投資について調べるなかで、運用方法に迷ってしまう方も多いでしょう。運用方法にはさまざまな種類がありますが、そのなかでも代表的なものがマーケット全体の動きに連動することを目指すパッシブ運用です。
このコラムではパッシブ運用の概要とメリット、注意点、よく比較されるアクティブ運用との違いを解説します。投資方法で悩んでいる方はこのコラムを読んでいただければ、パッシブ運用についての理解が深まり、ご自身に合った投資方法を選択できるでしょう。
この記事を読んでわかること
- パッシブ運用は、マーケット全体に連動することを目指して運用する方法。パッシブ運用には、コストが低く、運用状況・投資対象がわかりやすいメリットがある。
- パッシブ運用と比較されるアクティブ運用とは、目安となる指数(ベンチマーク)以上の利益を目指す運用方法。ハイリターンが期待でき、豊富な種類から選べるメリットがある。しかしコストがかかり、投資商品のシステムが複雑なものも少なくない。
- 低リスク・低コストで資産を増やしたい方は、パッシブ運用が向いている。一方、短期的に資産を増やしたい方はアクティブ運用が向いている。
パッシブ運用とは?
投資を始める際に重要なのは、運用目標にあった運用方法を決めることです。運用方法は、主にパッシブ運用とアクティブ運用に分かれます。
本章では、パッシブ運用の概要やアクティブ運用との違いをわかりやすく解説します。
パッシブ運用とは
パッシブ運用とは、目安の指数(ベンチマーク)を基準として、マーケット全体に連動することを目指す運用スタイルです。パッシブ運用の代表的な投資手法には、完全法とサンプル法があります。
完全法とは、ベンチマークの時価構成比率に合わせて、構成する銘柄を全て購入する手法です。指数との連動性が高い一方で、全ての銘柄を購入するため、まとまった資金が必要となります。また、時価構成比率が変わるたびに売買を繰り返し、手数料がかさむことがデメリットとして挙げられます。
一方、サンプル法は、ベンチマークのなかから比率の高い銘柄を選んで購入する手法です。メリットは銘柄を選んで購入するため、資産額が少なくても始められる点。一方で、全ての銘柄は購入しないため、指数との連動性が薄くなってしまいます。
パッシブ運用と似ている運用方法に、インデックス運用があります。パッシブ運用がマーケット全体に連動する方法に対して、インデックス運用は特定の指数に連動することを目指す運用方法です。
どちらの運用方法も大きな利益は手に入れにくいですが、安定性は高いといえます。
アクティブ運用との違い
アクティブ運用は、ベンチマークを上回る成績を目指す運用スタイルです。運用のプロであるファンドマネージャーが市場や銘柄の調査・分析を行い、ファンドを運用します。
アクティブ運用には、グロース投資とバリュー投資があります。
- グロース投資:将来性が高く、成長が期待される銘柄に投資する方法
- バリュー投資:現在の企業価値と比べて、株価が割安な場合に投資する方法
アクティブ運用はパッシブ運用とは異なり、ファンドマネージャーによる調整が加わる場合があります。具体的には相場下落時における現金比率の調整です。一方で、積極的な取引を繰り返すため、コストがかかります。
パッシブ運用のメリット
パッシブ運用のメリットは、以下の3つです。
- コストがかからない
- 成績がファンドマネージャーの実力に左右されない
- 運用状況・投資対象がわかりやすい
それぞれについて解説します。
コストがかからない
パッシブ運用の特徴的なメリットは、コストがかからない点です。ベンチマークに合わせて自動的に運用するため、人件費が抑えられます。
パッシブ運用のファンドの信託報酬は0.1%~0.3%程度ですが、アクティブ運用の商品は1%以上かかるものも少なくありません。
代表的なパッシブ運用のファンドとアクティブ運用ファンドの信託報酬は、以下のとおりです。
銘柄 | 種類 | 信託報酬(年) |
eMAXIS SLim 全世界株式(オール・カントリー) | パッシブ | 0.1133% |
iFree日経225インデックス | パッシブ | 0.154% |
アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信 | アクティブ | 1.727% |
ハッピーエイジング20 | アクティブ | 1.617% |
また、運用資金が大きくなるほどコストは下がる傾向があります。運用資金が大きくなるほど1単位当たりのコストが軽減する「規模の経済」が働くためです。
それに伴い、信託報酬も運用資金が大きくなればなるほど下がる傾向があります。例えば「eMAXIS SLim 全世界株式(オール・カントリー)」は、500億円未満の部分は0.1144%の信託報酬がかかりますが、1,000億円以上の分には0.1133%で済みます。
参照元:
投資信託説明書(交付目論見書)
大和コネクト証券 「重要情報シート」(個別商品編)
アライアンス・バーンスタイン・ 米国成長株投信
