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【医師執筆】うつ病と診断された従業員との関わり方

【医師執筆】うつ病と診断された従業員との関わり方
馬渕 青陽 医師

執筆者
馬渕 青陽 医師

日本一親しみやすい産業医を自負する、中部産業医・労働衛生コンサルタント事務所代表。企業における健康管理を専門とする医師として、日々多くの経営者・労働者の相談に乗り、健康を守るお手伝いをしています。お話をよく聞いて、関わった全ての方が幸せになれるような方法を一緒に考えています。名古屋大学医学部医学科卒業、博士(医学)、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。

こんにちは。企業の健康管理の専門家、産業医の馬渕青陽と申します。最近、顧問先から、「従業員や部下がうつ病といわれてしまったが、どのように対応したら良いかわからない」という声をよく聞きます。

実際、周りにうつ病になった方が思い当たる方はかなりいらっしゃると思います。日本人の約16人に1人が一生の間に一度うつ病にかかってしまうというデータもあります[1]。

しかしうつ病の方との関わり方について、熟知している方は少ないのではないでしょうか。労働者の健康管理を熟知している産業医の立場から、経営者や管理職など会社の方に向けて、うつ病といわれた労働者との適切な関わり方について、流れを追って説明します。

ポイント① まずは、うつ病のサインを見つけましょう

うつ病というのは、ざっくりいうと、気分が異常に落ち込んで回復しない精神状態を指します。

そのため、普段と比べて、

  • 落ち込んでいる
  • 明らかに表情が暗い
  • 遅刻、欠勤が増えた
  • 仕事でミスが多い

などの症状として現れることが多いです。

こういったサインが1ヵ月程度続いていると、うつ病の可能性があります。変化を感じ取るには、その方の普段の状態を知ることが重要です。日々の面談などを通じて人となりを理解しておきましょう。

ポイント② 話を聞いて、相手を心配する気持ちを伝えましょう

ポイント② 話を聞いて、相手を心配する気持ちを伝えましょう

「最近様子がおかしいな?」と感じる従業員がいたら、個別で話を聞く機会をつくり、状況を把握しましょう。

面談中は 、相手を心配する気持ち、思いやる気持ちを、言葉と姿勢で伝えると良いでしょう。例えば、顔色の悪い従業員がいた場合には、「最近、元気がないようで心配している。何か悩んでいることがあるかな?」というように、気持ちを伝えましょう。従業員の方は、話をしようと呼ばれた段階で不安だと思いますので、まずは安心感を抱いてもらうことが重要です。

どうしても話を聞いている側(上司側)が話をしてしまいがちなのですが、相手に8割ぐらい話してもらうのを意識すると良いと思います。相手がなかなか話してくれないと、沈黙が続くこともあるかもしれません。その場合も、できるだけ相手が話をしてくれるまで待ちましょう。一番困っているのは従業員自身です。

様子がおかしいのに、どれだけ話をしても「大丈夫です」としか言わない方もいると思います。「せっかく心配しているのに」という気持ちも出てくることと思いますが、この場合には、「いつでも相談に乗るよ」ということと、「心配している」という気持ちを伝え、相手にボールを投げることが重要です。

ここで1点、注意しなければならない点があります。このタイミングでは「励ましてはいけない」です。うつ病患者さんには、真面目で、几帳面で、責任感が強い方が多く、本人は「つらい」と言い出すことができずに無理をしています。そのため、会社の方からみて様子がおかしいと気付く頃にはかなり重症化していることが多いです。

応援したい気持ちで、この際に、周囲から、「君ならできるはずだ」「がんばれ」といった声かけをしてしまうと、「どうして自分は仕事ができないのだろう」「こんなに仕事ができないなら自分に価値がない」などと、自分を責める気持ちが出てきて具合が悪くなってしまうこともあるのです。

ポイント③ 専門家に相談するようにすすめてみましょう

うつ病の患者さんは、「心理的視野狭窄」といって、ひとつのことに心が囚われてしまい、自分の状況を客観的に見ることが苦手になります。そのため、自分だけで症状を理解し対応していくのは難しく、精神科医、産業医、産業保健師といった専門家に相談することで、自分の状況を把握する手助けをしてもらえます。現状が把握できると、治療のステップに進むことができます。

うつ病には似たような症状を示す病気が多いので、うつ病の確定診断には必ず精神科医の診察が必要です。

ポイント④ 環境を整えましょう

環境を整えよう

多くの場合、うつ病の発症には、本人の気質に加えて、職場や家族など、周囲の環境から受けるストレスが影響しています。そのため、一旦環境から受けるストレスを軽減、除去することで早い回復につながります。

