NISA(ニーサ)口座の名義人が亡くなった場合、所定の手続きを行うことで、相続人に財産を引き継ぐことができます。NISA口座を持っている方であれば、ご自身が亡くなった後にしっかり相続されるのか知りたいのではないでしょうか。またこれから生前対策としてNISAを活用したい方もいると思います。
そこでこの記事ではNISA口座の相続時の扱いについて解説します。注意点もわかり、残されたご家族により多くの財産を渡せるようになるでしょう。
この記事を読んでわかること
- NISA口座にある財産は相続の対象で、所定の手続きをすることで、相続人(配偶者や子どもなど)に渡せる
- 亡くなった方が商品を取得した金額よりも相続発生日(亡くなった日)の時価が大きい場合、その値上がりした利益(含み益)には課税されない
- NISA口座にある商品は亡くなった時点で払い戻された扱いとなり、相続人のNISA口座に移管できない
- 相続発生日までに権利が確定した配当金や分配金には税金がかからないが、相続発生日以降であれば課税される
NISA口座の相続は可能なのか?
ご家族が亡くなると、被相続人(亡くなった方)の預貯金や不動産、有価証券などは相続人(残されたご家族)に引き継がれますが、この考え方はNISAにも当てはまるのでしょうか。はじめにNISA制度の概要とNISAでの遺産の相続について解説します。
そもそもNISAとは?
NISAとは投資信託や株式などの譲渡益や配当金などが非課税になる制度です。通常、金融商品を購入すると、その儲けには20.315%の税金がかかります。NISAを利用することで手元に残るお金を多くでき、投資による利益を最大限享受できるようになります。
NISA制度には大きく分けて2種類あり、現行NISAと新NISAがあります。
・現行NISA
現行NISAとは2023年で新規購入は終了し、「一般NISA」と「つみたてNISA」があります。非課税保有期間や年間投資可能額などが異なり、それぞれの特徴は表のとおりです。
現行NISA | ||
つみたてNISA | 一般NISA | |
口座開設期間 | 2023年まで | |
非課税保有期間 | 20年間 | 5年間 |
年間非課税投資上限額 | 40万円 | 120万円 |
非課税保有限度額 | 800万円 | 600万円 |
対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した投資信託 | 上場株式・投資信託等 |
制度の併用 | いずれかを選択 | |
対象年齢 | 18歳以上 |
なお日本に住む17歳までが利用できる「ジュニアNISA」もあります。
・新NISA
2024年からスタートする新NISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があります。詳細は表のとおりです。
新NISA | ||
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
口座開設期間 | 恒久化 | |
非課税保有期間 | 無制限 | |
年間非課税投資上限額 | 120万円 | 240万円 |
非課税保有限度額 | 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで) | |
対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した投資信託 (現行つみたてNISAと同じ) | 上場株式・投資信託等(除外商品あり) |
制度の併用 | 併用可 | |
対象年齢 | 18歳以上 |
参照元:金融庁|「新しいNISA」
NISA口座の相続はできる?含み益は課税される?
NISAの口座名義人が亡くなった場合には相続手続きにより、配偶者や子どもといった相続人に口座内の資産を引き継ぐことができます。
そして亡くなった方が商品を取得した金額よりも相続発生日(亡くなった日)の時価が大きい場合、その値上がりした利益(含み益)には税金がかかりません。例えば取得金額が100万円で亡くなった日の時価が150万円であれば、含み益50万円(150万円−100万円)に対して税金は発生しません。
NISA口座の相続で注意したいこと
亡くなった方名義のNISA口座を相続する際には、「相続人のNISA口座へ移管できない」「亡くなった日以降の配当金には課税される」といった点に注意が必要です。他の相続人とのトラブルを回避するためにも、注意点を整理しましょう。
相続人のNISA口座への移管はできない
亡くなった方のNISA口座にある商品は、亡くなった時点で払い戻された扱いとなります。相続人のNISA口座に移管できないため、相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管することになります。なお相続人の課税口座は亡くなった方と同じ金融機関であることが必要です。
また相続人のNISA口座へ移管できない点は、一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAのいずれのケースも同様です。
亡くなったあとに受け取る配当金は課税対象
配当金や分配金が課税されるかは権利確定日により異なります。亡くなった日までに権利が確定した配当金や分配金には税金がかかりません。一方で亡くなった日以降であれば、課税されます。
相続人の取得価額は相続発生時の時価
相続税を計算するためには各財産の価額(相続税評価額)を算出することになります。相続では「亡くなった日の時価」で評価することになっており、この決まりはNISAでも同様です。つまり相続人が取得する金額と同じになります。
上場株式等の相続税評価額を求める際には、次の4つのうち最も低い価額となります。
- 相続開始日の終値
- 相続開始日当月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始日前月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始日の前々月の毎日の終値の月平均額
