健康こそが豊かな生活の基盤であることは、誰もが理解されていることでしょう。しかしそうはいっても、仕事においても責任が重くなり、忙しい日々を送る40~50代の男性は、なかなか自分自身の健康について考える時間がないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、MYメディカルクリニック横浜みなとみらいの山本康博院長が、特に男性にとってもっともリスクの高い「肺がん」の原因と予防法について解説します。
働きざかりの男性の命を奪う「肺がん」
皆さんが肺がんについて知っておくべき最初の事実は、肺がんは、男性のがんによる死因の圧倒的1位であるということです。3位の胃がん、2位の大腸がんを大きく引き離して、肺がんは多くの男性の命を奪っています。
肺がんの罹患数(新たに診断された方の人数)は年々増加しており、2018年には約123,000人が肺がんと診断されています。内訳をみると、男性:約82,000人、女性:約41,000人と男性が女性の約2倍多く、また、年齢が上がるほど罹患率も高まり、60歳以降になると急激に増加します。
肺がんの誘因となる「喫煙」習慣
では、なぜ肺がんはこれほどまでに男性にとって大きなリスクとなるのでしょうか?
その答えのひとつは、「生活習慣」にあります。肺がんのリスクとなる生活習慣は、ご存知のとおり「喫煙」です。タバコを吸うことは、肺がんのリスクを大幅に上げます。タバコの煙には数千種類の化学物質が含まれており、その多くが肺細胞を損傷させ、ガン細胞へと変化させる可能性があるのです。
同じ喫煙者でも、男性のほうががんになりやすい
タバコが肺がんのリスクであるということは、おそらく知らない方はいらっしゃらないでしょう。しかし、これに「性差」があることはご存知でしょうか? 不思議なことに肺がんのリスクは男女で異なり、特に男性の場合、喫煙が肺がんのリスクを劇的に高めることがわかっています。
ある調査で、肺がんになった男性患者の喫煙率を調べたところ、55.0%であることがわかりました。また、過去の喫煙歴まで含めると90%以上にのぼっています。1度はタバコを吸った経験がある方がほとんどです。
一方で、なぜか女性の場合、喫煙歴がなくても肺がんになってしまうことが多く、女性の肺がん患者のうち、過去も含めて喫煙したことのある患者さんは25%にとどまっています。
これをみると、男女でかなり違いがあることがわかります。
また、タバコを吸う方を、喫煙指数(吸い始めてからの年数×1日に吸う本数)によって分けると、タバコを吸わない方に比べて、喫煙指数が増えれば増えるほど肺がん発生率が上昇することも明らかになっています。喫煙指数が1,200を超える方は、吸わない方に比べて6.4倍肺がんになりやすいとされています。
つまり、男性においては、禁煙すると確実に肺がんリスクの低下、治療効果の向上がみられます。肺がんにならないために、まずは禁煙することが非常に大切です。
肺がんを予防するために、タバコを吸っている方は禁煙し、吸わない方はタバコの煙を避けて生活するようにしましょう。
たとえこれまでたくさん吸っていたからといって、諦める必要はありません。どのような状態でも、禁煙を始めて10年が経過すると、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることがわかっています。
喫煙以外にも…日常に潜む「肺がんの誘因」
喫煙以外にも、以下のようなものが肺がんの原因として挙げられます。
大気汚染
世界保健機関は、2013年に大気汚染が肺がん発症のリスクであることを発表しました。排気ガスや化学物質、塵といった汚染物の吸引もがんに繋がるということですね。
アスベスト
古い建物や家電製品などに使われていたアスベスト(石綿)も、肺がんのリスクとしてよく知られています。建築や解体作業など、アスベストを日常的に吸い込むような仕事をされていた場合、肺がんリスクが高まります。
過度な飲酒
非喫煙者であっても、過度な飲酒は肺がん発症に繋がるとされています。
不摂生な食生活・運動不足
炭水化物の多い食生活を送ると、インスリン抵抗性が高くなり(膵臓の出すインスリンの効きが悪くなり)、肺がんに繋がる可能性があるとされています。肺がん予防のためには、白パンや白米など、グリセミック指数(GI値)の高い食物の摂取量を抑えるようにすることで、発症率を下げる効果が期待できます。
また、運動不足は肺がんだけでなく、ほとんどすべてのがんのリスクを高めるといわれています。
ホルモン補充療法
ホルモン補充療法(HRT)は、月経期の女性の諸症状や更年期障害の改善のために広く使われている療法です。しかし、この治療で投与される「エストロゲン」と「プロゲスチン」の混合物が、肺がん発症の可能性を高めるという報告があります。喫煙者がホルモン補充療法を受ける場合は、特に注意が必要です。
遺伝的要因
家族に肺がんを発症している方がいる場合、肺がんになるリスクが2倍程度高くなるといわれています。また、この遺伝的要因による発症率は、男性では1.7倍、女性では2.7倍と女性のほうが高い傾向にあることが知られています。
ただし、これが本当に遺伝によるものか、あるいは受動喫煙やその他の要素(例えば家屋にアスベストが含まれていたなど)を含む環境因子の影響かについては、はっきりしたことはわかっていません。遺伝的な要因はもちろん、長年にわたって似たような生活環境を共有していることが、リスクを高める要因といえるでしょう。
初期症状は自覚しづらい…「止まらない咳」に要注意
肺がんは、早期段階では自覚症状が出にくいという特徴があります。咳や息切れ、体重減少といった症状が現れたときには、すでに進行してしまっていることが多いです。
代表的な症状はなかなか治まらない咳で、痰などをともなわない乾いた咳であることが多いです。しかし、なかには咳と一緒に血が出たり、痰が増えたりする方もいます。発熱があることもありますが、高熱というよりも微熱が続くことが多いです。
これらは風邪の症状と似ているために、肺がんの発見が遅れる原因となっています。しかし放置していると、徐々に病状が進行します。食欲減退や体重の減少、息切れなどの症状がみられます。加えて、体が常に疲れやすくだるい感じが続き、なかには胸のあたりに痛みが出る人もいます。
さらに進行すると物が飲み込みづらくなったり、顔や首が腫れたりという症状が出てきます。ここまでの症状が出るようになると、肺がんがかなり進行している可能性が高いです。手術などの根治的な治療は望めず、抗がん剤による治療しか選択肢にないことがほとんどです。
ここまで進行させないためには、定期的な検診が重要になってきます。
医療の進歩で生存率上昇…早期発見・早期治療につなげるために
肺がんと診断されたあと、5年後に生存が確認できる割合を示す「5年生存率」は、1993~1996年に診断された方は22.5%であったのに対し、2009~2011年は34.9%にまで上昇しています。
さらに、従来の抗がん剤に加えて、近年では「分子標的薬」や「免疫療法」など革新的な治療が多く登場し、肺がん患者さんの生存率の向上がみられています。とはいえ、依然として死に直結する深刻な病気ではあることには変わりありません。
もっとも重要なのは、かかる前の「予防」です。特に、今回みてきたように喫煙は肺がんの最大のリスク因子ですから、「禁煙」は肺がんを予防するもっとも効果的な手段といえます。
また、健康診断などで胸部X線検査や胸部CT検査を行い、肺がんの早期発見・早期治療に繋げることも大切です。
私たち男性にとって、肺がんは避けて通れない問題です。しかし、そのリスクを理解し、適切な予防策を講じることで、リスクを大幅に下げることができます。皆さんも、ぜひご自身の健康について考え、行動に移してみてはいかがでしょうか。