開業届を提出していない個人事業主は少なくありません。開業届は未提出でも罰則はありませんが、提出により得られるメリットも多数存在します。このコラムでは、個人事業主が開業届を出してない場合にできないことを解説します。今後事業を始める予定の方や、開業届が未提出の個人事業主の方は、ぜひ参考にしてください。
個人事業主は開業届の提出が必要
個人事業主として継続的に事業を行う場合は、開業届の提出が必要です。
個人事業主は開業届を提出せずに事業を行っても罰則はなく、税務署から催促されることもありません。
しかし所得税法では、事業を開始してから1ヵ月以内に届出することが定められています。また、開業届を提出していない個人事業者は利用できない手続きがあるため、個人事業主として事業を始める際は早めに届出をしましょう。
開業届を出していないとできない手続き5選
開業届を出していない個人事業主は、以下の手続きができません。
- 青色申告
- 補助金や助成金など給付金の申請
- 小規模企業共済の加入
- 屋号付き口座の開設/法人用クレジットカードの作成
- 赤字の繰越
ここでは、開業届を提出しないとできない手続きについて詳しく解説します。
1.青色申告
開業届を出していないと、確定申告をする際に青色申告を選択できません。青色申告は、日々の取引を複式簿記(もしくは簡易帳簿)にて記帳し、その記帳に基づいて正しい確定申告をする制度で、税金面でのメリットが得られます。主な税務上のメリットには、最大65万円が控除される青色申告特別控除や、家族に支払った給与の経費計上などがあります。
なお青色申告の対象は、確定申告前に申請して承認を受けた方のみです。青色申告の申請時には、開業届も提出しておく必要があります。
2.補助金や助成金など給付金の申請
個人事業主の資金調達では、補助金や助成金などを利用する方法があります。これらの給付金を申請する場合、開業届の提出が条件として定められているケースが多いです。
例えば、生産性向上に関わる設備投資を支援する「ものづくり補助金」があります。この補助金に申し込む際は、開業届の提出が必要です。
開業届を出さないと給付金の対象から外れてしまうことがあるため、開業時に届出しておくのが賢明です。
3.小規模企業共済の加入
開業届を提出していない場合、初年度は小規模企業共済に加入できません。小規模企業共済とは、共済金を積み立てることで退職金を準備できる制度です。
小規模企業共済に加入するには、確定申告書の写しが必要です。しかし、初年度は確定申告をしていないため、代わりに開業届の写しを提出することになります。開業届を出していない場合は写しも用意できないため、初年度の小規模企業共済への加入は認められません。
4.屋号付き口座の開設・法人用クレジットカードの作成
屋号付き口座を開設する際は、金融機関から開業届の控えを求められるのが一般的です。また、確定申告の前に法人用クレジットカードを作成する場合も開業届が必要です。
法人用クレジットカードに限らず、個人事業主は信用面の問題によりクレジットカードの作成が難しいケースが多いです。しかし開業届の控えを提出して事業の実態を示すことで、審査に通過できる可能性が高まります。なお法人用クレジットカードは、事業に役立つ特典を受けられたり、経費管理を効率化できたりするなど、個人事業主にとって多くのメリットがあります。
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赤字の繰越
開業届を提出していない場合、赤字を翌年以降に繰り越せません。
一方、開業届を提出して青色申告をしている個人事業主は、赤字を3年間にわたり繰り越すことができます。利益が出た年度は赤字額を差し引けるため、所得税の減額につながります。例えば以下のケースでは、所得税が3年ともかかりません。
- 今年度:赤字100万円
- 翌年度:黒字50万円
- 翌々年度:黒字50万円
赤字を出した年度は利益がないため、所得税はかかりません。また赤字は翌年以降3年にわたり繰り越せるため、翌年度と翌々年度の利益と相殺することで所得がゼロになります。
ただし、開業届と青色申告承認申請書を税務署に提出していないと青色申告は行えないため、赤字の繰越ができない点に注意してください。
開業届を提出する際の注意点
さまざまな手続きができたり、節税につながったりするため、開業届を提出するメリットは大きいです。一方で、開業届を提出する際には注意すべきポイントもいくつかあります。
- 記帳が必要になる
- 失業保険を受けられなくなる
- 扶養から外れる可能性がある
開業届を提出する前に注意点を忘れずに確認しましょう。
記帳が必要になる
開業届を提出して個人事業主になると、記帳の義務が生じます。なお青色申告に限らず、白色申告であっても記帳と帳簿の保存が必要です。
青色申告で確定申告をする際は、複式簿記での記帳が必要になります。複式簿記とは1回の取引を「借方」と「貸方」の2箇所に記載する方法です。簿記の知識がない場合は学習が必要ですが、近年は会計ソフトを使用して確定申告するケースも増えています。