SOMPOアセットマネジメント ハッピーエイジング・ファンド
成績がファンドマネージャーの実力に左右されない
アクティブ運用に比べ、パッシブ運用はファンドマネージャーの実力・運用方針が、運用実績にほとんど関与しません。マーケットに合わせて機械的に運用するため、ファンドマネージャーの判断ミスによるリスクを低減できます。
アクティブ運用のファンドを購入する場合、ファンドマネージャーの実力を確認するために、他のファンドの実績をチェックする必要があります。しかし、初めてチェックするときは、どの数字を信用すれば良いか判断することが難しいでしょう。
パッシブ運用もサンプル法によって銘柄を選ぶ場合もありますが、データ分析ツールを利用してベンチマークと乖離しないように投資銘柄と比率を決定するため、ファンドマネージャーの実力に大きくは左右されません。
参照:住信アセットマネジメント株式会社 インデックスファンドの運用手法
運用状況・投資対象がわかりやすい
パッシブ運用は、運用状況と投資対象がわかりやすいことがメリットの1つです。
ベンチマークとなる指標と同じように動くため、運用状況が明確になります。アクティブ運用ではベンチマーク以上の利益を目標とするため、指数と逆の動きをすることもあり、運用状況がわかりにくい傾向があります。
また、パッシブ運用は投資対象がわかりやすく、今後の値動きの予測もしやすいでしょう。例えば、アメリカで金融引き締めが行われた場合、これから景気が悪くなると考えられ、アメリカの銘柄を中心に運用するファンドは価格が下がると予想されます。
このようにパッシブ運用は、リスクやリターンを可視化できる透明性を持っているのです。
パッシブ運用の注意点
パッシブ運用を始める際はメリットだけに注目するのではなく、注意点も事前に把握しましょう。
- 面白味を感じにくい
- 世界経済に左右されやすい
- 期待以上のリターンは出にくい
順番に解説します。
面白味を感じにくい
パッシブ運用はベンチマークに沿って運用されるため、単調でつまらないと感じることもあります。どのファンドを選んでも、同じベンチマークであれば運用成果に大きな違いはありません。
また、アクティブ運用のファンドと比べると、ファンドの数が少なく、金融商品を選択する楽しみを感じられない方もいるでしょう。
世界経済に左右されやすい
パッシブ運用はマーケット全体に連動することを目指して運用されるため、世界の経済危機が起こった場合、保有商品は値下がりします。
アクティブ運用のようにファンドマネージャーによる調整は行われないため、不況時に利益を出すのは難しいと考えましょう。
マーケットと連動するパッシブ運用は、世界経済に合わせて緩やかに上昇するため、中長期的な投資に向いている方法です。短期的に利益を狙いたい方には適していません。特に、成熟した指標をベンチマークする場合、短期的な値あがりはあまり期待できないでしょう。
期待以上のリターンは出にくい
パッシブ運用はマーケットの値動きと連動させることを目標とするため、ハイリターンは期待できません。
予測できる範囲内のリターンを手堅く狙う手法であり、リスクを抑えて中長期的に投資したい方にはおすすめです。また、低リスクで投資できるため、初心者の方でも始めるハードルが低い傾向にあります。
アクティブ運用のメリットは?
パッシブ運用とよく比較されるアクティブ運用には、以下の3つのメリットがあります。
- ハイリターンが期待できる
- 相場下落時への対応がしやすい
- 種類が豊富
それぞれについて解説します。
ハイリターンが期待できる
アクティブ運用には短期間で大きく資産を増やせる可能性があります。理論上成長率の高い銘柄のみに投資することに加え、ベンチマークを超える利益を得るために積極的な取引が行われるためです。
成長率が高い銘柄のみを保有できるように、ファンドマネージャーが市場を分析し、ポートフォリオを更新し続けています。
アクティブ運用のファンドは構成する銘柄が少ないため、成長する銘柄の影響を受けて、価格があがりやすい傾向にあります。
相場下落時への対応がしやすい
アクティブ運用では世界経済が悪化しても、利益を得られる可能性があります。ファンドマネージャーが情勢に合わせて、ポートフォリオの調整をするためです。
2020年1月、新型コロナウイルスの流行により、日経平均株価は年初最高値の24,083.5円から16,552.8円まで下落しました。日経平均株価とは、日本経済新聞社が発表している東証プライム市場に上場している代表的な225銘柄を平均した株価指数を指します。
しかし、株価が大幅に下落するなかで、オンライン診療や新型コロナウイルス薬などに関する銘柄の価格は上昇しました。
アクティブ運用であれば価格が下がっている銘柄を売却して、成長する銘柄を購入してポートフォリオを調整するため、下落相場でも利益を出せる可能性があります。
参照元:コロナ禍で動いた銘柄、テーマは?騰落ランキングで検証 | 株のことならネット証券会社【auカブコム】
