事業を営む限り、スタッフに給与を払ったり、備品を購入したりなどの出費は避けられません。このように、事業を営むために必要な費用を賄うための資金を運転資金と言いますが、自社で用意できない場合は外部から調達する必要があります。資金調達を適切なタイミングで行わないとキャッシュフローがマイナスになり、いずれ資金が尽きてしまうため要注意です。今回の記事では、運転資金の調達方法について詳しく解説します。
(本記事は2024年7月25日時点の情報です)
- 運転資金とは、事業を営むうえで日々発生する費用を賄うための資金である
- 運転資金の調達方法には金融機関からの融資、補助金・助成金の利用などがある
- 運転資金の調達方法には、担保の有無によって選択肢が変わる場合がある
- 運転資金を調達する際は具体的にいくらあれば良いのか見極めるため、計算式により必要額を求めるのが望ましい
運転資金とはどんなもの?知っておきたい基礎知識
運転資金とは、事業を営むうえで日々発生する費用を賄うための資金を指します。仕入元への代金や従業員への給与を払ったり、業務において必要な備品を買ったりするための費用をイメージするとわかりやすいでしょう。
なお、運転資金は発生の仕方という観点から固定費と変動費に分類できます。
固定費 | オフィスの家賃など、毎月一定額が発生する費用 |
変動費 | 材料の仕入代金など、毎月発生する額が変わる費用 |
どれだけ事業が順調で売上が増えていったとしても、運転資金の管理が甘ければ支払いができなくなり、結局倒産しかねないため、管理には細心の注意を払ってください。日々発生する費用を十分賄えるだけの運転資金を確保するためにも、以下で紹介する基本的な知識は心得ておきましょう。
運転資金の主な4つの種類
運転資金を「何に使うか」という観点で分類した場合、以下の4つに分けられます。
- 経常運転資金
- 増加運転資金
- 減少運転資金
- 季節運転資金
通常のビジネス活動に必要な「経常運転資金」
経常運転資金とは、ビジネスを通常どおり運営するのに必要な費用に充てるための資金のことで、一般的に運転資金と言った場合、これを指すことが多くなっています。経常運転資金に含まれるものの具体例は以下のとおりです。
人件費 | 社員、アルバイト・パートなどへの給与、賞与、社会保険料、退職金、福利厚生費 |
光熱費 | 事務所、店舗の水道代、ガス代、電気代 |
通信費 | 固定電話代、従業員に支給する業務用の携帯電話代、インターネット回線利用料 |
事業拡大に伴う「増加運転資金」
増加運転資金とは、事業拡大・成長に伴って必要となる運転資金のことを指します。例えば、製造業において新製品の生産ラインを増設する場合、機械の台数を増やすなどの設備投資だけでなく、スタッフの増員や原材料の仕入量を増やすなどの対策も必要になります。
出費も当然増えるため、そのままにしていては売上が入ってくる前に運転資金が尽きてしまうかもしれません。資金ショートを起こさないよう、一定額を増加運転資金として確保する必要があります。
事業低迷時に経営を支える「減少運転資金」
減少運転資金とは、事業低迷により売り上げが減少している場合、経営を支えるための資金で、つなぎ資金とも呼ばれています。例えば、取引先が倒産し、売掛金が入ってこなくなったことで手元資金が不足した場合です。
そのままにしておくといつかは資金ショートに陥るため、減少運転資金として資金調達し、必要な費用を賄えるようにしておく必要があります。もちろん、あくまで一時的な対症療法であるため、減少運転資金を使い果たす前に経営回復を目指す必要があることに注意しなくてはいけません。
特定な時期の支出をまかなう「季節運転資金」
季節運転資金とは、特定の時期・季節に必要となる運転資金のことです。例えば、年末になると冬期賞与ということで従業員にボーナスを支給することは往々にしてあり得ます。
また、飲食業や小売業なら、クリスマス・年末などのイベントに合わせて仕入を増やしたりするのも珍しくありません。このように、一時的に増える費用を賄うために、季節運転資金として運転資金を調達すると考えましょう。
設備資金との混同に注意!
