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【医師監修】耳鳴りを引き起こす原因は?日常生活でできる対処法や治療法を解説

【医師監修】耳鳴りを引き起こす原因は?日常生活でできる対処法や治療法を解説
磯野 志真 医師

監修者

医師

磯野 志真

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会所属の耳鼻科の女性医師です。大学病院、市中病院などでの勤務経験に基づき、一般的な耳鼻科疾患から、小児の難聴・中耳炎、成人の頭頸部癌まで幅広く診療した経験があります。他にもAGA外来、一般内科、健康診断科等の幅広い勤務歴があります。高いエビデンスに基づいた分かり易い内容をお伝えできるように努めます。

耳鳴りが気になって、仕事や趣味に集中できないとお悩みの方もいるのではないでしょうか。耳鳴りは人によって感じ方や聞こえ方が異なるため、思った以上に厄介です。このコラムでは、耳鳴りを引き起こす原因や、耳鳴りの症状が表れる病気の種類、日常生活でできる耳鳴り対処法などについて紹介します。耳鳴りにお困りの方、自身の耳鳴りと上手に付き合っていく方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

耳鳴りとは

耳鳴りとは

耳鳴りとは、自身の周りで何も鳴っていないはずなのに、耳の中でさまざまな音が聞こえる症状です。耳鳴りの代表的な音としては、「ザー」「ゴー」「ジー」「ブーン」といった低音や、「ピー」「キーン」「ミーン」といった高音などが挙げられます。音の大きさや聞こえる頻度は人によってさまざま。

軽症の場合は、疲れやストレスが溜まった時にのみ表れたり、静かな場所にいる時だけ聞こえたりします。重症の場合は、他の音が聞こえないほど強く自覚したり、精神的に辛くなったりするといった状態に陥り、24時間耳鳴りが継続的に聞こえる場合もあるのです。耳鳴りの多くは、どんな音が聞こえて、どんなふうに不快なのかを伝えようとしても、周囲に理解してもらうことが難しく、辛さを共有できない部分が大きな悩みといえるでしょう。

耳鳴りが起こる原因は、人間が音を聞く仕組みと深く関係しているのです。音を聞く時は、音が耳の穴を通って鼓膜へ伝わります。音によって鼓膜が振動し、耳小骨で振動を増幅させて耳の奥へ。耳の奥には音を電気信号に変える蝸牛(かぎゅう)があり、電気信号が脳に伝わることで音として理解される仕組みになっています。音を聞く機能の中でも重要な役割を担っている蝸牛ですが、耳鳴りにも大きく関係するのです。

実は耳鳴りを起こす方の9割以上に何らかの難聴を伴っていることをご存じでしょうか。難聴の方は蝸牛に異常があるケースが多く、音を電気信号に変える機能が弱いため、音の認識が困難に。脳は聞こえない音を補うため過剰に反応し、電気信号を増幅させるのですが、何も鳴っていない時も反応してしまうので、常に音がするように感じてしまいます。つまり、耳鳴りは音が聞こえない状態を補おうとして起こる脳の反応なのです。

耳鳴りの種類

耳鳴りは大きく分けると3つの種類に分けられます。それぞれどんな特徴があるのか、症状にも触れながら見ていきましょう。

生理的な耳鳴り

「生理的耳鳴り(オイフォン)」は一時的な耳鳴りの症状で、誰でも経験する可能性があります。生理的耳鳴りは、静かな場所で「シーン」「キーン」といった音が聞こえるのが特徴。これは生理的な現象のため、病気が原因ではありません。健康な方でも全く音のない環境で過ごしていると、9割の方が何らかの音を感じます。

参照元:愛媛県耳鼻咽喉科医会

自覚的耳鳴り

「自覚的耳鳴り」とは、周りで音がしないはずなのにご自身にだけ聞こえる耳鳴りです。耳鳴りに悩まされている方の多くが自覚的耳鳴りに当てはまります。聞こえる音は「ゴーゴー」「ザーザー」「ジージー」といった低音中心の場合と、「ピーピー」「キーン」「ミーン」といった高音中心の場合の2種類。自覚的耳鳴りの原因は多種多様ですが、耳から脳への聴覚経路の一部で音を感じる神経が異常を来していると考えられています。音の大きさや音を感じる場所が変化することも。

他覚的耳鳴り

「他覚的耳鳴」とは、聴診器などをとおして他人でも聞こえる耳鳴りで、自身の身体が発する音が発信源になっているのが特徴。他覚的耳鳴りには2種類あり、それぞれ聞こえる音も違います。

1つ目は、間欠的な耳鳴り。耳周りの筋肉が痙攣(けいれん)したり、粘膜に触れたりすることで「プツプツ」「コツコツ」「ピチャピチャ」といった音が聞こえます。2つ目は持続的な耳鳴りで、血液が流れる「ザー」「ドクンドクン」といった音が聞こえるのが特徴です。

