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声の影響力〜信頼される声を育てる

声の影響力〜信頼される声を育てる
神尾 敬子 声楽・ピアノ・音読講師

執筆者
神尾 敬子 声楽・ピアノ・音読講師

東京音楽大学音楽学部声楽科卒業。イタリアオペラ、フランス及びドイツ歌曲を学ぶ。
虎ノ門病院、東大医科研附属病院、日本音楽療法学会全国大会、アジア・太平洋地域国際エイズ会議にて招待演奏。アレキサンダー・テクニーク、加藤メソッド(呼吸法)等々を習得、音楽講師、ヴォイストレーナーとして活躍中。
また、ナレーションの神様、矢島正明氏にドラマティックリーディングを師事。朗読会開催の要請にも応じている。

緊急事態宣言が実施された折、どうなるのかわからない不安を抱えながら夜ラジオに耳を傾けていたことを思い出します。また私はよくYouTubeの朗読動画などから好きな声の読み手を探して、名作の朗読を聞いていました。そんな時間がどれほど心穏やかに保つことに力を貸してくれたかわかりません。人間の声の持つ癒し効果といってしまえばあまりに軽く聞こえるかもしれません。また逆に、あの人の声を聞くだけでストレスがかかるというお話をしてくださる方がいました。そこから発せられる言葉とは別に、過去の記憶と結び付いて声を聞くだけで身体が萎縮してしまうというような経験のある方は少なくないようです。声には一体どんな影響力があるのか、それによって我々自身もどんな声を求めていったらいいのか考察してみたいと思います。

「声」が大事な理由

第一印象「見た目」の次は「声」

「人は見た目が9割」(竹内一郎著 新潮文庫2005)というベストセラーとなった本がありました。センセーショナルなタイトルが話題だったように記憶しています。

一方で、「メラビアンの法則」というのをご存知でしょうか。こちらは、『感情や気持ちを伝えるコミニケーションを取る際、どんな情報に基づいて印象が決定されるのか』ということを検証したもので、人の印象は視覚が55%、聴覚38%、言葉が7%というのです。一定レベルまでは、声の改善でずっと印象が上がるということではないでしょうか。

声の良い方の言葉は耳に入ってくる

声の良い人の言葉は耳に入ってくる

先日、デパートの大人気の催事場に行きました。朝早くから整理券が配られるほどの人気ぶりで、いつ混乱が起こっても無理は無いような入場者数でした。そこで百貨店社員であろう方が列の整備や案内をしていらっしゃいましたが、中に大変よくとおるバリトン(男性の中低音域の声)の声を持つ社員の方がいらっしゃいました。思わず、振り向いて名札を見てしまいたくなるような美声の持ち主で、その方の指示では、整然と列ができ、統制されてお客様が誘導されていました。一方、いくら必死に声を張り上げてもなかなかお客様を動かせない社員の方もいらっしゃいました。ご案内の文言はほとんど同じなのにです。声によって、こうも違うものかと考えさせられ帰宅しました。

声は嘘をつけない

声は嘘をつきません(声で嘘がばれるという意味です)。精神状態はダイレクトに声に表れます。声の源は息(吐く息)だからです。呼吸が浅くなり声がうわずったり、声が安定しなかったり声が高くなったり、速度が速くなったりしてしまいます。

人は嘘をつく時、緊張感が高くなりおどおどしてしまって交感神経が優位になってしまいますので、安定した腹式の発声でゆっくり落ち着いて話すことができなくなってしまうのです。上司やリーダーがいつもおどおどした声を出しているとしたらどうでしょう。なかなかついて行きにくいですね。「これで良いのだろうか」とこちらが不安になります。信頼度が低くなってしまうようです。では信頼される、聞いてもらえる声とはどんな声でしょうか。

