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食後の“ついウトウト”…じつは「心筋梗塞」「認知症」の引き金に!?「血糖値スパイク」の危険性と予防法【医師が解説】

武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック 院長)

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武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック 院長)

小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。

近年、メディアなどで「血糖値スパイク」という言葉をよく見聞きします。これは、別名「隠れ糖尿病」「食後高血糖」「グルコーススパイク」とも呼ばれるもので、動脈硬化のリスクとなるものです。今回は、高座渋谷つばさクリニックの武井智昭院長が、この「血糖値スパイク」の特徴とリスク、予防法について解説します。 

「血糖値スパイク」とは?

「血糖値スパイク」は、急激な血糖値の上下によって生じます。食後の短時間で起こるため、空腹時血糖を測定する健康診断では発見することが困難です。そのため、「血糖値スパイクになっている明らかな血液」などのデータが集まっておらず、概念としてはまだ浸透していません。 

また、血糖値スパイクには特有の自覚症状が少ないため、症状に気がついたときには「糖尿病」など動脈硬化の病変が重症化しているケースがあります。 

血糖値スパイクの原因は、膵臓からのインスリン分泌が不十分であることです。加齢や肥満、運動不足といったさまざまな原因によりインスリンの分泌機能に異常が生じると、血液中のブドウ糖の濃度が急激に上昇・下降することにより、後述する症状がみられます。 

症状は主に、急激な血糖値の「上昇」と「下降」の2つのメカニズムに大別されます。 

1つ目は、急激な血糖値の上昇により、膵臓のベータ細胞からインスリンというホルモンが過剰に分泌されることにより引き起こされます。これにより体内の細胞に血中の糖分が移動し、血管壁の細胞から活性酸素が増加して細胞にダメージを与えます。 

よく見られる症状は、眠気・倦怠感(だるさ)などです。こちらは、炭水化物を食べ過ぎたあとによく起こるため、皆さんも経験があるのではないでしょうか。大量の炭水化物を摂取したあとの仮眠には注意が必要です。 

2つ目は、前述のインスリンが過剰に分泌されたあとに、血糖値が急激に下降し低血糖になることによって起こります。主に中枢神経の症状として頭痛や吐き気、末梢神経の症状として手足のしびれがあります。悪化すると、動悸・意識低下などの危険な状態になることもあります。 

血糖値スパイクは「重篤な病」の引き金に  

血糖値の急激な変化が繰り返されると、血管へのダメージが積み重なり、血管の弾力の低下を引き起こし、動脈の血管が詰まる原因となります。動脈の血管が詰まると「動脈硬化」となり、これにより「心筋梗塞」や「脳卒中(脳梗塞・脳出血)」といった重篤な合併症に罹るリスクが高まるのです。 

これに加え、血糖値スパイクを起こす方は、前述の膵臓からのインスリン分泌の異常や組織の機能低下が見られるために、放置すると「2型糖尿病」を発症するリスクがあります。 

さらに、「脳血管性認知症」や「悪性腫瘍」のリスクとなるという報告もあります。インスリン過剰によりアルツハイマー型認知症の原因とされる「アミロイドβ」(脳の老廃物)が蓄積し、脳血管機能が低下することが原因です。また、インスリンには細胞を増殖させる作用があるため、がん細胞を増殖させてしまう確率も上がり、がん発症へのリスクも指摘されているのです。 

「血糖値スパイク」を発症しやすい人の特徴

血糖値スパイクが生じやすい方の特徴は、主に以下の6つです。

  • 炭水化物メインの食事が多い 
  • 間食の習慣がある、清涼飲料水をよく飲む
  • 肥満傾向がある(BMIが25以上)
  • 食事のスピードが速い 
  • 睡眠不足の傾向がある 
  • 運動習慣がない 

それぞれ詳しく見ていきましょう。 

炭水化物メインの食事が多い 

麺類や丼ものをよく食べたり、ついおかわりしたり大盛りにしたりしてしまう癖がある方は要注意です。炭水化物を多く摂取する食事は、急激に血糖値が上昇する可能性が高まります。また、外食やコンビニ弁当は通常量でも炭水化物が多く含まれる場合が多いため、注意が必要です。 

間食の習慣がある、清涼飲料水をよく飲む 

クッキーやチョコレートなど、間食でよく食べがちなお菓子には脂質・糖質が多く含まれています。また、清涼飲料水にはブドウ糖が10%程度と多く含まれているため、血糖値が上昇する傾向があります。 