日常生活に潜む耳鳴りを引き起こす原因

日常生活に潜む耳鳴りを引き起こす原因

日常生活には、耳鳴りを引き起こす原因がたくさん潜んでいます。耳鳴りを引き起こす原因について詳しく見ていきましょう。

大きな音

大きな音を長時間聴き続けることが、耳鳴りを引き起こす原因になる場合があります。通常、音は蝸牛にある有毛細胞で音を感じ取っていますが、大きな音で有毛細胞がダメージを受けると、聴力が低下し耳鳴りが起こる場合があるのです。大音量で長時間音楽を聴いたり、工事現場の騒音を近くで聞き続けたりする場合は耳鳴りが起こりやすくなるため注意しましょう。

また、大きな音を長時間聴かないように意識することも必要です。仕事柄どうしても大きな音を聞く状況にある場合は、耳栓をするなどの対策をすると良いでしょう。加えて、長時間大きな音を聞いた後は、耳を休ませる時間を取るようにするのもおすすめです。

ストレス

ストレスが原因で耳鳴りを発症するケースも。ストレスには、人間関係や仕事などによる「精神的ストレス」と、睡眠不足や生活環境などが身体に与える「身体的ストレス」がありますが、どちらも長期間続くと自律神経が乱れて耳鳴りを引き起こす原因になります。また、耳鳴りと同時にめまいを引き起こす場合も多く、これらの症状がさらにストレスとなり、結果的に耳鳴りを悪化させる悪循環につながってしまう可能性も。自律神経のバランスを整えるためにも、日頃からストレスを溜めないように意識しましょう。

気圧の変化

天気が悪い日に耳鳴りが起こりやすい場合は、気圧の変化が関係している可能性があります。天気が悪い日は低気圧の状態になっているのですが、人間の身体は低気圧の環境下にいると、細胞や血管が膨張します。細胞や血管の膨張により神経が圧迫され、その結果耳鳴りが生じやすくなるのです。

特に、台風や梅雨の時期は耳鳴りに影響を及ぼしやすくなる時。この時期は、高気圧と低気圧の移り変わりが激しく、耳鳴り以外にも頭痛やめまいなど、他の体調不良が起こりやすくなります。天気が悪い日は無理をせず身体を休ませるようにしましょう。

病気によって引き起こされる耳鳴り

病気によって引き起こされる耳鳴り

耳鳴りは体調や外的要因だけが原因ではなく、病気によって引き起こされる場合も。ここでは、耳鳴りの症状が表れる耳の病気について解説していきます。

メニエール病

メニエール病は特に30~50代の女性に見られる疾患で、突然ぐるぐると回るようなめまいが現れ、同時に片耳だけの耳鳴りや、難聴、吐き気、耳の閉塞感などの症状も起こります。「突発性難聴」と似ているといわれますが、10分〜数時間と比較的長い時間のめまいを何度も繰り返す点が大きな違いです。ストレスや疲労、睡眠不足が原因と考えられています。

聴神経腫瘍(ちょうしんけいしょうしゅ)

聴神経腫瘍は脳と耳をつなぐ神経にできる良性腫瘍。片耳だけの耳鳴りや難聴、めまいなどが現れます。近年はMRIの普及により、腫瘍が小さい段階で発見されることが多いです。

突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)

突発性難聴は突然音が聞こえなくなる病気。片耳だけの耳鳴りや、片耳の難聴、めまいなどが表れます。原因ははっきりわかっていませんが、症状が表れてからすぐに治療を開始しないと、聴力が元に戻らない場合があるので、早期治療が必要です。

老人性難聴(ろうじんせいなんちょう)

老人性難聴は加齢によって蝸牛と有毛細胞が衰え、両耳の耳鳴りや難聴などが出現します。加齢とともに進行し、男性の方が聴力の低下が大きいのが特徴です。

騒音性難聴(そうおんせいなんちょう)

騒音性難聴は工事現場などの大きい音がする環境に長時間身を置くことで、両耳の耳鳴りや痛み、難聴などの症状が表れます。進行性の難聴で、感じ方には個人差があり、大きい音がある環境に慣れてしまうと、気付かないまま症状が悪化している場合も。対処法としては耳を休ませることが必要です。

急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)

急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)

急性中耳炎は耳と鼻をつなぐ耳管を経由し、喉や鼻風邪の細菌が中耳に感染し炎症を起こす病気で、痛みや発熱、聞こえの悪さなどの症状を伴います。中耳炎にかかると耳の機能も低下してしまうので、難聴や耳鳴りを引き起こす原因にも。中耳炎の原因となる症状を治療すれば耳鳴りなどの症状も一緒に改善されるので、耳に違和感や痛みを覚えたら早めに病院を受診するようにしましょう。

耳垢栓塞(じこうせんそく)

耳垢栓塞は耳の奥で耳垢が溜まってしまい、耳の穴を狭くしたり、塞いでしまったりする病気です。耳掃除の際に間違った方法で行うと、耳の奥に耳垢を押し込んで外耳道を詰まらせてしまい耳垢栓塞になる可能性も。耳鳴りや耳の閉塞感などの症状が現れることもあります。

