事業を営むうえで気がかりなことのひとつが、破産・廃業を余儀なくされる場合の自宅の取り扱いです。自分だけでなく家族の未来においても重大事である以上、できるだけ影響が及ばない方法が使えるならそれに越したことはありません。
実は経営者保証ガイドラインによる債務整理を選択すれば、条件次第で自宅を残せる可能性が出てきます。この記事では、具体的な流れや条件、注意点について詳しく解説します。
(本記事は2024年8月23日時点の情報です)
- 経営者保証ガイドラインにより経営者が破産しなくても保証債務の整理ができる
- 経営者保証ガイドラインの適用を受けるためには、一定の要件を満たさないといけない
- 経営者保証ガイドラインを利用すれば自宅を残せる可能性があるが、抵当権と住宅ローン財産の有無が争点になる
- 経営者保証ガイドラインには自宅を残せる以外にもたくさんのメリットがある
自己破産を避けられる経営者保証ガイドラインって?
経営者保証ガイドラインは、日本商工会議所や全国銀行協会により、経営者保証による負担やリスクが解消され、中小企業が事業を展開したり新規起業したり、早期の事業再生などを後押しすることを目指して策定されました。背景には、長期間商慣行として行われてきた経営者保証が抱える問題点があります。
経営者保証とは、会社=法人として受けた融資の返済が滞った場合、経営者による保証を求めることです。より簡単にいえば「業績が悪化したなどの理由で融資の返済が滞ったら、経営者が肩代わりすること」と考えましょう。
これまでは、経営者が会社の借入債務などについて連帯保証している場合、会社が倒産に至る場合経営者個人も破産しなければならないケースが多かったのが実情です。しかし、2013年に「経営者保証に関するガイドライン」ができ、ガイドラインを利用することで破産しなくても保証債務の整理ができるようになりました。
なお、経営者保証ガイドラインにはあくまで方針を示したものであり、法律的な拘束力はない以上、必ず適用が受けられるとは限らない点に注意が必要です。
経営者保証ガイドラインで保証債務を整理する場合の要件
経営者保証ガイドラインに則り保証債務を実際に利用するにあたっては要件が求められています。
ここでは具体的な要件として、以下の5点について詳しく解説します。
- 対象の債権者は金融機関のみ
- 保証人が中小企業の経営者であること
- 債務整理について法的な手続きの申し立てをしていること
- 保証人に不誠実な行為がないこと
- すべての金融機関の同意があること
対象の債権者は金融機関のみ
経営者保証ガイドラインにおいて、対象となる債権者は「中小企業に対する金融債権を有する金融機関等」と定義づけられています。具体的に含まれうるものは以下のとおりです。
- 銀行
- 信用金庫・信用組合・労働金庫
- 信用保証協会
- 債権回収会社
- 日本政策金融公庫などの公的金融機関
経営者個人が信販会社、クレジット会社などから融資を受けた場合でも、経営者保証ガイドラインは適用されない点に注意してください。
保証人が中小企業の経営者であること
保証人が中小企業の経営者であることも、経営者保証ガイドラインの適用を受けるために必要な要件です。経営者本人だけでなく、以下の立場にある場合も含まれます。
- 実質的に経営権を有するオーナーである
- 経営者の配偶者であり、会社の事業に従事している
債務整理について法的な手続きの申し立てをしていること
会社として、債務整理について法的な手続きの申し立てをした、もしくは手続きを完了していることも求められます。
そもそも経営者保証は会社が債務整理の申し立てや手続きをするなど、融資の返済ができない状態にあることが前提になるためです。
保証人に不誠実な行為がないこと
保証人である経営者に不誠実な行為がないことも、経営者保証ガイドラインの適用を受けるための要件となっています。
前提として、経営者保証ガイドラインによる債務整理を行うためには、金融機関からの合意を得なくてはいけませんが、経営者に不誠実な行為があったらとん挫するおそれがあるためです。
何が不誠実な行為かは程度や個々の事情によって異なりますが、破産法上の免責不許可事由に該当する行為等があれば同意を得るのは難しくなるでしょう。
不安な点がある場合は、弁護士などの専門家に相談し、対策を練ることをおすすめいたします。
すべての金融機関の同意があること
