合同会社は、株式会社に比べて設立のハードルが低いため、初めて法人設立を考えている方におすすめの会社形態とされています。一方で、業種や規模によっては向き・不向きがあることをご存知でしょうか。この記事では、合同会社のメリット・デメリットや、株式会社との違い、合同会社設立までの手順を解説します。個人事業主の方や、今後、法人の設立を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
1.合同会社とは
合同会社とは、日本の会社形態のひとつです。特徴は、「出資者=会社経営者」であること。2006年以前にあった「有限会社」という会社形態に代わり、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルに導入されました。合同会社には、他にも以下のような特徴があります。
- 設立時の資本金1円以上で設立可能
- 社員数が50名以下
- 取締役の任期に期限がない
- 決算の公告義務がない
合同会社は、おもに家族経営の事業や個人事業など、少人数で行う事業を目的として設立・運営されます。
2.合同会社と株式会社の違い
ここでは、合同会社と株式会社を比較します。両者の3つの違いについてご説明しましょう。
2-1.経営のあり方
合同会社と株式会社は、会社経営のあり方が異なります。合同会社は「経営者=企業の出資者」です。出資者が有限責任社員となり、経営に関する権限を持ち、社員の意思決定により会社経営が行われます。
一方の株式会社は、一般的に会社の出資者(株主)と会社の経営者(取締役)の役割が切り離されています。これを「所有と経営の分離」といい、会社の経営方針を決めるには、まず株主総会で出資者の同意を得なければいけません。このような会社経営のあり方の違いから、株式会社よりも合同会社の方が「スピード感と柔軟性を持って会社経営を行える」といえます。
2-2.意思決定の方法
合同会社と株式会社では、意思決定の方法が異なります。合同会社の場合、会社の重要事項を決めるには全社員のうち過半数の賛成が必要です。定款で意思決定をする社員を業務執行社員に限定したり、表決数を過半数以上にしたりすることもできます。
一方、株式会社の場合、会社の重要事項は株主総会で決議します。決議に必要な表決数は、会社法で定められており、議決権の割合は出資の割合(株式の保有率)で決まります。つまり、株式を多く持つ株主ほど発言力が強いのです。
参照元:会社法 | e-Gov法令検索
2-3.社員の役割
合同会社の社員は、会社経営に平等に関与できます。一方で、社員全員が「企業の代表」と見なされると、他社との取引や行政との手続きの場面で、不都合が起きることも。会社経営を効率的に行うため、合同会社では株式会社の「代表取締役」にあたる「代表社員」や、株式会社の「取締役」にあたる「業務執行社員」が設けられます。業務執行社員を設けると、他の社員は意思決定権を失いますが、企業の業務や財産管理に問題がないか監視・調査する権限は持ち続けます。
3.合同会社のメリット
合同会社を設立する6つのメリットについて知っていきましょう。株式会社など、他の法人形態や個人事業主の場合と比較しながら解説します。
3-1.設立費用やランニングコストが安い
ひとつ目のメリットは、設立費用やランニングコストが安いことです。株式会社の設立費用は、税金や手数料など、少なく見積もっても約25万円。一方、合同会社は定款(会社設立時に定める企業の根本の規則)に関わる手数料などが必要ないため、約10万円から設立可能です。
会社設立後の費用も比較しましょう。株式会社の場合、決算公告や役員の更新に関わる費用、株主総会の費用などが発生します。合同会社は、これらすべての費用と手間を削減できます。
3-2.株式会社と同じような節税効果を得られる
合同会社は、株式会社と同じように節税の恩恵を受けられます。「会社設立や維持の手間がかかるくらいなら、個人事業主のままで良いのでは?」と思われている個人事業主の方は、ぜひ知っておきましょう。
まず経費についてです。
法人化すると、個人事業主に比べ経費として認められる範囲が広がります。例えば自宅と仕事場を兼用している場合、個人事業主が経費に計上できる家賃は、仕事場のスペース分のみ。一方、合同会社なら家賃全額を経費として計上可能です。
各種税金の課税率も異なります。
日本では、個人の所得には「所得税」、法人の所得には「法人税」がかかります。個人事業主が支払う所得税は「累進課税」。所得が多い人ほどたくさん税金を納めなければいけません。一方、合同会社に課せられる法人税は「一定税率」です。所得800万円を境に、一定の税率がかかります。所得額によっては、法人化したほうが、支払う税金が少なくすむ可能性があるのです。また、合同会社なら、課税売上高などの一部条件を満たせば、設立から2年間消費税の納税が免除されます。
このように、法人化にはさまざまな節税のメリットがあります。
参照元:特定期間の判定|国税庁
3-3.スピード感のある意思決定が行える
