長期化する老後に備えて知っておくべき「資産寿命」とはどういうことなのでしょうか。老後資金がどのくらい足りないのかについても把握しておく必要があります。
この記事では、人生100年時代が到来している日本における資産寿命、老後資金の不足額や資産寿命のシミュレーション方法を解説し、資産寿命を延ばすための方法をご紹介します。
この記事を読んでわかること
- 資産寿命とは、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間
- 資産寿命を延ばすためには、適切なライフプランニングが大切
- 資産運用によって資産寿命を延ばす方法は、確定拠出年金への加入や新NISAの利用を検討することなど
長期化する老後に備えて知っておくべき「資産寿命」とは
「資産寿命」とは、「老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間」のことです。
経済的に豊かで衛生状態が良く、医療制度も整っていることなどにより人生100年時代となっている現在、資産寿命を考えると「長生きする」ことが「リスク」となってしまっています。そこで、今後は「資産寿命」と「健康寿命」に注目することが重要です。
人生100年時代が到来している日本
厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、定年退職を迎える65歳の時点での平均余命は、男性が19.44年、女性が24.30年でした。
また、厚生労働省の「令和2年版の構成労働白書」によると、令和2年度の日本人の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳となっており、人生100年時代が確実に到来しています。平均寿命から考えると定年退職後の生活が20年近く、または20年以上続く方が多いことがわかるでしょう。
人生100年時代を楽しく安心して過ごすためには、しっかりとした資産形成を行うことと健康な身体づくりによって、資産寿命と健康寿命をいかに伸ばすかが重要です。
老後の生活に関わる「資産寿命」
資産寿命とは、老後の生活を送るにあたって現役時代に貯めた個人の資産や貯蓄などの資産がどの程度の期間にわたって持続するかという考え方です。
定年退職後の主な収入は年金になりますが、年金の額を毎月の支出額が上回る場合、赤字分は現役時代の貯蓄を取り崩さなければなりません。できるだけ早いうちから資産運用や正しい家計管理を行うことで資産を形成し、ご自身の寿命よりも資産寿命が先に来てしまう事態を回避することが大切です。
老後資金の不足額を知るには?
金融庁の「高齢社会における資産形成・管理」によると、新入社員として入社してから年数がたつにつれて月当たりの収入額が増え、定年退職を迎えると約2~3割の収入の減少となることがわかります。
ただし、支出額もほぼ収入額と連動しており、収入が多くなれば支出も多くなります。これは定年退職後も同じ傾向です。
老後資金は、「必要な老後資金=(毎月の生活費ー毎月の収入)×老後の生活期間+その他の支出」で計算することができます。
たとえば、総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、月々の生活に関する支出の合計の平均値は、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」では26万8,508円、「65歳以上の単身の無職世帯」では15万5,495円です。
加えて、老後にかかる一時的な支出の月平均は、夫婦のみの世帯で48,529円、単身の世帯で25,678円かかるとされています。
定年退職後の収入は主に年金ですが、厚生労働省年金局の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」 によると、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金の平均受給額は男性で合計22万2,393円、女性は15万9,032円です。
老後資金に2,000万円必要なケースも
老後資金に2,000万円が必要として話題となったのは、2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書がきっかけです。報告書の中で「老後20~30 年間で約1,300 万円~2,000 万円が不足する」という試算が含まれていたため、「老後2,000万円問題」として注目を集めるようになりました。
この報告書によると、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均値をもとに、夫 65 歳以上・妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯で「毎月の不足額の平均が約5万円」「老後生活が20~30年継続する」とした場合、1,300 ~2,000 万円が合計で不足するとされています。
この試算通りになってしまうと、セカンドライフに対する不安や悩みは尽きなくなるでしょう。
不足額を知り資産寿命をシミュレーションしよう
