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中国で中国語の試験を受けてみた――中国生活体験記(その7)

深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

執筆者
深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

国内及び海外電機メーカーで技術者として20年以上勤務。工場の「案内人」としてメディア対応、講演、環境教育にも携わる。「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、立場の異なる人同士が理解し、協力し合えるための伝え方を工夫した。2020年に独立。「相手を動かす伝え方」をテーマに講師、コーチとして活動している。また、個人へのインタビューや企業への取材記事執筆を通じて、「知られざるストーリー」の発信を行っている。掲載媒体:WEB天狼院書店、天狼院書店WEB READING LIFEブログ

何かを習っているとき、自分の今の実力がどのくらいなのかを知る手段として、試験や資格の認定があります。書道やそろばん、武道、将棋などにも、級位・段位があります。皆さんも、「早く初段に上がりたい」「今年は1級を目指したい」といった目標に向けて、頑張って練習をしたり、勉強をしたことがあるのではないでしょうか。

英語の場合は、英検(実用英語技能検定)やTOEICがよく知られていますが、中国語にもさまざまな資格試験があります。上位の資格を取得すれば、自分の実力を示せる材料にもなります。今回は、私が実際に体験したエピソードも交えて、中国語の試験についてご紹介します。

1.代表的な中国語の試験はHSKと中国語検定

代表的な中国語の試験はHSKと中国語検定

1-1.中国語試験の概要と比較

中国語に関する主な試験には、中国政府公認の資格であるHSKと、日本中国語検定協会が主催する中国語検定試験があります。両者の概要と違いは下表の通りです。

【中国語試験の概要と比較】

HSK中国語検定試験
主催団体中国政府教育部直属の機関である孔子学院総部一般財団法人 日本中国語検定協会
筆記試験:1級・2級・3級・4級・5級・6級(6級がもっとも難しい)口頭試験:初級・中級・高級※筆記試験と口頭試験は、別の試験として実施されます筆記試験:1級・準1級・2級・3級・4級・準4級(1級がもっとも難しい)口頭試験:1級と準1級は二次試験で面接委員との口頭による試験があります
実施回数毎月実施年3回(3月・6月・11月)1級のみ年1回11月に実施
実施場所875か所以上、118の国と地域で実施日本国内のみ
日本国内受験者数39,219名(2021年)26,760名(2021年)

2023年2月27日現在

試験の性格が異なるため、難易度を単純に比較することはできませんが、概ね下表の通りといわれています。

中国語試験難易度
一般財団法人 日本中国語検定協会ホームページより引用)

私自身は、2015年3月、初めてHSK3級を受験し、合格しました。2013年9月から現地の中国語教室で週1回、中国語の勉強を始めてから1年半後のことでした。HSK3級以上に合格すれば、会社から「奨励金」がもらえることも、モチベーションになりました。

無事HSK3級に合格した私でしたが、HSK4級以上の級は「私には無理だな」と思っていました。全般的に難易度が上がるのですが、特にヒヤリングと作文のパートが難しく感じていたからです。ヒヤリング試験では、読み上げられる問題文の放送回数が1回になってしまうこと(3級までは2回)、作文の試験では、写真と単語がひとつずつ与えられ、その単語を使って写真の内容を表現する短文を書かなければなりません。

難易度が上がる分、HSK4級以上を取得すると、履歴書に書けるレベルといわれています。

中国語検定試験に関していえば、3級以上であれば、履歴書でアピールできるといわれています。ただし、中国国内はもちろん、海外で中国語の実力をアピールするのであれば、中国政府公認のHSKの方が向いています。

私は最終的にHSK6級を取得し、中国語検定は2級を受けて合格しました。HSKの方は、長文読解で出題される題材が面白く、中国の文化や生活などを理解するのにも役立ちました。一方、中国語検定試験は、日本人が間違えそうなところを出題される傾向があり、発音や文法などしっかり身につけておく必要を感じました。

1-2.HSK取得状況は中国での就業許可申請における評価基準のひとつ

中国で仕事をする際には、中国側の受入れ企業で「外国人就業許可証明書」等の取得手続きをしてもらう必要があります。この外国人就業許可申請では、基準に対する得点によって、A類(ハイエンド人材:85点以上)、B類(専門家人材:60点以上85点未満)、C類(その他外国人材:60点未満)にランク分けされます。

これには、中国経済や技術の発展に寄与する優秀な外国人人材を確保していこうとする狙いがあり、A類になると、許可申請の所要日数短縮等の優遇措置があります。

基準の詳細は、独立行政法人日本貿易振興機構が発表している資料に載っていますが、年収、年齢、学歴、業務経験年数等の他、中国語能力についての評価基準もあります。詳細は下表の通りです。

【中国語能力についての評価基準】

【中国語能力についての評価基準】

これによると、中国語能力に関する項目は5点満点ですが、HSK5級以上を取得していれば5点つきます。

私も中国国有企業へ転職するとき、HSKの成績報告書(受験日から起算して2年以内)の写しを提出しました。実際、この中国語能力の評価項目が数点上がったからといって、全体の得点に大きな影響はないかもしれません。でも、年齢や学歴などの評価項目と違い、中国語能力については、今からでも自分の努力でポイントを上げることができるという点は、学習の大きなモチベーションになると思います。