合同会社は、スピード感を持って会社経営を行えます。株式会社の場合、経営方針や重要な事柄を決定する際は、株主総会を開催しなければいけません。合同会社なら、株主総会を開催せずにすむため、その分、迅速な意思決定が可能です。
3-4.自由度の高い経営が行える
合同会社のメリットは、経営の自由度が高いことです。株式会社は出資比率に応じて利益を配分しなければいけません。合同会社なら、出資比率にかかわらず、自社への貢献度に合わせ利益配分を自由に決められます。
3-5.出資者のリスクが少ない
合同会社は、合名会社や合資会社など「無限責任」の法人形態に比べ、出資者のリスクが少ないことがメリットです。なぜなら合同会社は、出資者全員が有限責任社員だからです。「有限責任」とは、「会社に負債があっても、出資者は出資額以上の責任を負う必要がない」ということ。「無限責任」の場合は、出資者が連帯して負債を支払わなければいけません。
3-6.株式会社へ移行することもできる
会社設立時は合同会社として立ち上げ、あとから株式会社に移行できます。これも合同会社のメリットのひとつです。法人形態を変更するには手続きや費用は必要ですが、業績が拡大すると、合同会社よりも株式会社のほうが有利になることもあります。法人形態はあとからでも変えられることを覚えておきましょう。
4.合同会社のデメリット
合同会社はメリットばかりではありません。事業内容や方向性によっては、株式会社を選んだほうが良い場合もあります。合同会社の設立を検討する場合は、以下のデメリットも知っておきましょう。
4-1.株式会社よりも信頼性が低くみられやすい
ひとつ目のデメリットは、合同会社は株式会社よりも認知度や社会的信頼度が低いということです。決算公告の義務がなく、閉鎖的で小規模な会社形態とされるため、取引先によっては、株式会社でないことを理由に契約が難航したりすることも。ご自身の取引先企業が会社形態にまでこだわりを持つのであれば、株式会社での起業を選んだほうが賢明でしょう。
4-2.資金調達の範囲が限定的
合同会社は、株式会社に比べて資金調達の範囲が限られます。合同会社のおもな資金調達の手段は、国や自治体の助成金・補助金、融資、社債です。株式会社のように、株式の増資による資金調達はできません。
また、社債は企業の「負債」として扱われます。満期日になると、債券の保有者に額面の満額を払い戻さなければならないため注意が必要です。そのため、集めた資金を有効活用し、入念に返済計画を練る必要があるでしょう。
4-3.社員同士の対立が経営に影響を与えやすい
「社員全員が平等に議決権を持つ」「利益配分が自由に決められる」これらは、合同会社のメリットです。その反面、社員同士で意見が対立すると、会社の経営や業務に影響を与えることもあります。
合同会社では、代表社員の継承・出資者の権利の譲渡・事業継承については、社員全員の同意が必要です。その他の経営にかかわる決議では、過半数を超える社員、または業務執行社員の同意を得なければならないため、社員同士が対立関係にあると、会社の経営に支障が出る可能性があります。
4-4.合同会社のままでは上場できない
合同会社は、上場できません。将来的に上場を視野に入れている方や上場して事業拡大を目指したい方は、株式会社を選んだほうが良いでしょう。
5.合同会社設立までの流れ
メリット・デメリットについての理解を深めたところで、実際に合同会社を設立するまでの流れを知っておきましょう。
5-1.設立に必要な基本項目を決める
まずは、法人設立に必要な項目を作成します。主な必要項目と、注意事項は以下のとおりです。
会社名(商号):会社名の付け方には一定のルールがあります。事前に確認しておきましょう。
事業目的:事業目的の事業以外は行うことができません。後から追加・変更は可能ですが、その分コストがかかります。
本店所在地:登記申請や定款作成の際に必要です。本店所在地を変更するのにも費用がかかります。なるべく移動の可能性が低い場所にしておきましょう。
資本金:合同会社は、資本金1円から起業できます。しかし、資本金が少ないと社会的信頼を得にくく、金融機関で口座が開設しにくい場合も。可能な限り多めの額を用意しておきましょう。
社員構成:業務執行役員、代表社員の有無についてです。誰にするかも事前に決めておきましょう。
事業年度:事業年度の開始日は、自由に設定できます。一般的には、暦(1月1日開始)か、国の事業年度(4月1日開始)に合わせることが多いです。
5-2.会社を運営する基本的な規則(定款)を決める
基本項目を決めたら、定款を作成します。定款とは「会社運営の根本的なルール」のことです。以下の6つは特に重要で、記載が漏れると定款が無効になりますので注意しましょう。
- 事業の目的
- 商号
- 本店所在地
- 社員の氏名と住所
- 社員の出資の目的とその価額
- 社員が有限責任社員であること
この他、損益の分配の割合や退社の際の取り決めも決めておきましょう。合同会社は株式についての記載がいらない分、株式会社に比べて簡単に定款を作成できます。