相続人にはNISA口座の残高がメリットにもデメリットにもなる
亡くなった方のNISA口座にある資産を相続する方であれば、税金も含め、手元に残るお金がいくらになるか気になるのではないでしょうか。相続人が売却するタイミングによっては手元に残るお金が大きく変動する可能性があります。
・メリットになるケース
利益が出ているときに亡くなった場合、売却時期によっては納める税金が少なく済む可能性があります。
例えば亡くなった方が30万円で購入し、相続発生時の時価が90万円、相続人が100万円で売却すると仮定しましょう。本来であれば利益70万円(100万円-30万円)に対して課税されますが、相続発生により90万円からの計算になるため、課税対象は10万円(100万円-90万円)となります。
・デメリットになるケース
損をしているときに亡くなると、状況によっては納税額が増えてしまうこともあり、注意が必要です。
例えば亡くなった方が90万円で購入し、相続時に50万円に下落、相続人が60万円で売却するとします。通常であれば利益がないため課税されませんが、相続発生により10万円プラス(60万円-50万円)になるため、100万円に対する税金が発生します。
NISA口座の相続手続きの流れ
相続手続きでは用意する書類が多く、手続きにも時間がかかります。遺言書や相続放棄の有無などによって必要書類は異なるため、詳しくは金融機関に問い合わせてみてください。
相続手続きまでに用意する書類
金融機関での手続き開始までに必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 亡くなった方(被相続人)の死亡が確認できる戸籍謄本
- 相続人代表者が法定相続人だと確認できる戸籍謄本
- 相続人代表者の印鑑証明書
そして相続手続きを進めていく中で相続人やNISA以外の財産を確定する作業に入りますが、その後には主に以下の書類が必要です。
- 相続人全員が確認できる戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
戸籍謄本と印鑑証明書は本籍地のある役場などで取得できます。提出書類は「発行から6ヵ月以内」のものに限ります。
相続手続きの流れ
相続財産や相続人との関係によっては弁護士や司法書士が介入することもあります。ここでは基本的な手続きの流れについて解説します。
・亡くなったことを金融機関に連絡
はじめに相続人代表者が金融機関に口座名義人が亡くなったことを連絡します。その後金融機関から「口座開設者死亡届出書兼口座抹消届出書」などが送られてくるため、署名・捺印をし、「亡くなった方(被相続人)の死亡が確認できる戸籍謄本」「相続人代表者が法定相続人だと確認できる戸籍謄本」「相続人代表者の印鑑証明書」とともに返送しましょう。
その後「残高証明書」と「委任状兼相続・遺贈に係る上場株式等移管依頼書」などが送られてきます。
・相続財産の確認と方法を決める
残高証明書をもとに相続財産を確認し、他の相続人と相続方法について話し合います。
遺言書がある場合には遺言の内容に従います。遺言書などがない場合は遺産分割協議によって相続方法を決め、決めた内容は遺産分割協議書にまとめます。
・相続手続きに入る
遺産分割協議などをもとに相続人が決まったら、NISA口座の相続人の証券口座を同じ金融機関に開設します。そして「委任状兼相続・遺贈に係る上場株式等移管依頼書」と「相続人全員が確認できる戸籍謄本」「相続人全員の印鑑証明書」などを金融機関に提出しましょう。相続方法によっては遺言書や遺産分割協議書が必要です。
同じ書類が重複する場合には、何度も提出する必要はありません。
・相続の完了
金融機関が提出書類を確認し、不備がなければ約2週間から3週間で相続人の口座に移管されます。「完了通知書」が送られてきたら、内容を確認しましょう。
NISAで考える相続税対策
投資信託や株式などの譲渡益や配当金などが非課税となるNISA制度を活用し、子どもや孫に財産を渡す方法もあります。財産を渡す際には相続税の知識を深めることが大切です。ここでは相続税の基礎控除額とNISAの活用方法について解説します。
相続税の基礎控除について
相続税の基礎控除額とは、相続財産から一定額を差し引ける非課税枠のことです。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります。
例えば夫と妻、子ども3人の5人家庭で、夫が亡くなり、妻と子ども3人が1億円の財産を相続することになった場合、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×4人=5,400万円」で、課税対象は「1億円-5,400万円=4,600万円」となります。
生前贈与でNISAを活用
新NISAの投資金額分を生前贈与し、相続財産を圧縮することで、ご家族が支払う相続税を少なくできます。贈与金額が年間110万円以下であれば贈与税はかかりません(暦年課税を選択する場合)。
例えば子どもが新NISAのつみたて投資枠で年間100万円を投資したいと仮定します。親が年間100万円を子どもに贈与することで、その金額を利用して子どもは金融商品を購入できます。
なお投資にはリスクもあり、元本割れの可能性もあるため、銘柄や投資金額は慎重に決めましょう。
おわりに
NISAの口座名義人が亡くなった場合には、相続人に口座内の資産を引き継ぐことができます。商品の取得価額よりも相続発生日(亡くなった日)の時価が大きいときには、その値上がりした利益(含み益)には税金がかかりません。
ただし相続人のNISA口座に資産を移管することはできず、相続発生日以降に権利が確定した配当金には課税されます。
ご家族が亡くなった際には、相続人代表者が金融機関に連絡を入れ、相続手続きを開始します。戸籍謄本や印鑑証明書など、必要書類は状況によって異なるため、詳しくは金融機関に問い合わせましょう。