以上の総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年」に基づいて、定年後の平均余命と定年退職後の収入と支出の数値を、「必要な老後資金=(毎月の生活費ー毎月の収入)×老後の生活期間+その他の支出」にあてはめて具体的に資産寿命をケース別に実際に計算してみましょう。
【夫婦ともに会社員だった場合】
【収入】
男性:「16万3,380円/月(老齢基礎年金)×12か月×19.44年=38,113,284円」
女性:「10万4,686円/月(老齢基礎年金)×12か月×24.30年=30,526,437円」
合計:68,639,721円(端数切捨て)
【支出】
26万8,508円/月(生活費部分)+4万8,529円/月(非生活費部分)×12か月×19.44年(夫婦ともに存命の期間)=73,958,391円
11万9,254円/月(生活費部分)+2万5,678円/月(非生活費部分)×12か月×4.86年(夫婦の一方が存命の期間)=8,452,434円
合計:82,410,825円(端数切捨て)
収支は13,771,104円のマイナスになります。
【夫:会社員、妻:主婦だった場合】
【収入】
男性:「16万3,380円/月(老齢基礎年金)×12か月×19.44年=38,113,284円」
女性:「5万4,346円/月(老齢基礎年金)×12か月×24.30年=15,842,793円」
合計:53,960,577円(端数切捨て)
【支出】
26万8,508円/月(生活費部分)+4万8,529円/月(非生活費部分)×12か月×19.44年(夫婦ともに存命の期間)=73,958,391円
11万9,254円/月(生活費部分)+2万5,678円/月(非生活費部分)×12か月×4.86年(夫婦の一方が存命の期間)=8,452,434円
合計:82,410,825円(端数切捨て)
収支は28,450,248円のマイナスとなります。
夫婦共働きだったとしても最低1,300万円以上、夫が会社員、妻が主婦であった場合は2,000万円以上資産が必要になることがわかるでしょう。
年金の見込額試算については、日本年金機構の「ねんきんネット」「ねんきんダイヤル」「電子申請による申込」や「ねんきん定期便」で確認できます。
資産寿命を延ばすための行動3選
退職後は現役時代の貯蓄を取り崩しながら生活することになります。しかし、貯蓄を取り崩すだけでは減る一方となり、資産が予想より早く枯渇すると、生活費や医療費の賄えない状況に陥るなど、老後の生活資金に不安が生じかねません。
また、趣味やレジャー、旅行などの楽しみが制限され、老後の生活水準が低下する可能性があるでしょう。
こうした事態を回避するために、適切なライフプランニングと資産管理で資産寿命を伸ばすための行動を3つご紹介します。
働く期間を延ばす
定年延長制度や再雇用制度を活用し、なるべく長く働く方が増えています。リタイアメントを少しでも遅らせることで、老後の生活費を確保するための収入を増やすことが可能です。
働く期間が長いほど社会保険制度からの恩恵を受けやすいです。例えば、年金制度などの社会保険からの受給額が増える可能性があります。
リタイア後にパートタイムの仕事を続けることなどでも、収入を補うことが可能です。退職後に少しでも働くことで生活にゆとりを持つことができるでしょう。
健康寿命を延ばす
健康的な生活習慣を維持することも大切です。健康寿命を延ばし、健康問題や慢性疾患のリスクを低減し、医療・介護にかかる費用が節約できます。
健康に配慮し、健康管理や予防医療を行うことで、体力や精神的な健康が保たれ、活動的で充実した生活を送ることができます。体が健康でなければ、金銭的にも精神的にも安心して老後を過ごせません。
健康状態が良好な場合、生産的な労働に参加しやすくなり、働く期間を延ばせることにつながり、収入を得ることが可能です。働くことは、健康的な生活を促進し、社会的なつながりを保つことにも役立ちます。また、社会的な活動を通じて充実感や満足感を得ることもできるでしょう。
家計を見直して預金を増やす
老後の生活をサポートするための計画的な支出と貯蓄、投資などの見直しは、将来の不確実性に対処するための重要な手段です。固定費・食費・車の維持費・交際費などを見直し、お金をかけ過ぎている費用があれば削減を検討する必要があります。
老後の家計を見直すことで、余裕を持った生活を実現できるでしょう。無駄な支出を削減し、老後の楽しみや趣味に費用を割り当てる余裕が生まれ、バランスの取れた生活を実現できます。緊急時の備えや予期せぬ出費に備えることで、家計を安定させることが可能です。
【家計見直しの5つのポイント】
家計簿をつける | 収支状況を把握し、経済的な安定を維持するための手助けとなる。また定期的に記録を行い、必要な支出や貯蓄、投資について意識することで、将来への準備を整えることができます。 |
支出を見直す | 生活スタイルや健康状態にあわせて、支出の見直しや不要な支出の削減を行うことで、生活費を管理しやすくなる。 |
無駄な買い物をなくす | 予算に応じた買い物リストを作成し、必要なもの以外の買い物を控えるように心がける。 |
車を処分する | 高齢者が車を手放すことは、経済的な面だけでなく、健康や安全性の観点からも重要。車の維持費(保険料、税金、燃料代、修理代など)を考慮し、車の保有についての適切な判断を行う。 |
交際費を抑える | 家族や友人との交流を大切にしつつ、無駄な支出を減らすことで経済的な安定を図る。 |
預金だけで資産形成は難しい?