    1-3.中国でのHSK試験実施状況

    中国では、2月を除いて毎月HSK試験が開催されています。試験会場も北京などの大都市では複数の試験会場があります。

    また、中国国内では自宅受験も可能です。しかし、いろいろな制限があったり、事前準備が必要になります。まず、受験用のパソコンと、試験官が受験環境を監視できるよう、部屋の様子を映すスマホまたはタブレットが必要です。パソコンについていえば、Macのパソコンは使えません。また、Bluetoothのイヤホンは使用禁止です。

    部屋の様子を映すスマホまたはタブレットは、受験用のパソコン画面、受験者の頭と手元及び机の上の状態が試験官にくっきりと見えるように設置しなければなりません。

    いろいろと面倒な準備はありますが、新型コロナウイルスの感染が心配な方にとっては、選択肢のひとつになるかもしれません。

    2.ロシア人との会話も中国語で

    ロシア人との会話も中国語で

    さて、ここからは私が実際に中国でHSKの試験を受けたときのことをご紹介していきます。

    私は中国で、5回HSK試験を受けましたが、受験生の国籍はさまざまで、西洋人の留学生が多い印象がありました。ただ、HSK5級や6級のように難易度が高くなると、日本人、韓国人の比率が高くなるように感じました。実際、HSK6級の試験を受けたときに、西洋人の受験生と話をしたことがありますが、「漢字が難しい」という話をしていました。その点、日本人は漢字を知っているので、有利なのだなと思いました。

    一方、口頭試験は難易度の高い「高級」を受験する西洋人が多く、「さすが西洋人はスピーキング能力が高いんだな」と思ったものです。

    こういう試験会場では、さまざまな国の人たちが集まってくるので、普段出会うことのない国の人たちと話ができるチャンスでもあります。

    初めて口頭試験を受けに行ったとき、会場となる部屋の場所がわからず、受験票を持ってウロウロしていたら、金髪の女性に、「あなたも試験を受けるの?」と中国語で声をかけられました。部屋を探している間、「どこから来たのか」「中国に何年くらい住んでいるのか」など、少し会話をしました。彼女はロシア人でしたが、私たちは互いにたどたどしい中国語を使って、コミュニケーションをとることができました。お互いの国の言葉を知らなくても、こうして話ができるのは、楽しいことだなと思いました。

    3.メンタルも試される?ハプニング続きの受験体験

    メンタルも試される?ハプニング続きの受験体験

    中国での試験会場では、時々びっくりするようなことも起こりました。

    ヒヤリング試験で、問題が録音されたCDの音が飛びまくり、とても聞き取りづらく、何を言っているのか分からないということがありました。問題文は1回しか読み上げられないので、「さっきのは何て言っていたのだろう?」と気にしていると、次の問題を聞き逃してしまいます。

    「どうしよう。聞き取りづらいと言った方がいいのかな?」と焦り出すと、もう集中していられません。でも、まだ思うように話せない時期だったので、どう試験官に訴えたら良いかもわかりません。

    「もう、今回の試験はダメかも」と諦めようとしたとき、隣の席に座っていたマレーシア人の受験生が手を挙げて、「聞こえづらい」と試験官に訴えてくれました。おかげで、聞き取りづらかった部分は、再度再生してくれることになり、助かりました。

    また、口頭試験を受けにいった時にもハプニングがありました。

    口頭試験では、各自ヘッドセットをつけて、自分の席のパソコンに問題をダウンロードします。ダウンロードした問題に従って、読み上げられた中国語をそっくりそのまま復唱したり、与えられたテーマに対して自分の考えを中国語で述べる試験です。

    まず、ヘッドセットの事前チェックをするように言われるのですが、最初に受けたときには、音は聞こえないし、自分の声も録音できないというトラブルを経験しました。中国の試験会場ではそうしたトラブルはよくあることだと聞いていたので、「見事に当たったな」と思うだけで、あまり動揺しませんでした。

    2回目に受験したときには、ヘッドセットの状態は問題なく、「今回は大丈夫だった」と安心したのもつかの間、試験問題をダウンロードできないという問題に直面しました。 試験官を呼ぶと、「対応するから少し待って」と言われ、20分ほど待たされました。

    「今度は大丈夫」と言われて、パソコンを操作すると、無事に試験問題をダウンロードできました。いよいよ試験開始です。緊張しながら問題文が読み上げられるのを待ち構えていると、いきなり「第4問」の声とともに問題が読み上げられました。

    「第4問?」

    「なぜ4問目から始まるの?」

    私の頭の中はもう大混乱です。私はまた手を挙げて、試験官を呼びました。そこで、一旦試験は中断され、またしばらくの間待たされました。

    結局、その後、試験は無事に終了したのですが、緊張する場面でのハプニングに、メンタルも試される試験だったなと思いました。今となっては、いい笑い話です。

    おわりに

    最近は「学び直し」がよく話題になります。私は「人生いくつになっても始めるのに遅すぎることはない」と思っています。私が中国語を初めて学んだのは47歳のときでした。確かに若い頃と比べれば、なかなか単語を覚えることができなかったり、勉強する時間を確保するのが簡単でなかったりしました。それでも少しずつ実力が上がり、試験に合格すると嬉しかったものです。春は新しい学びを始めるのにもよい季節。資格試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか? 一歩踏み出したその先には、新しい世界が待っていることでしょう。

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