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所変われば風習も変わる?! 中国国内で引っ越しをしてみた―中国生活体験記(その3)

所変われば風習も変わる?! 中国国内で引っ越しをしてみた―中国生活体験記(その3)
深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

執筆者

人を動かすコミュニケーター

深谷 百合子

国内及び海外電機メーカーで技術者として20年以上勤務。工場の「案内人」としてメディア対応、講演、環境教育にも携わる。「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、立場の異なる人同士が理解し、協力し合えるための伝え方を工夫した。2020年に独立。「相手を動かす伝え方」をテーマに講師、コーチとして活動している。また、個人へのインタビューや企業への取材記事執筆を通じて、「知られざるストーリー」の発信を行っている。掲載媒体:WEB天狼院書店、天狼院書店WEB READING LIFEブログ

前回コラム中国での仕事ってどんな感じ?ー中国生活体験記(その2)では、女性が活躍する社会であることをお伝えしました。今回は「引っ越し」をした際のエピソードをご紹介いたします。引っ越しは新生活のスタート。日本では、縁起の良い日を選んだり、幸運を招くための習わしがありますよね。幸先の良いスタートを切りたいと願う気持ちは中国でも同じです。私は中国の国有企業に転職した時、中国国内で2回引っ越しを経験しました。さまざまなトラブルに心が折れそうになったこともありますが、新生活を応援してくれる中国人の存在に助けられました。今回は、私が中国で遭遇した引っ越しにまつわるエピソードをご紹介します。

1.住めば都? すったもんだの部屋選び

住めば都? すったもんだの部屋選び

中国の四川省・成都市にある国有企業に転職することになり、私は住まいを決めるところからスタートしました。日本の企業からの出向で江蘇省・南京市に駐在していた時は、 コンドミニアムタイプのホテル住まいでした。設備は整っているし環境も快適。しかし、成都では会社が斡旋する賃貸マンションに住むことになりました。

斡旋された物件は家賃の高い外国人向けの住居ではありませんが、地下鉄駅前で立地条件は良く、外観も立派でした。同じような外観のマンションが数棟立ち並ぶ大きな敷地内にはコンビニエンスストアやクリーニング店などがあり、中央にはプールまであります。緑もほど良く配置され、散歩も楽しめそうです。敷地への出入口には管理人がいて、セキュリティも問題なさそうです。

会社の紹介で不動産業者が案内してくれた部屋の間取りは、ひとりで住むには充分な広さでした。中国では、部屋の内装はオーナー自身が手配して施工します。従って、間取りは同じでも、壁や床の材料や色、備え付けの設備や家具は、部屋が違えば皆違います。

私の部屋は、ピンク色の壁に白の家具が配置された「女子力高め」な部屋。一方、同僚の部屋は青い壁に謎の鳥の羽根があしらわれた照明という個性的な部屋。オーナーの趣味が色濃く反映されているようです。

何より驚いたのは、キッチンの位置でした。リビングからベランダへ出るガラス戸を開けると、ベランダを挟んだ外側に小さなキッチンがあったのです。ベランダには窓がついているタイプの部屋もありますが、窓の無いタイプの部屋もあります。窓が無いと、雨風が直接ベランダに入ってきます。ベランダとはいえ、一旦外に出てキッチンに行くとは、随分変わった間取りです。

「この地域は油と香辛料を使う料理が多いでしょう? においや油汚れを避けるために、キッチンは外側に出す間取りです」と不動産業者が説明してくれました。なるほどと思いましたが、夏は暑いし冬は寒そうです。

気になるトイレはというと、洗面台とシャワーとトイレが、タタミ3畳位の同じ空間に存在していました。そして、トイレとシャワー、洗面台との間には、なにひとつ「境界」がありません。つまり、シャワーを浴びるとトイレも水浸しになってしまうのです。シャワーカーテンをつければ水はねは防げますが、床は水浸しなので、シャワーを浴びた後は床掃除をしなければなりません。毎日のことだと思うと、少しゆううつな気分でした。

エアコンの設置をお願いして部屋の契約を済ませると、不動産会社から「大体3日で住めるようになる」と言われました。

ところが、1週間後に確認しにいくと、とても住める状態ではありませんでした。エアコンは置いてあるものの、コンセントの形状が合わなかったようで、そのまま放置されていました。壁には配管を通すための穴を開けたあとの残骸が残ったままです。部屋中埃だらけで、掃除するのも大変です。

心が折れそうになりましたが、仲の良い中国人同僚が不動産会社にかけあってくれたり、掃除を手伝ったりしてくれたおかげで、何とか新生活をスタートすることができました。

新しい部屋での生活。でも新生活を楽しむ気持ちにはなれませんでした。給湯器が故障して、お湯が出なくなってしまったり、水の出が悪い、排水が詰まるなどのトラブルが度々発生したからです。「日本だったらこんなことは絶対にないのに」と何度も思いました。でもそんなことを思ってみても仕方がありません。

「○○してくれない」と相手に期待するばかりでは、不満が募ります。それよりも、今の状況でどうすれば少しでも快適に暮らせるのかを考えてみようと、頭を切り替えることにしました。例えば、ソファに気に入った柄のカバーをかけてみたり、観葉植物をベランダに置いてみたりしました。

水量不足で給湯器が作動せず、シャワーからお湯が出ないときも、水量を上げる工夫をしてみました。試しに洗面台のお湯の蛇口を開け、ちょろちょろとお湯を出しながらシャワーを出すと、「ボッ」と給湯器の点火した音が聞こえ、お湯が出るようになったのです。それ以来、シャワーを浴びるときには必ず、洗面台のお湯を少し出すというのがお決まりになりました。

