虫垂炎(ちゅうすいえん)は、大腸の一部である虫垂部位に炎症がおきている状態であり、世間的に「盲腸(もうちょう)」と呼ばれることもあります。
子どもから高齢者まで幅広い年齢層で発症する可能性がある頻度の高い病気であり、へその周りから右下腹部にかけて疼痛症状を認め、嘔気や食欲不振などの自覚症状が出現した際には虫垂炎を疑う必要があります。
今回は、虫垂炎の主な原因、症状、検査、治療方法などを中心に解説していきます。
虫垂炎の特徴
虫垂炎とは、大腸の一部である虫垂という場所に炎症が起きている状態です。虫垂炎は一般的に盲腸とも呼ばれていますが、いわゆる子どもから大人まで発症するとされている頻度の高い病気です。
この病気は、男女関係なく子どもから成人および高齢者に至るまで幅広い年齢層で発症するといわれており、特に10〜20代頃での発症が多いとされています。
虫垂炎を引き起こす3つの原因
細菌感染
虫垂炎の原因は、虫垂部に便や植物の種などが入り込むことによって細菌感染を合併して発症するといわれています。
解剖学的に虫垂の片側端は盲腸側に窓口が開いていますが、反対側については行き止まりになっているために、仮に虫垂の内部に硬便が詰まって虫垂壁の粘膜に炎症が起こり腫れて内腔を塞ぐと、虫垂内部の圧力が著明に高くなります。
そして、虫垂内の圧力が上昇して逃げ場を失うと、虫垂へ送られる血流が障害を受けて、虫垂粘膜層に充分な血液が届かなくなり細菌感染を合併しやすくなることで虫垂炎が発症することにつながります。
虫垂炎は便の塊などが虫垂周囲を塞ぎ細菌感染することによって発症する恐れがあると考えられているので、普段から便秘を改善して食物繊維の多い食事メニューを摂取して栄養バランスの取れた食生活を心掛けるように意識しましょう。
糞石
硬い便は通称で糞石とも呼ばれ、この糞石による虫垂内腔の閉塞が虫垂炎の原因とも考えられており、この糞石成分は食物繊維が少ない食生活が関与して形成されると伝えられています1)。
また、便秘がひどい場合には通常よりも虫垂付近の臓器が圧迫されて、壊死(えし)や炎症を起こしやすく糞石が形成されやすいと考えられています。
したがって、日常的にヨーグルトや納豆など腸内環境を調整して整腸作用を有する食事を積極的に食べることによって便秘症にならないように注意しましょう。
虫垂炎に関連する知識
虫垂炎の症状とは?
まず初期症状として、右下腹部の痛みや吐き気、食欲不振などの消化器症状が現れます。虫垂炎の症状は時間経過に応じて変化するという特徴がありますので、炎症が波及するにつれて痛みがある場所がみぞおちあたりから右下腹部へと移動するようになります。
炎症がさらに悪化すると虫垂壁の外部にも強い炎症像が波及して、腹部症状が重篤化して腹膜炎と呼ばれる状態に進行してしまい緊急的な処置が必要になります。
腸管に穴が空いてしまう穿孔(せんこう)を起こさない虫垂炎の場合でも、特に高齢者においては急速な経過を経て敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群という重症な状態に進展して全身状態が悪化することが懸念されています。
虫垂炎の症状に関するチェックリスト
急な腹痛を感じた方は以下のリストをチェックしてください。
チェックリスト
大人であれば自覚症状を明確に認識できますが、小児の場合にはいつもより機嫌が悪く、食欲がなく食べ物を摂取しても吐いてしまうなどの症状が見受けられる場合も想定されます。
虫垂炎を疑った場合の受診目安
急性虫垂炎の症状は、放置すれば悪化することが多いですので、腹部の痛みがへその周りから右下腹部へ移動するようであればできるだけ早く病院を受診するように心掛けましょう。
また、虫垂炎を発症してから1日~2日以内に炎症を起こした虫垂が破裂する、あるいは膿瘍形成に至って重篤化するリスクがあるため、夜間に症状発現した際には遠慮なく救急車を呼んで救急医療機関を受診することも視野に入れておきましょう。
虫垂炎の検査とは?
