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美術鑑賞は健康に良い?休日には家族でアートを楽しもう

石田 高大 現代美術家

執筆者
石田 高大 現代美術家

作家・ライター。パフォーマンス・ハプニング作品を中心に現代美術の制作をしている。制作の中でリサーチした知識を発信していきたいと思い、2021年よりライターとして活動を開始。現在、美術や美術史を中心に執筆。著書に『自分らしい生き方が見つかる現代アートの始め方』がある。

美術鑑賞は健康に良いことを知っていますか?

美術館と聞くと、ゆっくり絵を見る上品な趣味に感じるかもしれません。「よく分からない絵を静かに見ることのどこが楽しいんだ?」と感じる方もいるでしょう。

しかし、美術館でアート鑑賞することは健康にも効果があります。ご自身でギャラリーを歩き回り、絵について考え、そのなかで自分自身を見つめる。自然と体も脳も、そして心にも効果が訪れます。

このコラムは、実際に現代アートの制作を行っている筆者が、美術館に行くと具体的にどんな効果があるのかを説明しています。ぜひ、休日にご家族でアートを楽しむきっかけとなれば幸いです。

1.美術鑑賞が健康に良いと判明!

  

ロンドン大学の研究から、美術館に行く人ほど長生きするという調査結果が出ています。

参照元:https://pmc.carenet.com/?pmid=31852659&keiro=journal#

この研究では2004年から14年間かけて50歳以上の方6730人を対象として調査し、生活習慣と死亡率について調査しています。

調査の結果、美術館やコンサートなどの芸術的な活動に参加する方ほど、死亡リスクが下がっていることが分かりました。

もちろん芸術を楽しむ生活のゆとりがあること、健康だからこそ芸術を楽しめるということも考えられます。しかし、頻繁に訪れる方がより死亡率が低いことを見ると、何かしら関係があるのではないかと予測することができます。

2.美術館は体と心の両方に効果がある

筆者自身がアートを制作していることもあり、美術館には頻繁に訪れています。

その経験と、また過去に行われた事例・研究から美術館がどのように健康に影響するのかについてご紹介いたします。

2-1.美術館は体の運動になる

美術館は、基本的にご自身の足で移動しながら作品を鑑賞するので、軽い運動にもなります。

特に国立美術館などの大きな美術館では、数階にも渡る広いギャラリーがあり、それを歩くだけでも運動になります。さらにさまざまな作品をご自身のペースでゆっくり味わっていくので、頭を使いながら動き回る簡単なスポーツに近いかもしれません。

2-2.美術館は頭の運動になる

アート鑑賞は解釈力や判断力を中心に、脳のトレーニングとなります。

美術館での作品鑑賞は能動的です。アートについて詳しくなったとしても、見たことない作品、何が描かれているのかすら分からない作品に出会います。「この作品は何だろう?」と自身で考えていかなければ楽しめません。むしろ、そうした浮かんでくる疑問を味わい、ご自身の解釈力を試していくことが楽しみ方の1つともいえるでしょう。

また、映画のようにどこかで場面が移り変わることはありません。何かすっと理解できるものがあるまで時間をかけるのか、それともどこかで区切りをつけて次の作品の鑑賞に移るのか。1つの判断をすることになります。

ちなみに、私のおすすめの観賞法を紹介すると…

なんとなくギャラリーに入ってから飾っている順番に作品を見ていく

特に興味を惹かれた作品の前で立ち止まり、じっくり時間をかけて味わってみる

という観賞法をおすすめします。

・「なぜ自分はこの作品に惹かれたのだろう?」

・「作品の細部にはどんなものが描かれていてどんな意味があるんのろう?」

・「この作品を他の方に説明するとしたらどのように説明したら良いのだろう?」

・「作者はどんな方だろう?帰ってから少し調べてみようかな」

と作品の前で自問自答しながら眺めてみると思わぬ発見があります。

ポイントは全ての作品を鑑賞するのではなく、その場で自身が惹かれた作品を大事にすることです。「ピカソの有名な作品だ。これはちゃんと味わうべき」といった、有名作品への拘りは必要ありません。有名作品の意味は調べれば出てきますが、ご自身の惹かれた作品が「なぜ自分を引き寄せたのか」は、作品の前で悩むからこそ気付くことがあります。

