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「太っている=メタボ」ではない!現役世代の天敵「メタボリックシンドローム」…“明確な診断基準”と“改善方法”【医師が解説】 

武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック 院長)

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武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック 院長)

小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。

医師から「あなたは“メタボ”です」と言われても、強い危機感を抱く方は多くないでしょう。しかし、高座渋谷つばさクリニックの武井智昭院長によると、令和2年の日本人の死因の第2位である「心疾患」、さらには第4位の「脳血管疾患」は、いずれも“メタボ”に関連する疾病であるといいます(第1位は「がん」、第3位は「老衰」)。では、メタボリックシンドロームはどのように改善・予防していけば良いのでしょうか。武井院長が解説します。 

「メタボリックシンドローム」は“死の四重奏” 

生活習慣病として代表的な、「内臓脂肪型肥満」「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」。これら4つが同時に発症している場合、それぞれが影響しあうことで心筋梗塞や脳卒中(脳出血・脳梗塞)といった生命に関わる疾患を呼び起こすとされています。1989年、アメリカの内科医はこれを「死の四重奏」と表現しました。 

その後の研究により、「インスリン抵抗性症候群」、「マルチプルリスクファクター症候群」「内臓脂肪症候群」などと名称が変更となりましたが、病態が整理された現在では「メタボリックシンドローム」と呼ばれています。 

ウエストが太いだけでは「メタボ」と呼ばない 

メタボリックシンドロームは、内臓肥満に加え高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり、心筋梗塞・脳卒中などの生活習慣病のリスクが高まる状態のことをいいます。このため、単純に腹囲が標準より大きいというだけでは、メタボリックシンドロームには該当しません。 

メタボリックシンドロームの「診断基準」 

日本では、日本内科学会をはじめとした8つの医学系学会の協議により、以下のようにメタボリックシンドロームの診断基準が明確に策定されています1、※2、※3。 

1.必須項目(内臓脂肪蓄積) 

ウエスト周囲径 男性は85cm以上、女性は90cm以上 

(このサイズでは、推定される内臓脂肪面積が男女ともに診断基準となる100cm2以上に相当する) 

2.以下の3項目のうち2項目以上を満たした場合。 

①高脂血症(いずれか1つを満たした場合) 

・高トリグリセライド血症150mg/dL以上 

・低HDLコレステロール血症40mg/dL未満 

②血圧(いずれか1つを満たした場合) 

・収縮期(最大)血圧130mmHg以上 

・拡張期(最小)血圧85mmHg以上 

③血糖 

・空腹時血糖110mg/dL以上 

※1 高脂血症・高血圧・糖尿病に対して内服薬などの薬剤治療を受けている場合は、それぞれの項目に含める。 

※2 糖尿病、高コレステロール血症の存在は、メタボリックシンドロームの診断から除外されない。 

※3 LDLコレステロール値(基準値140mg/dL以下)は、メタボリックシンドロームの診断基準には該当しない。この因子のみで動脈硬化のリスクとなるためである。 

メタボリックシンドローム“特有”の症状はある? 

メタボリックシンドロームに「特有の症状」はありません。ただし、内臓脂肪が増え、高血圧や高血糖になり、脂質異常により動脈硬化が促進されることで、突然、胸痛や意識低下・頭痛・しびれ・まひといった症状が出ることがあります。これは、心筋梗塞や脳卒中などの前兆とされる症状です。 

また、体重の増加により負荷がかかり、膝痛・腰痛などの整形外科疾患を患うケースも少なくありません。さらに、高血圧による頭痛や、糖尿病の合併症による視野の障害・神経障害(しびれ・まひなど)、腎機能障害による浮腫、貧血などによる血液透析などを発症する可能性があります。 

メタボリックシンドロームは、他のさまざまな病気にかかる可能性を高める、非常に危険な症状なのです。 

メタボ改善・予防のための「理想の食生活」とは?