運転資金として受けた融資を設備資金に流用するのは、資金使途違反に抵触する可能性があるため注意が必要です。つまり、目的外使用に該当すると判断され、残債の一括返済を求められるなどのトラブルの原因になり得ます。
なお、設備資金とは、機械、事業用車両などの購入や店舗、工場、事務所などの増改築に充てるための資金です。店舗やオフィスを賃貸している場合、毎月の賃料や は運転資金になりますが、敷金・礼金・保証金・権利金は設備資金に当たります。このあたりの区分がわかりづらい場合は、税理士や中小企業診断士などの専門家、もしくは金融機関の担当者に確認してみましょう。
運転資金の主な調達方法4つ
運転資金は自社で確保できるに越したことはありませんが、難しい場合は外部から調達する必要があります。ここでは、一般的な運転資金の調達方法として以下の4つについて詳しく解説します。
- 民間の金融機関から借り入れる
- 日本政策金融公庫から融資を受ける
- ビジネスローンを利用する
- 補助金・助成金を活用する
民間の金融機関から借り入れる
1つ目の方法は、都市銀行・地方銀行・信用金庫(信金)・信用組合(信組)など民間金融機関から借り入れることです。これらの民間金融機関から借り入れる場合、事業性融資もしくは不動産担保ローンが利用できるので、それぞれの違いについて解説しましょう。
事業性融資
民間の金融機関では、事業性融資といって、事業内容や将来性を考慮した審査に基づき運転資金・設備資金を貸し出すタイプの融資を扱っています。融資限度額は事業規模に応じて決まりますが、審査の結果次第では無担保での借入も可能なことがあるのが大きな特徴です。
また、審査を通過すれば継続して取引ができるうえに、金利も低くなっているので負担が少ない形で資金調達ができます。
ただし、審査基準は厳しめなので、必ずしも希望した条件で資金調達ができるとは限りません。また、具体的な時間は個々のケースにより異なりますが、審査に時間がかかる点にも注意しましょう。
不動産担保ローン
不動産担保ローンとは、文字どおり不動産を担保に入れて融資を受けるローン商品を指します。メリットとして挙げられるのは、審査手続きが早いことです。具体的な期間は個々の事例により異なりますが、申し込みから融資実行まで数週間~1ヵ月程度で完了するケースが大半となっています。ただし、不動産を持っていないと利用できないうえに、融資限度額は不動産の価値に左右される点がデメリットです。
なお、セゾンファンデックスでも「事業者向け不動産担保ローン」を提供しています。金融機関が提供する不動産担保ローンの場合、店舗に出向かないと手続きができないこともありますが、セゾンファンデックスの場合はオンラインで24時間お申し込みが可能です。
また、最短3営業日で審査結果を回答しているので、資金調達をお急ぎの場合にもお役立ていただけます。さらに、ご自身が不動産を所有していなくても、ご家族・ご親族が所有する不動産を担保にしていただくことも可能です。
お話をお伺いしたうえで、適したご提案をさせていただくのでまずは一度ご相談ください。
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日本政策金融公庫から融資を受ける
日本政策金融公庫から融資を受けることでも、運転資金を調達できます。日本政策金融公庫とは、民間金融機関の補完を目的として設立された政府系の金融機関です。
日本政策金融公庫は中小企業・個人事業主の支援を目的の一つに掲げているため、融資についても相談しやすくなっています。また、条件を満たせば無担保で借りられるうえに、金利が低く、返済についても据え置き期間があるため、負担を軽減できるのも大きなメリットです。
なお、据え置き期間とは、元金への返済を猶予されている期間を指します。
ただし、申し込みから審査が完了し、融資が実行されるまでに時間がかかることがある点には注意しましょう。迅速な資金調達は難しいので、ある程度余裕を持って手続きをするのをおすすめいたします。
ビジネスローンを利用する
ビジネスローンを利用し、運転資金を調達することもできます。ビジネスローンとは事業資金の融資に特化したローンで、法人代表者もしくは個人事業主だけしか申し込みができません。
銀行、信用金庫・組合、消費者金融などさまざまな金融機関で扱っていますが、中には最短で審査が完了し、融資が実行されることもあり迅速な資金調達に役立ちます。ただし、年18.0%に達するなど金利が高くなることもあるので、本当に必要な額を借りて早めに返済する前提で利用するほうが良さそうです。
補助金・助成金を活用する
補助金・助成金を使って資金調達することもできます。いずれも国や地方公共団体から支給されるお金ですが、助成金は要件を満たせば受給できる可能性が高いのに対し、補助金は採択件数・予算の関係で審査に通らない可能性があるのが大きな相違点です。
ただし、実際は両者を同じような意味で使っていることもあるため、都度内容を確認しましょう。