肥満傾向がある 

BMIが25以上の方は肥満傾向にあり、血糖値スパイクが生じやすい体質であるため、注意が必要です。 

「BMI」とは “Body Mass Index”の略で、肥満や痩せている状態を判定するのに用いられる指標です。「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出でき、出た数値が「25以上」であると肥満体型とされます。この場合、インスリン分泌機能の異常が生じるリスクがあるため、血糖値スパイクが生じやすくなります。 

食事のスピードが速い 

「早食い」と指摘されたことがある、または自覚がある場合にも留意しましょう。食事をするスピードが速いと噛む回数が少なくなるため、糖質を含む食事を取り込む速度や量が多くなり、血糖値が急激に上昇し血糖値スパイクが生じやすくなります。 

睡眠不足の傾向がある 

成人の場合、十分な睡眠時間は「6時間」とされています。週に2回以上、睡眠時間が6時間より短い場合、代謝機能の低下がみられます。また、睡眠不足によるストレスから糖分を多く摂る傾向にあります。 

運動習慣がない 

運動習慣がない場合には、筋肉量が低下するために代謝機能も低下し、血糖値が上昇しやすくなります。 

この他、動脈硬化のリスクでもありメタボリックシンドロームの診断基準とされている「高脂血症(中性脂肪、LDLコレステロールの上昇)」や「高血圧」を合併している場合にもインスリンの分泌異常が起こりやすく、動脈硬化そのものを悪化させる要因であるため、血糖値スパイクのリスクとなります。 

また、過度な糖質制限によるダイエットも、低血糖を助長し血糖値スパイクとなることがあります。 

「食事」と「運動」を見直し、血糖値スパイクを予防!

血糖値スパイクの予防は、生活習慣病の予防とほぼ同じです。すなわち、「食事」と「運動」の習慣を見直して、動脈硬化を予防する意識を日々持つことが重要です。 

食生活の改善 

まずは、自分の食生活のメニューを1週間程度分析してみてください。そのうえで、炭水化物やたんぱく質、脂質、食物繊維をどのくらい意識的に摂取できているか、数字で確認してみると良いでしょう。 

1回の食事で気をつけてほしいことは、「ベジファースト」です。野菜や海藻といった食物繊維を多く含んだ食品をはじめに摂取することにより、糖分などを吸収する小腸がクッションの役割を果たし、炭水化物を腸管から吸収する速度が低下し、血糖値の急激な上昇を抑制することができます。 

また、ひと口30回程度を目標によく噛むことによって、食べる速度を落とし、血糖値の急激な上昇を抑制できます。ひと口で食べる大きさや量を意図的に小さく・少なくする心がけも重要です。 

「朝は忙しく、朝食を抜いている」という方も多くみられますが、1日3食規則正しく食事をとることで、血糖値スパイクも生じにくくなります。特に、朝食を抜く代わりに昼食を多く食べる習慣がある方は要注意です。 

また、炭水化物を摂る際は血糖値を上げにくい「GI(グリセミック・インデックス)値」が低い食品を積極的に食べることも、血糖値スパイクの予防となります。 

GI値が高く、血糖値を上げやすい食品> 

精白米、食パン、うどん、ケーキ、フライドポテト(じゃがいも)、チョコレート、せんべい、クッキーなど 

GI値が低く、血糖値を上げにくい食品> 

玄米や五穀米、そば、全粒粉パン、ナッツ類、春雨、ヨーグルトなど 

運動習慣 

生活習慣病予防としても適度な運動が推奨されていますが、血糖値スパイクの予防にも効果的です。散歩・ジョギングなどの負荷の低い有酸素運動を20分以上実施することをおすすめします。血糖値スパイクを予防するにはこれに加え、食後の1時間後に運動を行うのが効果的です。 

また、筋肉量を増やすことで代謝効率も上がるため、筋肉トレーニングを組み合わせると良いでしょう。筋肉量が多い下腿を動かすスクワットや階段昇降、背筋・腹筋などが有効です。 

食事と運動は日々の生活に密着しているため、両方とも毎日行えるよう習慣化することが重要です。モチベーションを維持するためにも、食事や運動、体重などについて日々の記録を残し、適宜振り返ると良いでしょう。 

こうした日々の小さな積み重ねが血糖値スパイクを予防し、その先の死につながる重篤な病の予防にもつながるのです。 

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