経営者保証ガイドラインによる債務整理は、関与するすべての金融機関から同意が得られなければ進められません。
そのためには、金融機関にとって経済合理性がある、つまり、「同意したほうが自社にとってもメリットになる」と判断されることが重要になります。
経営者保証ガイドラインを利用すると自宅を残せる可能性がある
中小企業の経営が困難になり倒産した場合、かつては保証人である経営者も自己破産をするのが一般的でした。しかし、自己破産をすると自宅を手放さないといけないことから、家族への影響や生活基盤を失うことへの不安から、自己破産を決断できず事業再生が遅れる一因になっていたのも事実です。
しかし、経営者保証ガイドラインを利用して債務整理すれば、経営者個人が破産手続きを行うことなく、一定の条件に当てはまる自宅を残せる可能性があります。
華美でない自宅とは
ここでいう一定の条件とは「華美でない自宅であること」ですが、そもそも華美かどうかは見る側の主観に基づく部分が大きいので一概には言えません。
一般的な一戸建てやマンションであれば残せる可能性は高いですが、「回収見込額の増加額≧早期処分価格」となるかも非常に需要な要素になります。
例えば、決断を先延ばしにし、結局3年後に破産した場合、債権者が回収できるのは2,500万円しかなかったとしましょう。一方で、現時点で経営者保証ガイドラインに則り事業の清算を行った場合回収できる額が3,500万円だったとします。
このとき、自宅を売却して現金化した場合に得られる金額(早期処分価格)が1,000万円以下だったなら、債権者にとっては経営者ガイドラインにより債務整理をしたほうが得になるはずです。
ポイントは住宅ローンが残っているかどうか
経営者保証ガイドラインに則り債務整理を進める場合、自宅が実際に残せるかどうかは、住宅ローンの状況にも左右されます。
ここではさまざまなパターンを想定し、自宅を残す余地があるかについて解説しましょう。
住宅ローンを完済している場合
住宅ローンを完済している場合や、そもそも現金一括で購入していた場合、自宅を残せるかどうかは、抵当権の設定状況により異なるため、具体的にどのように異なるかを確認してみましょう。
自宅に抵当権が設定されていない場合
まず、自宅に抵当権が設定されていない場合「華美でない住宅」であるかが争点になるでしょう。
ガイドラインでは、債権者に経済的合理性があると認めるなど一定の場合において「華美でない住宅」はインセンティブ資産として残存資産に含められると記載されています。
なお、インセンティブ資産とは、経営者が早期の事業再生、廃業を決断する動機付けとなる資産のことです。
「華美」に当たるかは、個別の事案ごとにさまざまな要素を突き合わせて判断されますが「都内一等地の超高級タワーマンション」など、一般的な住宅の範疇から大きく外れるものでなければ、残せる可能性は十分にあるでしょう。
自宅に抵当権が設定されている場合
自宅に抵当権が設定されている場合は、残債と自宅の評価額との関係により状況が異なります。残債>自宅評価額の場合には、担保権者との協議によりますが、自宅を保有し続けることは難しいことが多いのが実情です。
一方、残債<自宅評価額の場合も、自宅を維持するためには担保権者との協議や合意が必要になりますが、さらに「一定の場合かつ華美でない自宅」という条件も満たす必要があるため弁護士などの専門家に確認しましょう。
住宅ローンが残っている場合
住宅ローンが残っている場合、通常は自宅に担保権が設定されているため、住宅ローンの残額と自宅評価額との関係で状況が変わる点に注意が必要です。
住宅ローンの残額の方が自宅評価額よりも大きい場合
住宅ローンの残額>自宅評価額の場合、自宅を残せるかどうかは住宅ローン債権者(銀行、信用金庫・組合など)との協議次第です。今後見込める収入が少ないなどの理由より住宅ローンの返済が難しい場合は、住宅を売却しなければならない可能性も出てきます。
住宅ローンの残額の方が自宅評価額よりも小さい場合
住宅ローンの残額<自宅評価額であれば、「一定の場合かつ華美でない自宅」という条件を満たし、住宅ローン債権者との協議・合意を得ることで、自宅を残せる余地はあります。
経営者保証ガイドラインには自宅を残せる以外にもたくさんのメリットがある
経営者保証ガイドラインに則った債務整理では、自宅を残せること以外にも債務者にとってたくさんのメリットがあります。ここでは、具体的なメリットとして、以下の4点について解説します。