補助金・助成金の大きなメリットは、基本的には返済する必要がない点です。ただし、申し込みにおいて詳細な資料を用意する必要があるうえに、審査にも時間がかかるため、迅速な資金調達には適していません。
運転資金の目安を知ろう!計算方法と事業別の特徴
運転資金の調達方法を知るのも重要ですが、具体的にいくら借入金で賄えば良いのか知るのも同じぐらい重要です。ここでは、運転資金の目安を知るために、計算式と事業別の特徴について詳しく解説します。
運転資金を求める計算式
運転資金を求める方法には、大まかな目安を計算する「在高方式」と正確な金額を計算する「回転期間方式」があります。
在高方式とは、現時点で所有している資産・債権・債務を計算して必要な運転資金を計算する方法です。「運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)」という式を用います。なお、それぞれの項目の意味は以下のとおりです。
売上債権 | すでに売上は立っているものの、実際に代金としてまだ回収できていない部分 |
棚卸資産 | まだ売っていない商品の在庫 |
買入債務 | 商品や材料として仕入れたものの、まだ代金を支払っていない部分 |
つまり、先ほどの「運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)」の計算式は「まだ現金化されていない金額の合計からまだ支払っていない金額の合計を差し引いて運転資金を計算する」という意味になります。
一方、回転期間方式は「運転資金は何日間でどれだけ必要になるか」を踏まえて算出する方法で「運転資金=平均月商 ×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)」という式で計算できます。
ここでいう回転期間とは、資産が1回転して元の状態に戻るまでの期間を指しますが、具体的には以下のように考えましょう。
売上の場合 | 売上債権の発生~売上金の回収が完了するまで |
仕入の場合 | 買入債務の発生~代金の支払いが完了するまで |
買入債務の発生~代金の支払いが完了するまで | 在庫の発生~すべて売却し代金の回収が完了するまで |
在高方式は貸借対照表の金額を用いて計算されるのが大半であるため、容易に求められるものの、ある一時点での暫定値しかわからないという欠点があります。そのため、まずは在高方式で求めた数値をより正確なものにするため、回転期間方式も併用しましょう。
わかりやすくするために、具体的な計算例を紹介します。
まず、在高方式での計算例です。例えば、ある会社の状況が以下の通りだとします。
- 売上債権(売掛金+受取手形):500万円
- 棚卸資産:300万円
- 買入債務(買掛金+支払手形):400万円
在高方式で運転資金を計算すると、以下のようになります。
運転資金 = 500万円 + 300万円 – 400万円 = 400万円
この結果、現時点でこの会社には400万円の運転資金が必要だということがわかります。
次に、回転期間方式での計算例を見てみましょう:
- 平均月商:1,000万円
- 売上債権回転期間:1.5ヶ月
- 棚卸資産回転期間:1ヶ月
- 買入債務回転期間:1ヶ月
回転期間方式で、必要な運転資金を計算してみましょう。
運転資金 = 1,000万円 ×(1.5ヶ月 + 1ヶ月 – 1ヶ月)= 1,500万円
この方式では、より長期的な視点で1,500万円の運転資金が必要だと算出されました。
事業別の特徴
実際、どのぐらいの金額を運転資金として用意すれば良いのかは、業種や事業の形態により異なります。売掛金を回収できるまでの期間=売掛債権回転期間が長ければ長いほど、運転資金は多めに用意したほうが良さそうです。主要な業界について、売掛債権回転期間の目安をまとめました。
飲食店 | 0.45ヵ月 |
小売店 | 0.87ヵ月 |
メーカー(製造業) | 2.30ヵ月 |
不動産・物品賃貸業 | 2.07ヵ月 |
出典:2022年度法人企業統計調査 5.業種別財務営業比率表|財務総合政策研究所
つまり、小売店や飲食店であればだいたい1ヵ月ぐらいで売上金が回収できますが、メーカーや不動産開発業はやや事情が異なります。また、創業直後は事業が軌道に乗るため時間がかかるので、その間の出費を賄えるための資金がないといけません。
これらの点を踏まえると、一般的には月商の3ヵ月分~6ヵ月分が運転資金として必要です。ただし、実際は事業計画や業績の推移などを総合的に考えて、運転資金を導き出す必要があるので、多少上下する可能性はあります。
おわりに
運転資金はできるだけ自社で用意するに越したことはありませんが、そうもいかない場合は外部から調達してくる必要があるのも事実です。その際は、自社の事情に合った資金調達方法を選びましょう。また、重要なのは資金ショートに陥る前に対策を講じることです。資金調達方法によっては実際に入金されるまで時間がかかる可能性もあります。資金繰り表を作成してこまめにチェックし、数ヵ月先に足りなくなりそうな状況に陥ったらできるだけ早めに資金調達に向けて動きましょう。