失業保険を受けられなくなる
会社を辞めて独立を考えている場合、開業届を提出するタイミングを慎重に検討する必要があります。なぜなら開業届を提出すると失業給付(失業保険)が受給できなくなるためです。
失業給付は、求職活動中の生活支援を目的とした制度です。個人事業主は失業状態とみなされないため、給付対象から除外されます。失業給付を受給する予定の方は、開業届の提出時期を見直ししましょう。
扶養から外れる可能性がある
開業届を提出することで、扶養から外れる可能性があります。
配偶者に扶養される条件は、原則として年収が130万円以下であることです。個人事業主になることにより年収が130万円を超えてしまうと、扶養から外れてしまいます。また個人事業主を扶養対象から外すと定めている健康保険組合もあります。
扶養の条件は配偶者が加入している社会保険によって異なるため、個人事業主になる際は開業届の提出前に確認しておきましょう。
「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出方法
届出を行う際は、税務署や国税庁のホームページで「個人事業の開業・廃業等届出書(=開業届)」を入手しましょう。主な記入項目は「事業主の氏名」「納税地の住所」「開業日」「職業」などです。従業員を雇用する場合は「給与等の支払いの状況」も記入します。
必要事項を記入したら、控えとしてコピーを作成し、納税地を管轄する税務署に提出します。青色申告の承認を申請する場合は、開業届と一緒に青色申告承認申請書も提出しましょう。
なお開業届はe-Taxでも提出可能です。
開業届に関するよくある疑問
ここでは、開業届に関するよくある疑問を解説します。開業届を提出する前に、以下の5つのポイントを整理しておきましょう。
- 開業届を出すべき方・不要な方の違いとは?
- 開業届を出すと保育園を利用できる?
- 開業届の提出を忘れた場合はどうすべき?
- 開業届を出さなければ確定申告は不要?
- 開業届を出さないとインボイス制度に登録できない?
1.開業届を出すべき方・不要な方の違いとは?
継続して事業を行う方は開業届の提出が必要です。事務所や店舗を有する自営業者に限らず、フリーランスも該当します。また、副業として事業を行う方であっても、継続的に収入を得る場合は開業届を出さなければいけません。
一方継続的な収入を得ていない場合は、開業届の提出は不要です。例えば、フリマアプリへの出品のように収入が一時的で反復しない場合は、届出の義務はありません。
2.開業届を出すと保育園を利用できる?
個人事業主が保育園利用を申請する際は開業届の写しが必要です。そのため、子どもを保育園に預けたい場合は開業届を出しておきましょう。
ただし、個人事業主の保育園利用が認められるかどうかは、自治体ごとの基準によって異なります。入園の可能性を広げるためには、開業届に加えて就労状況申告書や確定申告書の控えなどを提出し、就労状況を正確に説明することが大切です。
3.開業届の提出を忘れた場合はどうすべき?
開業届の提出は、事業開始から時間が経過していても問題ありません。
開業届は事業を開始してから1ヵ月以内の提出が義務付けられていますが、場合によっては提出を忘れることもあるでしょう。また、事業の開始には明確な定義がないため、準備段階で開業届を提出するケースや、活動が安定してから届出するケースもあります。
事業の開始から開業届の提出までに時間が空いても罰則はありませんが、気付いた時点で早めに提出することが大切です。
4.開業届を出さなければ確定申告は不要?
確定申告は開業届提出の有無に関わらず、条件を満たした場合に必要になります。
確定申告は、年間の所得が48万円を超えた場合に必要です。所得税には基礎控除額が48万円設定されているため、この金額を超えると課税所得が発生します。
なお会社員が副業をしている場合、給与所得以外の所得が20万円を超えた時点で確定申告が必要となります。
5.開業届を出さないとインボイス制度に登録できない?
「インボイス制度への登録」と「開業届提出の有無」は関係ありません。開業届が未提出でもインボイス制度へ登録できます。
インボイス制度とは、2023年にスタートした消費税を適正に納めるための制度です。なお開業届が未提出の場合は、インボイス制度への登録と同時に提出するケースが一般的です。
おわりに
開業届を提出していないと、さまざまな手続きができなくなります。例えば、資金調達に役立つ給付金の申請や節税につながる青色申告ができないため、事業を進めるうえで不利益となるかもしれません。開業届を出すことによって得られるメリットはたくさんあります。個人事業主として事業を継続的に行うのであれば、早めに提出しておきましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。