会社としても、配慮が望まれるところなのですが、軽度の抑うつ状態で、仕事量の軽減、時間外労働の制限など勤務しながらの治療で改善する場合もあれば、重症のうつ病で傷病休暇を与えて回復に専念してもらわないと改善しない場合もあるため、会社単独での判断は難しいと思います。この場合、対象従業員に精神科医を受診してもらったり、会社から産業医に相談したりして助言をもらうと良いと思います。

うつ病の程度がひどく、傷病休暇に入ってしまった場合には、多くの場合、就業規則に則って定期的に精神科主治医による休職の診断書を出してもらう形になります。この際、会社としては休職制度の説明や傷病手当金の受け取り方、復職する際の手続きなど、会社の制度について説明する必要があるでしょう。

一般に、うつ病の治療には数ヵ月単位で時間がかかります。欧米の研究では、薬物治療を受けて3ヵ月程度で回復する人は全体の1/3程度で、認知行動療法などを組み合わせても1年で約70%程度といわれています[2]。数年間薬物治療を続けてようやく少し改善する方もいます。

ポイント⑤ 復職後には徐々に負荷を上げるようにしましょう

環境調整や治療の甲斐があって、本人の症状が改善した場合、精神科主治医より復職可の診断書を出してもらう形になると思います。その後、産業医がいる会社であれば産業医の意見を聞き、最終的には会社が復職許可を出すという流れになります。

復職してすぐの段階では、仕事に戻るハードルを下げるために、時短勤務や時間外労働の禁止などの配慮が望ましいことが多いです。段階を追って、徐々に制限を解除していき、最終的には復職後半年程度で元の仕事に完全に復帰することを目指します。

ここで注意しなければならないのは、過剰な配慮は、その方のためにも、周囲のためにもならないということです。漫然と過剰な配慮を続けていると、周囲の方に負担がかかり、不和の原因になることもあります。あくまで期日を決めた適正な配慮をすることが重要です。

また、時短勤務などは、配慮することを前提として復職させるのも良くありません。例えば、1日8時間、週5日働くことが最低限求められる職場であるならば、体調としては週40時間の勤務が可能な状態まで回復しているが、復職のハードルを緩和するために一時的に時短勤務にするというようなイメージが望ましいと思います。

適正な配慮というのは、本人の健康状態、職場の状況により大きく変わるので、非常に難しいところです。精神科の主治医は本人の健康状態に関しては専門家ですが、職場の状況についてはわからないことがほとんどだと思います。そこで、会社から私たち産業医にも相談いただくことで、職場の状況と本人の健康状態を踏まえて、一緒に適正な配慮について検討していくことができます。

ポイント⑥ 復職後も定期的に体調確認をしましょう

ポイント⑥ 復職後も定期的に体調確認をしましょう

うつ病は再燃しやすい病気として知られています。初めてうつ病にかかり、回復した方が生涯の間で再びうつ病にかかる確率は約50~60%ともいわれており[3]、フォローアップが重要です。定期的に上司と面談をしたり、産業医との面談を依頼して配慮について検討したり、主治医への通院を続けてもらい薬の量を調整したりする必要があります。

復職後はどうしても心配になって腫れ物に触るような対応をしてしまいがちですが、そうすると孤立感や疎外感を感じてしまい、症状を悪化させてしまうこともあります。チームの一員であるという安心感を与えることも非常に重要ですので、特別扱いをするというよりは、過剰な負荷を掛けない程度の認識で、普段通り接してもらえたらと思います。

おわりに

うつ病はありふれた病気です。しかし、うつ病の患者さんごとに状況や経過は大きく異なるので、「困った」「どうしたら良いかわからない」と感じると思います。またうつ病の患者さんを見て「軟弱だ」「理解できない」と思われる方もいると思います。そういった気持ちも理解できるのですが、一旦横において、職場のメンタルヘルスに目を向ければ、職場の雰囲気が良くなり、職場の生産性に大きな差がでることはいうまでもありません。

私がうつ病の方に対応する際に重要だと思うのは、「理解しようとする姿勢」、そして「専門家の力を借りること」だと思います。うつ病といわれた労働者の方と接しているときに、その場で適切な対応がわからなくても、理解しようとする自分の姿勢は見せられます。産業医や精神科医に相談すれば適切な対応についてアドバイスをもらうことも可能です。

このコラムが、明日からの良好な職場環境づくりに役立ち、皆さまの幸せにつながることを願っています。

参考文献

1: 川上憲人. “精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究: 世界精神保健日本調査セカンド 総合研究報告書.” (2016).

2: Gaynes BN, Rush AJ, Trivedi MH, Wisniewski SR, Spencer D, Fava M. The STAR*D study: treating depression in the real world. Cleve Clin J Med. 2008 Jan;75(1):57-66.

3: American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Text Revision – Fourth. Washington, D.C.: American Psychiatric Association; 2000.

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