなければ安定したリズムを保つことができません。つまり、まとまった睡眠時間を確保することで、人の持つ記憶能力を活かすことができるわけです。
細胞の修復・成長
睡眠中は、人が生命を維持する上で大切な細胞の修復・成長をしています。細胞の修復・成長に必要となるのが成長ホルモンです。成長ホルモンが日中活動で消耗した細胞に働きかけ、傷ついた細胞の修復や細胞分裂を促し、新たな細胞を作り出しています。
しかし、睡眠不足である場合は成長ホルモンの分泌が十分に行えず、細胞の修復・成長ができません。また、免疫細胞が減少する原因にも繋がります。免疫細胞が減少することで病気になるリスクが高まってしまう恐れがあります。
睡眠不足のサイン・症状
睡眠不足のサイン症状には、主に以下のような特徴があります。
- 目覚めが悪い
- 日中でも眠い
- 身体がだるい
- やる気が出ない
- イライラする
このような症状が見られる場合は、睡眠負債を抱えている状態になっています。睡眠負債とは、睡眠不足が慢性的に続くことでその負債が蓄積され、脳や身体に影響を及ぼしていることです。
また、経済協力開発機構の調査データによると、日本人は他の加盟国と比べて睡眠時間が短い傾向にあり、睡眠負債を抱えやすいことが分かっています。
その原因として現代社会では、労働時間の長さや家事・育児などやるべき事が多く、真面目な日本人の国民性も手伝い、結果睡眠時間を犠牲にしているからだと考えられています。
参照元:平成26年版厚生労働白書~健康・予防元年~(厚生労働省)
睡眠不足による影響
睡眠不足は心身の健康に大きく影響を与えます。脳や身体の疲労回復が十分でないため細胞の状態も悪くなり、病気になりやすい体質になってしまう可能性があります。
睡眠不足による主な影響は以下です。
- 多くの病気の原因になる
- 免疫力の低下
- 認知機能が低下する
- 肥満になる
それぞれについて詳しく解説します。
多くの病気の原因になる
睡眠不足は生活習慣病の原因になる可能性が高いといわれています。生活習慣病の方の多くが、不眠症や睡眠時無呼吸症候群の睡眠障害を引き起こしているようです。
これは最近の研究で判明したもので、睡眠不足による影響が様々な生活習慣病の罹患リスクを高めていることがわかっています。睡眠時無呼吸症候群の方は、夜間の不定期な呼吸停止によって低酸素血症や交感神経の緊張を発生させて、高血圧になる恐れがあります。
また不眠症の方は、血糖を上げる糖質コルチコイドが過剰に分泌することで、糖尿病になるリスクも高まるようです。睡眠不足によって認知症やうつなどの深刻な精神疾患や、脂質代謝が落ちることで、脂質異常症になるリスクも高まることがわかっています。
免疫力の低下
人は睡眠によって免疫細胞を活性化させています。免疫細胞は体内に侵入するウイルスに対して攻撃する働きがあります。
しかし、睡眠不足に陥ると免疫細胞が弱くなり、免疫力の低下に繋がります。免疫力が低下すると、風邪や感染症を罹患するリスクが高まってしまいます。
認知機能が低下する
睡眠不足は脳の認知機能を著しく低下させるようです。認知機能の働きが弱まると、集中力や判断力の低下によるミスが増えます。
また、日中頭がぼーっとするなどの症状を引き起こし、仕事や日常生活への影響が大きいです。睡眠不足は日中活動のパフォーマンスを大幅に下げてしまい、生産性の低い活動を強いられてしまいます。
肥満になる
睡眠は身体の消化器系や新陳代謝にも大きく影響を与えています。これらは飲食におけるエネルギーを効率的に変換する役割を持ちます。しかし、睡眠不足であると消化器系の活動や新陳代謝の働きが鈍くなってしまうようです。
新陳代謝は時間が経つほど体重増加を増長させる原因となっています。また、脳が十分に休んでいない場合は、食欲を司る神経も異常をきたし、食欲増加を引き起こすことがあります。
この悪循環によって、睡眠不足は肥満になるリスクを高めるのだと考えられています。
睡眠不足を解消するには
睡眠不足を解消するためには、基本的に現在の生活習慣を改善する必要があります。
主に以下の生活習慣を心がけてください。
- 朝に太陽の光を浴びる
- 規則正しく食事をとる
- 規則正しい睡眠をとる
- 15分程度の昼寝
それぞれについて詳しく解説します。
朝に太陽の光を浴びる
眠りを誘うホルモンに「メラトニン」があり、「セロトニン」から生成されています。このセロトニンは、日中活動において分泌されています。
また、セロトニンの分泌を活発化させるためには、太陽の光をしっかり浴びることが大切です。さらに、起床時にカーテンを開けて太陽の光を浴びることで、体内時計のリズムが整い、夜になると眠くなる習慣になります。
規則正しく食事をとる
規則正しい食生活は生体リズムを整えるために必要になります。朝は忙しいため朝食を抜く方も多いかと思いますが、軽い物でも良いので取るようにしましょう。
食事をきちんと取らなければエネルギー不足となり、睡眠に影響を与える可能性があります。また、就寝前に食事をすると消化活動が行われ、良い睡眠を得ることができなくなるため注意してください。
規則正しい睡眠をとる
睡眠のタイミングを決めているのは体内時計です。ホルモンの分泌を調整して睡眠に備えてくれています。しかし、人の体内時計はリズムが乱れやすい特徴があります。
そのため、休日でも早起きをして、平日と変わらない生活習慣を心がけるようにしましょう。その意識を徹底すると睡眠のリズムを一定に保つことが可能です。
15分程度の昼寝
日中に眠気に襲われることがあるかと思います。その際は眠気に抗わず昼寝をしてください。ただし、昼寝の時間は15分程度に留めましょう。
人は入眠すると、おおよそ30分ほどで深い眠りであるノンレム睡眠に入ります。しかし、不十分な睡眠時間で深い眠りに入ってしまった場合は、余計に眠気や倦怠感を感じてしまいます。
そのため、昼寝をする場合は、完全に深い眠りに入る前に起きることが大切です。その時間がおおよそ15分程度であると考えられています。
睡眠不足を解消しよう
睡眠不足による心身への影響は計り知れません。睡眠不足は日中活動のパフォーマンスを低下させるだけでなく、感染症リスクも高くなる恐れがあります。
また、生活習慣病やうつ、認知症などの病気を引き起こす要因としても考えられています。不眠や睡眠障害を甘くみていると、取り返しのつかないことになるかもしれません。
睡眠不足には生活習慣の改善が大切です。今回紹介した睡眠不足の解消法を実践して快適な睡眠をとりましょう。