日本は低金利の状況下です。銀行に預けた資金から得られる利息が非常に少なくなっています。
預金の利息がインフレーションによる物価上昇を上回らない場合、実質的な資産価値が減少することになり、物価上昇分を補えない可能性があります。そのため、老後資金を準備するために預金のみに依存することは非常に難しいといえるでしょう。
資産運用によって資産寿命を延ばす方法2選
資産運用によって資産寿命を延ばすための2つの方法をご紹介します。
確定拠出年金への加入を検討する
資産形成方法の1つとして、確定拠出年金へ加入する方法が考えられます。
確定拠出年金には企業型(これを起業型DCと呼びます)と個人型(これをiDeCoと呼びます)がありますが、以下の記載は個人型(iDeCo)についてです。
「個人型確定拠出年金」(iDeCo)とは、公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に給付を受けられる私的年金制度です。加入対象者は、以下のように定められています。
- 国民年金第1号被保険者(自営業者等)
- 公務員や私立学校教職員共済制度の加入者を含む国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)国民年金第3号被保険者(専業主婦(夫)等)
- 国民年金任意加入被保険者
加入方法は、iDeCoを取り扱っている運営管理機関(金融機関等)で加入を申込み、掛金の拠出を行い、運営管理機関が選定・提示する運用商品(投資信託、保険商品、預貯金等)の中から、加入者等自身が商品を選んで運用します。掛金とその運用益との合計額をもとに給付を受け取ることが可能です。
ただし、拠出する財産には限度があり、以下のように定められています。
- 国民年金第1号被保険者(自営業者等)は68,000円/月
- 国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)の場合、確定給付型の年金及び企業型DCに加入していない場合(公務員を除く)では23,000円/月、企業型DCのみに加入している場合では20,000円/月、確定給付型の年金のみ、または確定給付型の年金と企業型DCの両方に加入している場合では12,000円/月、公務員の場合、12,000円/月
- 国民年金第3号被保険者(専業主婦(夫)等)では23,000円/月
- 国民年金任意加入被保険者では68,000円/月
個人型確定拠出年金(iDeCo(イデコ))のメリットとデメリットは、以下の通りです。
【メリット】
- 掛金、運用益、給付を受け取るときには税制上の優遇措置が受けられる
- 国民年金と厚生年金と組みあわせることで、老後の資産形成の一助にできる
【デメリット】
- 一部加入できない人もいる
- 60歳まで資産を引き出せない
- 運用状況によって、資産が増減する
新NISAの利用を検討する
もう1つの資産形成方法として、新NISAへ加入する方法が考えられます。
NISAとは「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、売却して得た利益や受け取った配当に対して税金がかからなくなる制度です。
NISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」がありましたが、令和5年度税制改正の大綱等において、2024年以降にNISA制度の抜本的拡充・恒久化の方針が示されたことで「新NISA」が導入されました。
「新NISA」では、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が設定され、以下のように制度が拡充されています。
- 非課税保有期間の無期限化:「旧NISA」では「一般NISA」で5年間、つみたてNISAで20年間
- 口座開設期間の恒久化:「旧NISA」では2023年まで
- つみたて投資枠で年間120万円、成長投資枠で年間240万円、合計最大年間360万円まで投資を可能とする年間投資枠の拡大(「旧NISA」では「一般NISA」は120万円、「つみたてNISA」は40万円)
- 非課税保有限度額は、全体で1,800万円(成長投資枠は、1,200万円
- 非課税保有限度額は売却すると翌年以降に枠の再利用が可能:「旧NISA」では、「一般NISA」は600万円、「つみたてNISA」は800万円で枠の再利用はありません
また、この2つの枠を併用することも可能です。
資産運用を行うにあたっての注意点
資産運用の注意点を踏まえつつ資産運用に臨むことで、より効果的かつリスクを最小限に抑えた運用が可能です。
資産運用は計画的に行おう
資産の取り崩し方としては、「定年後も運用を続けながら取り崩す」ことが基本です。しかし、資産運用については、利益が出る場合もあれば損失が出る場合もあるため、投資商品ごとに「リスクとリターン」を検討することが大切です。
複数の商品に投資する額や割合を決めることで、リスクを抑えながら、期待する運用成果に近づけることもできます。
また、投資目標やリスク許容度は変化することがあります。商品と投資額の調整を定期的に見直し、修正することで、市場の変化や新しい資産クラスの出現などの環境変化にも対応した最適な運用ができるでしょう。
おわりに
資産寿命や老後資金の考え方についてあらかじめ把握しておくことは非常に重要です。また、資産寿命と同じように健康寿命や家計の定期的な見直しも大切だといえるでしょう。老後を安心して送るためにも、資産と健康の両方が必要です。資産運用で資産寿命を延ばすことをお考えなら、新NISAなど気軽に始めれる投資商品もありますので、ぜひ検討してみてください。