メタボリックシンドロームの主原因は、運動不足と偏った食生活により適正カロリーがオーバーすることです。これに加え、過度な飲酒や睡眠不足などによる生活リズムの乱れ、仕事や家庭でのストレス、喫煙などにより悪化していきます。 

新型コロナウイルス感染症の流行により自粛や外出制限を余儀なくされ、また在宅ワークなどにより働き方が変化したことで運動量が減少し、ストレスが溜まり、偏った食事を摂るようになってしまった方も少なくないでしょう。 

メタボリックシンドロームの改善・予防には「日々の食生活」「適度な運動」が重要であり、適正カロリーや、脂質・糖質・塩分などにも気を配る必要があります。 

メタボ改善・予防のための食事法 

摂取エネルギーを10~15%減少させる 

すでに肥満状態にある方は、はじめから過度な糖質制限などの無理なダイエットはおすすめできません。身体や精神面に負担をかけてしまい、短期間で体重は減るかもしれませんが、すぐにダイエット以前より体重が増加する「リバウンド」が起こってしまいます。 

そのため、糖質を減らしたい場合は、まず自分が普段どれだけ食べているのかを把握するため、カロリー計算してみることをおすすめします。もっとも、計算が面倒だったり、難しかったりする場合には、簡易的ではありますが、夕食の米などの炭水化物を10~15%減らす方法をとってみると良いでしょう。 

栄養の「バランス」に注意する 

「食べる量を減らしたいから」と、朝食を抜くなど食事の回数を減らすことはおすすめできません。少量でも1日3食、バランスが取れた食事を摂るよう心がけましょう。 

特に魚・肉・卵・豆腐などのたんぱく質は多めに摂ると良いでしょう。また、腸管の状態を良好に保つためにも、1日350g以上の野菜、海草・きのこなどを含めて食べると良いでしょう。 

日本に昔からある「一汁三菜」という概念は、栄養バランスを維持するのに適しています。したがって、主食のごはんに加え、味噌汁などの汁物、たんぱく質を中心とした主菜を1品、野菜類・たんぱく質の副菜を最低2品用意するとメタボ予防につながります。調理の際は、なるべく脂を多く使用しない、焼く・蒸す・煮るという調理法を試してみるとさらに効果的でしょう。 

また、食事の時間はできるだけ一定にし、急いで食べる「早食い」や、テレビやスマートフォンの動画を視聴しながら食事する「ながら食べ」は避けましょう。20回ほどよく噛んで飲み込むことを心がけてください。 

加えて、21時以降は代謝が落ちるため、原則、何も食べないほうが良いです。どうしても空腹に耐えられない場合は、少量のタンパク質(豆腐や納豆など)に置き換えると良いでしょう。 

間食を見直す 

メタボリックシンドロームの診断基準を満たす方は、その多くに「間食が多い」という特徴があります。どうしても間食を我慢できない方は、脂質が多くカロリーが高いスナック菓子はなるべく控え、ナッツ類やヨーグルトなどに置き換えてみるのもひとつの方法です。 

メタボ改善・予防のための「理想の運動」

メタボリックシンドローム改善・予防において食生活と同じくらい重要なのが「運動」です。なかでも、おすすめは「有酸素運動」です。体内に酸素を取り入れ、体脂肪を燃焼させることができます。 

具体的には、心拍数が100~120程度で身体にあまり負担がかからないウォーキングやジョギング、エアロビクスなどを「30分以上」続けることを目標にしてください。食事制限とあわせて週2回程度のペースで続けていけば、数ヵ月で体重と脂肪を落とすことが期待できます。 

有酸素運動に加え、「筋力トレーニング」も重要です。有酸素運動だけでは脂肪のみならず筋肉量も減少してしまいますから、筋力トレーニングにより筋肉量をキープしましょう。また、筋肉量が増加すると基礎代謝量も上がり、瘦せやすい身体のコンディションをつくることができます。 

スクワットなど、筋肉量が多い下腿や背中の筋肉を動かすトレーニングが、代謝アップに効果的です。 

おわりに 

メタボリックシンドロームは、生活習慣により重篤な脳卒中・心筋梗塞の引き金になる一方で、生活習慣を見直すことで改善できます。 

毎年の健康診断の結果をしっかりとチェックし、日々の生活習慣を振り返り、改善法を試していくことが、「人生100年時代」を健康的に過ごすカギとなるでしょう。 

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