- 資産を残せる可能性がある
- 信用情報機関に登録されないので再出発しやすい
- 経営者に一定期間必要な生活費が考慮される
- 返済できない債務は免除される
資産を残せる可能性がある
経営者保証ガイドラインに則った債務整理の場合、自己破産などの法的な倒産手続きと比較すると、より多くの資産を手元に残せる可能性があります。
例えば、経営者の自宅は自己破産した場合は残せませんが、経営者保証ガイドラインに則った債務整理であれば「華美でない自宅」など一定の条件を満たすことで残すことが可能です。
ただし、残せる額は一定の上限があるうえに、実際に残せるかは個別の事案ごとにさまざまな要素を勘案して決められる以上、常に自分が希望する形で資産が残せるとは限らない点に注意しましょう。
信用情報機関に登録されないので再出発しやすい
信用情報機関に登録されないので再出発しやすいのも、経営者保証ガイドラインに則って債務整理を行うメリットです。
前提として、クレジットカードやローンなど、お金の貸し借りを行う取引(信用取引)を利用すると、その履歴は信用情報機関に登録されます。さらに、債務整理を行った場合も金融事故として信用情報機関に登録され、一定期間はクレジットカードやローンが使えなくなるため注意しなくてはいけません。
俗にいう「ブラックリスト」とはこのような状態を指しますが、経営者保証ガイドラインに則った債務整理の場合はこのようなことが起きないため、クレジットカードやローンも問題なく使えます。
経営者に一定期間必要な生活費が考慮される
ガイドラインでは、金融機関に対し、経営者個人の一定の生活基盤が失われないよう配慮するように求められています。
つまり、インセンティブ資産として「一定期間×月額33万円」は残すことが可能ですが、この場合の一定期間は雇用保険の給付期間を参考に、個別の事情を勘案して決められる仕組みです。
返済できない債務は免除される
経営者保証ガイドラインに則り債務整理をした場合、返済できない債務は原則として減額・免除されます。ただし、債務整理を申し出た時点で保有する財産のうち、手元に残せる以外のものは処分しなくてはいけません。
経営者保証ガイドラインに準じた融資商品も選択肢に
経営者保証ガイドラインは、中小企業経営者の個人保証リスクを軽減し、事業の再生や円滑な廃業を支援することを目的としています。セゾンファンデックスでは、このガイドラインの精神に基づいた以下の融資商品をご用意しております。
- 注文書担保融資(POファイナンス):電子記録債権を活用した担保設定と期日一括返済方式により、企業の資金効率を最適化し、事業の本質的価値に基づく融資を行います。
- 補助金つなぎ融資(POファイナンス):交付が決定している補助金を返済原資とするつなぎ融資を提供します。
- ABL(事業収益資産担保ローン):売掛債権や信託受益権(自己信託)などの企業が有する様々な事業資産を担保とする融資方法です。
- 事業承継(M&A)ローン:事業の将来性や収益力を重視し、事業承継やM&Aに必要な資金を調達できます。
これらの商品は、経営者個人の資産や信用に過度に依存せず、事業そのものの価値や将来性を重視しています。そのため、事業継続の可能性を高めつつ、経営者の私財提供リスクを軽減することができます。
経営者保証ガイドラインの適用を検討されている方はもちろん、将来的なリスク軽減を考えている経営者の方々にも、これらの融資商品は有効な選択肢となるでしょう。
セゾンファンデックスでは、お客様の事業状況や将来計画に合わせて最適な融資プランをご提案いたします。専門スタッフが丁寧に対応し、経営者保証ガイドラインに準じた融資商品について詳しくご説明いたします。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
おわりに
経営者保証ガイドラインに則った債務整理をすれば、自宅を残せる余地が出てきます。自己破産など一般的な債務整理と比べ、自分や家族への影響を幾分緩和できる点は大きなメリットです。他にも返済できない債務が免除されるなどのメリットが多々あります。
ただし、実際に自宅を残せるかどうかは抵当権の有無や住宅ローンの残高などさまざまな要素に左右されます。税理士や弁護士などの専門家に早いうちに相談したうえで、自分や家族の希望も踏まえつつ、どのように扱うかを決めましょう。