5-3.登記書類を作成・申請する
定款が出来上がったら登記に必要な書類を作成しましょう。登記とは、法務局に会社の基礎事項を届け出ること。登記を行うことで、会社の社会的信頼度が保たれます。登記書類は以下のとおりです。なお、「印鑑届書」が含まれますので、事前に会社の実印を用意しておきましょう。
- 会社設立登記申請書
- 定款
- 会社の印鑑届書
- 代表社員就任承諾書
- 本店所在地決定書
- 登記事項をすべて記入したもの
- 社員の全員の印鑑登録証明書
- 資本金の払込証明書(振込日が定款の認証日以降で、誰から振り込まれたか分かるもの)
- 収入印紙
書類一式が揃ったら、表紙に会社設立登記申請書を添付し、管轄の法務局に提出します。虚偽の内容を届け出たり、登記を怠ったりすると、社会的信頼を失うだけでなく、法的な罰則が課せられます。
5-4.合同会社名義の銀行口座・クレジットカードを用意
合同会社を設立後は、日々さまざまな支払いが発生します。経費処理をスムーズに行うには、法人口座を開設すると良いでしょう。
法人口座とは、法人名義で開いた金融機関の口座のことです。個人名義の銀行口座で事業の取引をしても、法的には問題ありません。しかし、法人口座を使えば、「社会的信頼度が上がる」「会社の財務状況が分かりやすくなる」といったメリットがあります。合同会社を設立したら、早めに開設手続きを行いましょう。法人口座は、個人名義の口座に比べて金融機関の審査が厳しく、口座開設まで時間が必要だからです。
法人口座を開設したら、合同会社名義のクレジットカードを用意しましょう。
経費精算を効率的に行うのに、クレジットカードが便利だからです。ビジネスシーンでの使用に特化したビジネスカードなら、個人カードにはない機能・サービスがたくさんあります。例えば「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」の場合、最大9枚まで従業員用の追加カードを発行可能です。経費精算を一本化し、経理業務を効率化できます。「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス ®・カード」には、以下のような特典・メリットがあります。
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6.合同会社に向いている事業
ここまでの内容を知り、「合同会社にはメリットも多いし、これなら自分にも設立できそう!」と思われた方へ。実は、事業によっては、合同会社に向いている事業と向いていない事業があります。ここでは、合同会社に向いている事業について解説します。あなたの事業が、以下の条件に当てはまるか確認してみてください。
6-1.少人数で行う事業
合同会社は、少人数で行う以下のような事業に向いています。
- 家族経営の事業
- スタートアップ事業
- 個人事業主からの法人化
少人数で行う事業は、大企業に比べ社員同士のコミュニケーションが取りやすいため、社員に会社の経営権がある合同会社の形態が適しているのです。現在個人事業主の方にとっては、法人化すると2年間の消費税免除が受けられるのも魅力(一部条件あり)。合同会社への法人化が節税対策になるのです。また、スタートアップ事業の場合、「まずは合同会社から事業をはじめて設立時のコストや手間を抑え、事業拡大のタイミングで株式会社へ移行する」という選択肢もあります。
6-2.会社の形態が重視されない事業
BtoCのビジネスは、合同会社に適しています。BtoCとは、企業が一般消費者に商品を直接提供するビジネスモデルのことです。合同会社は、株式会社に比べて知名度が低く、社会的信頼度が劣るというデメリットがあります。しかし、BtoCのビジネスの場合、顧客が会社形態を重視しない傾向にあるため、このデメリットの影響があまりありません。
- IT系のサービス
- カフェ
- サロン
- 学習塾
- ペットショップなど
これらの事業は、合同会社の恩恵を受けやすいでしょう。
6-3.個人での不動産投資など
合同会社への法人化は、個人で不動産やFX投資を行っている方にもおすすめです。副業として不動産投資をしているサラリーマンの方のなかには、個人のままで投資を行うのと、合同会社として法人化するのとで、税率に大きく差が開くこともあるといわれています。
FX投資の場合、法人口座ならより高いレバレッジをかけられます。また、最大10年間の「繰越欠損」ができるのも魅力です。ある年の所得が赤字だった場合、翌年度以降に赤字を繰り越しが可能です。利益と損失を差し引けば、翌々年度以降の黒字が帳消しに。課税所得が減り、節税効果が期待できるのです。
おわりに
合同会社は、比較的新しい会社形態ですが、設立時のコストや手間が少ない点や、節税効果がある点など、さまざまなメリットがあります。その一方、社会的信頼度が得にくい、上場ができないなどのデメリットもあります。今回ご紹介した内容をもとに、ご自身の事業が合同会社に適しているか、検討してみてください。