この部屋には1年半ほど住みましたが、途中でエアコンが故障したり、換気扇が壊れたり、部屋の壁の一部が剥がれたりと、さまざまなトラブルがありました。それでも、住み始めて半年が経つ頃には、すっかり慣れました。敷地内でコンビニエンスストアを営む中国人夫婦と仲良くなったり、近所に住む中国語の先生と家を行き来するなど、そこでの生活を楽しむ気持ちが出てきました。まさに「住めば都」でした。

2.引っ越しはチームワークで乗り切れ

成都市に移り住んで1年半後、引っ越しをすることになりました。会社が新しい部屋を準備してくれたからです。引っ越し会社の手配や荷造りなどは、自分たちで対応しなければなりません。でも、どの会社が良いのか見当もつきません。言葉の問題もあります。

日本では引っ越し会社が梱包資材を提供してくれることがほとんどですが、中国では梱包資材は自分で調達するのが一般的です。そこで段ボールをネットで購入しようとしましたが、そもそも自分の荷物が段ボール箱何箱分になるのか、想像がつきません。

当時、成都市内には日系の引っ越し業者がありました。私は南京市から成都市へ引っ越しする時に利用したことがあったので、連絡をとってみました。同時に、中国人同僚におすすめの現地業者を教えてもらいました。その現地業者のホームページで、「お客様は自分の手を一切動かす必要はありません。お客様第一のきめ細やかな日本式サービスです」という文言を発見しました。「荷造りから開梱まで全てお任せのサービスは日本式なのか」と、ちょっぴり嬉しいような誇らしいような気持ちを感じると同時に、日本は特殊すぎるのではないかという気持ちになりました。

結局、一緒に引っ越しをする他の4人の同僚と相談し、少し割高でも梱包資材を準備してくれて、なおかつ、日本語が通じる日系の引っ越し会社に依頼することに決めました。1台のトラックで、5人分の荷物をまとめて運んでもらうので、連絡を取り合うのに日本語が通じる業者の方が安心だったからです。

5人分の荷物を梱包、搬出し、新居へ搬入するのは一日仕事です。朝9時から作業を開始して、梱包が終わるのがお昼前。昼休み後に搬出し、新居へ向かうという段取りを組みました。どこかで遅れが出ると、新居への搬入が夜になってしまいます。私たちはできるだけ事前に自分たちで梱包し、作業時間を短縮するようにしました。

「こちら梱包完了。次は○○さんの所に行くよ」

「うちは搬出が完了したから、これから新居へ向かいます」

私たちは、引っ越し会社の担当者を含めたグループチャットで連絡を取り合いました。荷物の搬出が終わった人から新居へ向かい、荷物の受け入れ準備や、Wi-Fi移設工事の立会いに備えました。

こうして引っ越しは無事完了しました。ちょっとしたプロジェクトを終えたような気分でした。

3.中国人も引っ越しは縁起をかつぐ

中国人も引っ越しは縁起をかつぐ

 

さて、この引っ越し当日、私には心強い味方が二人付いていてくれました。会社で仲良くしていた中国人の女性です。

「中国では引っ越しの時に友達と一緒に移動してお祝いするといいんだよ」と言って、当日手伝いに来てくれました。休みの日にわざわざ家に来て手伝ってもらうのは、何だか申し訳ないと思いました。けれども、中国人の彼女たちにとって友人とは、「助け合うもの」なのです。気を使って遠慮するのは、かえって水くさいということになってしまいます。それで、私は彼女たちの言葉に甘えることにしました。

「箒は引っ越しの荷物に預けないで自分で持っていった方がいいよ。新居に着いたらすぐに掃除をしないといけないから」

彼女たちは的確なアドバイスをしてくれました。荷物が運び出された後、私たちは箒を持って、タクシーで新居に向かいました。

日本では新居はきれいに掃除がされていますが、中国では自分で掃除をするのが普通です。砂埃だらけの床を見ながら、「これから掃除が大変だな」と思っていると、中国人の友人は早速持ってきた箒で、床にたまった砂埃を掃き始めました。

玄関の扉の近くに小さな砂埃の山ができると、彼女たちは私に箒を渡し、こう言ったのです。「出去(出て行け)って言いながら、埃を玄関から掃き出すんだよ。そうすると良くないものは部屋から出て行くから」

そう教えられて、私は「出去(出て行け)、出去(出て行け)」と言いながら砂埃を玄関の外へと掃き出しました。

一通り掃除が終わると、彼女たちは近くのショッピングセンターでケーキを買ってきてくれました。

「中国では、引っ越しの際に、gaoっていう音が含まれる物を食べると縁起がいいんだよ。だからお餅(中国語の発音でnian gao)とかケーキ(中国語の発音でdan gao)とかを食べるの」

「gao」というのは、「高い」という意味の中国語「高」の発音と同じです。だからgaoという音を含むものは、「昇進」とか「向上する」という願いにつながり、縁起のいいものとされているのだそうです。

「私たちは女子だから、お餅よりやっぱりケーキだよね」と言って箱を開けると、「引っ越しのお祝い」という意味の文字も入れてくれてありました。

日本では引っ越しといえば「引っ越し蕎麦」です。「そばに引っ越してきました」という「しゃれ言葉」だったり、「蕎麦のように細く長いつきあいをお願いします」という意味が込められているといいます。言葉の「音」に引っかけて食べ物を選んで縁起をかつぐのは、中国も日本も共通していて面白いなと思いました。

おわりに

海外に出てみると、日本のサービスは至れり尽くせりだと感じます。与えられることが当たり前になっていた私にとって、この中国での引っ越しの経験は、相手からしてもらうのを待つのではなく、自分のことは自分でやり、何かあればこちらから要求することを学びました。同時に、人の好意に素直に甘えることも学びました。お金を払ってサービスを買うのとは、ひと味違う経験だったと思います。

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