現実的に医療機関などで急性虫垂炎を診断する方法としては、以下の検査を行います。
検査方法
✓医師の腹部触診
✓血液検査
✓腹部CT検査(あるいは超音波検査)
急性虫垂炎を診断する為には、主に臨床的な評価、あるいは腹部CT検査や超音波検査などの画像結果に基づいて判断することになります。
臨床的に医師が実践する典型的な腹部触診の所見としては、右下腹部を押さえた際に患者さんが痛みを感じて、炎症が周囲に広がり腹膜に及ぶと反跳痛と呼ばれる徴候が認められるようになります。
臨床検査領域では、採血検査にて白血球数が概ね12,000~15,000/μLと白血球増多所見が認められることもあります。
しかし、この所見自体は個々によって非常に大きく変動する可能性があるために白血球数が正常であるからといって容易に急性虫垂炎を除外診断すべきではないと考えられます。
画像診断ツールのひとつとして、造影CT検査は虫垂炎の診断に充分な精度を有しており、急性腹症をきたす虫垂炎以外の他の原因も明らかにできるので有用的と考えられます。
また、腹部超音波検査は迅速に施行できるうえに放射線曝露の心配が必要ありませんが、まれに腸管ガスが多い場合には腹腔内臓器の描出がされにくく診断能として限界があることに留意しておきましょう。
虫垂炎の治療
虫垂炎の所見が軽症であれば、抗生剤によって炎症を抑え制御する治療が行われ、中等度以上に炎症所見が進行した虫垂炎のケースでは手術による治療が必要な場合もあります。
虫垂炎を発症した際の治療方法としては、抗生剤を使用して虫垂の炎症を抑える保存的な療法、あるいは根本的に虫垂切除処置を実施する手術治療のふたつが大きく推奨されます。
手術方法としては、現在では腹腔鏡下手術を原則とした虫垂切除術が主流であり、虫垂を根元で切り取る術式となります。
緊急で手術を実施する場合は、術後平均4日間で退院予定であり、待機的に手術を行う際には術後平均3日間で退院可能が目安となっており、虫垂部が破裂している重症な症例では術後の入院期間が約10日間前後と長期化する傾向があります。
退院後に、歩行するなど日常生活は可能ですが、手術創部が腹壁瘢痕ヘルニアにならないように激しい運動や重い荷物を持つ動作などはできれば術後約1か月間は回避することが重要となります。
近年では虫垂炎に対する治療の選択肢は広がっており、膿瘍(のうよう)や腸管に穴が空いてしまう穿孔(せんこう)を伴わない急性虫垂炎の治療においては手術治療に対して抗生剤投与を中心とした保存治療の治療成績は劣らないと指摘されています。
多くの症例では保存的治療で症状が改善することが認められますが、実際に治療を行う担当医から個々の炎症状態、保存治療の適応があるか、手術治療の必要性などを十分に確認したうえで治療法を選択するように心掛けましょう。
虫垂炎を自宅でできる改善方法
最近では、急性虫垂炎の患者さんが簡便に鎮痛薬や漢方薬を市販の店頭で手に入れることができる機会も多くなっており、自宅で対応できる改善方法もいくつかありますのでご紹介いたします。
大黄・芒硝・甘草などが配合されている「大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)」と呼ばれる漢方薬は、便秘症に対して多く利用されている薬剤のひとつなのですが、薬効作用は比較的穏やかであり、急性虫垂炎の炎症改善のみならず腹部膨満感などの症状にも効果的であると考えられています。
また、下痢症状が強く認められている急性虫垂炎の場合には、体力や健康状態に不安がある方向きの桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)や茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)などの漢方薬を服用することで効果的に働く場合も期待できます。
改善しない場合は消化器内科専門医や外科専門医へ相談しましょう
虫垂炎を発症した際の治療方法としては、抗生剤や漢方薬などを活用して虫垂の炎症を抑える保存的な療法、または根本的に虫垂切除を基本として炎症部に対して根治的な処置を実施する手術療法のふたつが主に推奨されています。
現実的に手術をするかどうかの判断に関しては、実際のところそれぞれの医療施設での治療方針に委ねられており、多くのケースでは保存的治療のみで症状が改善することが認められますが、治療を実施する担当医から手術治療の必要性などを充分に確認しましょう。
急性虫垂炎による症状は放置すれば徐々に悪化することが多いので、腹部の痛みが右下腹部へ移動して悪化するようであれば、できるだけ早く消化器内科専門医や外科専門医など専門医療施設を受診するように心掛けて下さい。
引用文献
1)江藤 聡一, 室屋 大輔, 石川 博人, 岡部 正之, 岸本 幸也:糞石を伴う急性虫垂炎保存的加療後に術中診断された虫垂粘液囊腫の1例. 日本腹部救急医学会雑誌. 2020 年 40 巻 5 号 p. 701-704.
DOI https://doi.org/10.11231/jaem.40.701