信頼される、聞いてもらえる声とは

産声(うぶごえ)の秘密

産声(うぶごえ)の秘密

赤ちゃんは産道を抜けて外に出た途端、肺に空気が流れ込んで膨らみ、横隔膜を動かし、産声を上げます。毎日たくさん声を上げて泣くことにより、肺に新鮮な酸素を取り込んで、不要な二酸化炭素を吐き出しています。その吐いた二酸化炭素を利用してまた声を上げます。お腹周りの筋肉もあちこちたくさん使い、声を出すことで、毎日筋トレをしています。無駄なく、筋肉を使い、余計なところに力を入れない産声のような声をもう一度出してみたいものです。それが、その人の持つ「本来の声」といえます。

貴方の「本来の声」

貴方の「本来の声」

この産声こそがその方の持つ「本来の声」です。あんなに小さな身体なのに、効率良く筋肉が使われていて、よく響く大きな声になっています。みなさんどこかに、余計な緊張やストレスがかかってしまっていないでしょうか。長い時間歌うと声が枯れる、子どもを怒鳴りすぎて声が枯れる、高い声を出そうとすると喉に力が入る、これは全て余計な緊張感(ストレス)を自分自身でかけているということです。この、余計な力を取り除き、必要なポイントにエネルギーを注ぎたいのです。

「本来の声」を育てるトレーニング

弛緩

たいていボイストレーニングにいらっしゃる方は大きな声を出したいとか、高い声を出したいと意気込んでいらっしゃるので、意味のないところに無駄な力が入っています。それが素直に自分の「本来の声」を出すということに、ブレーキをかけているのです。まずやらなければならない事は弛緩です。永遠のテーマといえます。人は柔らかく生まれて硬くなって人生を終えるともいわれますが、日々のストレッチや有酸素運動、入浴などで動きやすい柔軟な身体を意識しておくことは重要です。また、余計な力を入れないことです。多くの方が声を出すことにがんばり過ぎていて力が入ってしまっています。

姿勢

足の親指を平行に並べ、地面にしっかりつける

足は腰幅に平行に並べて立ちます。足の親指を地面から離さないように、親指がつま先まで地面についていることを意識してください。親指が地面についたら一旦軽く膝を曲げてゆっくり立ちます。地面を押すように自然と身体が上がってくるよう意識してください。すると、下半身が安定してきます。目線は上を向き過ぎないように、顎は上がりすぎないようにします。

身体をたて半分に分ける「正中線(せいちゅうせん)」を意識する

身体をたて半分に分ける「正中線(せいちゅうせん)」を意識する。

頭から地面までの身体の真ん中を意識します。自身の身体の左右を意識します。一度鏡で見てみるのは良いことですが、重要なのは、自分自身でこの正中線を意識し、体幹を身体の中に持とうとすることです。アイマスクをして(視覚をゼロとして)トレーニングするのも、体幹を意識するのに役立ちます。

私のところにボイストレーニングのレッスンに来ている、20代の男性から聞いたお話です。彼が勉強しているパントマイムのクラスに視覚障害の青年がいらして、その青年の声が大変に良いというのです。今は多くの情報があり、知識をキャッチする事は容易にできますが、いま一度、自分自身と対峙し、内なるところでどのような変化が起きているか、どのように響いているか、どんなふうに身体を使えているか、観察することも重要かも知れません。声は目に見えませんので、自身の聴感覚も使いながら観察してみてください。

呼吸

呼吸

現代人の浅くなっている呼吸を、また見直してみましょう。一度両手を上げ、万歳の姿勢になってみてください。手を下ろした時よりも胸郭が自由に動くことを体験してみましょう。腕を下ろしているだけで、人間はその腕の重さで胸郭に重力(G)がかかっています。寒くなっていると筋肉は硬くなり、前傾姿勢になるのもまた、ますます良くありません。寝ているときはみんな腹式呼吸になっていると、よくいわれますが、その時、腕は胸郭に対してストレスになっていません。立っていても万歳をすることで腕の重さが胸郭にかからないように体験していただきたいのです。すると、思っている以上に肋骨や横隔膜が自由に動く事が意識できるでしょう。

おわりに

私たちは等しく「声」と言う道具を持っています。その道具をもっと有効に活用していくと、また新しい世界が開けてくるのではないかと思います。

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