耳管狭窄(じかんきょうさく)

耳管狭窄は耳管が狭くなったり、塞がれたりする病気。風邪やアレルギー性鼻炎、咽頭炎、扁桃炎、副鼻腔炎など喉や鼻の炎症によって、鼻の奥にある耳管開口部の周辺に炎症が起こることが原因です。耳管狭窄の症状は、耳鳴りや音がこもって聞こえます。

耳硬化症(じこうかしょう)

耳硬化症(じこうかしょう)

耳硬化症は鼓膜の奥にある3つの小さな骨である耳小骨のうち、一番奥にあるアブミ骨が徐々に動かなくなり、進行性の難聴を発症する原因不明の病気です。難聴や耳鳴りの他に、まれにめまいを伴う方もいます。

日常生活でできる耳鳴りの対処法

耳鳴りは日常生活で改善できることもあります。今日からすぐに実践できる方法を紹介するので、耳鳴りの止め方、治し方を知りたい方は参考にしてください。

ストレスを解消する

ストレスは自律神経を乱す大敵です。自律神経が乱れて耳鳴りが悪化するケースも少なくないので、運動や好きな音楽を聞いてリフレッシュすることを心掛けましょう。疲労や寝不足もストレスにつながるため、生活リズムも整えるように意識してください。

十分な睡眠を取る

十分な睡眠を取る

睡眠をしっかり取って休息することも自律神経を整えるのに有効です。質の良い睡眠を取るためにも、軽い運動をしたり、湯船に浸かって疲れを取ったりすると良いでしょう。寝る前のスマートフォンやテレビの使用は脳が覚醒してしまうので控えることが大切です。

血流を良くする

耳の血流が良くなると、耳鳴りの緩和につながることもあります。身体の血の巡りの改善には、運動をしたり、長めの入浴で身体を温めたりすることがおすすめです。

静かすぎる環境をなるべく作らない

シーンとした静かすぎる環境は、かえって耳鳴りが気になってしまいます。家で過ごす時は、長時間流れても不快にならないような波や川のせせらぎのような自然音を、小さい音量で流して聞いていると、耳鳴りが気にならなくなるでしょう。

カフェイン・タバコを摂りすぎない

コーヒーやお茶に含まれるカフェインには、覚醒作用や興奮作用があり、睡眠に影響します。タバコによって体内へ取り込まれたニコチンは、血管周りの筋肉を収縮させ、血管を細くしてしまうため、血流が悪くなるのです。血流が悪くなると聴力が低下し、耳鳴りが起こりやすくなります。どちらも摂りすぎには注意しましょう。

食生活を意識する

食べ過ぎ、飲み過ぎを避けて、規則正しい食生活を送ることも耳鳴りの対処法のひとつです。積極的な水分補給と末梢神経の動きを良くするビタミンB12の摂取が、耳鳴り改善に効果があるといわれています。ビタミンB12の補給には、魚やレバー、貝類がおすすめです。

耳鳴りの治療方法

耳鳴りの治療方法

最後に、医療機関ではどんな耳鳴りの治療方法があるのかを紹介します。

薬物療法

薬物療法は突発性難聴や音響性難聴、メニエール病など、耳鳴りの原因と考えられる疾患に対して、その病気に応じた薬で治療していく方法です。耳鳴りそのものをなくす薬はありませんが、関係性ある疾患の症状が改善することで、耳鳴りが軽減する場合もあります。

心理療法

心理療法はカウンセリングによって耳鳴りにアプローチしていく治療方法。耳鳴りの症状に悩んでいる方の多くは、「いつまで続くのだろうか」という不安からストレスを感じて、耳鳴りが悪化してしまうことも。カウンセリングで、耳鳴りの症状を話したり、誤った知識を払拭したりすることで症状の改善を試みます。

TRT療法(耳鳴り順応療法)

TRT療法は、薬物治療では改善が難しい耳鳴りを補聴器や音源治療機などを用いて緩和するための治療方法です。耳鳴りについての正しい知識を得てトレーニングすることで、「不快な音」として認識していた耳鳴りが次第に「意識しなくても良い音」へと順応していきます。ただし、TRT療法は耳鳴りを取り除くことを目的としていないので、耳鳴りを消したいと思っている方には向いていません。

音響療法

音響療法は耳鳴りに似ている音や、波や川のせせらぎ、木々のざわめきといった自然界の音を聞くことで、そちらに意識を分散させて、相対的に耳鳴りを小さくしていく治療方法です。耳鳴りに意識が集中しないように慣らしていきます。

おわりに 

耳鳴りを引き起こす原因は、日常生活のさまざまな部分に潜んでいます。ただ、人によって聞こえる音や大きさ、条件が異なり、症状を理解してもらうのが難しいのも事実。軽い耳鳴りだと思っていても、実は病気が関係する耳鳴りだったということも考えられます。早めに対処すれば悪化せずに済むケースもあるので、日常生活で耳鳴りが気になったら、早めに身近な方に相談したり、医療機関への受診を検討したりしてください。

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