2-3.美術鑑賞は心を癒す

美術鑑賞は精神的な治療の1つとして世界でも注目されています。

1940年代後半からアメリカやイギリスにて、アートを通じた心理療法として「アート・セラピー」が注目されてきました。最初は治療者さんが絵を描き、自己表現することから始まった取り組みですが、現在はアートを鑑賞することによる効果にも注目されています。

日本で行われたイベントには「アートリップ」というプログラムがあります。アートリップでは、美術館や高齢者施設で認知症の方やその家族、介護士が一緒にアートを鑑賞し、感じたことを話し合います。実は、国立長寿医療センターの調査したところ、アートリップに参加した方が、うつ症状が軽減、QOLが向上したという結果があったと発表しています。

芸術鑑賞で感じたことを話すなかで、ご自身の気持ちに素直になれるのかもしれません。

あなたもアートを鑑賞しながら誰かと感じたことや気付いたことを話してみましょう。

3.美術鑑賞は子どもにも効果がある

せっかくなら子どもを連れて美術館に行くと良いかもしれません。実はアート鑑賞は教育面からも注目されています。

3-1.美術鑑賞は子どもの学力を向上させる

子どもの教育で「ゲッツェルス・ジャクソン現象」と呼ばれている現象があります。これは知能指数が高い子より、創造性が高い子がより学業が伸びる現象です。知能は「与えられた問いに正しく答えを出す能力」で、創造性は「自分だからできるものを生み出す能力」といえるでしょう。

知能がより学力に有効かと思える所ですが、実際にはご自身に合った勉強の仕方や考え方を自身で見つける創造性が大事ということですね。

子どもと美術館に行き、感じたことを対話し合いましょう。子どもの創造性、自身で考える力を養い、子どもの学力の向上につなげることができます。

3-2.子どもが美術館に行くのは海外では教育の1つ

海外では美術館では子どものころから、アートを鑑賞する習慣があります。

学校も校外学習で美術館に行き、説明やスケッチの時間を作っています。美術館側も子ども向けのプログラムも開いており、例えばオランダのゴッホ美術館では子どもの誕生日会を行うなんてこともあります。

アートを鑑賞して、想像力や観察力を育むことは1つの教育ということです。

現在、世界的に「STEAM教育」が注目されています。これは思考力や想像力を育むための教育で、Science(科学)、Techonology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathmatics(数学)の略になります。1990年代から「STEM教育」として言葉はありましたが、2006年ごろよりArtsが加わりました。

日本でも2020年からSTEAM教育が指導要綱にも追加されましたが、まだ教育機関への広がりは少ない状態です。家庭の中でも、思考力や想像力を育むための取り組みをしてみましょう。

おわりに

今回は『美術館は健康に良い?休日には家族でアートを楽しもう』というテーマで、美術館でアートを鑑賞するとどんな効果があるのかをお話ししました。

まとめると

・美術館に行く方ほど長生きする

・美術館はたくさん歩くため体の健康に良い

・能動的に楽しむため脳に良い

・精神治療としても注目されている

・アートは子どもの学力向上にもつながり、海外では教育の1つでもある

私は小学校で行われていたイベントにアート作品を出展したことがあります。子ども連れの家族がいましたが、子どもが「何これ!」とお母さんに聞いている様子がありました。子どもと作品を見るからこそ気付ける疑問もあると感じています。

もし「美術館に興味あるけど、まず何処に行けば良いのか…」と悩む方がいれば、まずはご自身の住んでいる都道府県や市町村で有名な美術館から足を運んでみることがおすすめです。私は富山県に住んでいますが、富山県立美術館は美術家の視点としても歴史ある作品が多く展示されており、何度も足を運び勉強しています。

次の週末は、家族で美術館に行ってみませんか?

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