種類が豊富
アクティブ運用のファンドは種類が多く、投資家のニーズや好みに合わせて選べます。具体的には以下のような分野ごとのテーマ型ファンドがあります。
- AI
- ヘルスケア
- 先進国のみ
- 新興国のみ
パッシブ運用のファンドに比べると数が多く、ご自身の好みに合わせて投資できるでしょう。
例えば「netWIN GS テクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし)」は、テクノロジーの発展によって成長する米国企業に投資します。また、「eMAXIS Neo 自動運転」は、アメリカの市場に上場している自動運転技術に関する企業に投資するファンドです。
これからどのような分野が伸びるのかを予測し、投資対象を選びましょう。
参照元:netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース、三菱UFJ-eMAXIS Neo 自動運転 – 投資信託
アクティブ運用の注意点
メリットが多いアクティブ運用ですが、押さえておきたい注意点があります。
- コストがかかる
- 投資商品が複雑なものも
- 市場の平均利回りよりも資産が増えない可能性がある
それぞれの注意点を解説します。
コストがかかる
アクティブ運用のファンドはパッシブ運用のファンドに比べて、運用コストが高くなる点に注意しましょう。ベンチマーク以上の利益を獲得するために、ファンドマネージャーが市場を分析・調査する人件費や積極的な取引をする手数料がかかるためです。
アクティブ運用の成績は、ポートフォリオの管理を行うファンドマネージャーの手腕によって左右されるため、ファンドの運用実績などの確認をおすすめします。
また、現在ファンドマネージャーが他に運用しているファンドも確認すると、ご自身の資産を預けて大丈夫なのかを判断しやすくなります。ただ、比較対象が過去の実績の場合は、現在と同じ判断ができるとは限らないため、あくまで参考程度に留めておきましょう。
投資商品が複雑なものも
アクティブ運用はテーマに合わせてさまざまな国や商品に投資するため、商品の仕組みが複雑なものもあります。
例えば、通貨選択型のアクティブ運用のファンドであれば、選んだ通貨の金利差によって利益が異なります。投資信託の値動き以外にも通貨の値動きを確認しなければならないため、正しく理解していなければ利益を狙うのは難しいでしょう。
目論見書や運用レポートなどを確認し、投資商品のシステムと抱えるリスクを理解できたものに投資しましょう。
市場の平均利回りよりも資産が増えない可能性がある
投資は100%勝てるものではありません。熟練のファンドマネージャーが運用するものでも、市場の平均利回りを下回る可能性があります。
また、高いリターンを求めて、ファンドの銘柄を積極的に変更すると、ファンドの基準価格の変動も大きくなります。基準価格とは、ファンドの1口または1万口当たりの金額です。ファンド内の変更された銘柄が価格変動し、それに伴って基準価格も変動します。
例えば、「ひふみプラス」は2017年に年間収益率が44.79%まで上昇しました。しかし、2021年には+3.32%、2022年には-13.40%に下落しています。
また、東京証券取引所に上場している銘柄を対象とした代表的な指数「TOPIX」の2022年の成績は、-5.1%でした。このように、市場平均よりも下回るリスクを理解しておきましょう。
参照元:投資信託説明書(交付目論見書)、東京海上・ジャパン・オーナーズ株式オープン 2022年の振り返りと今後の見通し
パッシブ運用はどんな人におすすめ?
パッシブ運用をおすすめできるのは以下のような方です。
- 節税につながるiDeCoやNISAを始めたい方
- 長期的に資産を増やしたい方
- 低リスク・低コストで投資を始めたい方
一方で、短期的に資産を増やしたい方や投資に面白味を感じたい方は、アクティブ運用が向いています。また、SDGsや仮想通貨などの分野に取り組む企業を応援したい方にも、テーマ型のファンドを選んで投資できるアクティブ運用がおすすめです。
しかし、ご自身の目標やライフプランによって最適な方法は異なるため、どちらの運用方法が有利とは一概にはいえません。そのため、投資経験がなく、優良銘柄を選べる自信がない方はプロに任せてみるのもひとつの方法です。
おわりに
パッシブ運用はマーケット全体に連動することを目指して運用する方法です。コストがかからず、運用状況・投資対象がわかりやすいため初心者も始めやすいでしょう。しかし、期待以上のリターンは出にくく、世界経済に左右されやすいデメリットがあります。
パッシブ運用をおすすめできるのは低リスク・低コストで長期的に資産を増やしたい方です。一方で、短期的に資産を増やしたい方や、テーマを選びその分野を応援するために投資したいと考える方は、アクティブ運用が適しています。ご自身の運用目標や許容リスクを明確にし、適した投資方法を選びましょう。